第27話 八歳児の日々 ~騒動を終えて
屋敷へ戻った俺は、念のためいくつかの草王の酒薬を作成、それをロランに託し休息を取った。
これまでの無理が祟ったらしく、目覚めたのは翌日の昼間、ほぼ丸一日経過していた。
それでも疲労は消えていない。重い身体を起こし、疲労回復添加のヒーリングポーションを飲み干す。ちょっと飽きてきた。
鎧戸を開けば、秋を匂わす涼しい風が街の喧騒を運んでくる。
ぼんやりと、それに耳を傾けた。
寝ている間、ロランが駆け込んでこなかったので、ヴァレリーは完治したと考えて良さそうだ。後はゆっくり静養し、失った体力や疲労の回復に努めてもらおう。
ふと散らかった室内に目を向ける。
よく完成にこぎつけたものだと、我ながら感心してしまう。綱渡りを全力疾走で渡りきった気分だ。実際、途中から無茶苦茶だった気もする。ポーションで無理矢理覚醒させ、ろくに眠らないまま作業を続けた。剣術だったら眠らずに延々と死闘を繰り広げるような状況だろうか。うん、死ぬな。調合だからたまに意識を失っても平気だが、戦場で同じことをしたら即座に殺される。
軽く身体を動かす。
疲労を除けば、特に支障は無さそうだ。
俺は身なりを整えると、父の執務室へ向かった。
灰吐病の解決は領主の命令でもある。本来なら終息した昨日のうちに報告しなければならない。
扉をノックし、返事を待つ。
許可を得て入室すると、部屋には父一人だった。
「もう起きたのか。しばらく休んでいても良いのだぞ」
「いえ、充分休ませて頂きました。それと報告が遅れてしまい申し訳ありません」
「構わぬ。ロランからあらましを聞いておる。要領を得ない部分も多かったがな」
では、と報告を始める。
トゥレンブルキューブとの遭遇に始まり、ヴァレリーが感染した理由について私見を述べた。治療薬の製法発見や素材集めに触れながら、俺は悩んでいた。いくら何でも「治療薬を作りました」じゃ済まないだろう。いい加減、限界かもしれない。
俺は言葉を切った。
「父上に謝らなければならないことがございます」
特に反応せず、父は目で先を促した。
「僕はかなり特殊なスキルを持っています。調べたかぎり、保有者は歴史上存在しません。まず、これをご覧下さい」
どうしても見せられない転生者と、それに関連する帰宅部のエースの称号を除き、ステータスを偽装せずに開示した。
父は無言で俺のステータスを見やる。
時間にすれば数分だったろう。だが、俺には何倍、何十倍にも感じた。
今回の一件で『調合5』を習得、『鑑定』は4まで上昇した。ただでさえ常識外れだったのに、さらに拍車が掛かっている。
ステータスに目を向けたまま、ようやく父が口を開いた。
「アルター。お前が普段、何をしているかすべて把握しているわけではない。だが錬金術師の真似事はしていなかったはずだ。『調合』はいつ習得した?」
「一週間ほど前でしょうか。素材の目処が付き、出来ることはないかと錬金器具を買ってからです」
「それから5までランクを上げたのか。『成長力増強』というスキルの力か?」
「はい。あ、ですが『片手剣』などの戦闘技術で同じような真似は出来かねます」
ここ数日、俺がやっていたことを話すと、父はため息をつきながら首を振った。
「なるほど、戦闘でそれは無謀だ。生き残れん。だとしても『成長力増強』は破格だな。お前の年齢では有り得ない成長だ」
「自覚しております。幼い頃、兄上のステータスを知ったとき、自分がどれほど異常な速度で成長しているか気付きました」
「お前の幼い頃はいつの話だ。まだ八歳だぞ」
父は苦笑を浮かべ、再びステータスに視線を戻す。
「『成長力増強』だけでなく、『鑑定』に『ステータス偽装』、『多重詠唱』、『高速移動』か。『鑑定』と『ステータス偽装』は有名だが、それ以外で知られているのは『多重詠唱』くらいだな。尤も、それとて七百年以上も昔の大英雄だが」
