第54話 学院一年目 ~奇妙な一日
冒険者登録してから三日目の午前。
週明けの明後日から講義期間に入る。連日の冒険者稼業も今日で一区切りだ。
レベッカは俺の実力とやる気を見ながら、難易度を少しずつ上げていた。
初日はヒーリングポーションの素材であるセーロン草、二日目は痛み止めポーションに使うラスルプ草の根茎、三日目の今日は錬金溶液の素材、ソグリオの実の採取だった。ソグリオの実以外は草原でも採取可能なので、遠出させないための対策だろう。構わず森に入ってるけど。
セーロン草は何度も採取しているので、鑑定しなくとも見分けが付いた。ラスルプ草は初なので手こずるかと思ったが、適当に『鑑定』していたら見つかる。どことなく彼岸花に似ており、開花の時期も近い。
どちらも午前の早くに終わったので、余った時間はダニルが《水禍球》を見せてくれた北西の森へ行き、中級魔法の練習を行った。ただ、今のところ進展はない。
調子が乗らないときは早めに切り上げ、操作系を練習した。こちらは講義で学習済みなので、少しだけ掴めた気がする。
北西の森へ入り、目当ての場所へ向かう。
昨日、森を散策しているときにソグリオの木は発見している。
「お、あった」
細い枝先に、指先程度の赤い実が鈴なりに揺れていた。
ソグリオは真冬以外、季節に関係なく実を付けるが、盛りは夏の終わりから秋頃である。その時期を外すと実が小ぶりすぎたり、必要な量が確保できない。これだけあれば問題なさそうだ。
ソグリオの実は、四十粒で銀貨一枚と大銅貨二枚。
やはりFランクの報酬は少ない。俺はソロだからまだ良いが、四人パーティーなら一人当たり大銅貨三枚、食費で稼ぎが消えてしまう。だから低ランクの冒険者は他の採取依頼を同時に受けたり、魔物の素材や討伐証明を狙う。そうしなければ消耗品の補充すらままならなかった。
必要数を確保し、食料になりそうな獲物を探しながらいつもの川へ向かう。
到着すると、途中で射止めた二羽の鳥を捌く。
それも終わり、俺はせせらぎを眺めながら今日の練習について考えた。
実際に見たから《水禍球》はイメージしやすい。そう思って《水禍球》を練習しているが、一番高いのは『土魔法6』、次点は『風魔法5』だ。水、火、無属性は4である。あまり《水禍球》にこだわらず、他の属性も試した方が良いかもしれない。
無難に行くならランクの高い土か風だが――範囲魔法と言えば、やっぱり《火炎球》だよな。
ま、色々とやってみますか。
それからしばらくの間、練習に没頭する。
しかし、思うように発動しない。その素振りすら見られなかった。
結局、手応えを得られぬまま魔力は半分となり、練習を終わりにする。
川縁に腰掛け、水袋の将軍茶を口に含む。
ほどよい苦みを味わいながら、今日の練習を反芻した。
これだけやっても進展しないのは、どこかに根本的な問題があるのだろうか。
それとも単に、中級魔法の自力習得が難しすぎるのか。
魔法書を買えば手っ取り早いが、とにかく高額だ。生活費を稼ぐ、とか言ってる奴が出せる金額ではない。
しばらくは自力習得を続けよう。習得出来なくとも、練習は無駄にならないはず。
俺は水袋をしまい、肩から弓を降ろす。
矢を番えて待っていると、川上の茂みが揺れ、ひょこりと異形が顔を出した。
「またお前らか。そこら中にいるな」
現れたのは四体のゴブリン。
セレン初の実戦はこいつらか。転生後の初実戦もそうだっけ。絶対、人間より多いよな。
ゴブリンたちはおっかなびっくりだったが、俺が一人と分かった途端、口元を歪めて茂みから抜け出す。
最後は弓の練習で締めるとしよう。
速射で先頭の右目を射貫く。
いきなりの先制にゴブリンは混乱よりも激高、残る三体は金切り声を上げ、飛び掛かってきた。
それが近付くより早く、もう一体の眉間に矢が突き刺さる。
あ、外した。目を狙ったのに。矢、駄目にしたかな。
二体はもう目の前、数歩で攻撃範囲に入ってしまう。
それでも矢を番えるが――俺は『高速移動』を発動。
弓から甲犀の剣に持ち替え二体の首を切り裂くと、そのまま対岸を睨み付けた。
今度はなんだ?
