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他人行儀になった幼馴染美少女と何故か一緒に住むことになった件  作者: 戦告
第6章「恋と愛とカップルと夫婦」
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第193話「ヨーヨー」


「これは楽しいですね」

「そうか、それはよかった」

「何だか笑われているような気がします」

「気の所為では」


 桜花は見事に一つもとることが出来なかった。初めてだったので仕方が無いといえば仕方がないのだが、おまけとして貰った一つのヨーヨーでポンポン遊んでいるのは見ていてとても微笑ましかった。


 スーパーボールすくいではポイを水中で掻き回してしまい、直ぐに破れてしまい、ヨーヨー釣りではどれだけ集中していても、周りのヨーヨーがどうしても邪魔らしく、輪ゴムに引っ掛けることが出来なかった。


 おじちゃんが「可愛いからおまけな」と桜花に上げたのが、今、桜花が持つヨーヨーである。


「ヨーヨーをくれたおじさんは優しい人ですね」

「若干涙目だったからくれたんじゃ……」

「翔くん、何か言いましたか?」

「いいえ、特に。何も」


 桜花としては、全く取れなかったという事実よりもその事実を過程から結果まで終始、翔に見られていた、という現実の方が辛かったらしく「見ないでください」とうっすらと涙目で翔の目を覆い隠そうとしていた。


 また再び視界を閉じられてしまう訳にはいかなかったので、慌てて否定した。


「それにしても、翔くんはしなくてよかったのですか」

「うん?まぁ、僕はいいよ」

「何故です?」

「僕がやって楽しむよりも桜花がやっているのを見ている方が楽しいから」

「そんなにおかしかったですか」

「違うよ、そういう意味じゃなくて」

「冗談ですよ」


 くすくすと笑う桜花に翔はむっと頬をふくらませた。

 まさかからかわれるとは思ってもいなかったので、つい本当の事のように受け取ってしまった。


 因みに言うと、翔は「ど」がつくほどの素人である。どれだけ調子が良い時でも、スーパーボールは五つとれたら充分過ぎる成果である。ヨーヨー釣りはもう少し個数が多くなるが、それも常人の範囲だろう。


 金魚すくいなどは専ら出来ないので、敢えて避けた、という理由もなくもなかった。


 もし、桜花が今ではなく、もう少し前、具体的には桜花がヨーヨーを釣っている時に、翔にやってくれと言われていたらどうだっただろう。

 ヨーヨーならば何とかなる。しかし、金魚すくいに限っては一匹も取れることなく、醜態を晒してしまいかねない。


 翔はそれを恐れたのだ。


 翔はこの話はもう終わりだ、というようにこほん、と一つ咳払いをする。


「カルマ達もそろそろ向かっているはずだから、僕達も行こうか」

「そうですね。花火大会に来たのですから少し名残惜しくはありますが、とっておきの場所、に行きましょうか」

「どんなお面をつけてるのかな」

「蛍さんですから、あまり過度なものは選ばないと思いますけど……」

「……どうだろ」


 蛍ならばこそ、翔達が思いもよらない突飛なお面を見つけて、カルマに被せてそうだが、それは言わないでおいた。

 桜花の中で蛍への信頼がどれほどなのかは未知数だが、敢えて翔が落とさなくてもいいだろう。


「じゃあ、行こうか」

「はい」


 翔はカルマから貰った紙を右手に持ち、左手は桜花へと差し出した。

 桜花も特に躊躇することなく、その手を取り、恋人だけが許される形へ。


 少し前ならば心の中で何かと理由をつけていないとこのようなことは出来なかったのだが、最近になって自然にできるようになってきた。


 きっと、無人島デートの時だろう。

 翔と桜花の間にあった、薄い壁が破られたのは。


 翔達はすぐに通りから外れて、草むらに入る。カルマのマップは殴り書きのせいもあってとてつもなく見にくい。

 こんなことなら、蛍に書いてもらえばよかった、と後悔するも、時すでに遅しである。


 穴場中の穴場らしいので、他に誰も人がいないらしい。そう聞くととても良いように聞こえるが、ふと立ち止まって考えると、一度、道を間違えてしまうと最後、誰にも見つけられないのではないか、と不安にもなってきた。


 翔一人ならばどうにでもなるし、どうにでもするのだが、桜花にそのような危険な思いはさせたくない。

 なので、翔はより慎重に進んでいく。


「翔くん」

「ん?」

「ゆっくり過ぎませんか?これでは日が暮れてしま……ってますね。えっと……。朝日が昇ってしまいますよ」


 桜花が翔の歩みが遅くなったのを感じて、急かした。桜花としては早く辿り着いて、蛍と喋ったり、笑ったりしながら花火が上がるまでを楽しむつもりなのだろう。


 翔も出来れば叶えてやりたいのだが、このマップがよく分からない構造になっているので、解読に時間がかかり、何かと進みが遅くなってしまう。


「カルマのやつ……。地図書くの苦手だな」

「得手不得手ありますからね。むしろ、蒼羽くんの苦手を知れて良かったのでは」

「まぁ、何でもできると思ってたから意外ではある」

「翔くんは意固地ですね」

「それを桜花がいうか」


 翔は散々自分が桜花に対して思っていたことをあろう事か桜花に言われてしまい、思わずむせた。


 その様子を取り繕うように、翔は桜花の手を引き、カルマ達の元へと急いだ。


「桜花、しんどくなったら言えよ」

「まだ大丈夫です」

「もう少しスピードあげるよ」

「花火のためです、頑張ります」


 翔は桜花の手を引いて駆けた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 一つでも取れれば、不器用さんからは羨望もしくは嫉妬の眼差しで見られるでしょう。 [一言] 仮に輪投げを全員で勝負した場合、ドベは桜花さんでしょうね。
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