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てんこもり ~帰宅部、異世界を征く  作者: Podos
第二章

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第66話 学院一年目 ~エルフィミアの依頼


 最後に残ったのは、調合の試験だった。

 試験内容は、ヒーリングポーションの作成。

 なぜか俺の手元にだけシスラス草の蜜が置いてあったので、鬱憤を晴らすかの如く調合に集中。

 結果は、初の高品質だった。

 完成して分かったが、シスラス草の蜜を加えても、高品質になる確率はゼロに等しかった。百本作ってもできるかどうかだろう。『鑑定』によれば、高品質以上はシスラス草の蜜の他、サラス蝶の尾状突起が必要だという。シスラス草でさえ野生種を見たことがないので、サラス蝶ともなれば、いつお目に掛かれるのやら。

 どうあれ、シスラス草の蜜だけでは二度と高品質は作れないと思う。

 狂喜乱舞するラッケンデールを捨て置き、俺は仇を討ったとばかりにポーションを一瞥、錬金室を後にした。

 試験の時間は終わっていないが、誰も止めなかった。

 皆、俺の偉業に度肝を抜かれていたからだ。

 決して、涙の跡に躊躇したわけじゃない。



  ◇◇◇◇



 そんな悲喜こもごもの前期試験を終えてから数日。

 俺は裏庭で寛いでいた。

 季節は晩夏。

 押し寄せる秋の気配への抵抗か、今日は真夏のような暑さだった。

 前期試験が終わると、学院は半月ほどの休みとなった。冷房の魔道具が存在しないので、前世と似たような理由だろう。


 日差しを遮る布を見上げる。

 この分では、まだ外せそうもない。

 夏を迎えると、裏庭はむせ返るような暑さになった。テッドたちは時間を問わず来襲し、俺が留守でも勝手に鍛錬していた。熱中症で倒れられても困るので、日差し避けに大きな布で簡単なオーニングを作成し、さらに小さなテーブルと椅子も購入、その下に設置した。

 熱中症の危険を教えたので、俺がいなくともきちんと休憩しているようだ。


 俺はその椅子に座り、将軍アイスティーを飲みながらテッドたちの戦いを鑑賞していた。

 テッドが踏み込み、ネイルズに剣を振るう。

 それにジェマが割って入り、盾で防ぐ。

 先ほどから、一進一退の攻防が続いている。

 彼らも色々考えているようで、今はテッド対ジェマ、ネイルズで戦っていた。ジェマは盾役に専念し防御のみ。そのためテッドは攻めづらく、ネイルズは反撃を恐れて迂闊に攻撃できない。

 発案者はネイルズらしい。リリーが庭の爺ちゃんに気に入られたため、彼が参謀役に就任したようだ。ネイルズはリリーから採取も教わっており、最近、石灰おばさんから及第点をもらったと喜んでいた。


 テッドの斬撃がジェマの防御を掻い潜り、ネイルズに直撃する。

 そこで模擬戦は終了となった。

 人数分のコップに水を注ぐ。

 水差しの中には、《氷柱の短矢(アイスボルト)》で作り出した氷が入っていた。豊富な魔力があるからこそ、こんな贅沢もできる。

 テッドたちは群がるようにテーブルに集まると、「冷てえ」と騒ぎながらコップを煽る。


「次は氷魔法だな、ネイルズ!」

「無理だよ。《清水(ピュアウォーター)》だってまだ使えないんだから。それに火属性は覚えられそうにないし」


 ネイルズは手を振って訴えた。

 生活魔法は自然に覚えられる、そう言っていたのはメレディだ。

 実際は、資質が伴い、普段の生活に関係していれば覚えられる、である。幼い頃から家業を手伝っていたリリーはそろそろ覚えられそうだが、ネイルズは水に関わりがない。もうしばらく掛かりそうだ。それに魔力も高くないので、本業の魔法使いよりダニルのような魔法剣士を目指すべきかもしれない。


 休憩後、俺は一人一人に稽古を付けた。

 テッドはショートソード、ジェマはメイス、ネイルズはスモールソードに落ち着いたようだ。いずれは盾も考えているようだが、耐久性のある魔道具の盾か、頻繁に買い換えられるほど余裕がなければ常備できない。現実的な判断だと思う。

 それと、皆には体術も教え始めている。素手で戦えれば選択肢が広がるし、体捌きは各武器スキルの隙を消してくれる。こちらはジェマ、テッドの順に才能がありそうだった。ネイルズは――残念ながら皆無だ。一応、スタミナの向上には役立つので、鍛錬は継続させる。