英雄ラプナス。大魔法使いにして、歴史上でも数少ない『多重詠唱』の保有者だ。彼を除けば神話並みに古い時代の話ばかりとなってしまい、実在の人物かも定かでない。
それと『ステータス偽装』は、『鑑定』より保有者がいると言われている。なぜか彼らは世に出てこないが。
「いずれにせよ、いかなる英雄でもこれほど節操無しに稀少スキルを掻き集めておらんだろう。もし『ステータス偽装』が無ければ大事では済まなかった。それを見越した神々からの授かり物かもしれんな」
「仰るとおりです」
うん、神々じゃなくて神だった。小太りの。
そんな心情はおくびにも出さず、俺は仰々しく頷いた。
「このことは他言するでないぞ。母はもちろん、今はラキウスにも話してはならん。なれどお前が治療薬を持ち込んだ所為で、疑念を抱く者もおるだろう。『調合』スキルはお前の判断に任せる。それ以外は常に偽装しておけ」
「承知しました。ですが、今回の一件で一部の者に『鑑定』を打ち明けねばなりませんでした。話した相手はロランと『破邪の戦斧』です」
「ロランは良い。『破邪の戦斧』も信用できるのだな?」
「はい。問題ないかと」
父は一つ頷くと、椅子にもたれかかった。
そして目をつむり、口を閉ざす。
事の大きさを処理しているのかもしれない。
しばらくしてゆっくりと目蓋を開き、まっすぐ俺を見据えた。
「アルター、お前はどうしたい。それほどの才があれば、皇帝陛下にお仕えすることも容易いぞ。叙爵も夢ではない」
「すでにお答えしております。父上と兄上、そして母上を支えていくのが僕の役目です」
「そうか。はは、ラキウスも難儀よの。お前ほどの者を従えねばならぬとは」
「とても御しやすい弟と自認しております」
「うん、それはないな」
間髪入れず否定された。父の評価がおかしい。
無事に報告を終えると、『破邪の戦斧』の護衛任務達成、そしてヴァレリーの快気祝いを兼ねて彼らを招待したいとお願いする。父はそれを快諾、期日や段取りもすべて任せてくれた。
◇◇◇◇
自室に戻るため廊下を歩いていると、奥からロランが姿を現した。
俺に用がない限りロランは二階に上がらない。ヴァレリーに何かあったのかと心配したが、足取りは気楽で表情も特に変わった様子はない。悪い報告では無さそうだな。
俺はロランを招き入れ、椅子に腰掛けた。
ロランは改めて部屋の散らかり具合に首を振った後、座る場所を確保するため、敷いてあった布ごと将軍草をずざざざっと足でどかした。お前、不敬にもほどがあるぞ。手を使え。
「それで、偉大なる将軍様を蹴散らしてまで何用だ」
「そんな御方は露程も存じ上げませんが、報告に参りました」
ヴァレリーは快方に向かっていた。
ただ、体力の著しい低下や身体の中にどれほど損傷があるのか不明のため、ヒーリングポーションなどを適度に服用しながら、安静にしているという。回復魔法やヒーリングポーションで一気に治してしまえば良さそうだが、外傷ならともかく、骨や内臓の損傷を無理矢理治すと障害が残ることがあるそうだ。その判断はパヴェルの領分なので、素人が口出しするのは止めておこう。
そんな報告を受けながら、俺は気になっていたことをロランに問い質した。
あの時はそれどころではなかったので切り上げたが、どうしても確認しなければならない。
俺の問いにロランはやや驚いたように目を開いた。
「『鑑定』について、ですか?」
「僕は『鑑定』が稀少であり、公表すれば厄介なスキルだと聞いていた。しかしケセレス殿は鑑定魔法が使えた。考えてみれば当然だ。知られている『鑑定』保有者は俺を含めて四人、『基礎鑑定』とてそう多くはあるまい。であれば、世の中は未知だらけになってしまう。それに魔道具店はどうする? 仕入れるたび魔道具に認められなければ、名称すら分からないではないか」
