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他人行儀になった幼馴染美少女と何故か一緒に住むことになった件  作者: 戦告
第6章「恋と愛とカップルと夫婦」
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第194話「目撃!!」


「おっと。ここっぽい」

「疲れました」

「ごめん、結構飛ばしたから疲れたよね」


 翔が謝ると、桜花はふるふると首を振った。桜花の額はうっすらと汗ばんでいて、恨み言の一つや二つは翔へと飛んできてもおかしくはなかったのだが、桜花はそれをしなかった。


「大丈夫です。私は平気です」

「桜花は強いな」


 素直にそう思った。

 桜花は少し恥じらうように身を捩らせた。


 翔達は草むらからカルマから教えてもらった穴場によく似た場所に辿り着いた。


 そこはまさに穴場というものに相応しいものだった。花火が上がるのであろう、海側は何か強い力で断ち切られたのかと疑うほどに断崖絶壁と化していて、逆にその後ろ側は多くの木々が繁っていて、発見されにくいだろう。


 この地形に似ているのは鎌倉だろうか。天然の要塞のような場所に翔はほぅ、と感嘆のため息を吐いた。


 ふと、翔は人影に気付いた。


「では行きましょうか」

「待って!」


 桜花が向かおうとしたところに翔は慌てて引き留めようと結構な力で桜花を引っ張った。ただでさえ引っ張られるとバランスを崩しやすいのに、思い切り、しかも男子が女子を引っ張ればコケるのはもはや必然だった。


 しかし、そこは流石、翔と言うべきか。


 しっかりと桜花を自分の身体で抱きとめる。

 桜花の身体は華奢で細くて小さくて、翔の中にはまっていた。


「どうして止めるのですか」

「えっと……」


 翔の顔のすぐしたから咎めるような声が聞こえてくる。桜花が抗議しているのだ、ということはすぐに分かったのだが、いつもよりも顔の距離が近く、甘い匂いも漂ってきて、とてもでは無いが直視や応答などは出来そうになかった。


 翔はしばらく、日本語ではない翔語らしき言葉を話していたが、少し落ち着いてきたのか、ぽつりぽつりと話し始めた。


「あそこの奥に人影が見えたんだ」

「人影、ですか?」

「そう。もしかしたらカルマ達かもしれないけど……」

「少し怖いですね」


 翔もぼんやりとしか確認できなかったので正確とは言い難いが、それでも人影らしきものを見たのには変わりがない。

 せめて、もう少し明るければいいのだが、穴場の弊害か、明かりが一つもない。


「もう少しだけ」

「えーダメだよ、今日はもう……」

「お願い」


 翔も桜花も話すことなくじっとしていたので、話し声が聞こえてきた。

 そして、それはとても聞き覚えのある声だった。


「カルマ達か……」

「ふーっ。安心しました」


 ほっと胸を撫で下ろす桜花に翔は少し神経質になりすぎていたのかもな、と反省した。


 桜花が一歩を踏み出す。恐らくは蛍達に会いに行くために。しかし、それと時を同じくして、上空に神々しくも美しい一輪の花が咲き誇った。


 翔は驚いた。

 途方もなく。

 とてつもなく。


 一切の感情がなくなり、ただ驚きという感情のみが己を支配する。


 いや、それは必然だったのかもしれない。その可能性を考えなかった、自分と桜花のせいだったのかもしれない。

 どうなるのか、など、少し考えればすぐに分かることだっただろうに。つい、ヘタレの自分と桜花と同じだと誤認してしまっていた。


 翔も桜花も出来ればもう少し遅くくるべきだった。


 と、翔の頭の中のカルマは頬を掻きながら言ってきた。


 カルマと蛍がキスをしていたのだ。

 薄い暗がりの中、遠くからでは見られないことを言いようにして、二人で愛を確かめあっていたのだ。


 花火が上がったのを気にすることなく、一度、二度と重ねていこうとしている。


 桜花も当然それを見た。

 一気に真っ赤になった頬は熱を帯び、よろよろと後ろへと下がってくる。

 翔にぱすっと当たった時、


「ひゃ」


 と、声が漏れた。


 桜花は純情だ。一片の穢れもなく、美しく純白な心を持っている。偶にいじわるをすることはあってもそれは好きの裏返しであり、悪感情というものは存在しない。


 それ故に、自分がいけないものをみてしまったと思った桜花は叫ぼうとした。


 翔は桜花の行動などもうお見通しだったのか、それとも偶然だったのか。恐らくは後者だろう。

 翔は考えるよりも先に手が出ていた。


 左腕を桜花の腰へと回し、右手は桜花の頬へと添える。そして翔は桜花へと口付けした。


 まさに問答無用。

 まさに強引。


 しかし、カルマ達に叫び声は届かなかったという点では最善の策といえた。


「んっ……翔くん」

「ごめん桜花、耐えて」


 桜花は急なことに驚くも、翔と触れた瞬間に電流が走り、何も考えられなくなった。

 どきどきと胸は高鳴っていくのに、翔と繋がっているところの感覚だけはどんどんと失っていく。


 行為だけを見れば翔達も充分にカルマ達と同じだった。


 二組のカップルが愛を確かめ合っているのを祝福するように最大の花が咲いた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 人ごみであろうとも、カップルならばするであろうイベントを、人気のない場所でしない理由がないですよね。 [一言] これもし立場が逆だった場合、見られたことに驚き足をすべらせて、翔さんか桜花さ…
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