表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
てんこもり ~帰宅部、異世界を征く  作者: Podos
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/191

第41話 セレンへの旅路 ~宴会


 テスに案内され、解体小屋へ向かう。

『破邪の戦斧』はついてこようとしたが、村に危険は無さそうだし、大抵の状況なら俺とロランで対応できる。それに解体はほとんど終わっているだろうから、時間も掛からないはずだ。そういうわけで供はロランだけである。


 ミランダに急いでと言われたため、テスはやや早歩きだ。

 本音を言えば駆け出したいのだが、子供を急かすのも気が引けた。

 妙に楽しげなテスは、後ろで束ねた金色の髪を軽やかに揺らしている。猫がいたら飛び掛かりそうだ。

 しかし、見事なまでに母親似である。父から受け継いだのは髪の色くらいか。成長したら彼女も大変だろうな。

 黙って歩くのもなんなので、テスに話しかけた。


「村に入ってきたとき、モッ――羊といたな。あれはロニーが飼っているのか?」

「いえ、ニールさんのですよ。宿のお仕事は暇なことが多いので、お手伝いしてるんです」


 人口に比べ、羊が多い。皆で助け合って村を維持しているのだろう。


「ですから嬉しいんです。こんなにたくさんのお客さんが来たのは久しぶりですから」

「そうか。騒がしい連中だが、一晩よろしく頼む」

「お任せ下さい!」


 テスはくるりと回り、元気よく応えた。

 なるほど、だから楽しげなのか。彼女は家業に誇りや思い入れがあるようだ。確かに良い宿屋ではある。小綺麗だし、料理も美味い。だが南の街道から外れているため、客は定期的に訪問する行商人、稀に冒険者くらいではなかろうか。ウェルド方面への経由地にはなり得るが、少し東に向かえば整備された道があるので無理に通る必要もない。立地が悪すぎた。一応、貴重な村の酒場なので潰れたりはしないだろうが。


 その後も他愛もない雑談を交わしていると、テスは俺より二歳年下の八歳と分かった。

 年齢にしてはしっかりしているが、この世界、特に村の子供は幼いうちから働くことが多いため、子供らしく振る舞える期間は短い。道中の村でも遊んでいる様子はほとんど見かけなかった。

 そんなことを考えていると、中央の広場で十数人の村人が焚き火を組んだり、テーブルや椅子を並べているのが見えてきた。外で宴会するのか。皆が集まれるほど大きい建物が無いんだろうな。

 そこでも子供が数人、大人の指示を受けて走り回っていたが、誰もが笑顔で、働いているというより遊びの準備をしているようだった。

 活気溢れる広場から離れ、村の外れに近付いていく。


「待て!」


 俺たちは不意の制止に立ち止まった。

 何事かと見てみれば、少年が一人、脇道から現れる。

 村の子供にしては小綺麗な格好だ。態度もどことなく偉そうなので、有力者の息子だろうか。

 ぼそりとテスが呟いた。


「……嫌な奴が来た」


 少年は俺を睨みながら近付いてくる。

 はて、敵意を向けられる覚えはないんだが。


「あいつ……いっつも意地悪するんだ」


 言いながら、テスはちょっとだけ後じさった。

 あ、そういうことね。好きな子に意地悪するというあれだな。同じ年頃の俺がそばにいたので、付きまとう害虫にでも見えたのだろう。前世の友人らにこういう手合いはいなかったが、わざわざ呼び止めてどうするつもりか。嫌味の一つでも言うのかね。さっさと行きたいんだけど?

 少年はテスへ視線を動かし、にやりと笑った。


「嫁になれ!」

「やだッ!!」


 真っ向勝負の告白だった。

 意地悪と違うよな、これ。即行で振られてるけど。


「なんでだ!? 村長夫人だぞ!」


 テスの拒絶にもめげず、少年は食い下がる。

 あの村長の息子なのか。まるで似てないな。変にこじらせてないだけマシ、なのか?