「ああ……そりゃそうですね。坊ちゃんは無駄に大人びてますから、そういう常識は知っているもんだと思ってましたよ」
「常識?」
「なに、簡単な話です。鑑定の能力は世の中に三つあります。鑑定魔法、鑑定の魔道具、そして鑑定スキルです」
ロランの言葉通り、驚くほど簡単な話であった。
鑑定魔法は習得が困難でありながら、消費魔力が膨大だった。ケセレスは気軽に発動していたが、彼ほどの実力者だからできる芸当らしい。鑑定の魔道具には消費と永続の二種があり、永続は稀少なうえ途轍もなく高額だった。そもそも市場に流れない。
しかも鑑定魔法と魔道具の鑑定する力は『基礎鑑定』と同等程度で、魔法発動阻害の魔法や魔道具の影響まで受けてしまう。
それに対し、俺の『鑑定』は阻害されず、『基礎鑑定』よりも成功率が高い。さらに魔力の消費もなく無制限に発動でき、発動時に感知もされなかった。俺自身がやっていたように、日常会話の中で堂々と相手を「見る」ことができる。
知ってみれば杞憂に終わった懸念もあるが、そうでないのもまた多かった。
「結局、僕は『鑑定』を隠し続けた方が良いのだな」
「当然でしょう。ま、帝都でちやほやされながら、陰謀にどっぷり浸かりたいなら構いませんが」
そんな人生、厭すぎる。誰が望むか。
ともかく、『鑑定』の正確な現状を知ることができた。状況に変化は無くとも、何に注意を払い、何を気にしなくて良いのか分かっただけでも気は楽になる。
それと、鑑定を生業とする鑑定師と呼ばれる者たちがいるそうだ。彼らは『基礎鑑定』のスキル保有者か鑑定魔法を習得しており、リードヴァルトの冒険者ギルドにも一人、鑑定師が専属契約しているという。店で販売される魔道具は、彼ら鑑定師及び鑑定師ギルドの証明書が添付されている場合が多く、さすがに仕入れるたび鑑定し直すことはしないそうだ。
父も当然、鑑定師を知っている。だから念を押して偽装するよう忠告したのだろう。
それからロランに『破邪の戦斧』を招待する件も相談すると、庭で立食形式のパーティーを開いてはどうかと提案してきた。
良い案だと思った。屋敷の中でかしこまって食事するより、好き勝手に動き回れる庭先の方が緊張せずに済む。病み上がりのヴァレリーには椅子とテーブルを用意して、いや、それなら多めに用意しておこう。好き勝手に飲み食いし、好きな時に好きなところへ座る。もはや立食ではないが、彼らの性に合うはずだ。
俺の考えを伝えると、ロランも賛同してくれた。
早速、家令のグレアムに伝え、日にちが決まり次第、手配するように頼んでおいた。その時、どのような食事を提供するか尋ねられたが、俺は料理経験が皆無。とりあえず「洒落た料理ではなく、簡単に食べられて量も多めに」とだけ注文しておいた。
◇◇◇◇
ヴァレリーの見舞いと招待の期日を決めるため、俺はパヴェルの病院へ赴いた。
ヴァレリーは寝ており、付き添いはマーカント一人。彼に招待の件を伝え、「明日も来るから、期日や要望があればその時に」と退室した。
話が終わるのを見計らっていたのか、俺が廊下に出るとパヴェルが顔を出した。
挨拶もそこそこに治療薬の話になった。どうもパヴェルは治療薬の出所が気になっているようだ。俺は真実を話すことにした。ヴァレリーへの対応で人柄はだいぶ分かった。彼なら信用できる。それに灰吐病が無くなったわけではない。別のところで誰かが感染している可能性も有り得る。彼には隠すべきではないだろう。
口止めしつつ告白したが、やはりパヴェルは懐疑的だった。
確実に治療薬を作成できるのは俺だけ。信じてくれなくてもそれを知っていてもらえれば充分だ。話を打ち切り、入院など諸経費について訊ねると、すでにロラン経由で父から支払われたそうだ。「ですが……」とパヴェルは前置きし、本当に治療薬を作れるのであれば、ポーションを納品してもらえないか、と打診してきた。
