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第172話 喫緊の雑務




 トルプス岩塩坑で崩落事故が起きてから、一ヶ月ほどが過ぎた。

 以前は製塩場から湯気が沸き立ち、商業区域は多数の商人や護衛、酒場に繰り出す鉱夫で溢れていたが、奴隷の暴動とゾプトムが(おおやけ)になったことで、火が消えたように活気がなくなっている。

 それでも奴隷たちは当然、すべての鉱夫が逃げ出したわけではない。

 どういう話し合いが行われたのか知る(よし)もないが、彼らは岩塩坑に潜っては岩や土砂を内壁の一角に積み上げ、別の班がラスマノ砦の外に運び出していた。


 そんな光景を遠くから眺めたのは数日前、今の俺は地下室に引き籠もっていた。

 場所はトルプス岩塩坑を望む丘陵地帯、目的はゾプトムの回収である。

 手が回らず後回しにしていたが、やっと行動に移せた。

 とはいえ、すべてを撤去するのは時間が掛かるため、坑道近くを重点的に回収するつもりだ。


 小さな通気口から外の明かりが差し込み、メロックの掘ったゾプトム回収用の通路を照らし出している。

 俺は地下室を作っただけで、後はメロック任せだった。

 そもそも、『鑑定』でもゾプトムを判別するのは難しいし、俺が通れるだけの通路を作っていたら、時間も魔力も足りない。その点、最下級のメロックは消費が少なく、精霊魔法の使役距離に限界もなかった。しかもメロックはゾプトムも見分けられるので、回収部隊として適役だった。


 地下の暗がりに座り、報告が届くのを待つ。

 メロックへの指示はゾプトムの発見と運搬で、人間や別の生き物との接触、異変を感じ取った場合も報告するよう伝えてある。最初は自慢げにミミズを持ってきて困ってしまったが、もう少し細かく指示したことで不要な報告は来なくなった。

 ちなみに、精霊召喚は集中しなくとも維持できるため、メロックが効率的になるほど暇な時間が増えてしまう。魔力を召喚の延長に使うので魔法の鍛錬はできないし、研究資料も持ち込んでいない。仕方ないので身体を鍛え、考え事などをして時間を潰した。

 そんなメロックの動きを遠くに感じながら、ぼんやり思いを巡らす。


 クィードたちが合流した後、村の好意で様々な品が贈られてきた。

 こちらから出せる物がないので申し訳なかったが、おかげで日用品がだいぶ揃った。特にナイフなどは必要になるたび貸していたので、個人の道具が行き渡ったのは非常にありがたい。

 それと、ガーネレスだ。

 ジセロ復興に向け、彼らとの関係改善は必須である。

 クィードに頼まれたので俺も同行し、村の結論を伝えた。

 ガーネレスは本当に感情の起伏が少ないようで、何を言われても女王は大きな反応を示さず、協力関係を申し出ると簡潔に了承の意思だけ伝えてきた。

 では、感情がまったくないかと言えば、そうでもないらしい。

 ゴブリンなどの死骸と魔石の交換について説明したところ、いきなり兵隊や労働を動員し、数十個の魔石を俺に押しつけてきた。先払いかと思ったら、女王なりの感謝だった。

 村との交換に必要なので、気持ちとして安めの魔石を数個受け取り、残りは返しておいた。

 それとこの魔石の()(どころ)だが、湖の底から拾ってきたそうだ。

 さすがのガーネレスも魔石までは食べず、他の廃棄物と一緒に湖へ捨てているという。


 その後も取り留めのない思考に耽っていると、外で気配が動くのを感じた。

 通気口に顔を近付け、問いかける。


「予定の日か?」

「はい」


 くぐもったサーハスの声が地下室に響いてきた。

 もう三日経ったのか。地下にいると感覚が鈍るな。

 俺は運搬中のメロック以外は精霊界への帰還を指示し、全員が運び終えるのを待ってから、埃っぽい身体を《清水(ピュアウォーター)》と《水流操作(オペレイトウォーター)》で洗った。