「おい、驚いたぜ」
木立の陰から現れたのはスキンヘッドの大男。そして顔中傷だらけの男だった。
盗賊――街から離れれば、セレンも余所と変わらんか。
ま、少しはできそうだし、賞金出るかも。だったら嬉しいな。
皮算用を弾きつつ剣を構えるが、すぐにその手を下ろす。
続いて現れたのは平凡な顔立ちの軽戦士、そして短杖を携えた小柄な女だった。
冒険者? 俺の生活費、どうしてくれる。
内心の不満を燻らせる俺を、スキンヘッドは上から下まで眺めた。
そして突然、感嘆の声を上げる。
「こいつがそうか! 初めて見たぞ、ハーフリング!」
「懐かしいな、それ。冒険者の鉄板ネタか?」
マーカントにも言われたっけ。あの時は渋々、模擬戦をしたが、もし断っていたら彼らとの関係も途絶えていた。人生とは不思議なものだ。
そんな思い出に浸っていたが、ふと気付けば、スキンヘッドは不思議そうな顔をこちらへ向けていた。
この反応……。
「もしかしてお前、本気で言ってないか。違うからな」
「え、何が?」
「どう見ても人間だろうが。ハーフリングを見たこと――無いんだったな。それで、用件は何だ」
「いや、騒がしいから様子を見に来たんだが……」
スキンヘッドはゴブリンを一瞥、そして周囲を見渡す。
練習の音が聞こえたんだな。ゴブリンが現れたのもそれが原因か。もう少し、注意を払った方が良さそうだ。
「邪魔したみてえだな」
そう言い、スキンヘッドは森へ引き返していく。
戦いの跡と勘違いしたらしい。ただの練習なので知られても困らないが、訂正する理由もないだろう。
傷男、軽戦士はそれを追い、なぜか短杖の女だけはゴブリンや周囲を見回していた。
そして、ちらりと俺に視線を送ったと思えば、無言で仲間の後を追っていく。
知られても困らん……よな?
遠ざかる気配に一抹の不安を抱きつつ、俺は剣を収めた。
セレンは北から西にかけて広大な森が広がっており、一部は山岳などを経由して他領にも繋がっている。森を切り拓かないのは、街を統治するのが魔法使いだからだろう。森は素材の宝庫だ。
そんな宝庫でポーションの素材を確保しながら、森の街道を東に進む。
ゴブリンから魔石は見つからず、討伐証明の右耳だけを切り取っている。街によっては報酬が出るし、値が付かなくともランクアップに必要だった。
何度か馬車とすれ違い、街道上に冒険者も散見できるようになると、不意に森を抜ける。
緩やかな勾配の先に、セレンの街並みが広がっていた。
まだ陽は高い。混み合う前に戻れそうだ。
そう思って視線を戻したとき、思わず静止する。
今日は、よくよく出会う日だな。
驚いた顔をこちらに向けるのは、エルフィミアだった。
「何やってんの、あんた?」
「お互い様だろう。何やってんだ、お前」
エルフィミアは動きやすそうな布鎧に身を固め、腰に短杖を差している。しかも、ことごとく魔道具だった。
「魔法の練習に行くんだけど――何、あんたもそうなの?」
「返答は控えさせていただきます」
良いですよね、中級魔法の使い手は。でもどうせ、魔法書でしょ? 宮廷魔術師の娘ともなれば、魔道具も魔法書も買いたい放題ですもんね。僕はお金無いんで、食糧調達しつつ、自力で覚えようと必死にやってますよ、ええ。
と心で愚痴りつつ、悠然と構える。
「ま、いいけどね。じゃ」
言い捨てると、成金エルフもどき少女は森へ消えていく。
エルフの血が騒ぐのかね。
俺はその場で立ち止まり、森を眺める。
単純な能力はCランク相当の実力、しかも全身魔道具で固めている。レベルは10でさほど高くないが、この辺りの魔物なら一蹴できるだろう。
