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第168話 New Game+




「数は!?」

「数えきれません!」


 見張りの返答にクィードの顔色が変わり、『気配察知』の索敵範囲に入ると同時、さらに青ざめさせる。

 俺たちはすでに包囲されていた。しかも相当な数で、百体を軽く上回っている。

 二十人ほどの獣人相手に全力を出すとは思えない。住処で待機している分を加えたら総数は三百を越えそうだ。

 まあ、これでも充分すぎる。生かして帰す気はないらしい。


 獣人たちは大慌てで武器を手に指示を待ったが、クィードは苦渋を浮かべ、言葉に詰まっていた。

 これまでの調査隊が追い返されただけなら、これほど早く動き出し、しかも大軍を投入するとは考えもしなかったのだろう。


 俺は崩れた石組みから天井部分に駆け上がり、周囲を一望した。

 月明かりに浮かび上がるジセロの跡地は、凄まじい数の異形の群れに埋め尽くされている。包囲が狭まるほどにその密度は高くなり、触れあう外皮の硬質な音、奇怪な鳴き声がさざ波のように耳へ届く。

 懐かしい。転移後に見た光景そのものだ。

 ふと見下ろせば、クィードも石組みに立ち、周囲を見渡していた。

 この男に思うところは多々あるが、連れてきてくれたことだけは感謝だな。

 北東に狙いを定めて《火炎球(ファイアボール)》を『多重詠唱』で放つと、無数の火球が飛来し、続く爆音に獣人たちは呆然としていた。

 俺は小石を蹴飛ばし、クィードの後頭部に命中させる。


「包囲は崩した。さっさと行け」

「今のは……」

「無駄話している暇はない。それに、予定どおりだろ?」


 一瞬、クィードは驚愕の表情を浮かべた。

 そして何か言いかけて口を(つぐ)むと、睨むように森を見やる。


「……撤退!」


 絞り出すような指示を受け、獣人たちは一斉に走り出した。

 延焼する下草と焼け焦げたガーネレスを飛び越え、黒い一団が包囲を抜けていく。

 それを見送り、俺は拠点に視線を戻す。


「で、お前は何をしている」


 短剣を片手に、サーハスが拠点に残っていた。


「村の決定が下ったとき、全力でお前を生かすと決めた。それが叶わないなら共に死ぬと」

「あのな、村の思惑なんて関係ない。岩塩坑での約束は果たした。責任を感じるのはお門違いだ」

「恩人に変わりはない。騙し討ちの汚名を背負って生きるなど、願い下げだ」


 (かたく)なな態度に呆れながらも、つい口元が緩む。

 今の言葉――あいつの口からも聞きたかった。

 胸中に湧き上がる感傷を振り切り、拠点の周囲に狙いを定める。

 その瞬間、石槍が地面から突き上がり、ガーネレスたちの足を貫いた。

 金切り声が巻き起こり、サーハスが唸り声を上げる。


「《景相石筍(スタラグマイト)》……だが、この規模はやはり……」

「地面を触媒に発動した。簡単には突破されないはずだ。サーハス、お前は守りに専念しろ」


 守りと言われて意味を察したらしい。

 サーハスは俺を振り仰ぐ。


「まさか――」

「僕は死なない。だから、お前も死ぬな」


 俺は笑いかけ、迅風のシミターを抜き放った。

 (もり)(てん)()の姿にアルター・レス・リードヴァルトが重なる。