 そして入口を《軟土操作(オペレイトソイル)》で開放すると、フィルとサーハス、クィードが待っていた。


「地下室を片付ける。もう少し待ってくれ」


 石壁を触媒にして《軟土操作(オペレイトソイル)》を発動、地下室を埋め立てた後、仕上げに芝生を移動させて地表部分を偽装する。メロックの掘った穴は放置で構わない。モグラの穴と変わらないし、補強されていないのですぐ崩れるはずだ。一部が残ったとしても、ここまで辿り着く可能性は皆無に等しい。

 後処理を終えて立ち上がると、俺はクィードに皮袋を差し出した。


「これを頼む」


 クィードは、それを緊張気味に受け取った。

 中身は拳ほどの量のゾプトムである。これでも坑道近くを虱潰しに調査し、回収している。しばらく岩塩に混ざることはないだろう。


「袋は二重になっているから、振り回さないかぎり零れる心配はない。迷宮に戻ったらメイに渡してくれ」

「承知しました」


 身体から離すように袋を持ちつつ、クィードは頷いた。

 迷宮まで持っていけば、あとはメイが管理してくれる。たとえゾプトムがメイの魔力で肥大化しても、本体はそこにいない。完璧な保管場所だった。

 クィードが袋ごと収納するのを眺めた後、フィルへ視線を動かす。


「そういうわけでクィードは戦えない。道中を守ってくれ」


 フィルは尻尾を振ったが、少し不服そうだった。

 俺の決定に納得していないのだろう。この後、俺とサーハスはお出かけである。

 ちょっとした遠征先は帝国領で、何かと戦うわけでもない。

 だから迷宮の守備と伝令を頼んだのだが、フィルは同行する口実を探しているのか、俺の回りをうろうろしていた。


 ただ、粘れる時間はさほどない。

 クィードがゾプトムを収納して零れないのを確かめると、帰還すると告げてきた。

 フィルは恨みがましい目で見上げた後、諦めて歩き出す。

 そんな後ろ姿に苦笑を送りつつ、俺はサーハスに問いかけた。


「迷宮に変わりは?」

「特には。メイ様の合図もありませんでした」

「そうか」


 夏の本番が近付き、気温が上がり始めていた。

 現状、メイと意思疎通ができるのは俺だけである。迷宮に引き籠もっているなら問題ないが、長期の不在時に、寝所の冷却が途切れるのは絶対に避けたい。

 どうしたものかと悩んだ結果、最奥と広間を繋ぐ通路に、棒を立てかけることにした。

 寝所の温度が上がったり異常が起きたりしたら、メイに棒を倒してもらえば良い。単純だが、気付かないうちに寝所が高温になるのは避けられる。いずれは《氷霜(アイスフロスト)》の魔道具を作成し、誰でも冷却できる状態にすべきだろう。


「では、旅程の再確認だ」


 俺が切り出すと、サーハスは表情を引き締めた。

 今回の旅は、サーハスに関する偽の情報を流すのが目的である。正直、日数が経っているので効果は疑問だが、やらないよりは良い。

 サーハスは落盤事故に乗じて逃走し、シルヴェック北部の森林地帯に潜んだ後、西のメズ・リエス地方もしくは帝都北方を目指して移動、セレンと帝都を結ぶ街道付近で目撃される――そういう筋書きとなっている。


 こうなった経緯は地味に複雑だった。

 獣人の村を除外した場合、逃げる可能性が最も高いのはメズ・リエス地方である。

 しかしファスデン子爵の(より)(おや)はフィルサッチ侯だった。

 セレンの西方に広大な版図を持つ大貴族で、毒リスのソプリックと戦ったケリール村の領主でもある。その領地はトルプス岩塩坑からメズ・リエス地方の直線距離に広がっているため、普通の旅なら必ず通過しなければならない。


 フィルサッチ侯が、寄子の領内で起きた事件、岩塩坑の暴動や獣人の逃亡を知らないはずがない。領内の警備や巡回は増えているだろう。

 彼らに目撃されつつ領内を抜けたと思わせるのも悪くないが、帝国の最西端はセムガット公国である。片道だけで一ヶ月以上は掛かり、途中で目撃情報が途絶えるのは奇妙である。それなら始めから、フィルサッチ領に入らない方が良いのではないか。


