第263話「王様ゲーム」
一旦はいい雰囲気になったものの、やはり昼間。そこからの発展はなくしばらくお菓子をぽりぽり食べて感想を言い合ったり、新しいお菓子の情報を交換したりしていたのだが、カルマという男にはそれがむずむずして仕方がないらしい。
徐ろに取り出したのは棒が4本と箱がひとつ。棒の先には何かのマークがついており、よく見ると、赤色に塗り潰されたのが一本、その他は1、2、3と番号が振られていた。
「パーティといえばの代名詞、王様ゲームを開催したいと思うます」
「急だな」
「俺にはおしゃべりして一日を終わらすなんてことは出来ないのさ」
「蛍とは話をしないのか?」
「するさ、現に翔とだってしてる。だが、時間を殺すために話すことはしたくない」
カルマの考えははっきりしていてわかりやすい。それに反対することも無く賛同できるのは翔が男子だからであろうか。
女子は何かと話したがる傾向にある。それで時間を潰しているのだ、と言われれば怒るかもな、と考慮したものの、桜花達も今回に限ってはカルマの言う通りだったらしく、素直にカルマの取り出したものに目を移した。
「で?それはくじ引きか何かか?」
「王様ゲームだっていったろ?」
「ほう」
「……まさかルールを知らないとかそんなことは無いよな?」
「そのまさかだ」
「……はぁ」
何故にため息!と少しイラッときたのでカルマの太腿をべしっと力任せに叩いておいた。王様ゲームという名前ぐらいは聞いたことがあるが、実際にはやってみたことがないので勝手が分からない。適当にしても構わないのなら別にルールを聞く必要は無いが、それでは面白くないだろう。
カルマにルール説明を求めると、仕方がない、とばかりにため息を吐かれた。
「もう少し細かいルールはあるけど、まぁそこは俺の独断と偏見で決めるとして……」
「おい、今ものすごくツッコミを入れたい言葉が聞こえてきたんだが?」
「えーっと、受信困難なので諦めてね」
「……んで?ルールは?」
「赤い棒があるだろ?それを見事に引き当てた人がそのターンの王様になれる。その王様は数字を持つ人に対しては何でも命令をすることが出来る」
「何でも……?」
「そう、何でも。ただ名指し指名はできない。「○番の人が○番の人と何とかする」みたいな具合だ」
「それは……地獄絵図を導く可能性もあるということか」
「……まぁ、そうだな」
「地獄絵図とはどういうことですか?」
「ん?いや、いろいろとね」
「桜花ちゃん、今翔くん達はえっちな話をしてるから話に入らない方がいいよ」
やましい話はしていない。ただより深くルールを知るために想像したのが少々卑猥だっただけだ。カルマも瞬時に翔の言わんとすることを理解していたのだから男にとっては日常茶飯事で特に気にすることでもない。
桜花はまだ少し気になっていたようだが、蛍にぐいぐいと引っ張られていったので、翔がルールを聞いている間はお話に花を咲かせるようだ。
「よくこの場で言えたな」
「僕だって言いたくて言ったわけじゃない。口からたまたまぽろりしただけだ」
「ふぅん。ま、いいけど。王様ゲームの簡単なルールはくじを引いて王様になれば番号指名で命令を下すことができる。そして番号持ちはどんな難解な命令でも絶対にこなさなければならない。従えない、拒否は罰ゲームになる」
「罰ゲームの内容は?」
「王様ゲームだからな……。その時の王様が決めることにしようか」
「明らかに王様が無理難題だと思う命令を下しても、絶対にきかないといけないのか?」
「うん、そういうゲーム」
翔はあまりよく理解が出来なかった。勿論、そういうゲームであることは理解しているのだが、いざ、拒否権がない、と宣言されるとたじろいでしまう。
桜花達はそれでもいいのだろうか。
翔もカルマも性的行為を強要するようなことはしないし、不快にならないような命令をするだろうが、それでも不安は残るのではないだろうか。
そんな不安が顔に出てしまっていたのか、不意にカルマが笑った。
「そんなに心配するなって。ここには俺達4人しかいないし、お互い大切な彼女の前なんだから、な?」
「カルマには何でも見通されてる気がして……悪寒がする」
「おい。今のところは尊敬の眼差しで俺を見るところだろ」
「んー……ないな」
「翔の引いた番号を当てて絶対に命令下してやる」
翔はこれはゲームなのだと割り切ることにした。何でもかんでもやらない、というのはよくないし、何よりみんなで楽しく過ごすことが出来ればこのクリスマスパーティは成功なのだ。
その輪を乱すのは得策ではない。
カルマが桜花達にもう説明が終わったことを伝えて、遂に王様ゲームが始まる。
「さぁ、まずはくじ引きだな」
「自分の引いた番号は秘匿しないといけないんだろ?」
「王様に「私を選んでください!」って言うものだからな。エムの人はどうぞ」
当たり前だが、誰も進んでエムだと公言する人はいない。
せーのでくじを引き、翔はいつの間にか目を閉じていたらしく、その目をそっと開ける。そこには残念ながら赤色のマークはなく、ただ1と書かれているだけだった。これで翔は人狼ゲームでいうところの市民となった訳だが、王様は一体誰なのだろうか。
「当たり前だが、ここで嘘を証言したり適当なことをいうのはアリだから、自分に命令がくだらないようにする必要があるぞ」
「そういう蒼羽くんは随分と余裕がありますね」
「さては王様?」
「さぁね」
王様は隠さなくてもいいと思うのだが、カルマは面白がっているのかニヒルな笑みを浮かべている。
さぁまたゲームの始まりだ。




