第134話「写真確認」
新章もよろしくお願いしますm(_ _)m
ダブルデートも無事に終わり、当分は何もない日常を享受することになった翔は、この間に宿題を終わらせる、訳ではなく、先日に撮影した写真を整理することにした。
あまり、いつもの生活でパソコンを使う機会がないため、物置の奥底に置いてあったパソコンを引っ張り出し、SDカードを差し込み、読み込ませる。
今までに使ってなかった弊害か、はたまた容量が多すぎるのか、翔の思った以上に読み込みに時間がかかり、翔は焦燥感に駆られる。
電源を落としてやり直しをするべきか、と思案し始めた時に、ようやくパソコンが読み込みを終えた。
(さて、ちょっとやりますか)
これからは作業時間となるので、先に身体を伸ばし、解しておく。
写真を撮ったのは殆ど、桜花なので、翔は初めて見ることになる。
「ほぉ……」
翔は思わず感嘆の声を漏らした。
その理由としては、画面に写っていたのは、あの、長く濃い時間の内にベストショットとも言える場面の写真が殆どだったからだ。
偶に、誤写なのか、地面を焦点の合っていない状態で撮っている写真もあったが、それも桜花らしい愛嬌があって、顔が綻ぶ。
その中でも一番多いのはカルマと蛍がお互いに食べさせ合っている瞬間だった。カルマがあの時に言ったように、今の翔には当時の場面の記憶が思い返される。
「……思い出浸ってる場合じゃない。整理しないと」
翔とカルマはお互いに写真を整理して送り合うという同盟を結んでいる。そのため、何としても遅れる訳には行かないのだ。
翔はかぶりを振って記憶を消去すると、マウスを動かしてざっと全体を流し見た。
愛嬌がある、といった写真は残念ながら消去することにした。腕が上達するまで何度でも撮ってくれるだろうことを信じて。
自分で整理する、と決めたからか、思ったよりも随分とハイペースで断捨離を進めていく。
必要な写真、からかうための写真、記念として残したい写真。
翔の中でこの三つに分かれて分別されていく。
(……何だこれ)
そんな翔がぴたりと動作を止めた。というのも、そこには翔の後ろ姿が沢山撮られていたからだった。
翔は自分の後ろ姿をあまり見た事は無いのだが、あの時の服装や、少しだけ見せる顔は自分のものだった。
こんなことをするのは桜花しかいない。
翔は恥ずかしさのあまり消してしまいそうになったが、良心の呵責により、一時的に取りやめた。
「こんなに後ろ姿を撮ってどうする気なんだ……」
「どうしましたか?」
「桜花ッ?!」
驚きのあまり、振り向くと、そこには絶世の美女だと紹介されても頷けるほどの美少女がきょとん、と小首を傾げて近付いてきていた。
クレオパトラ、楊貴妃、小野小町、そして双葉桜花。絶世の美女はこの四人で決まりだろう。
「写真の整理ですか?」
「ん?あぁ。一応今日までには仕上げとかないと……」
「宿題は仕上がりましたか?」
「……そっちは後で」
「もう」
うへぇ、とおどけてみせると桜花は呆れたように嘆息した。桜花は先程まで自室で勉強をしていたようなので、宿題は既に終えたか、もしくはラストスパートに水分補給に来たかのどちらかだろう。
どちらにしても翔より進んでいることは明らかだった。
(さっさと仕上げて僕も宿題しないとな)
翔がそう思ってパソコンと再び向き合い始めると、桜花が隣に腰を下ろした。あまりに自然に座ったので気付かなかったが、足や腕に擦れるような感触が伝わって来たのでどきり、と心臓が跳ねる。
翔は心臓が跳ねたと同時にスクロールして翔の後ろ姿の写真を見せないようにした。いずれはバレてしまうだろうが、咄嗟のことだったので後のことなど全く考えていなかった。
「沢山ありますね」
「撮ったのは桜花だろうに」
「頑張りました」
褒めて、と言わんばかりに自慢気に言うので、翔はよしよし、と頭を撫でてやった。
嬉しくなったのか、恥ずかしくなったのか、桜花は、ぼすっと翔の腕に自分の体重を預けた。肩口に顔を乗せられ、戸惑った翔がマウス操作を誤り、パソコンの画面がまだ見せたくなかった画像を写した。
「……」
「……」
変な沈黙が支配する。アベックストローの時のようなもどかしい沈黙ではなく、戸惑いや遠慮のような沈黙だ。
「これは……」
「待ってください!」
何を待つのかさっぱり分からなかったが、桜花の気迫に気圧されて「お、おぅ」と翔が紡ぐはずだった言葉を呑み込む。
「その……れ、練習です」
「練習?」
「撮影初心者だったので……翔くんで練習を」
「後ろ姿ばっかりだけど」
「自然体を写真に収めようとしたら、後ろ姿ばかりになってしまいました」
初めに「その……」と言っているところや、練習で詰まっているところなどを深く吟味すると、咄嗟に作った嘘のように思えるが、必死に取り繕う姿も微笑ましいので翔は流されることにした。
「練習なら消去でいいか」
「……一枚だけ残してください」
お願いします、と腕に引っ付き、無意識の内に上目遣いになった桜花に翔は心臓の音が聞こえていないだろうかと不安になりながらも、深呼吸を兼ねたため息を吐くと、一枚だけ残し、他は消去した。
「ありがとうございます」
「これ残してどうするんだよ……」
「成長の証に取っておきます」
「そうか。頑張れ」
翔が微笑みながらもたれかかっている桜花の頭を撫でる。緩み切った表情にこちらも緩んでしまいそうになる。
写真はもう放っておこうか、と邪念が飛んできたその時に、パソコンからメール受信の通知音がなった。