 ハイメスやサーハスと顔を突き合わせて検討した結果、北北西へ逃げることになった。

 そもそも警戒されている土地は迂回するだろうし、北北西なら帝国北部への逃走も考えられる。

 そちらでも警戒されているのでは――と思ってしまうが、ハイメスによると、他の貴族に協力を求める可能性は低いという。

 ファスデン子爵は言うに及ばず、ほとんどの貴族は利害で派閥を選んでいる。

 元Bランクの犯罪奴隷を逃がしたと広まれば、付け込まれる隙となるか、そうでなくとも嘲笑のネタにされてしまう。サーハスに個人的な恨みがない以上、普通の貴族は保身や体面を選ぶという。


 さらにサーハスがよその貴族に捕らえられた場合、面倒なことになる。

 ゾプトムの存在は噂で(とど)まっているが、そこへ目撃者が現れたらどうなるか。

 ただの犯罪奴隷ならまだしも、元Bランクの肩書きは重い。トルプス岩塩坑がさらなる打撃を受けるのは確実だ。

 また、元Bランクはかなりの戦力である。それが無料で手に入る、もしくは相当額の謝礼と引き換えなら、熱心な捜索が展開されても不思議はない。

 よって、どうせ逃げるなら、最後まで逃げ切ってくれた方がありがたいわけだ。

 少なくとも、ゾプトムの処理が終わるまでは。


 というわけで、協力を仰げるのはフィルサッチ侯のみなのだが、ここでサーハスは気付いてしまう。

 ファスデン子爵はサーハスを連れ戻すか、口封じをしたい。

 よその領地なら諦めるにしても、獣人の村はどうなのか。

 村が狙われる理由になると知って岩塩坑に戻るべきでは――などと言い出したが、ハイメスはあっさり否定する。


 遅かれ早かれ、獣人の村は狙われていたという。

 メイの存在により、ファスデン子爵は深殿の森の素材、それをもたらす冒険者からの収益が減少している。だからトルプス岩塩坑に注力しているのだが、奴隷を買うのも費用が掛かる。

 その点、獣人の村は好都合だ。

 住民全員を奴隷にしても良いし、間接的に支配して奴隷の安定供給、もしくは深殿の森の素材を提供させることも可能だ。

 ファスデン子爵にとって理想の狩り場である。目を付けるのは時間の問題だった。


「まずは森林地帯を北西に抜け、セレンの外周を目指す。北は帝都と繋がる街道だ。人の目も多いだろう」

「後は魔物ですね。上手い具合に遭遇したいですが」

「こればかりは運任せだな」


 魔物を一蹴するほどの獣人がひと目を避けて行動していれば、話題になるだろう。

 できればオーク数体を瞬殺してほしいが、こればかりは現地の状況次第だ。魔物が見つからなかったら、何度か姿を見せて撤収するしかない。


「それと、ご指示のものはこちらに」


 俺はサーハスから皮の小袋を受け取った。

 中身はオークの魔石が三個、ゴブリンの魔石が四個である。目的が達成されたら、どこかの町で換金するつもりだった。特に疲労回復のアクティニの実、ポーション用の小瓶がほしい。

 深殿の森の気候が合わないのか、アクティニの実はほとんど見つかっていない。疲労回復は何かと便利だから、常に確保しておきたかった。

 そして小瓶の方は念のためだ。

 熟練の職人は、製品から様々な情報を得られる。もし旅の獣人が製造地不明の小瓶を売り捌いていたらどう思うか。シルヴェックやファスデンの職人なら、獣人の村を連想するかもしれない。

 それを避けるためにも、帝国で売るポーションの小瓶は帝国産を使いたかった。

 小袋を懐に収め、俺は森林地帯へ目を向ける。


「では、そろそろ出発しよう」



  ◇◇◇◇



 丘陵や茂みに潜みながら草原を北上し、街道を横切って再び草原に入る。

 そして魔物や人間と遭遇することなく、俺たちは北の森林地帯に到達した。

 この森林地帯は帝国中央部の南東側に横たわっているが、南北を草原に挟まれているため、広さの割にそこまで魔物は強くない。リードヴァルトの東――レクノドの森のように、深殿の森と繋がっていたり、帝国の外周に面している方が危険度は高いだろう。