 稽古が終わると、小休止を挟み、彼らは再び模擬戦を始めた。

 本当に熱心である。

 背もたれに寄りかかり、その様子を眺める。

 そう遠くない将来、テッドたちは冒険者になるだろう。

 その時は一緒に行ってやらないとな。絶対、壁が立ち塞がるし。


 そういえば、野外演習前を最後に、冒険者ギルドへ顔を出していなかった。

 街の噂では、俺が舞踏の練習に明け暮れている間、ゴブリン集落への討伐隊が派遣されたそうだ。試験結果があれならそっちに行きたかったが、もう手遅れである。

 それに野外演習のときに遭遇したゴブリンがほとんどだったようで、規模の割に数は少なかったという。特に強者の噂も聞かないので、あいつが集落の長だったのだろう。


 普通に依頼でも受けるか。

 学院のイベント事が重なったため、まだEランクだ。Dランクまで上がれば、冒険者として一人前。報酬が増えるので貯蓄にも回せるし、そうなれば色々と手を出せる。


 のんびり考え事をしていた所為だろう。

 気付くと同時、裏庭を囲う路地から声が聞こえてきた。


「本当に聞いたとおりのところね」


 不釣り合いな少女が俺の自宅を見回し、呆れていた。

 あ、そっか。こっちを忘れてた。

 その声にテッドたちは手を止め、「エルフだ」、「初めて見た」、「凄く綺麗……」と口々に感想を述べる。

 それを受け、エルフィミアはついとスカートを摘まみ、優雅にお辞儀する。


「カルティラール高等学術院一年、エルフィミア・クローエットよ。よろしくね」


 一拍の間を置きテッドたちは殺到、次々と名乗っていった。

 嫌な顔一つせず、エルフィミアは応えていく。

 宮廷魔術師と言えば魔法ギルドの幹部と並び、魔法使いの最高峰。そして伯爵と同格だ。

 その娘ともなれば、お高くとまっていそうなものだが。

 相性が良さそうなランベルトが駄目で、合いそうもないエルフィミアは気にしない、か。

 人というのは本当に分からないものだ。


「おしゃべりも良いのだけど、少しアルターと話があるの。借りても良いかしら?」

「ああ、持ってって!」


 いつからお前の所有物になったんだ、俺は。

 テッドを軽く小突き、エルフィミアを家へ招き入れた。


「適当に座ってくれ」


 そして俺が紅茶を差し出すと、エルフィミアは怪訝そうに俺を見る。


「熱でもあるの?」

「いきなりか。安物で悪かったな。あいにく高級茶葉は切らしてるんだ、永遠にな」

「そうじゃなくて。あんたのそれ、ジェネルラル草でしょ」

「ジェネ……?」


 なんだっけ、それ。どこかで聞いたような……。

 不意に思い出し、手を叩く。


「そうだった。そんなご尊名だったな、将軍様は」


 俺にとっては(いみな)、恐れ多くて本名では呼べん。それに解熱効果もあったっけ。弱すぎて忘れてたわ。


「将軍茶は僕の活力源だ。お前も飲むか?」

「いらないわよ、そんな苦いの。それよりも――連絡するって言ったでしょう! なんで連絡先言わないで帰るのよ!?」


 エルフィミアは、ばしばしとテーブルを叩いた。

 そういや調合の試験、終わる前に帰ったな。

 あの時には忘れてたよ、約束。


「探し回ってもどこにも居ないし、学院に聞いても教えてくれないし。あんたの馬鹿友だちに聞いて、やっとここが分かったんだから」

「それはすまなかった。駆けずり回ってまでわざわざ来たということは、例の借りか」

「ええ、そうよ」


 エルフィミアは言葉を切ると、紅茶を飲みながら横目で裏庭を見やった。

 木剣を打ち合う音が聞こえてくる。

 聞かれては困るような話なのか。なんだか面倒そうだな。

 エルフィミアは視線を戻す。その第一声は俺を驚愕させた。


「あんたさ、冒険者やってるでしょ」

「なな、なんのことかな?」

「見かけたのよ、冒険者証で街を出るとこ。別に禁止されてないし、否定しなくても良いでしょ。あ、実家に知られたら困るとか?」

「ななな、ななんのことかな?」

「……もう良いわ」


 エルフィミアは大きくため息をついた。


「アルター・レス・リードヴァルト。あなたを雇うわ」

「それは――冒険者として、か?」

「そうなるかしら。依頼主の秘密は守るわよね? 冒険者なら」

「内容次第だな。契約で守秘義務が課せられても、事態によってはギルドに報告しなければならない」


 冒険者には、危機に際しての報告義務があった。

 守秘義務はなかったが、オヴェックの一件はそれに当たる。


「できれば他言無用でお願いしたいけど……誰を雇っても同じみたいね。なら、あなたで良いわ」


 エルフィミアは諦めたように首を横に振った。

 そして、いつにも増して真剣な眼差しを俺へ向ける。


「依頼は簡単よ。見えない屋敷に同行してほしい」


 言葉の意味を測りかね、返答に詰まってしまう。

 見えない屋敷は知っている。七不思議の一つだ。

 演習のとき、生徒たちが見張りをさぼって興じていた怪談話。


「探してほしい――ではなく?」


 エルフィミアは頷いた。