 では始めようか。十四年ぶりの再戦――そして、俺の仇討ちだ。



  ◇◇◇◇



 当時と同じく剣で挑みたいが、さすがに多すぎる。

 まずは数を減らそう。

『多重詠唱』で十二発の《火炎球(ファイアボール)》を全方位へ射出すると、火球が石槍を飛び越えて炸裂した。

 先ほど以上の爆音が響き渡り、サーハスは呆れた顔で炎を眺める。


「これが『多重詠唱』の戦いか。まるで軍隊だな」


 ごっそり魔力が抜ける感覚にふらつきつつも、俺は首を振った。


「どんなに殲滅力があっても、結局は一人だ。強者を殺すは軍。油断するなよ、サーハス」

「そのまま返す。俺の命を背負うなら、無駄死にしてくれるな」

「努力しよう」


 俺はにやりと笑い、『高速移動』を発動した。

 そしてわずかな助走で跳躍すると、落下地点のガーネレスに『風牙走咬』を放ち、真上から『強撃』で両断する。

 着地を狙っていた兵隊が爪を振るう。

 それを受け流し、切り返そうとした刹那、白い影が舞い降りて兵隊の首がぽろりと落ちた。


「細身の奴に注意してくれ。水と神聖の魔法を使う」


 短く鳴き、フィルは掻き消えた。

 それと同時、周囲のガーネレスの手足や首が()ね飛ぶ。

 今のは伸びる爪――『(そう)(けん)(げき)』の範囲外だ。

 となると、『(らん)(れつ)(そう)』か。

 無作為に爪撃を繰り出すスキルだが、すべて関節に命中している。完璧に制御しているな。片手剣の『(らん)(せん)』も、使いこなせばあれほどの制御が可能なのだろうか。

 それはそうと、俺も負けてられん。


 フィルが切り崩した包囲に俺が、俺が崩せばフィルが切り込んでいく。

 月夜の廃村を俺たちは縦横無尽に突き進み、剣を振るたび、爪が(ひるがえ)るたびに半透明の()()(ぶき)が舞い散った。


 これほどの数が相手だと、最大の障害は死骸だった。

 圧倒的な速度があるからこそ、俺とフィルは優位に立てる。一箇所に留まって死骸に囲まれたら、逃げ場を失って押し潰されてしまうだろう。

 だが、それは死地へ飛び込む危険と隣り合わせでもある。

 生きたガーネレスも障害であることに変わりはない。切り崩せない場所に飛び込めば、やはり速度を失いかねない。


 そんな緊張感を抱きながら、途絶えることのない異形の群れを斬りつける。

 息つく暇もなく目の前の労働に『二連撃』を叩き込み、『風刃』を乗せた斬撃で斬り捨てる。

 フィルも『爪剣撃』を駆使しながら、時に『乱裂爪』を放っていく。

 そして戦いが始まってさほど経たないうち、わずかに息が乱れているのを感じた。


 毒リスのソプリックも厄介だったが、あいつらは簡単に斬り伏せることができた。

 しかしガーネレスは違う。

 最下級の労働でさえ『甲殻』を習得し、兵隊は『装甲殻』でさらに強度が増している。

『強撃』を使わないと、関節以外は切り裂けない。

 蛇口を全開にするような戦いを続けながら、俺は素早く周囲を窺った。


 親衛隊がいない。

 これだけの数がいれば、一体は潜んでいるはず。

『気配察知』も密集されては判別しにくいし、悠長に探す余裕もない。

 それに、この手の魔物は住処への執着が強そうだ。殲滅するか、致命的な打撃を与えないとジセロは復興できないと思う。