 もちろん、セレンの近隣などと比べたら魔物の数、その種類は豊富で、新人や低ランクが気軽に散策できる森ではないが、俺とサーハスはどちらも当て嵌まらない。


 それなりに警戒しつつ、森林地帯を北西へ進んでいく。

 元Bランクだけあって、サーハスは結構な速度を出しても余裕でついてきた。俺は様子を窺いながら、ぎりぎりまで速度を上げる。

 そして出発から二日後の深夜、森林地帯を抜けてセレン領に入った。


 空を照らすセレンの灯りをしばらく眺め、俺は北へ進路を変える。

 ここまではエサルドの資料を入手したときと同じ進路、ここからはウォルバーとタクラズの紛争で往復した森だ。

 雪の痕跡すらない森を走り続け、途中で仮眠を取ってから早朝に出発する。

 それからほどなくして、ラプゼルの町が見えてきた。

 馬車や人が出入りし、復興に向けて動いている。

 ずいぶん昔に感じるが、タクラズ兵と傭兵団に蹂躙されてから三ヶ月しか経っていない。


「あれがラプゼルですか」


 ハイメスが奴隷に落とされた経緯は、サーハスも聞いている。

 俺たちは複雑な胸中で町を眺めた後、避けるように北西へ進路を変えた。


 セレンの北方――いわゆる帝国中央部は、ほとんどがハズニック伯やディオルト伯の領地であり、それ以外の貴族は大抵、どちらかの寄子だった。

 ここまで北上したのは初めてだが、この地域とは何かと縁がある。

『破邪の戦斧』のダニルが生まれ育ったのは、街道沿いのイルケネックの町、ルシェナと揉めたときに助けてくれたドリスは、ディオルト伯の娘だ。

 二人がどうしているか興味はあるし、特にイルケネックは目と鼻の先だ。

 もしハイメスが配下になっていなかったら、ダニルを頼ったかもしれない。


 そんな街道を横目に北上するうち、ほどなくして野営地を発見した。

 中天から降り注ぐ日差しを浴びながら、うっすらと煙が立ち上っている。


「とっくに旅人は出発したか」

「この先は小さな村で、その次はイルケネックの町です。途中に野営地はありますが、北上するほど治安は良くなりますね」

「理想的な舞台は最初で最後か」


 また冒険者や商人が野営すると思うが、問題は魔物だ。

 周囲の草原を見渡すと、東に森が見えた。それなりに広そうなので、何かは棲息していそうだ。

 俺たちは森へ向かい、少し踏み入ったところでサーハスに待機を指示した。

 戦闘面では信頼できるが、純粋な斥候型ではない。準備が整うまで、森は自然の状態にしておきたかった。


 一人で魔物の捜索を開始し、日差しが少し傾いた頃、休息中のオーク四体を発見する。

 倒木の影をねぐらにしているようで、生活の痕跡が散見できた。何らかの理由で群れから離れたか、主力を失った残党だろう。


 オーク四体は悪くない。動きが鈍い分、耐久性が高いので、こいつらを瞬殺するには相当な実力が必要だ。

 俺はサーハスのところに戻ると、大木の枝に腰掛け、交代で休息を取った。

 その間に数組の冒険者と行商人が通過し、さらに日が傾くと旅人の足も速くなる。

 今のところ、だれも野営しない。本番は夜か。


 夕刻を迎えて空が色付き始めると、俺はその場を離れて森に入り、数羽の鳥を《穿風の飛箭(ペネトゥレイトゲイル)》で撃ち落とした。

 羽を狙ったので、ほとんど失血していない。

 鳥をそのままエゼティニの葉で煮詰めた袋――毛皮袋に放り込み、再び枝の上から街道を監視する。


 夜の訪れと共に初夏の陽気が静まり始めたが、まだ野営地に人影はなく、街道を見渡しても動く者はいなかった。

 サーハスもそれを眺め、小声で囁く。


「深夜になったら野営地には来ませんね」

「そうだな。いざとなったら昼間に誘導してみるが……移動していると目撃させるのが難しい」


 この野営地は、セレンから北上する者が半日で到達する地点だった。

 誰も休息していないなら、北への旅人はまずいない。

 そして南下する旅人の場合、早朝に出発できないと閉門してしまうため、明け方に野営地に到着しても休息する時間が足りなかった。無理に野営地を目指すより、しっかり休息してセレンの外で開門を待つ方が安全である。

