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第158話 セレンにて


 正午になる少し前、俺は何事もなく草原に到着した。

 用心しつつ辺りを見渡したが、冒険者の姿は見当たらない。

 数が減っているらしいし、この辺りはファスデンから東にずれている。理由がないかぎり、やってこないのだろう。


 水袋で喉を潤しつつ、振り返って森を眺めたが、とうに迷宮の気配は感じ取れなかった。

 この分なら、冒険者が()(ろつ)いても迷宮に気付くことはないと思うが……。

 俺はわずかな懸念に眉を潜める。

 漠然とだが、ここ数日で迷宮――メイの気配が弱まっていると感じていた。

 それはここまでの道中で確信に変わっている。

 おそらくは俺が原因だ。誕生してからずっと、メイは守護者を得られなかった。どれほどの期間、その状態が続いていたかは分からないが、魔物の減少と連動しているなら数年、下手すると十年を越えるだろう。

 いくら地中に潜んでいても、食料はなく、守ってくれる相手もいない。

 その焦りが強烈な気配と意思の正体である。


 そこへ、のこのことやってきたのが俺だ。

 死にかけているため無警戒で、しかもユネクという食事まで持参している。

 支配を失敗して一度は離れたが、すぐに戻ってきて協力を申し出た。たとえ俺がミューチュラーでも、不安が解消されるには充分だったと思う。


 俺は支援を受けられ、メイは守護者同然のミューチュラーを得た。

 一見すると良いことばかりだが、不安の解消は深殿の森が本来の姿に戻ることを意味している。

 これまで迷宮が冒険者に発見されなかったのは、空白地の存在が大きいと思う。

 冒険者は魔物を求めて深殿の森へ潜るため、獲物のいない空白地を散策する理由はほとんどない。結果的に迷宮から遠ざかり、長い間、発見されなかったと考えられる。

 しかし、そんな連鎖も切っ掛けが収束すれば元に戻ってしまう。

 空白地に魔物が入り込み、冒険者も集まり始めるだろう。いずれ迷宮周辺にもやってくるはずだ。

 手っ取り早いのは空白地を維持することだが、メイも意識して魔物払いをしていたわけではない。感情をばら撒くのが難しいなら、俺とフィルで魔物を狩り、空白地の縮小を押さえるしかないだろう。


 ひとまず思考を打ち切り、西の方角へ視線を向ける。

 空白地の問題は戻ってからにしよう。

 セレンに行かなければならないが――ご近所様のファスデンも見学してみるか。暗殺未遂現場も近いし、ついでに寄ってみよう。まあ、何も残っていないと思うが。


 森の外周に沿って歩き始めると、さほど掛からないうちにそれらしき場所に到着した。

 霧雨が降っていないので雰囲気は違うが、北の小高い丘に見覚えがある。あれを登ればファスデンが見えるはずだ。

 朧気な記憶を辿りながら周囲を散策し、ほどなくして砕けた骨の残骸を発見する。

 俺を喰おうとしたカックルの脚だ。他の部位は魔物か動物に持っていかれたらしい。

 淡い期待を抱きつつ辺りを調べたが、当然、何も残っていなかった。

 普通の冒険者は、すべての戦利品を持ち帰るのは不可能である。価値を見極めて選別し、不用品を廃棄しなければならない。

 だが、ランベルトたちにそれは不要だ。俺の魔法の鞄(テルパーズ・バッグ)がある。

 あの魔法の鞄(テルパーズ・バッグ)はセレンへ向かう道中、ロランと『破邪の戦斧』、『深閑の剣』で仕留めたゴウサス牛の革でできていた。実用性だけでなく、俺にとって思い出の品だ。


