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他人行儀になった幼馴染美少女と何故か一緒に住むことになった件  作者: 戦告
第1章「幼馴染も進化する」
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第18話「放任主義の親と心配娘」

いつもの時間にもう1話投稿します


「ただいま」

「おかえり〜、お風呂沸いてるわよ」

「じゃあ風呂貰う」


 よろよろとふらつきながらも玄関で靴を脱ぎ、荷物もリビングの方へ適当に投げ、風呂へと向かう。


 あまり見られない方がいい身体をしていることは翔が自分でよくわかっていたので、そそくさと移動する。


 靴があったので出かけてはいないようだが、幸いにも桜花とは出会わなかった。


 梓は夕御飯の支度中で翔とは反対方向を向いており、気付かれなかった。


 脱衣所に入る前に軽くノックをする。

 あの事件以来、怖くなってノックなしでは入れなくなったのだ。


 返答はなかったので、誰もないと確信して扉を開ける。


 即全裸となり、かけ湯をして湯船に浸かる。


 ここでようやく全身に課していた緊張が全て解けたような気がした。


 絶大な安心感だ翔を心地よくさせる。


 絶対不可侵領域、風呂。


 少し大袈裟だな、と思い浮かんだネーミングを自嘲気味に切り捨てた。


 目を落とすと、内出血しているらしき跡が随所に見られ、やはり見せられないな、と思った。


 しかし隠し通すには高難易度なこともわかっている。


 梓にバレることもなければ、桜花にもバレないようにしなければならない。


 振る舞いはいつも通りすれば気にはされないと思うが、顔の傷ばかりはそうはいかない。梓だけなら「体育で転んだ」と誤魔化せばいいが、桜花も同じクラスなため、今日の授業で、体育がなかったことが露見してしまう。


 桜花とは食事中隣なので、近くに寄られると見つかる危険性もあった。

 最近になって少し食事中の翔との間合いが少し近くなったように感じていた。


 桜花がとても厄介だ。


 翔は湯船から上がって身体を優しく洗いながら必死に考えていた。

 洗っていると擦れて痛みが走ってあまり集中が出来なかったせいかいい案が一向に浮かばなかった。


 桜花は意固地なところがあるため、翔がいくら「大丈夫」といっても、聞かないだろうことはある厨二病ロリっ子美少女が爆裂魔法を放たない日はないのと同じぐらい明白にわかる事だった。


「響谷くん、ご飯ができたそうですよ」

「もう少ししたら上がるよ」

「出来るだけ早くしてくださいね、冷めてしまいます」

「ちなみに、今日のご飯は?」

「唐揚げ、だそうです」

「急いで上がる」

「ふふ、待ってます」


 扉越しに桜花がご飯の連絡をくれた。

 唐揚げは冷めてしまっては美味しさが半減してしまう。それを知っている翔はつまみ食いする常習犯なのだが、今日は梓が先につまみ食いさせないように風呂へと入れたらしい。


 すっかり策に嵌ってしまったようだ。


 まだ全く誤魔化す策を思いついてはいなかったが、ご飯の誘惑には負け、身体を拭き、寝間着を着る。


 髪を乾かすのも程々にダイニングへと向かう。


「今回はつまみ食いできなかったわね、残念」

「今日は先に風呂の気分だったんだよ」

「風呂が湧いてるって言わなきゃ入らなかったでしょうに」

「今度はつまんでやる」


 母と雑談をしながら皿をテーブルへと運んでいく。

 手元にある唐揚げが詰まった皿に、今食べてしまおうかという欲望が湧き出たが、もう冷めているだろうな、と思い直しやめておいた。

 揚げたてのさらに盛り付けられていない時が1番熱くて美味しい時なのだ。


 ここでつまむのは翔のつまみ食い魂が許さなかった。


「早かったですね」

「早めに上がれって言われたからな」

「でも、髪を乾かしていませんよね」

「早めに上がれって言われたからな」

「それは理由になりません」


 桜花にぴしゃりと言われ、返す言葉がなかった。それも理由が、唐揚げを早く食べたかったからなので、尚更だった。


「乾かさなければ明日、ひどい寝癖がつきますよ」

「後でやるよ、後で」

「桜花ちゃんにやってもらったらいいじゃない」


 翔が投げやりに返すと、梓が口を挟んできた。しかも、それがかなりの爆弾発言で、2人とも理解が追いつかず、数秒のタイムラグが生じた。


「なら自分でやるよ」

「今しないでしょ?」

「そうです。髪は早く乾かしておくべきです」

「僕の髪はそんなにボサボサにはならない」

「5分もかからないわよ」


 翔はそこまで言われてようやく洗面所へと向かった。

 渋々の表情だったので、桜花と梓は翔の身体が見えなくなると顔を見合わせて笑った。


「雑に終わらせそうね……。桜花ちゃん」

「誰でも出来るでしょう」

「ちゃんと丁寧にしてくるのか、心配だわ……。桜花ちゃん」

「すみません。少し行ってきます」


 梓の意味ありげな言い回しに気圧され、桜花も翔の後を追った。

 翔はドライヤーを手に持って、鏡を見ていた。


「できますか?」

「馬鹿にしてるのか」

「早くしないと冷めてしまいますよ」


 翔はドライヤーを持ち上げようとして踏ん張るが、頭までとてもではないが上がっていなかった。

 放課後の須藤からの暴行によって、腕に結構なダメージが入ってしまっていたようで、電流が走り抜けたような感触に襲われる。


「どうしたのですか?」

「上がらない。ドライヤーを持ち上げることが出来ない」

「冗談ですか?それとも私に甘えていますか?」

「どっちでもない。ただ事実をいっただけだ」


 桜花は訝しげな目線を翔へと向ける。

 ドライヤーが持ち上がらない、なんて高校生男子の言うセリフではない。そんなことを言われても先程の桜花のように、冗談にしか聞こえないだろう。


 しかし、ふと桜花の目に普通の怪我ではありえない傷が飛び込んできた。


 咄嗟に翔へとにじり寄り、腕を掴む。


「痛ッ!」


 翔が悲鳴をあげるも気にせず寝間着で隠れている皮膚を露わにするためにぐっと捲った。


「何ですか、これは」

「怪我だ」

「そういうことを聞いているのではありません。経緯を聞いているのです」

「走ってコケた」

「梓さんにも相談しましょうか?」


 真面目に答えず、シラを切ろうとする翔に最強のカードを出すと、慌てた様子静止をかけてきた。


「後で話すから、母さんには秘密にしてくれ、頼む」

「私には話してくれますか?」

「今ってわけにはいかないが、寝る前にでも時間があれば」


 翔は騙し通すことをほとんど諦めていた。

 桜花は翔の提案に「分かりました」と頷いた。


「でも、乾かさないとこの時間は不自然ですよね」

「そうだな」

「お願いされたらやってあげなくもないです」

「ごめんな、頼む」

「謝らないでください。後で理由を聞きますからね」


 桜花は翔の手からドライヤーを受け取り、翔の髪を丁寧に乾かしてやるのだった。

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