 そう考えると、日付が変わる頃が限界だろう。


 星明かりに照らされた草原を、静かに時が過ぎていく。

 虫の声と頬を撫でる夜風、狼やヌドロークの遠吠えだけが耳に届いた。

 人影どころか魔物すら出てこないまま、深夜に差し掛かる。

 そろそろ諦めるべきか。

 そんなことを思ったとき、サーハスが身じろぎする。


「何かいます」


 街道の先へ、サーハスは光る目を向けていた。

 俺も《暗視(ナイトヴィジョン)》を発動して目を凝らすと、確かに何か動いている。

 さらに即席望遠鏡を生成して北に向けたところ、三人の冒険者が水玉に浮かび上がった。


「やっとお出ましか」


 俺は呟くも、サーハスは即席望遠鏡に釘付けだった。

 近くに呼んで覗かせると、小さく歓声を上げる。


「少し大きく見えますね。独自魔法ですか?」

「いや、普通の《水流操作(オペレイトウォーター)》だ。俺は『多重詠唱』で発動しているが、制御に上手い術者なら単発でできると思う」


 操作(オペレイト)系は繋がっていないと途切れてしまうので、単発の場合は数珠つなぎで発動すれば良い。エルフィミアなら難しくないと思う。

 ちなみにスナイパースコープを再現できれば、もっと拡大できるんだが……そもそも構造を知らない。俺が作っているのはただの虫眼鏡だ。

 せめて、少しはそれっぽくしてみるか。

軟土操作(オペレイトソイル)》も発動し、土の筒で水玉を覆ってみる。見た目はさらに望遠鏡へ近付き、光が遮断されたことで、より見やすくなった。


 満足しつつ冒険者を窺っていると、先頭の男が野営地を指差して何か告げた途端、三人の足取りが軽くなった。

 無事に泊まってくれそうだ。

 彼らが荷を下ろすのを見届け、俺たちは枝から飛び降りる。


「始めよう」


 サーハスは短剣を抜き、俺は『隠密』を発動して森へと走り出す。

 やることは単純だが、不安要素はいくつかある。

 オークたちが出払っている場合と、すでに満腹の場合だ。

 臨機応変に対応するしかないが、ねぐらのオークはどちらとも言えない状況だった。

 丁度、鹿を食い終わったところで、血の臭いが周囲に漂っている。

 オークの足で鹿を仕留めるのは無理だ。別の魔物か肉食獣が狩った獲物を奪ったのだろう。

 どうあれ、あれでは満腹にならないと思うが――。


 鳥を毛皮袋から取り出し、斬撃強化のナイフで首を切り落とす。

 そして流れる血の臭いを巻き込み、《疾風の短矢(ウィンドボルト)》をねぐらに放った。

 少し心配したが、見事なまでに杞憂だった。

 オークたちは獲物片手に立ち上がり、鼻をひくつかせて臭いの出所を探し始めた。

 そして俺が足元の枝を踏み抜くと、こちらに気付いて咆哮を上げる。


 のんびりとした足取りで、オークたちを草原まで引っ張っていく。

 念のため、俺を見失わないように首のない鳥を握り、たまに血を落として誘導する。

 そんな気遣いが功を奏し、森の外周が近付いてきた。

 俺は鳥をサーハスに放り投げ、『跳兎』で樹上へ離脱。さらに『隠密』を発動して息を殺す。

 木の下を見やれば、入れ替わったことに気付かず、オークたちが通り過ぎていった。


 草原を走るサーハスを、四体のオークが咆哮を上げながら追いかける。

 冒険者たちが気付いて立ち上がると、それを合図にサーハスは反転。オークたちの懐に飛び込み、短剣が煌めいた。

 まあ、余裕だよな。


 攻撃に転じて数秒。四体のオークはあっさり命を刈り取られた。