 早く取り返したいが――難しいだろうな。

 これまでの経緯が経緯だ。『破翔』を探し回ったら、バロマットが勘付く可能性が高い。

 ヘリット支部長に頼めば居場所を特定できると思うが、どこに監視の目が光っているか分からない。そもそも、あの中に蘇生薬の素材や資料が入っていたわけでもなかった。

 将来はともかく、今すぐ危険を冒す価値はない。


 未練を引き剥がすように視線を動かし、カックルの残骸を見下ろす。

 それにしても、ランベルトは見事だった。

 あの暗殺は実質、成功だ。メロックとメイに助けられなければ、間違いなく死んでいた。


 その証拠と言うべきか、俺は『危機察知』を習得した。

 これまで何度も死にかけたが、純粋に危機と呼べたのは最初の虫人間くらいである。

 理由は言うまでもなく、『高速移動』だ。ジャリドはもちろん、フィルでさえ、すべてを見捨てれば逃げることができた。

 しかしランベルトは、たったのひと突きで俺を死の縁に追い込んだ。

 本当に大した男である。 


 感心しつつ、視線を深殿の森へ向けた。

 誰かが近付いてくる。人間、おそらく冒険者だ。

 こちらに気付いた様子はないが――隠れる場所もそうする理由もないか。

 カックルの残骸の前で佇んでいると、しばらくして四人の男が森を抜け出してきた。

 先頭の戦士は俺に気付いて腰に手を伸ばしたが、少年が一人と分かり、手を止めた。

 そして周囲を警戒しながら近付いてくる。


「こんなところで何してる?」

「深殿の森とやらを見学にね。噂では魔物が減っていると聞いたが、どんな様子だ?」


 残骸を指差しつつ森を覗き込む仕草をすると、男たちの警戒はさらに和らいだ。

 迅風のシミターに少し視線を送ったが、それ以外は平服にくたびれたバックパックである。経験の浅い冒険者と考えたようだ。


「まあまあだな」


 戦士はそう言って、大きめの皮袋を持ち上げた。

 それなく話題を振ると、武勇伝交じりにどんな魔物がいたかを語り出し、魔物は西の方が多い気がする、と締めくくった。

 迷宮はファスデンの南南東辺りである。空白地の外周は当然、西の方が近くなる。いずれにしても、本格的に縮小が始まったら忙しくなりそうだ。

 そんな考えはおくびにも出さず、俺は礼を述べる。


「勉強になったよ。ありがとう」

「別に構わないが――それよりお前、仲間はいないのか?」

「いない。一人旅だ」


 俺の答えに男たちは顔を見合わせる。

 そしてどこか言いにくそうに切り出した。


「ファスデンには寄らない方が良いな。獣人への風当たりが強いぞ」

「そんなにか」

「まあな。シルヴェックもやめておけ。あそこは奴隷商の根城だ。獣人の一人旅なんて、自分から檻に飛び込むようなものだ」

「分かった、気をつけよう」


 改めて礼を言うと、小休止するという冒険者たちと別れ、俺は北へ向かった。

 小高い丘を登り、頂上から遠くへ目を凝らす。

 青空の下、ファスデンの外壁と町並み、街道を進む冒険者や隊商が見えた。

 そよ風を受けながら(のど)()な光景を眺めるうち、ふと、隣に誰かが立っているような気がした。

 誰もいない草原を(いち)(べつ)し、ため息と共に記憶を吐き出す。


「とにかく、今はエサルドの資料だ」


 言い聞かせるように呟き、俺は丘を下り始めた。



  ◇◇◇◇



 街道を往来する冒険者に『鑑定』を走らせながら、ファスデンへ近付いていく。

 魔物の減少が冒険者の質も落としているのか、大体がDランク程度でCランク相当の実力者はほとんど見当たらない。

 また冒険者は隊商の護衛が多く、ごく少数が深殿の森、残りは草原に向かっていた。

 草原組は討伐依頼だろうか。

 カックルの食欲やテパ・タートルの危険性を考えると、常時依頼になっていてもおかしくない。深殿の森に挑むのは実力不足でもカックルを狩りつつ、森からあぶれた魔物を狩っていけば、意外にやっていけるのかもしれない。

