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他人行儀になった幼馴染美少女と何故か一緒に住むことになった件  作者: 戦告
第1章「幼馴染も進化する」
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第25話「映画館ではお静かに」

 


「見たい映画のタイトルは何だ?」

「これです。『貴方と私』」

「どんぐりころころ?」

「違います。身分差純愛ラブストーリーです」


 翔は初耳だったがなかなかどうして、これが案外、巷で人気の映画らしくチケットを取るのも二人席でギリギリだった。


 タイトルを聞く限りでは全く分からないが、入ってくる人がほとんど女性ばかりのため居心地の悪さを感じていた。


「奴隷と王子様とか?」

「身分差という点ではその通りですが、シンデレラストーリーではありません」

「シンデレラは奴隷じゃないから!」


 シンデレラは醜い継母と姉達に雑用をさせられていた可哀想な子なのだ。断じて奴隷ではない。


「純愛ってことは一人の女性なり男性なりを追いかけているってこと?」

「この作品は男性が主人公なので女性を追いかけますね」

「それで身分差だろ……?」

「私にそんなに聞かれても困ります……」


 まだ始まるまで10分ほど時間があったが、特にすることもなかったため2人は早々に座席へと座ってお喋りをしていた。


 端の席なので、横は桜花しかいない。


「身分差で純愛、ねぇ……」

「一人で行くには抵抗がありまして……」

「僕となら平気なのか?」

「少ないですが、カップルの方もいらっしゃいますし」

「まぁ確かに一人の人は少ない、というかいないな」


 辺りを見回すと大体は2人組のようで、隣とぺちゃくちゃ話している。カップルも桜花が言ったように少なからずいて、たとえ異性であったしても一人よりも2人で見た方が気分は楽なのかもしれなかった。


 その役回りに頼まれた翔は居心地の悪いことこの上なかったのだが。


「ちょっと待て。僕達は今カップルに見えているのか?」

「男女で一緒にいるというのがカップルの定義ならそうでしょうね」


 ケースの専門店の店員にも指摘され、否定はしていたのだが、やはり2人で居るとカップルに見えてしまうようだ。


 そしてさり気なく翔と一緒にいても平気なのかどうかという問いには答えてくれなかった。

 どうやら平気ではないらしい。


「嫌ですか?」

「僕は構わないが……双葉は嫌じゃないのか?」

「私は周りからどう思われようと気にしないので平気です」

「見られ続けると胆力がつくのか」

「かもしれませんね」


 桜花はその辺をあまり意識はしていないようだった。普段の生活から容姿が抜群に綺麗なため人の目を引いてしまう。


 カップルに向けられる目と桜花に向けられる目の意味は異なるだろうが見られるという点に関しては同じなので割り切ることが出来るのかもしれなかった。


 とはいえ、あまり褒められた言い方ではなかったので謝っておく。

 桜花は特に気にした様子もなく「はい」と返した。


「ハンカチの準備はいいですか?」

「ハンカチ?」


 突然ハンカチの有無を聞かれて堪らず聞き返した。ハンカチを学校以外で持ち歩くことをしないため、ポケットに入っているはずのもないのだが、少し見栄を張りたくて誤魔化す。


「この映画は涙腺崩壊必須、というのが広告宣伝ですから」

「オーバーなだけだろ」

「持っていなさそうなので一応、渡しておきますね」


 ハンカチを手渡された。


 瞬時にバレてしまったようだった。


 用意がいいことに2枚持ってきていたらしく、返そうとしたが頑として受け取ってくれなかった。


 桜花はハンカチを手に持ち、膝の上で準備させていた。

 そこまでされてしまうと本当に涙腺崩壊してしまうのかも、と疑心暗鬼になる。


 翔は最後の抵抗とばかりに、


「僕は泣き上戸じゃないんだけど」

「そのようなことを言う人ほど号泣するものですけどね」

「双葉は見た事あるのか?」

「ないですよ」


 首を振って否定する。

 先程まで一人では来れないと言っていたので見たことは無いだろうとは思っていたが、それにしては作品に対する信頼感が強かったので少し気になったのだ。


「宣伝で強く惹かれたから、響谷くんが疑問に思うほど私はこの作品を肯定しているのかもしれません」

「双葉がそこまで言う映画なら少し楽しみだ」

「もう少しですね」


 桜花がそういった途端に暗くなり、CMが始まった。

 翔はいつもこの始めの音量の大きさにビクッとしてしまう。耳が慣れていないせいかよく響いてくるのだ。


 隣から振動を感じたのか桜花が翔の方を向いてくすっと笑ったような気がした。


 カッと、恥ずかしくなって全身に血が駆け巡った。


 そして、間が悪いことにその時から本編が始まった。


 最初のシーンは桜が散っているものだった。数々の作品を読んだり見たりしている翔は初めのありがちな展開にまぁまぁ、と及第点を付ける。

 しかし、そんな上から目線の考えもここまでだった。


 主人公が登場してから数秒後にはその物語の世界観へと連れていかれたような錯覚に陥ってしまっていたのだから。


 そして翔は我を忘れて映画に見入った。


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