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他人行儀になった幼馴染美少女と何故か一緒に住むことになった件  作者: 戦告
第6章「恋と愛とカップルと夫婦」
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第175話「照れさせたい」



 素っ頓狂な顔で写真に収められてしまった翔はどうにか桜花を自分以上に照れさせることが出来ないかと画策していた。


 桜花にとっては何気ない一言でも翔にとっては充分な破壊力を持つ。

 例えば先程の「大好き」という言葉。あれも翔を照れさせるためにわざと狙って言った言葉ではなく、桜花自身の気持ちが昂ったからでた言葉に過ぎない。

 しかし、翔にとっては吐血ものなのだ。


 逆に、翔が桜花を照れさせるためにはどうすればいいのか。

 そう考えれば考えるほど、全く分からなくなる。


「どうしました?心ここに在らず、という感じですが」

「……。変な顔で写ったな、と」


 嘘は言ってない。しかし、誤魔化しには少し弱かった。


 桜花はじっと翔を見つめると、不意ににこっと表情を緩めた。


「どんな顔でも翔くんは翔くんです。私の好きな翔くんです」

「あ、ありがとう」


 照れさせるどころか更に照れてしまう翔。

 そういう所なんだぞ、と声を大にして言いたいのにどうしても出来ない。


「僕も好きだよ」

「うふふ。ありがとうございます」


 勇気を振り絞って言ってみるものの、大して照れダメージは入っていないようだった。

 ひょい、と捌かれた感じがしないでもない。


 翔はもう何も言えなくなり、黙って袖に隠れている桜花の手を握った。

 最早、一心不乱にと比喩しても良いぐらいに、翔は真剣に握っていた。


「……翔くん?」


 桜花が驚いて戸惑った様子の声色で訊ねる。その表情はうっすらと赤みを帯びていた。こういう時にこそ、顔を上げて桜花の表情を窺えばよかったのに、翔はじっと桜花の手を見つめ、何も答えることなく、ずっと握る。


 やがて、耐えきれなくなった桜花が優しくもう片方の手で翔の手をそっと押し除けた。


「先程から少しおかしいですよ。どうしましたか?」

「……」


 翔は答えない。

 桜花は熱でもあるのだろうか、と翔の額に手を当ててみるが、どうにも平熱だ。


「熱はなさそうですね」

「熱は無いよ」


 桜花がじっと続きを促してくる。視線だけで熱「は」ないのなら、何があるのかと問うてくる。


 翔は気持ちを落ち着かせるために深呼吸をした。深く吸い込み、気持ちを整理する。


「照れさせてみたかったんだ」


 そして正直に話してみた。


「はい?」

「いつも僕の方がが照れてばかりだから、反対に照れさせてみたかったんだ」

「私をですか?」

「うん」


 桜花は困ったな、というように苦笑しながら頬を掻いた。


「私も照れてますよ」

「……そう?」

「ただ、顔に出したくはないので、そうみえてしまうのかもしれませんね」

「でも、さっき、僕が「好きだ」って言った時……」

「……照れてました、よ?」

「……え」


 翔は言葉を失った。

 別に桜花は照れていないわけではなかったのだ。照れていながらもそれを隠そうとしていただけなのだ。


 思い返せばそう考えれるような場面は今までにもいくつかあったが、翔は自分ばかりが照れていると思い込んでしまっていた。


「だから……その。「好きだ」と言ってくれてとても嬉しかったです」


 ぎゅ〜ん!と翔の心に何かが刺さる。

 翔が気付いた時には思い切り桜花を抱き締めていた。


 桜花は少し驚いた表情を見せたものの、ふっと微笑み、抱擁を返した。


「嫉妬するほど見惚れてたんだ」

「誰に嫉妬するのですか。私は翔くんの……彼女なのに」

「確かにそうだよな」


 翔と桜花は抱き合った姿勢のまま、上体だけを離した。

 真っ直ぐに視線を交差させる。


 ゆっくりと顔を近づけていく。

 今日はいつもよりも桜花の事が好きで好きでたまらない。

 斜めに入り込み、鼻と鼻がぶつかるのを回避する。


「桜花」

「翔くん」


 2人は名前を呼び合う。

 そして、桜花がゆっくりと目を閉じた。

 翔はそれに応えるようにゆっくりと桜花の唇に自分の唇を重ねる。


 一度、二度、三度。


 翔の脳は電流が走り、何も考えることが出来なくなった。


 翔はそっと戸惑いながらも自分と桜花の唇の小さな隙間から舌を出し、桜花の唇に這わせた。


「……ん」


 小さく桜花が声を漏らす。

 桜花の翔を掴む力が弱まったような気がした。翔はそれならば、と力強く桜花を自分の方へと抱き寄せる。


 臆病な桜花の舌に自分のを交わらせる。


 海の中では自分からしたはずの桜花が今はもうすっかり為されるがままだ。


「まっ……」


 待って、と言おうとしたのかもしれない。しかし、今の翔にそのような待つ時間は存在しない。


 翔は桜花の舌を甘噛みした。


「んぁっ……」


 桜花が腑抜けた声を出す。

 身体は全て翔に預けている。恐らくは腰が抜けてしまったのだろう。


 翔はゆっくりと顔を離す。


 理性では自分のやりたいようにやってしまった、という後悔にも似た感情を抱きながらも、感情では最高だった、と男としての野獣の本懐を見せていた。


 あと、とろんとした表情で翔を見ている桜花は浴衣姿も相俟ってぐっと心に来た。


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― 新着の感想 ―
[良い点] わかりにくいだけで、何度悶えていたことか。 [一言] わかりやすくても問題はありますけどね。
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