第259話「パーティ用意」
翔達は朝からせっせと動き回っていた。
理由は言わずもがな。クリスマスパーティの準備をしているのだ。カルマ達が訪問してくるのはお昼すぎだと翔は聞いている。
この翔は、というのは勿論、断定の意味であり、もしかすると桜花には事前にもっと早めに行く、と伝えられているかもしれないし、遅れる、と伝えられているのかもしれない。
翔は桜花が用意してくれた朝食を早々と食べた後、すぐに準備に取り掛かった。
翔は大雑把に大体を取り付けてから細々としたものを加えていく、という最もオーソドックスであろう飾り付けの仕方を選択。
桜花も家事を終えて翔を手伝ってくれる。
これは理想的な形となったな、と翔は心の中でひっそりと思った。というのも、桜花はとことんまでに凝ってしまうので翔が主導でしていく方が効率的にはいいはずだ。クリスマスパーティといっても、所詮は学生達が行うホームパーティ。
そこまでこだわる必要は無いだろう。
「これはあそこがいいかな」
「なら、これはどうしますか?」
「うーん……。これは、あっちかな」
「クリスマスツリーはどこに置きますか?」
「玄関前ぐらいが無難じゃない?」
このようなやり取りがかれこれ数時間続いていた。
翔はクリスマスツリーを玄関前に置くように指示した。一番場所を取るクリスマスツリーはできればリビングには置きたくない。圧迫感が強まり狭く感じるからだ。桜花と二人きりならばそれはむしろ好都合で更には「クリスマスツリー、成長しねぇかな」とまで願ってしまうが、友達が来る場所になると狭いことに対しては何のメリットもない。
翔達はサンタクロースに対しての重要な秘密も知っているので、クリスマス当日にプレゼントを待っていても何も来ないことは知っている。
それ故にサンタクロースの目印とも言われているツリーは部屋の中に入れる必要は無い、と判断した。
「翔くんがここまで的確に指示をしてくれるとは思ってもいませんでした」
「大人数になると厳しいけど、小隊の隊長ぐらいならこなしてみせるよ」
「小隊の隊長になることは今後ないと思いますけど……」
「重かったら置いてていいよ。僕が後で運んでおくから」
「すみません、お願いします」
桜花は素直に翔に頼んだ。桜花には少々荷が重かったようだ。
「カルマ達はいつ来るって?」
「昼頃、と窺っています。お昼ご飯は持っていくから心配しないで、とも」
「マックでも持ってくるのかな」
「かもしれませんね。ジャンクフードです」
「嬉しそうだな」
「はいっ。あまり平生には食べませんからね」
「夜ご飯は食べて帰るんだろ?」
「僭越ながら私がいつにも増して腕を振るわせていただきます」
「桜花の料理は美味しいからな。楽しみだよ」
「お任せ下さい。翔くんの舌を私の味で染めてあげます」
「もう染まっている可能性が高いけどな」
今までにどれだけの桜花の手料理を食してきたと思っているのか。もう翔の舌はすっかり桜花の味に染まってしまっている。
初めの頃は翔も桜花の舌を自分の味で、と画策していたのが少し懐かしく思えた。
「よし、だいたい終わったな。後はコスプレとプレゼントの確認かな」
「翔くんのトナカイさんはここにありますよ」
「おっ、ありがとう」
桜花がいつの間にか持ってきてくれていたようでトナカイの衣装を受け取る。
桜花はミニスカサンタの衣装を広げて、不備がないかを確認している。
何でも、ミニスカートである。
それ故に不備があれば見えて欲しくないものが見えてしまうのだ。翔にとっては、というよりも世の中の男性にとってはラッキーであり、むしろ見たいのだが、本人や女性からすれば避けたいハプニングである。
それに、不備があれば直してしまうつもりだろう。桜花にはそのスキルがある。
「特に問題なさそうか?」
「物理的には無いですね。精神的にはまだありますけど」
「カルマ達もしっかりコスプレするらしいからもう諦めてくれ」
「ハロウィンも兼ねていましたか?このパーティは」
「まぁまぁ」
コスプレをするのはハロウィンだけではないのだ。ハロウィン自体がそもそも仮装をするお祭りでは無いのだが、それは置いておくとして。
「あーっと、桜花さん」
「はい?」
「カルマ達が帰ったあとに少し時間をくれないかな」
「いいですよ。……その後でいいので、私にも時間を貰えませんか?」
「えっ?……うん、分かった」
翔はアポイントメントをとる事に成功した。後はムードよくプレゼントを渡すだけだ。
しかし、桜花が時間をくれ、というのは珍しい。更には何か深刻そうな表情も気になる。
翔は不安に駆られたが今尋ねても仕方がないのは分かっているので、強引にその不安を心の中へと押しやり、気持ちはカルマ達とのクリスマスパーティへと切り替える。
「あと五秒後に来ます」
「えっ?!本当に!?」
「いえ、勘です。翔くんも当ててみてください」
「う〜ん……と。あと十秒後?」
「時計を見るのは反則ですっ」
翔は時計を見て何となくを予想する。気がつけばもう十二時を超えている。必死に駆け回って何とか午前中の間で準備が終わったというところだ。
五秒が経ったが、しんと静まり返った我が家にアクションは起こらない。
ちらりと桜花を見ると、来ませんね、とぼそり呟かれた。
さらに五秒が経った。
しかしそれでも何の反応もなかった。
「来ませんでしたね」
「おかしいな、もう来てもいい時間だが」
「実はもう来てたり見てたりするんだよな」
はっと声の方に視線を向けるとそこには待ち望んでいたカルマと蛍の姿があった。