 サーハスは短剣の血を拭い落とし、何気なく周囲を見渡す。

 そして呆然とする冒険者たちと目が合うなり、慌てた様子で北西へ走り出した。

 冒険者たちはその姿が消えるまで見送った後、慎重にオークの死骸へ近付く。


「なんだよ、今の。オークを瞬殺したぞ」

「冒険者じゃないのか?」

「なら魔石を探すだろ。俺たちに気付いて逃げたみたいだが……」

「そういや、目が光ってたな。獣人だぞ、あいつ」


 口々に感想を述べ合った後、オークの血で魔物が集まるのを懸念してか、冒険者たちは野営地を引き払った。

 理想の結果になったか。深読みする者はいると思うが、まずは見たままの話が広まるはずだ。

 遠回りしてサーハスが戻ってくると、俺たちは森を東へ移動した。

 これで最初の目的は完了だ。次はウォルバーだな。




●現在のステータス

 upは「第170話 エピローグ ~舞踏会」との比較



名前  :アルター・レス・リードヴァルト

種族  :ミューチュラー

レベル :35      (2up)

体力  :229/229 (28up)

魔力  :465/465 (40up)

筋力  :15

知力  :18      (1up)

器用  :18

耐久  :17+2(19) (1up)

敏捷  :21+2(23) (46:倍加)

魅力  :16


【スキル】

 強撃、二連撃、(ふう)()(そう)(こう)、獣化

 成長力増強、成長値強化、ステータス偽装、言語習熟、高速移動、多重詠唱、魔道具改変、魔道具昇華

 火耐性3、氷結耐性2、精神耐性10、苦痛耐性5、斬撃耐性1、刺突耐性2、毒耐性2

 鑑定6、調合8、鍛冶4、魔道具作成6、精霊(こう)()

 追跡6、隠密7、気配察知7、危機察知2

 片手剣9(1up)、両手剣3、曲剣5(1up)、短剣5、体術7、弓術4

 火魔法7、水魔法6、風魔法6、土魔法7(1up)、無属性魔法4、氷結魔法3、雷撃魔法2、変性魔法6


【魔法】

●初級

 火炎の短矢(ファイアーボルト)鋭水の短矢(ウォーターボルト)疾風の短矢(ウィンドボルト)土塊の短矢(アースボルト)魔力の短矢(マジックボルト)氷柱の短矢(アイスボルト)雷衝の短矢(ショックボルト)

 火塊の槌撃(フレイムブロウ)水弾の槌撃(ウォーターブロウ)一塊の槌撃(ストーンブロウ)氷塊の槌撃(アイスブロウ)

 水流の盾(ウォーターシールド)旋風の盾(ウィンドシールド)魔力の盾(マジックシールド)礫土の盾(アースシールド)

 活火操作(オペレイトファイア)水流操作(オペレイトウォーター)恒風操作(オペレイトエアー)軟土操作(オペレイトソイル)魔力操作(オペレイトエナジー)

 筋力上昇(フィジカルアップ)脚力上昇(ムーヴィングアップ)集中力上昇コンセントレーションアップ

 力場(フォースフィールド)光源(ライト)灯明(トーチ)暗視(ナイトヴィジョン)

 溶液作成クリエイトソリューション氷霜(アイスフロスト)座標点(リファレンスポイント)

 土霊召喚:メロック、火霊召喚:サルカー

●中級

 火炎球(ファイアボール)八紘炎火(ファイアスプレッド)景相石筍(スタラグマイト)穿風の飛箭(ペネトゥレイトゲイル)

 妨土の壁(アースウォール)


【称号】

 転生者、帰宅部のエース(耐久+2、敏捷+2)、リードヴァルト男爵家の次男





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