 まあ、いいや。よく分からんが、早々にご退場願おう。


「済まないが、僕もテスも忙しいんだ。話はまた今度にしてくれ」

「なんだ、お前は!」

「宿の客だ」

「俺は村長の息子だ!」

「そうか。では失礼する」

「いや行くなよ!? 話は終わってないぞ!」


 ちっ、駄目か。


「僕は今度と言っただろう。またテスと話せるではないか。その時、じっくりと将来について語れば良い」

「しょ、将来――」


 突然、村長の息子はにやけた顔になり、テスをドン引きさせた。

 よし、今のうちだ。

 妄想の住人となった少年を置き去りにし、先へ急ぐ。

 しかし、今度はテスの足取りが重くなってしまう。どうやら勝手に将来とか言ったことで不機嫌になったようだ。

 もうね、場所を聞いて一人で行った方が絶対に早かったと思う。

 一晩とはいえ、居心地が悪いのは困るな。さっさと復活してもらうか。


「さっきの少年は、毎日のように告白してくるんじゃないか?」

「そうだけど……」

「僕は語れと言ったが、語り合えとは言っていない。いつも通り断れば良いんだ。何も変わらんぞ」

「あ、そっか。そうだよね!」


 テスは納得し、元気良く歩き出す。ちょろい。


「こんな坊ちゃんを学院へ……本当に正しいご判断なのか」


 後ろのロランが冷たい目で嘆いた。

 人聞きの悪い。俺はいたって普通だ。貴族の子供なんぞ、こんな奴らばかりに決まってる。



  ◇◇◇◇



 盛大な焚き火を前に俺が挨拶、村長の音頭で宴会が始まった。

 串に刺したゴウサスの肉が、焚き火で豪快に焼かれていく。

 次々と焼き上がった串焼きは村人たちに配られ、口にした子供らが歓声を上げ、続く大人たちも笑顔を浮かべる。

 それを眺めながら、俺も一口頬張った。

 軽く塩を振って焼いただけの料理。村人用だったのだが、あまりにも美味そうだったので一本もらっていた。素朴ながらゴウサスの旨味が凝縮している。これはこれで美味い。

 広場では串焼きのような簡単な調理だけを行い、少し手の込んだ料理はミランダが宿で作っていた。こちらは主賓席のテーブルにつく俺たち用だ。


 広場の一角には解体されたゴウサスが積み上げられ、村の女性たちが次々と串に刺していく。それに混ざってテスも作業していた。

 俺たちが解体小屋に到着すると、ゴウサスの解体はすでに終わっていた。

 宿へ運ぶ分の切り出してる真っ最中だったので、一人で駆けていっても間に合わなかったろう。その運搬をテスに任せ、俺はコツや苦労した点を聞きつつ、残りの作業を手伝った。


 そんな串焼きの第一陣が早くも撃破、第二陣が出征するも次々と(ほふ)られていく。

 宴会には百人以上が参加していた。ほぼ村人全員だと思う。

 ゴウサスの体重は二トン近い。積み上げられた肉はその半分弱。単純に考えて、一人がが五百グラム食べても千人以上は賄えるはずだ。最初は村人の勢いに足りるか心配になったが、他の料理も用意されているし、勢いは徐々に衰えている。大丈夫そうだ。むしろかなり残りそうなので、干し肉にして備蓄に回してもらおう。


「ゴウサスの蒸し焼き、アクルーのソース添えです」


 ロニーがミランダの料理を並べていく。

 お、これは何度か食べたな。ゴウサス料理の鉄板なのか?