 だから削れるだけ削り、親衛隊も仕留めておきたいが――移動しすぎかもしれない。

 俺とフィルが走り回っている所為で、場所が絞れないのだろう。

 誘い出してみるか。

 俺は切り返し、始まりの樹の近くへ移動する。


「しばらくの間、ここを死守する」


 そう言って迅風のシミターを構えると、フィルが肩に飛び乗ってきた。

 首回りに伝わる熱が、いつもより高い。

 ここで粘るつもりだったが、俺もフィルも休憩が必要そうだ。

 じわじわと包囲を狭めるガーネレス。

 それを眺め、声を張り上げる。


「聞こえるか!」


 通じるとは思えないが、ガーネレスの進行がぴたりと止んだ。


「最後まで後ろに隠れているつもりか! 相手になってやる、出てこい!」


 迅風のシミターを一振りし、俺は大袈裟に探すような素振りを見せた。

 なんとなく伝わったのだろうか。

 ガーネレスたちはざわめき始め、不意に動きが起きる。


 正面が左右に割れ、道が開かれた。

 その先から現れたのは、三体のガーネレス。

 細身の身体にどこか理知的な顔付き――出てきてくれたか、親衛隊。

 懐かしい姿に目を細めつつ、『鑑定』へ視線を動かす。

 その直後、細めた目は別の意味を帯びる。


 先頭の親衛隊がやけに強い。

 後ろ二体のレベルは二十後半だが、こいつだけ三十を越えている。

 しかも中級魔法の《水禍球(フラッドボール)》、普通の親衛隊にはない『甲殻硬化』で『装甲殻』を強化し、さらにスキルの補正で加速は27もあった。

 もしサーハスが戦ったら、負けていたかもしれない。

 それより気の所為だろうか? 歩く所作や雰囲気に見覚えがある。

 まさかとは思うが……。


 後ろの二体が歩みを止め、先頭の親衛隊だけ前に出た。

 そして大きな単眼でしばらく俺を観察すると、ゆっくり前傾姿勢を取る。

 直後、人間を凌駕する加速で迫ってきた。

 朧気な記憶が鮮明になると同時、俺は迅風のシミターを振り抜く。


 ただの横薙ぎは『装甲殻』と『甲殻硬化』に阻まれ、硬く鈍い音が響き渡った。

 親衛隊は吹き飛ばされて()(たら)を踏んだが、堪えきれずに地面に手を付ける。

 俺はフィルを肩から下ろし、感慨深げにその様子を眺めた。


「貴族の僕でさえ、十四年の歳月は激動だった。魔物のお前は尚更だろう。また会えるとは思わなかったぞ」


 言葉が分かるはずもなく、分かったところで意味は通じなかったと思う。

 それでも構わず、笑いかける。


「俺は美味かったか、親衛隊」


 言い切るより早く、親衛隊は動いた。

 跳ねるように地面すれすれを疾走し、鋭い爪を振り上げる。

 俺は上体を捻って躱すと、強引な切り返しからの追撃をまた躱す。

 親衛隊はさらに爪を振り回し、食らいつこうと飛びかかってくる。

 それらを避け、シミターで受け流しながら思う。


 遅い。

 当時はまるで視認できなかったのに、今はすべての動作が観察できる。

 少し思い違いをしていたか。

 確かに貴族と魔物の過酷さは違うが、ガーネレスは群れで行動し、親衛隊ともなれば大きな狩り以外で戦うことはなかったと思う。『成長力増強』のチートがあるにせよ、俺とは経験の密度が違うらしい。


