今日の会話 -たい焼き-
数ある中から選んでいただき、ありがとうございます。楽しんでいただけたら幸いです。
焼き鳥ではタレ味と塩味、どちらが美味しいかというように、二択を巡っての主張のし合いや、ある一つの外見や使い方を題に論争するのは、恐らくどこの国でも誰でも一度は経験があり、平和の証拠ではないかと、私は思っている。
ここで、私のオススメである、とある3人の論争……いや、会話を覗いてみよう。
マジメさが取り柄のスミレ。
高身長でルックス抜群のサク。
金持ちのお嬢様であるツバキ。
今日は何を題に、盛り上がりを見せてくれるのだろうか。
「たい焼き食べない?」
程よい人通りの道端に停車する、一台のワゴン車。甘ったるい香りを歩道に撒き散らし、女性が数人、見事に釣れている。
ツバキもその内の1人だった。
「良いね、食べたい」
ツバキに賛同してスミレ、サクの順で行列に並ぶ。
「ツバキもたい焼き食べたい時があるんだね」
「失礼ね、あるわよ」
ツバキの家は金持ちで、いわゆるお嬢様。しかし庶民よりも庶民物が好きなツバキ。人気店のチェックは欠かさないし、駄菓子なんかも大好物である。
だからこそ、こういう『いかにも』というモノには釣られやすいのかもしれない。
「初めてだわ、たい焼き」
「…え?」
語尾を弾ませるツバキとは反対に、サクとスミレは思わず、目を合わせた。
「初めて?初めてなの?」
「えぇ」
「たい焼きを食うのが?」
「なによ、悪い?」
「いや、別に…」
「庶民の食べ物好きなのに、意外だなって」
「縁が無かっただけよ」
やがて順番になり、3人は各々で注文し、たい焼きを手に道端に立ち止まった。
「いっただきまーすっ」
「いただきます」
サクとスミレは一口で思い思いに頬張り…噛じった先から湯気がたつ。甘い中身が口内に広がり、一時の何とも言えない幸せが訪れる。
「食べないの?」
2人を交互に見るだけのツバキの手にももちろん、人生初のたい焼きがあるが、何故か口にしない。
「まさか、「タイが可哀想」、とか言わないよね?」
「言う訳ないじゃないっ」
「冷めちゃうよ?」
ツバキはまだ食べることに躊躇しているようだ。少し口ごもりながら、その理由を明かした。
「どこから食べるの?」
「は?」
「だから、どこから食べるのが正解なの?」
「どこからって…頭でしょ」
「何言ってんだ、尻尾だろ」
サクとスミレはお互いにお互いの食べかけのたい焼きを見る。
サクは尻尾から、スミレは頭の部分から食べ始めていたのだ。
「尻尾って…カリカリで最後までとっておきたいじゃん」
「ガキか。頭からって残酷だな」
「子どもじゃないんだから」
スミレはもう一口、頭の部分を頬張りながら弁論する。
「知らないの?頭から食べたら、頭が良くなるんだよ」
「ガキか。尻尾から食ったら足が速くなるのを知らねーのか?」
「足が遅くたって生きていけるもん。多少でも頭がナイと息苦しいじゃん」
「なんだ息苦しいって。頭の良さは幼少期の生活環境で決まるんだよ。足の速さは努力次第」
「学力だって本人の努力次第じゃん」
「つまり、どこから食べても良いのね」
ヒートアップする前に2人を止め、ツバキはやっと、たい焼きを頬張った。
「うん、美味しいわ!」
「…あんまり見ない食べ方だね」
「ある意味、残酷だな」
読んでいただき、ありがとうございます。コメントなど大歓迎です。他にも会話シリーズはありますので、暇な時間にでもぜひ、遊びに来て下さい。