今回の一件で金の無さを痛感していたので有り難いが、錬金術師たちの仕事を奪うわけにはいかない。不定期で良いなら、と俺は承諾した。
そして立食パーティーについて伝えたところ、「時間の都合がつけば」と微妙な返答をもらってしまう。遠回しの断りではなかったようで、医者という立場から直前まで予定は分からないそうだ。
最後に協力してくれた錬金術師たちの住所を聞き、俺は病院を後にした。
まだ陽は高い。
どうせなら挨拶回りをしてしまおうと、俺はミルティーヴァ神殿を訪れた。
しばらく待ってからケセレスに会うことは出来たが、協力したのはパヴェルから頼まれたためで、俺からの謝意は過分だと固辞された。仕方なく、魔法について少し雑談を交わし、それとなく立食パーティーにも誘ってみたが、そちらも断られた。ただ明確な拒否というよりは、忙しいのと「大してお役に立てなかったので」と遠慮したためだった。
彼がいなかったら治療薬を飲ますのは難しかった。ヴァレリーに負担を強いたか、下手すれば治療もままならなかっただろう。充分な貢献なのだが、本人がそう言うなら仕方あるまい。
別れの挨拶を交わし廊下へ出ると、重傷の冒険者が運び込まれてきた。
壁の外は魔物が跋扈する世界。
パヴェルやケセレスが忙しいのは、それだけ危険に満ちている証明でもある。
改めて気を引き締め、次なる目的地へ向かった。
家主は留守だった。
困って辺りを見渡せば、丁度、目当ての人物が角を曲がって姿を現した。そして俺を見るなりすっ飛んできて、ほとんどジャンプしながら大地にひれ伏す。
なんか、どんどん過剰になってるな。
ネリオを立たせ、なぜか一緒にひれ伏している子供たちを解散させる。
ネリオの家に入ると、今回の働きに対する謝意、そして報酬を提示しなかったことを謝罪した。恐縮していたが、あれは完全に失態だ。俺の杜撰な頼みにも拘らず、ネリオたちは危険な森へ何度も赴き、素材を集めてくれた。彼らがいなければ草王の酒薬は完成しなかったかもしれない。最大の功労者は間違いなく狩人たちだ。
俺は手持ちから十数枚の金貨と、調合の鍛錬時に量産したヒーリングポーションから、標準品質で役に立ちそうな付随効果付きを10本手渡した。意外なことに、金貨よりもポーションに感激してくれた。適当に作っていた手前、申し訳ない気持ちになったが、ネリオに言わせれば付随無しでも金貨1枚、有れば金貨2枚ほどもする。さらに流通する数に限界があるため、冒険者と競合してしまい、まとまった数量は手に入らないそうだ。協力してくれた狩人たちに分配すると張り切っていた。
ちなみに招待したが、即行で断られた。
パヴェルの紹介してくれた錬金術師は二人。
最初に訪れた錬金術師は、やや高慢な人物で良い印象を抱けなかった。報酬もロランから支払われているそうなので早々に辞する。
もう一人の錬金術師はツェザンといった。彼は草王の酒薬の出所が気になっているようで、作成者を教えて欲しいと懇願してきた。よく知らない人物に話すわけにはいかない。「出所は言えないが製法なら分かる。後で届けさせよう」と伝えると、小躍りせんばかりに喜んだ。良い人かもしれないが、今ひとつ信用できない。付き合いはほどほどにしよう。
そして俺自身が頼んだ錬金術師シモンはと言うと、大師匠越えを果たせず、しかもどこからか治療薬が登場し、すっかり気落ちしていた。
彼にも製法を教えることにした。作れる者は複数いた方が良い。
シモンは喜びながらも、複雑な表情を浮かべた。どうやら自分の力で到達したかったようだ。その意気込みには感心する。実力はまだまだでも立派な錬金術師だ。しかし、だからこそ自力で到達するのは無理だったと思う。あれは錬金術師の常識外。むしろ俺のような素人の方が可能性が高い。