 突進を避け、頭部を蹴り飛ばす。

 親衛隊はふらつきながら突き進み、包囲ぎりぎりで振り返った。

 それと同時、渦巻く巨大な水玉が出現し、俺に目掛けて放たれる。

 効果範囲外に出る機会を窺っていたか。


 しかし《水禍球(フラッドボール)》はろくに飛翔することなく、《穿風の飛箭(ペネトゥレイトゲイル)》に迎撃されて破裂した。

 濁流が術者ごと周囲のガーネレスを押し流していく。

 速度で劣り、奥の手の《水禍球(フラッドボール)》も通用しなかった。

 こいつも強くはなっていたが、もう手札はないだろう。


 跳躍する俺に親衛隊は気付いたが、避ける暇を与えるはずもない。

 単眼に迅風のシミターが突き刺さり、耳障りな悲鳴が上がる。

 俺がシミターを引き抜くと、親衛隊はすぐさま《軽傷治癒(ライトヒーリング)》で治療しようと試みたが、穴は塞がっても視力は回復しない。もはや()(たい)だ。

 シミターをぶら下げながら、親衛隊の背後に回り込む。


「お前との遭遇は絶望だった。幼少期はそれがトラウマで、やたら強さを求めたよ。僕の始まりは、間違いなくお前だ」


 迅風のシミターを振りかぶり、『強撃』で親衛隊の首を刎ね飛ばした。

 前世と正反対の構図。

 これで一区切りと言いたいが――感傷に浸る時間はない。


 仲間の死を受け、二体の親衛隊から奇怪な声が発せられた。

 その途端、全方位から『溶解』と『溶解球』が射出される。

妨土の壁(アースウォール)》で防ぐより、『跳兎』で離脱した方が確実。

 そう思って視線を動かしたとき、フィルが視界に入る。


 始まりの樹の根元で(のん)()に座り、どうにかするんだろうと言わんばかりの視線で俺を見ていた。

 いくら疲れていても、簡単に躱せるだろうに。

 仕方ない。もう少し休んでもらうか。


 攻撃魔法のような魔力の塊に干渉するのは、ほぼ不可能である。

 可能なのはそうした性質を持つ魔力、《魔法消去(ディスペルマジック)》の(たぐい)だけだ。

 だが、溶解液は生来の能力を魔力で補強している。

 これなら塗り替えられるはず。


 俺は《水流操作(オペレイトウォーター)》を『多重詠唱』で発動し、込められる限界まで魔力を流し込んだ。

 ガーネレスの色づけた魔力と俺の魔力が、溶解液の内部でせめぎ合う。

 飛沫が頬を掠め、視界一面が溶解液で歪んでいく。


 そして突然、堰が決壊したような感触が伝わってきた。

 ため息を漏らしつつ、眼前の溶解液を眺める。


「制御できたか」


 大量の溶解液は、空中で静止していた。

 自分たちが射出したスキルが漂うのを見て、ガーネレスたちは呆然としている。

 このまま捨てるのは勿体ない。再利用させていただこう。


 溶解液を触媒に、残りの親衛隊に向けて《氷柱の短矢(アイスボルト)》を『多重詠唱』で放った。

 仲間もまた、障害物である。二体の親衛隊に逃げ場などなく、無数の氷柱が殺到する。

 ジセロの跡地に固い音が響き、鳴り止んだときには全身から氷柱(つらら)を生やし、二体の親衛隊は息絶えていた。


 一、二発ならどうにかできても、十本以上は厳しいか。

 俺を喰った親衛隊なら耐えきりそうだが。

 余った溶解液を地面に捨て、ガーネレスたちを見渡す。


「さて、これで厄介な奴らは片付いた。残りを掃討する」


 俺が迅風のシミターを構え直して切り込むと、一拍遅れてフィルも参戦した。

 そして再び、乱戦が始まった。


 結果的に、親衛隊を誘い出したのは正解だった。

 指揮官を失い、ガーネレスたちは混乱する。

 兵隊はそれなりの戦意を保っていたが、労働は明らかに動きが鈍くなっていた。

 それでも、戦い続けるのは容易ではない。


 わずかな休息でさして回復するわけもなく、シミターを振り、爪を振るたびに蓄積した疲労が顔を覗かせた。

 スタミナの枯渇を懸念し、途中から『風刃』の力だけでシミターを振ったが、当然、威力が落ちて殺しきれない。しかし一体を仕留めるために使う余力はなく、囲まれないために次の戦場へ飛び込んでいく。


 そこまでしても回避が遅れ始め、俺はいくつもの手傷を負い、フィルでさえ判断を鈍らせ、不用意に放った『(らん)(れつ)(そう)』の隙を突かれて溶解液の集中砲火を浴び、俺がどうにか《水流操作(オペレイトウォーター)》で防いだ。