 冗談を言っている顔つきではない。


「本当にあったのか。それを見つけたと?」

「たぶんね」


 彼女によれば、南西の森に隠蔽された結界があるという。

 明言しないのは、まだ中に入ってないからだった。

 本当にあるなら興味深い。


「そういや一度、外で会ったな。見えない屋敷を探していたのか?」

「半分は正解」


 そう言って、エルフィミアはどこか辛そうに顔を伏せた。


「私は――お祖母さまを探してる」



  ◇◇◇◇



 今から四十六年前、エルフィミアの祖母セルテレスは、息子を産んでからしばらく経ったある日、前触れもなく失踪したという。


「こんな見た目でしょう。幼い頃から、お祖母様のことが知りたかった。どうして出て行ったのか、何があったのか。そんなある日ね、お祖父様の日記を見つけたの」


 それは、消えた妻を探す夫の述懐だった。

 エルフィミアはそれを何度も読み返し、祖母を探そうと決意する。


「お祖父様の日記からは、帝都を出て南に向かったことしか分からなかった。だから、当時のことを調べたわ。どんな出来事があったのか、お祖母様と関係がありそうか。もちろん、大した理由もなく失踪したのかもしれない。だけど、なんとなく分かるの。お祖母様に何かが起きたって」

「それで、なぜセレンに目を付けた? 見えない屋敷はどう関わってくる」

「皇帝陛下とヴィールア公爵の不仲、知ってるわよね?」


 思わず周囲を窺う。

 とんでもないこと言い出したな。

 皇帝派と公爵派。その対立はアルシス帝国全体に大きな影響を与えている。貴族が好き勝手に争っているのは、その延長だ。


「不仲には色々理由があるんだけど、その一つがプロスト事件と言われているの」

「初耳だが――有名なのか」

「一部ではね。歴史で習うような話じゃないわ」


 エルフィミアはプロスト事件について、掻い摘まんで説明した。


 吸血鬼プロストは、遙か昔に討伐された伝説的な吸血鬼だった。

 その魔石はヴェリアテスの秘宝と呼ばれるも、超大国は瓦解。魔石はその後に台頭したバロマット王国が手にする。しかしバロマットもアルシス帝国、当時のアルシス王国に破れ、首都ヴィールアを放棄した。

 魔石を始めとする数々の秘宝はアルシス王国の手に渡り、さらに王弟がヴィールア公爵に(じょ)(しゃく)されると、プロストの魔石は下賜された。

 およそ七百年前の出来事である。


「そして盗まれたか。四十六年前に」

「そう。公爵側は必死に捜索して、犯人とおぼしき人物がセレンに逃げ込んだところまでは突き止めたの。でもセレンは直轄領、()(かつ)には手を出せない。だから先の皇帝陛下に捜索許可を求めたそうだけど、証拠がないと却下されたわ」

「確かに貴重な魔石だ。しかしそれだけでは――」

「まだあるわ。当時を知ってそうな人たちに話を聞いていたら、父の知り合いの商人が教えてくれたの。当時、とある商人を介して闇の上位精霊の魔石や稀少な素材が発注されたそうなの。上位精霊、しかも闇なんて稀少品よ? なのに用途はおろか、誰の手に渡ったのかも掴めなかったそうよ。これが他の街ならコレクションとも考えられる。だけど、ここはセレン。目的があると考えるのが自然でしょう」

「確かに。その商人は辿れないんだな?」

「ええ。行商人だったらしいけど、出自もその後も不明よ」


 吸血鬼に闇の精霊か。嫌な組み合わせだ。

 魔王でも召喚するのかね。


「それで、見えない屋敷は?」

「エルフは先天的に魔力が見えるの。私もその力を持って生まれたわ」


 あれか、『魔眼:魔力視』。


「なるほど。見えない屋敷があるかは別にして、結界が見えたわけだ。そして純血の祖母も見えると」

「そうよ、たぶん私以上に。セレンで見えない屋敷の噂を聞いたとき、思ったの。人に知られたくないことをするなら単独か少数、それも街中は選ばないんじゃないかって」


 そこまで聞き、俺は考え込んだ。

 エルフィミアの祖母が消えたとき、この街で何かが起きていたのかもしれない。ただ、それらは祖母の失踪と直接は結びつかなかった。帝都からセレンのある南へ行き、そしてエルフなら看破できる見えない屋敷が郊外に存在、いや存在するかもしれない。それだけだ。客観的に見れば、種類の異なるピースばかりを集め、強引にパズルを完成させようとしている。

 だが、彼女は優秀でもあった。

 何年も調べ続け、明確に無意味と思われる情報は排除したはず。そして残ったのがこのピースであるなら、思い込みと一笑に付して良いものか。


 エルフィミアは、俺の返事を待っていた。

 常と変わらぬ表情だが、わずかばかりの陰りを感じた。

 俺は聞こえぬよう嘆息する。


「分かった、引き受ける。他言しないとも誓おう」


 陰りは消え、エルフィミアに安堵が浮かぶ。

 でかい借りもあるし、ここまで聞いて知らん顔もできんよな。

 蓋を開けてみたら、「旦那に愛想が尽きました」で終わるのも一興だ。



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