だが、一人では何が起きるか分からない。
父の跡を継ごうとしているのか、単純に強さを求めているのか。
何であれ、ちょっと危ない行動かもしれん。
忠告すべきだが――説得力無いよな。俺もやってるし。
◇◇◇◇
門番に冒険者証を提示し、セレンへ入った。
この小さなプレートは真鍮製で、名前、ランク、発行場所と発行日が刻印されている。賞罰や備考などの情報は冒険者ギルドが管理し、情報の更新は商業ギルドと同じく、早馬が用いられていた。この世界は地味に不便だ。
ギルドに到着すると、レベッカは別の冒険者の相手をしていた。
俺に気付き、「待ってろ」と目線で合図を寄こす。他の受付でも良いんですけど。
愚痴られそうなので、大人しく待機。
ようやく順番が回ってくると、レベッカに依頼達成の報告とゴブリンの討伐証明、右耳の入った袋を差し出した。
確認担当の職員へソグリオの実を渡し、なぜかレベッカは討伐証明の入った袋を引っくり返す。そして耳をカウンターに並べ出した。
何してんだろ。改めて見せられたら、ちょっとグロテスクなんだけど。命の尊さでも説くのかね。
レベッカは耳を見つめたまま、口を開く。
「テンコ君。あなたが倒したの?」
そして俺の目を覗き込む。
肯定すると、その目を少し細めた。
「新人冒険者だってゴブリンは倒せる。だけどね、それはパーティーを組んでいる場合なの。あなたは一人よね。それに無傷みたいだし――本当に倒した?」
「はあ」
そう言われてもね。実戦は二年のキャリアがあるし。
ちなみに昨日、一昨日の獲物は動物である。美味しゅうございました。
「Eランクに上がる条件は話したわよね。依頼をこなし、討伐証明を収めること。たまにね、買う人がいるのよ」
「ありそうな話ですね。倒した場所に案内しましょうか?」
「必要ないわ。こういうときはね、試すのよ。本当に倒せるか」
レベッカは挑戦的な目を向けてきた。
冒険者ギルドらしい対応だけど、誰がやるんだ?
もしやと思い『鑑定』してみれば、レベッカは魔法使いだった。
短剣スキルもあるので元冒険者だろう。実力はDランク相当。なるほどね、だから学院生が冒険者になるのを渋るのか。実戦を嫌というほど経験してるんだな。
ということは――レベッカが相手?
あ、勿体ないことを……。手の内、見てしまったぞ。折角の魔法使い戦なのに。
密かに後悔していると、入り口の扉がたたき壊すような勢いで開かれた。
何事かと視線を向ければ、見知った姿。
「戻ったぞ!」
やはり冒険者だったんだな。
スキンヘッドに続き、先ほどの連中も入ってくる。
レベッカはそれを見るなり、ぽんと手を叩いた。
「丁度良かった、手を貸してください。ゼレットさん」
「おう、貸すぞ!」
いや、話くらいは聞こうよ。
「新人との模擬戦、お願いできますか」
「任せろ――ってお前、さっきのハーフリングじゃねえか!」
「訂正するのも面倒になってきたな」
スキンヘッドこと、ゼレットが嬉しそうに歩み寄ってきた。
マーカントも大柄だが、こいつの方がでかいな。首が疲れそうだ。
「え――ゼレットさん、お知り合いですか?」
「おう、さっき知り合ったぞ。かなりやるぞ、こいつ。ゴブリンどもを一撃で仕留めてやがった。まあ、俺より弱いけどな! んで、どいつだ。新人ってのは?」
見回すゼレットに、俺は映っていない。
「もう良いですか?」
「ええと……はい」
すっかり意気消沈したレベッカに討伐証明の手続を頼み、カウンターから離れる。