 次第に戦っているという感覚すら消えていった。


 そんな視界にふと、拠点が飛び込む。

 ガーネレス相手にサーハスが戦っていた。

 拠点にもかなり群がっているが、サーハスは石壁を利用し、器用に立ち回っていた。

 もし彼がいなければ、俺たちの圧力はもっと増えていたかもしれない。

 ただ、それでも限界は近付いていた。


 だいぶ前から、理性が激しく撤退を促している。

『跳兎』を使えば、簡単に離脱できるだろう。

 サーハスを逃がすための魔力も残しているが……。


 そう思った矢先だった。

 次の獲物を求めて振り返ったとき、何もいないことに気付く。

 慌てて視線を動かすも、見渡すかぎり死骸の山で、生きているガーネレスはいなかった。

 殺し尽くしたわけではない。

『気配察知』で探ると、ガーネレスたちは湖に向かっていた。


「驚いた」


 その声に振り向けば、サーハスが立っていた。

 こちらも激戦だったようで、全身傷だらけである。


「やつらを撤退に追い込むとは」

「とっくに限界を越えていた。もう少し遅ければ、撤退したのはこちらだ」

「感情の乏しさには、恐怖心も含まれる。どれほど仲間が殺されても、力の差があっても戦い続ける。そんな奴らが撤退を選んだのは、全滅すると判断したからだ。充分な戦果だろう。強者を殺すは軍なら、軍を滅ぼすは強者だな」


 人の言葉を流用し、サーハスが珍しく笑顔を見せた。

 思うところはあったが、俺は納得することにした。そして呼吸を整えつつ、目線を北東へ動かす。

 もう戻ってきたのか。


 迷宮とガーネレスの共倒れを狙った獣人の村。

 戦いが終わったことに気付き、その代表であるクィードが戻ってきた。

 今襲われると面倒だが――なぜ、こいつらまで疲弊している?


 森へ逃走したはずなのに、数人が負傷していた。

 別の魔物に襲われたのかと思ったが、浴びている返り血は俺たちと同じである。

 ガーネレスは森の奥まで入らない。

 ということは、こいつらも外周で戦っていたのか。


 俺以上にクィードたちは驚いていた。

 跡地を埋め尽くす死骸を見渡し、返り血に(まみ)れた俺を見て息を呑む。

 その様子に、俺は警戒心を緩めた。


 もし逆の立場なら、森に引き籠もって戦況を見守るだろう。

 迷宮の守護者がガーネレスを追い払っても良いし、力及ばず殺されても構わない。

 疲弊した側を叩けば良い。村の目論見どおりの結果だ。

 それなのにクィードは踏みとどまり、ガーネレスと戦っていた。

 何の気の迷いか知らないが、圧力を分散させていたのは、サーハスだけじゃなかったわけだ。


「休息する。見張りを頼めるか」

「あ――ああ。死骸も片付けておこう」


 言葉に詰まりながらもクィードは請け合った。


「手間でなければ、細いのと体格が良いのを集めてほしい。後で魔石を確認したい」

「分かった。一番多いのはこちらで調べておく」

「かなりの数だぞ? それにほとんど魔石はないと思うが……」

「では、手が空くようなら調べよう」


 俺は頷き、拠点を眺めた。

 サーハスが戦っていたので酷い有様である。片付けの邪魔になりそうだし、始まりの樹で休むとしよう。


 指示を飛ばすクィードに背を向け、俺は始まりの樹へ歩き出した。

 そして何気なく隣のフィルに視線を落とすと、自慢の毛並みがガーネレスの血でべっとりだった。


「酷い戦いに付き合わせたな。後で綺麗に洗うから、魔力が回復するまで待ってくれ」


 フィルは気にするなとばかりに尻尾を振ってきた。

 俺は始まりの樹に腰を下ろし、暖かい樹皮に背中を預ける。

 夜空を見上げれば、月が昔と変わらぬ姿で浮かんでいた。


 ひとまず前世を越えたか。

 だが、終わっていない。

 逃げた連中以外にも、相当数のガーネレスが湖のどこかに潜んでいる。

 さっきのような戦いは避けるべきだ。次も手傷で済むとは限らない。

 指示を飛ばすクィードを眺め、視線を森へ動かす。

 ガーネレスにもリーダーがいるはず。狙うとしたら、そいつだ。





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