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第248話「看病の次の日」


「さて、仲良く休んだ理由を聞こうか」

「……黙秘権を行使する」

「黙秘するなら俺の好きなように解釈させてもらうぞ」

「……」


 カルマがにしし、と悪戯に笑うので翔は黙るしか無かった。


 翔は桜花が熱を出した次の日、一緒に休むことにした。片手を完全に支配されていた、というのもあったが、それ以前に桜花を一人で放っておくと翔が学校へと行っている間に家事や、後回しにしていた細かい掃除などのやりたいことをしてしまいかねなかったからだ。


 桜花は学校に行きたそうにしていたが、翔が願い出る形で家にいるように頼んだ。無理はさせたくなかったし、桜花の学力であれば一日や二日、休んだところでついていけない所などあるはずがない。

 桜花が言うにはもう高校で習う範囲は大体履修している、とのことだ。


 高校に行く必要は無いのでは、と思ってしまった。

 兎も角もカルマがこれほどまでに食い下がってくるのは普段から仲が良く、恋人関係でも翔と桜花が一緒に休んでいたので何か理由があるのでは、と深読みをしたからに他ならない。


「……一応、どういう風な解釈をするつもりなのか教えて貰っても?」

「初めて一線超えたから休んだ」

「は?……は?」

「な、何だよ」

「カルマ……。一体どんな考え方をすればそこに行き着くんだ」

「教えてやってもいいぞ」

「いらないよ、知りたくもないし。あまり大きな声では言えないけど、桜花が風邪を引いたから看病するために僕も休んだ」

「ということは、双葉さんは体調不良で休んだけど、翔はサボり、と」

「言い方に悪意がある……。でもまぁ、そういうことだ」


 翔は小さな声で話す。電話口では完全に風邪であると思わせるために、鼻をつまんで鼻声を演出してしんどそうに咳もしたのだ。これが嘘だとバレると同じ手が使えなくなる。


 カルマはそうかー、と納得したように頷き、翔をびしっと指さした。


「俺の願いをひとつ聞いてくれたら先生には言わないでやるよ」

「小学生か。……んで?カルマのお願いって?」

「クリスマスパーティで翔の家に遊びに行きたい」

「クリスマスパーティ……?」


 友達とクリスマスパーティなど、全くの無縁だったので初めて聞く単語のようにイントネーションがおかしくなってしまった。


 カルマはそんな翔に笑みを浮かべながら固まっていた。


「え、双葉さんがいるんだからクリスマスパーティは勿論するだろ?」

「何だよ、桜花がいればクリスマスパーティするって……」

「恋人がいるならしようぜ。折角だしな」

「どういうこと……?」


 世の中の独身を貫く人々に盛大な喧嘩を売ったカルマだった。翔はそれでも何となくついて行くことが出来ず、後で桜花に訊ねようと決めた。


「クリスマスパーティといえばプレゼント交換だな。しかもシャッフル形式!」

「話がどんどん広がって……ついていけない」

「何の話ですか?」


 翔がギブアップを決めそうになった時にちょうど桜花が話に入ってきた。翔は断ることなどもちろんなく、むしろありがたいという思いが強かった。


「クリスマスパーティ?の話」

「……なるほど?」

「僕の家で開催するとかしないとか」

「する。する方な」

「飾り付けから頑張らないと行けませんね」

「……案外ノリノリだな」

「クリスマスですからね。心做しか心が弾みます」


 クリスマスで心がわくわくしたのは何年前だろうか。

 サンタさんが来なくなった時は、悪い子になった覚えはないぞ!と半泣きになりながら親に泣きついたものだ。


 それからクリスマスといえば、家族でチキンを食べてケーキを食べるだけという最早、何かの儀式なのではないか、というほどに形式的なものになった。


 だが、何となく話を聞いている限りでは今年のクリスマスはいつもとは違ったものになりそうだ。


「蛍も呼ぶけどいいよな?」

「もう呼ぶものだと思ってた……。カルマは変なところで律儀だよね」

「変なところ言うな。道理は通すぜ」

「そこに蛍さんは惹かれたのですね」

「えっそうなの?」

「あっ。……秘密だったので蛍さんには黙っておいてください」


 しまった、と口を両手で抑える桜花はとても微笑ましかった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] カルマさんに指摘されなかったら、翔さんはクリスマスを普通に過ごそうとしていたのでしょうね。 [一言] 桜花さんにとっては、大好きな幼馴染と数年ぶりに過ごせるクリスマスですから、特別な日なの…
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