ゼレットと傷男は事情が飲み込めないらしく、二人できょろきょろと新人を探していたが、見かねた軽戦士に食堂へ引っ張られていった。
そして、残った魔法使いの女が依頼の報告を始める。
漏れ聞こえる言葉に、彼らがあそこにいた理由が判明した。
採用したんだな、調査依頼。
これで新人も少しは助かるし、レベッカの気も休まる。ついでにちょっと力を抜いた方が良いと思う。
報告が終わったらしく、魔法使いの女が近付いてきた。
「イスミラよ。よろしくね」
「テンコだ。あんたがリーダーか?」
「まさか。引きずられていったハゲよ」
敬意もへったくれもない発言だった。大丈夫かね、このパーティー。
「たまにいるのよね、あなたみたいの」
「若い頃から実戦を重ねてきたからな」
「それ、いつの話よ」
「八歳。今は十歳」
「うわ、嫌になるわ。色々と」
イスミラはしかめっ面を浮かべる。
そして、不意に真顔に戻ると俺を見下ろした。
「誰にも言わないから」
「何の話だ?」
「将来の化け物と揉める馬鹿はいないでしょ。最低でも六属性の新人さん」
思わず、言葉を失う。
何か気になると思ってたら、それか。
確かに全部の攻撃魔法で試したが、あのわずかな時間でそれを見抜くとは。
知力は15と高いが、実力はほどほど。特別なスキルもない。
丸おっさんと同タイプか。正直、すっかり気を抜いてたな。その辺。
「はぐらかしても無駄そうだな」
「そうね。おまけに剣と弓も使えるんでしょ? どんな天才よ」
「ただの器用貧乏さ」
そこへレベッカが戻ってきて、俺を呼んだ。
報酬は契約どおり銀貨一枚と大銅貨二枚。ゴブリンの報奨金はなかった。矢を一本、駄目にしたので戦い損だが、ランク上げになるから良しとしよう。
報酬を受け取り、カウンターを離れる。
ちょっと早いが、夕食でも買って帰るとするか。肉だけじゃバランス悪いしな。
俺はイスミラに別れを告げ、扉に手を掛ける。
その瞬間だった。
怒声のような声がホールに響く。
「なんだよ、ハーフリング! お前が新人だったのか!」
舞い戻るゼレット。
それに軽戦士がしがみつき、「試さなくて良いんです、リーダー!」と必死に押しとどめようと奮闘していた。
そんな軽戦士に、ゼレットは諭すような目を向ける。
「お前な、人の話はちゃんと聞かないと駄目だぞ。さっきレベッカに頼まれたろ。もう忘れたのか?」
「私の話も聞いてください、忘れないでください!」
「また訳の分からんことを。しっかりしろよ。いいか、俺は頼まれたんだぞ。新人を試してくれって」
「ですから! それは――」
「もう終わったわ」
ちょっと頭痛のするやり取りに、イスミラが割って入る。
「もう試し終わったの。だから出番は無し」
「マジか! なんだよ、面白そうな奴だったのに」
ゼレットは肩を落とす。
イスミラはそれを放置し、疲れ切った顔の軽戦士の前に立った。
「あなたもいい加減覚えなさい。説明は簡潔に。これに複雑な話は無理だから」
「あれが複雑って……そうですよね、分かりました」
なんだか知らんが――関わるとろくでもないことになりそうだ。
さっさと帰ろう。
再び取っ手に手を伸ばそうとしたとき、ゼレットが顔を跳ね上げる。
「じゃあ、飯食おうぜ!」
延びてきたごつい手を躱す。
「流れがさっぱり読めん。何が、じゃあなんだ?」
「新人だろ、飯食おうぜ!」
「よし、分からん。誰か通訳してくれ」
「リーダーは先輩として助言するから、食事でもどうかって言ってます」
「はしょりすぎだろ……」
げんなりする俺に、いきなり両側から強烈な力が掛かる。