シモンは信用できそうだが、俺の自作とばらすのは止めておこう。話す理由がないし、追い打ちになってしまいそうだ。
治療薬の話は切り上げ、折角の本職なので錬金溶液について質問してみた。
魔法の名前は溶液生成。やはり師匠から学ぶらしい。ただ魔法自体は公然の秘密であり、スクロールまで流通しているという。駄目元で「その魔法を教えてくれないか」と頼んでみたら、簡単に承諾してくれた。
製法のお礼らしいが、魔法自体はそれほど重要ではないそうだ。どうやら錬金術師の師弟というのは、知識の伝授、道具や施設の授受に重きが置かれているらしい。そしてやっぱりシモンにも参加を断られた。
改めて訪問すると約束し、シモンに別れを告げる。
次の目的地に向かう間、少し考え込んでしまった。
どうも俺はそれらしく振る舞っているだけで、貴族としての意識が薄すぎるようだ。パーティーに参加を表明してくれたのはパヴェルのみ、ケセレスも状況次第では参加してくれただろう。この二人は日頃から上流階級と接している者たちで、断ってきたのは普段接していない者ばかりだった。ネリオの態度を見ても、身分の格差というのは俺が感じている以上に重いのかもしれない。
あまり俺が軽んじられると父や兄に迷惑が掛かってしまうが、かといってどのような態度や反応が正解なのか今ひとつ掴めない。まあ後継者じゃないし、そこまでしゃちほこばる必要もないか。俺なりのさじ加減を見つけるとしよう。
そんなことを考えていると冒険者ギルドに到着した。
ギルドがあれほど協力してくれたのは、俺の身分だけではない。未知の病に対する警戒、それと『破邪の戦斧』の貢献度だった。もし俺が動いていなくとも、ヘリット支部長は色々と便宜を図ってマーカントたちに協力していたはずだ。
ヘリット支部長や手伝ってくれたマテオや職員に謝意を表し、それとなく特別手当という名の報酬を伝えると、「業務の一環ですから」と受け取りを拒否された。それは少しブラックな気がしたので、個人的なお礼と言い張り、マテオらにポーションを一本ずつ手渡す。そこで弾が尽きたため、ギルドには改めてポーションを寄付すると伝えたところ、ヘリット支部長はそれならと承諾してくれた。
冒険者が怪我をしたとき、真っ先に駆け込むのはギルドだ。特に低ランクほどその確率は高いはず。すぐに治療ができれば、わずかでもリードヴァルトの治安向上に繋がる。俺にも悪い話でない。
それと今回の騒動はすでに『破邪の戦斧』が報告していたので、治療薬の製法を知っている錬金術師はシモンとツェザンの二人だと補足しておいた。
もう一人、治療薬作成に重要な働きをした者がいる。
マジュマグを素材へと昇華してくれた鍛冶師のエギルだ。
陰の功労者であり、甲犀の剣とスティレットの作者でもある。何かと名前を聞く機会はあったが、会いに行くのは初めてだ。
グロウエン武具店のデリンから鍛冶場の場所を聞き出すと、どうやら忙しいらしく訪問しても会えるか分からないと言われてしまった。
ともかく行ってみたところ、鍛冶場はちょっとした戦場のような雰囲気に包まれていた。俺の身分もあるのでエギルは顔こそ出してくれたが、さっさと帰れ、という苛立ちが丸わかりだった。礼もそこそこに鍛冶場を辞す。
タイミングが悪かったのは仕方ないにしても、これほど感情が剥き出しではトラブルも多いだろう。デリンが仲介に入っているのも頷ける。
ちなみにエギルは、五十代半ばほどの人間だった。正直、あれと仕事をしているから同族だと思い込んでいた。
さて、最後は微妙な感じになってしまったが、粗方挨拶も終わった。
残りは仕上げ。
あれに会いに行くため、俺は酒屋で強い酒を数本買い込んだ。




