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第4話 アルター・レス・リードヴァルト


 また、ここか。

 目を開けると、俺は柔らかい光に包まれていた。

 うんざりしながら視線を動かしたが、小太りや駄犬は見当たらない。

 逃げたな。


 この短時間で二度も死ぬ人間は、そういないだろう。

 呆れすぎると麻痺するのか、怒りすら感じない。

 まあ、俺の感情はともかく、(ぜい)(にく)引っ張り回しと全身(てい)(もう)の刑は執行しないとな。

 けじめは大切である。


 背中の感触から、どうやら寝ているらしい。

 俺は起き上がろうとし、静止した。

 周りに何かある。

 小太りの世界には何もなかったはず。


 目を凝らしたが、どうにもはっきりしない。

 近付いて確認しようにも、身体そのものがまともに動かなかった。


 両足の感触はある。

 身体が治っているなら、また複製に――いや、小太りは魔法のある世界と言っていた。

 もしかして、死んでない?

 俺は誰かに助けられたのか?


 目をこすろうと手を動かし、また固まってしまう。

 無言で指先や手の平を観察し、指を伸ばしたり立てたりした。

 そして結論に至る。

 これは赤ん坊の指だ。


 いやいや、俺の指だよね?

 やけに可愛らしい感じに仕上がってるんだけど?

 本気の本気でどうなってんの?


 俺がぐーぱーしていると、物音が聞こえてきた。

 巨大な影が接近してくる。

 輪郭は女のようだが――俺が赤ん坊だとしたら、母親?

 生まれた記憶ないんだけど。



 女は何か話しかけてきたが、まるで聞き取れなかった。

 聞いたこともない言語である。

 ただなんとなく、声の調子から俺を気にしてるのは分かった。


 さっぱり状況は理解できないが、どうやら命は助かったらしい。

 年齢と引き換えに。


 ひとまずほっとしていると、突然、明瞭な声が脳裏に響き渡る。


『あーあー、聞こえますか? そろそろ大丈夫なんだけどなぁ。こちらは神様です、聞こえますかー?』


 この声――。


『お、聞こえるみたいですね。ええと……まあ、あれです。ごめんなさい。ちょぉっとだけ、手違いがありまして。変なところへ送ってしまいました、てへ』


 嘘つけ! 駄犬にまとわりつかれて「あ」って言ってたろ!

 こっち来い、殴ってやるから!


『はっはっは、元気そうで何よりです。さて、あんまり干渉すると苦情が来ますので、話しかけるのはこれが最初で最後です。そこはさっきと同じ世界で、安全な場所に転生させました。今度こそ明るく楽しく過ごしてください。それと、念じたらステータスが開きますので、能力やスキルの確認をお忘れなく。では、良い生涯を』