気付けば、ゼレットと傷男に囲まれていた。
「さ、食おうぜ!」
「食おうぜ!」
馬鹿力で押さえつけられ、俺は食堂へ引きずられていく。
「おい、待てって! こいつら、なんとかしてくれ!」
「無理よ。連呼しすぎて頭がいっぱいだから。何を食べるかで」
「どんだけ馬鹿なんだよ!」
抵抗も空しく、そのまま着席させられてしまう。
どうしてこうなった。
全力で走れば振り切れるが、厄介なのはこいつが格上の冒険者であること、それに悪意がまったくないことだ。
いや、待て。流れはともかく、奢ってくれるんだよな……。
一食分の食費が浮くのか。
ここは素直に奢ってもらい、こっそり離脱すれば良いんだ。十分もしないうちに、俺が同席してる理由も忘れそうだし。
注文を取りに来た店員に簡単な料理を頼む。
ゼレットと傷男は、わいわい騒ぎながら酒と肉を注文する。
すぐに酒や料理が運ばれると、ゼレットはエールを掲げた。
「新しい新人を歓迎して、乾杯!」
唱和が重なり、俺は軽く会釈を返す。
新しい新人か。ものすごく新しいんだろうな。
どうあれ、長居すると体調を崩しそうだ。手早く平らげて退散しよう。
そう考え食事に手を伸ばそうとした矢先、
「ところで――」
と、ゼレットが鋭い視線を俺へ向けてきた。
「お前、誰だ?」
「早えよ! もう忘れたのか!?」
「違います、名前を聞いてるんですよ」
すかさず軽戦士がフォローした。
駄目だ、ここにいると疲れる。
「もうさ、馬鹿なのか雑なのか、どっちかにしてくれよ」
「馬鹿で雑なのよ」
「そうですか……」
凝り固まった眉間の皺をもみほぐし、居住まいを正す。
「僕はテンコ。三日前に登録したばかりの新人だ」
「おう、よろしくなテンコ! 俺はゼレット、『万年満作』のリーダーだ」
「そうか、農家が歓喜しそうだな」
ちらりと皆を窺うと、軽戦士が顔を赤くしていた。
善し悪しはともかく、あっちの二人が浮かぶ名前じゃない。イスミラは絶対に口にしそうもないから、提案者は彼か。元農民かね。
「俺はバルデン、兄貴の弟分だ!」
「コーパスです。一応、軽戦士をやってます。あ、うちはDランクです」
傷男、軽戦士も名乗る。
そして魔法使いの女、イスミラは興味なさそうに口を開いた。
「さっき名乗ったわよね。あと、私はソロだから」
「メンバーじゃないのか?」
「違うわ。縁があって、たまに組んでるけど」
「もういいじゃないですか、イスミラさん。一緒にやりましょうよ、『万年満作』」
「絶対に嫌、そんな恥ずかしい名前! それに、こいつらの面倒で冒険者人生終えるなんてごめんよ!」
身も蓋もないやり取りに、ゼレットは破顔する。
「はははッ、賑やかな奴らだろ?」
「まあな。それにあんた、大物だよ。そこまでいくと」
「分かるか、新人! 兄貴は凄えんだぞ!」
「お前ら止めろって。照れるだろ」
ゼレットはスキンヘッドを真っ赤にして、照れ笑いを浮かべる。
ちなみに脳筋というより馬鹿筋のゼレットは、知力が4だった。ゴブリンの平均も4なので、もし彼らと会話できたらこんな世界が広がっているんだろう。あ、寒気する。
それと馬鹿弟のバルデンの知力は5。地味にゼレットを上回っていた。
自己紹介や依頼の感想、些細な雑談をしているうち、気付けばゼレットは衝立に、バルデンは観葉植物と語り出していた。コーパスは酔い潰れていたので、まともなイスミラにそっと別れを告げる。
冒険者ギルドを出ると、陽はすっかり落ちていた。
暗い石畳の上で、静かにため息をつく。
「なんだか、妙な一日だった……」