 昔を懐かしみながら口に入れ、驚く。

 これは――料理長のより美味い。素材の鮮度や管理の問題はあるだろうが、明らかに味の深みが違う。貴族お抱えが村の料理人に負けるって……。

 横を見れば、マーカントはあっという間に食べ尽くしていた。もう少し味わえよ。

 皿を下げに来たロニーにミランダの料理を褒めると、どこか誇らしげに礼を言ってきた。

 ロニーによれば、元々、料理の担当は彼だったそうだ。しかし彼女を嫁に迎えると、瞬く間に腕を上げ、あっさり追い抜いてしまったらしい。

 そうなった経緯という(のろ)()話を聞き流し、俺はロニーのステータスを見ながら思案する。

 この夫妻に限らず、料理長も料理スキルを習得していなかった。

 実は解体も同じで、ここの猟師やネリオも解体スキルは覚えていない。理由は分からないが、はっきりしていることが一つ。

 それらは、俺の『成長力増強』の範疇外だった。

 スキルになければ恩恵も得られない。それは感覚で実感している。そんな技術を本来の意味で習得するためには、地道に経験を積むしかなかった。ゴウサスの解体に拘ったのもそれが理由である。


「どうかなさいましたか?」


 俺がじっと見ていたので、ロニーが問いかけてきた。


「いや大した事ではない。もしかして、ロニーは元冒険者か?」

「よくお分かりで。若い頃、少しの間だけですが。才能に恵まれず、すぐ諦めて実家へ戻りました」


 ロニーは『片手剣1』を習得していた。スキルの中でも戦闘技術は習得が難しい。それに村人が剣を振る機会は少ないので、従軍経験があるか冒険者の二択だった。


「身のこなしから、もしやと思ってな。体格だってマーカントとさほど変わらんぞ」

「そっかぁ?」


 マーカントが立ち上がり、ロニーと並ぶ。

 誤魔化していった言葉だが、そう思ったのも事実だ。うん、やはり似てるな。

 二人を見てダニルも感心する。


「本当ですね、気付きませんでした。体格だけでなく雰囲気も似ていますよ。まるで兄弟です」


 その言葉にマーカントとロニーは互いをしみじみ観察。

 おもむろに見つめ合うなり、


「弟よ!」

「兄さん!?」


 ひしっと抱き合った。

 何をしてるんだ、こいつらは。あとロニー、あんたの方が年上だよな?

 二人はいつの間にか生き別れていたらしく、唐突に茶番劇が始まった。他の者は囃し立て、また怒濤の展開に食い入りながら、それを肴にミランダの料理と酒を楽しむ。いきなりの即興劇に、隣の村長席は目を白黒させていた。あ、息子がいる。よし、見なかったことにしよう。

 とはいえ、息子の存在でテスを思い出す。

 探してみれば、今も広場中を走り回り、村人の酒を追加し、焼き上がった串焼きを配っている。

 いくら何でも働き過ぎじゃなかろうか。

 性分なのか本人は楽しそうだが、他の子供は串焼きに齧り付いたり遊びに興じている。働いている者は一人もいない。


「テス」


 呼びかけると、パッと振り向いて駆け寄ってきた。


「お呼びですか、アルター様!」

「働き詰めではないか? 羊の世話も朝からやっていたのだろう。今日はもう休め」

「でも、お仕事ですから」

「他の子供は働いてないぞ。こういう時は大人に任せ、子供は羽を伸ばすものだ」


 そばで聞いていたヴァレリーも頷く。


「アルター様のおっしゃる通りよ。村の子供が忙しいのは仕方ないわ。でも祭や祝い事は別。子供は楽しまないと」

「でも、手が足りなくなると困りますし……」

「それなら問題ない。マーカント、一肌脱いでこい!」

「へ――?」


 茶番に集中していたマーカントは、呆けた顔でこちらを向く。

 そしてテスを見るなり、らしからぬ速度で状況を察する。


「後はおじさんに任せておけッ!!」


 と宿に向かって駆け出していった。

 慌てたのはロニーだ。


「ちょっと兄さん!? それはまずいって! 兄さんだけどお客さんだから!」


 兄さんではないけどな。

 血相変えて追いかけていくロニーを見送り、空いた席にテスを座らせる。村長側からそわそわする気配を感じたが、面倒だから全力で流した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