 それを最後に声は途切れた。

 言い足りないことは山ほどあるが、本当に一段落付いたらしい。


 安心しつつも、すぐに不安が浮かぶ。

 あいつのやること、どっかにミスがありそうだ。


 念じたらステータスが開くと言っていたな。

 さっきの虫人間にやっていた、あれか。


 自分に意識を集中すると、少し感触は異なったが無事にステータスが開く。



名前  :アルター・レス・リードヴァルト

種族  :人間

レベル :1

体力  :24/24

魔力  :15/15

筋力  :1

知力  :13

器用  :1

耐久  :1+2

敏捷  :1+2

魅力  :12


【スキル】

  成長力増強、成長値強化、ステータス偽装、精神耐性3、言語習熟、鑑定1

【魔法】

  無し

【称号】

  転生者、帰宅部のエース(耐久+2、敏捷+2)、リードヴァルト男爵家の次男



 やたら仰々しい名前だが――なるほど、男爵家の次男坊か。

 せめてもの罪滅ぼしかね。

 安全なところと言っていたが、裏を返せば、貴族の息子でないと安全じゃないのかもしれない。


 そう考えたとき、不意に身震いが襲う。

 俺にとっては、ほんの少し前。

 喰い殺されている。


 安心した所為なのか震えは激しさを増し、全身が揺れてしまう。

 異変に気付き、女がベッドを覗き込んできた。

 そして何か話しながら俺の頬を触り、頭を撫で始める。

 どこかぎこちないそれに、緊張が和らいでいく。


 少なくとも、ここは安全。

 あんなのでも神の保証付き。大丈夫だ。


 自分に言い聞かせていると、いつの間にか女の指先を握っていた。

 それを振りほどかず、女は俺の頭を撫で続けている。


 しばらくして、ようやく緊張が(ほぐ)れてきた。

 どうにか落ち着き、俺は女の指を離す。

 女はまだ心配そうに覗き込んできたが、笑顔を向けると安心したのか離れていった。


 俺はステータスへ視線を戻す。



【成長力増強】

  あらゆる能力の獲得・習熟に大きな補正が掛かる。

  保有者は一人しか存在しない。


【成長値強化】

  レベルアップによる体力・魔力の上昇で、高い値を得やすい。

  保有者は一人しか存在しない。


【ステータス偽装】

  ステータスの表記を偽装できる。

  稀少なスキルで保有者は極めて少ない。

  看破には、『鑑定5』以上が必要。


【精神耐性3】

  精神への負荷、攻撃に抵抗する。


【言語習熟】

  最初に接触した言語の学習が早くなり、より使いこなせる。

  また同じ系譜の言語であれば、理解も早くなる。


【鑑定1】

  鑑定系の中位スキル。

  名称やステータス、特徴を知ることができる。

  対象の能力・魔法・スキル・称号、またそれらの詳細は、鑑定に失敗することがある。

  自分自身の鑑定は、特例を除き確実に鑑定できる。



 成長力を補正する二つが、小太りの言っていたチートか。

 他はどれも名称通りの効果だ。


 試しに女を『鑑定』してみると、名前はメレディだった。

 称号には何もないので、母親ではないらしい。

 能力は6から10とまばらで、これが一般女性の平均のようだ。

 ついでに洋服も『鑑定』したところ、メイド服と表示された。


「メレディ」


 扉が開き、別の女が入ってくる。

 その後ろには、大きな男と小柄な影。


 メレディと呼ばれた女は俺のそばから立ち上がり、彼らと話し出した。

 すると女の方が俺に近寄るなり、ベッドから抱きかかえる。

 メレディをでかいと思ったが、この女と男の方が遥かに大きい。


 そして女は名を呼びながら、俺を左右に揺する。

 あやしているようなので笑顔で応えつつ、『鑑定』を発動した。


 女の名はヘンリエッテ。

 称号によれば子爵家の次女であり、俺の母親だった。

 そして一番大きい男が父親のアーバンで、見上げている小柄なのは兄のラキウスだった。


 これで家族全員だろうか。

 鑑定では家族構成までは表示されない。


 そんなことを考えていると、母は俺を父に託す。

 そしていきなり身を(よじ)り、胸を露わにした。

 何してんですか、母上!?

 まさか――!


 やっぱり食事だった。

 両親とメイドが注視する中、おなか一杯になるまで母乳を頂く。

 予想外に甘くて美味しゅうございました。


 そんな羞恥プレイに(さら)されている間、兄は気恥ずかしかったようで終始、俯いていた。

 恥ずかしいのはこっちである。中身は高校生です。


 それからは父に天高く抱き上げられ、兄に突っつかれながら家族の団らんを過ごす。

 しばらくして疲れたと思ったのか、俺をベッドに戻して三人は退室していった。

 一人残されたメレディがブランケットを掛け直し、何か話しかけてベッドを離れる。

 退室しないところ、俺を見守るのが仕事らしい。


 解放され、俺はベッドの中で伸びをした。

 小太りの言葉は正しかった。

 少なくとも、今は安全だ。


 まあ、そうだとしても――酷い人生だが。

 前世から今に至るまでの軌跡を、走馬灯のように思い返す。


 そうしているうち本当に疲れていたようで、次第に意識がぼやけてきた。

 ふと甘い香りを嗅ぎ取り、窓際へ視線を向ける。



名称  :ミルリム草

特徴  :草丈30cmほどの多年草。開花時期は春頃。

     長く伸びた茎の先端に、連なるようにして明るい青い花を咲かせる。

特性  :不明



 陽光を受け、青い花が輝いている。

 そうか、今は春なんだな。


 そんなことを思いながら、俺はゆっくり目蓋を閉じた。





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― 新着の感想 ―
[一言] この神の世界なら信仰心を削ぎ落としてやりたいところだが( ;`Д´)違う世界なんだよなぁ。悔しい!何とか仕返ししたいところ
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