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他人行儀になった幼馴染美少女と何故か一緒に住むことになった件  作者: 戦告
第1章「幼馴染も進化する」
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第20話「親同伴ショッピングは思春期高校生には厳しい」



「え、僕も行くの?」


 翔は素っ頓狂な声を出した。

 梓、修斗、桜花の3人はそれぞれバタバタと忙しく身支度を整えていた。


 どうやらこれから家族で買い物に行くらしい。翔は当然行く気がなかったので家族で買い物と言っていいのかは微妙だったが。


「あら?てっきり一緒に行くものだと思っていたのだけれど?」

「思春期というやつだろうね」

「でも、桜花ちゃんだけじゃ可哀想じゃない?」

「可哀想……?」


 何を持って可哀想なのか翔にはさっぱり皆目見当もつかなかったが、親の意味ありげな目線を見て、行く、と返事をしなければ先へと進まないことを悟った。


「私は別に響谷くんがいてもいなくても構いません」


 悟った途端に助け舟を出してくれたのは桜花だった。


「じゃあ……」

「ダメよ桜花ちゃん!最近外出してないの、そんなんじゃ、身体が腐るわ」

「それで腐るわけあるか!」

「腐る云々は兎も角、翔は来るのかい?」

「え〜」

「夏服そろそろ買わないといけないわよねぇ〜」

「……着替えてくる」


 問答無用だった。

 せめて、着いてからは別行動で逃げてやろうと決意する。


 翔は親と買い物をする時に基本別で行動していた。当然これからもだが、理由は単純明快で、子持ちの2人が周りの目を気にせず桃色空間を作り出してしまうからだった。


 デートのような雰囲気になり随分と居心地が悪かったのだ。


「緩い服装ですね」

「悪いか?性能重視だ」


 単に服がないだけなのだが、そこは伏せておいた。

 翔と桜花の会話を聞いていたらしい梓が割り込んできた。


「翔は元はいいはずなのに身なりをきちんとしないから野暮ったく見えるのよね〜」

「余計なお世話だ」

「そろそろ行こうか」


 修斗の呼び掛けにより、それぞれが必要なものを持ったり付けたりして車へと乗り込んだ。


 相変わらずそういう時にさり気なく梓を褒めている修斗を見て、なんだかなぁ、という気分にさせられた。


 四人乗りの車に満員で乗ったのは初めてだった。いつもはごろりと寝転がることが出来たのだが、隣に桜花がいるので今回はきちんと座っておく。

 助手席には梓。運転席には修斗。


 向かう先は巨大ショッピングモール。そこでは服も食事も何でも揃っているため、翔の家では重宝されている。


「顔色悪そうだが、大丈夫か?」

「少し酔ってしまいました」


 何も喋ることなく俯いていた桜花に声をかけると芳しくない答えが返ってきた。


「乗り物苦手なのか?」

「いつもは平気なのですが、初めての車だったもので……」


 他人の匂いが染み付いた車に乗ったことでいつもとは違う感じに襲われて気分が悪くなってしまったようだ。


 そういう時には横になるのが一番良いのだが、横は翔が占拠してしまっているので使えない。

 膝の上に頭を乗せてくれても一向に翔としては構わなかったが、それは桜花が嫌がるだろうと口に出すのを躊躇った。


「赤信号まで待ってろ」


 翔がそう言った瞬間に車は赤信号に引っかかった。


 グッドタイミング。


 翔は自分のシートベルトを外し、桜花の上に被さった。


「なッ!……ちょっ!!」

「倒すぞ」


 桜花が慌てた様子で反応したがそこには触れず、ドアとシートの間にあるレバーを引いた。すると、リクライニングが作動し、角度が広くなっていく。


「これぐらいでいいか?」

「あの……はい」


 除け、と言われる前に退いておく。

 桜花がそんなことを言うとは思っていなかったが、突拍子もないことをしてしまったことは事実なので、一応を考えてのことだった。


「しばらく寝てろ。直ぐに着く」

「すみません。少し休みます」


 酔わせた、というと被害妄想が過ぎるが、事の張本人は未だに愛する奥様とイチャラブ中なので、翔はふん、と外の風景を眺めた。


「いきなりでびっくりしました」

「酔ったって言うから楽にさせてやりたいなと思ってな」


 桜花は横になり、翔は窓の外を見やる。視線が交わることは無いが、会話は確実に絡み合っている。


「優しいのですね」

「さぁな」


 双葉にだけかもしれないぞ、という言葉を呑み込んだ。

 言っても誤解を生んでしまうだけ。


「響谷くん」

「なんだ?」

「ありがとうございます」


 そんな翔のことを知ってか知らずか、桜花はお礼を言った。


 ただ勝手にやったお節介だったのだが、感謝されてしまい胸が痒くなる。


「どーも」


 短く返した。気持ちを隠し通すためだった。その翔の気持ちは桜花には感じられなくても車の上部についているミラーから見ていた梓には親子として通じるものがあったらしく、くすくすとまるで、全てお見通しよ、みたいな目で見ていた。


 ふと、目線を感じて見上げると梓とミラー越しに目が合った。


「ふふふ」

「ふふふ、じゃない。意味深な目でこっちを見るな」

「まぁ!こっちを見るなですって修斗さん」

「翔も成長したなぁ。昨日まで赤ちゃんのような気がしていたのに……」

「台詞がおじいちゃんみたいになってるぞ」


 翔は両親が子供扱いしているのか、成長して青年として一応は扱ってくれているのかの判断が出来なかった。


「今日は何でまた、急に買い物なんだ?」


 この話の流れは桜花に聞かせたくないような話もいずれ暴露されてしまうかもしれないので、早々に転換に持ち込んだ。


「桜花ちゃんの携帯の契約と翔の夏服、それと旅行用の準備品を買いにかしら」


 夏服を選ぶのは確実におまけだろうな、と思った。元々は桜花の携帯の契約だったが、昨日の旅行準備中に足りないものが出てきたのだろうと予想することは難しくない。


 翔はどこをぶらぶらするべきか迷っていた。

 携帯も準備品も翔には全く関係のないことだが、他に行く宛てがない。


 4月に買い求める本はないし、グッズもこれといって欲しいものは無い。


「響谷くん」


 ぴくっ。ぴくっ。

 翔が肩を震わせた時と同じくして修斗の肩も揺れた気がした。


「ん?」

「私は携帯は必要ありません、とお断りしたのですが……」

「気にしないでいいのよ〜。年頃の女の子なら持っていて当たり前だし」


 手をヒラヒラとさせ、お構いなく、と表現してくる。


「貰えるものなら貰っておけよ。病気以外は」

「契約が終わったら、連絡先を教えてください」


 ……。

 車酔いで少し辛そうにしていた桜花は翔が、心を殺してぶっきらぼうに「あぁ」と言った返事を聞くと嬉しそうに微笑んだ。


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