 そんなことを思いつつ、馬車が町へ吸い込まれていくのを見送る。

 どこの町でも見かける光景ではあるが……。


 馬車の内部は、数えるのが難しいほど人の気配が密集していた。

 あのうちの何人が岩塩坑送りになるのだろうか。

 シルヴェックからファスデンまで、のんびり進んでも一日で到着する。ヴェロットの言葉が真実なら、ユネクが逃げたのは別の町からファスデンに向かう道中だと思う。

 しかし、本当に目立ってるな。


 ファスデンに近付くほどに、周囲の視線が集まるのを感じた。

 それとわずかだが、俺をユネクと疑う者もいる。獣人になった俺は、どことなくユネクに似ていた。持ち主の影響か単なる偶然かは分からないが、逃亡奴隷がこんなところを歩いているはずもない。疑っていた者も仲間に否定され、声を掛けてくることはなかった。

 ファスデンに寄るのは止めた方が良さそうだ。

 帰路で出会った『勇武の戦士』だけでなく、別の冒険者もユネクを探していた。獣人の子供をいつまでも追いかけ回していないと思うが、難癖を付けられる可能性が高い。それに冒険者登録したとしても、ギルドの保護は期待できそうになかった。すでに冒険者が動いているし、むしろファスデン子爵に協力していると考えるべきだろう。

 俺は門を素通りし、そのまま街道を北西へ進んだ。


 往来する馬車に道を譲りながら、黙々と歩き続けている。

 次第に陽光は色付き始め、春の草原に夜が訪れた。

 それでも休まずに進み、ほどなくして火のちらつきが遠くに見えてくる。

 以前、野営した分かれ道だ。東に進めばラザラーグ山を経由してケーテン領、西に進めばシルヴェックの町があるが――野営しているのは奴隷商か。

 商人と護衛が焚き火を囲み、少し離れたところに駐められた馬車から無数の気配を感じる。

 星明かりに照らされ、夜でも見晴らしが良い。護衛も俺に気付いて腰を浮かせたが、少年が一人だけと分かると座り直した。とはいえ、怪訝な視線は向けられたままだ。こんなところで休息したら積荷にされかねない。


 目礼だけして野営地も通り過ぎ、焚き火が見えなくなったところで進路を北西に切り替えた。

 街道の旅は気が休まりそうもなかった。それにシルヴェックやジューテルを経由すると遠回りになる。森を突っ切った方が早いだろう。

 テパ・タートルに注意しながら草原を縦断し、日付が変わる頃に鬱蒼と茂る森林地帯へ到達した。

 草原の北は低山が連なり、(すそ)()は森林が広がっている。この森林は帝国中央部と南部の間に横たわり、東はラザラーグ山の裾野、西は途中で途絶えながらもセレンの森へ向かっていた。

 もっと西より、シルヴェックの北方なら冒険者が活動していると思うが、この辺りは人間の生活圏から遠い。人間に遭遇する確率は低いはずだ。

 索敵しながら森を進み、適当な大木に飛び移る。

 そして落ち着けそうな枝を見つけると、朝まで休息することにした。


 その後、魔物の足音で目覚めつつも、無事に朝を迎えた。

 以前、冒険者から拝借した干し肉で朝食を済ませ、軽く伸びをしてから『高速移動』を発動する。

 さて、ここからは遠慮なしに行くとしよう。

 俺はセレンの方角を見定め、森林地帯を走り始めた。


 出発してすぐに気付いたのは、身体の軽さだった。

 セレンに滞在中、俺の敏捷は人間の限界と言われる20に達していたが、今は21まで成長していた。もちろん、限界にも個人差はある。様々な要素から算出されるため、20という数字は目安にすぎない。

 ただ何となく、迷宮が原因な気がした。

 心臓の穴は迷宮によって塞がれたが、それによって補強されたのではないか。

 もしくは、ミューチュラーに変異したことで人の(かせ)が外れたのではないか。


 メイはもちろん、誰に聞いても答えは得られないと思う。

 これまでの冒険者生活で、ミューチュラーという単語を耳にしたことがない。

 はっきりしているのは、フィルのような速度は望めないということだろう。フィルの場合、四足歩行や体形に寄るところが大きい。折角の限界突破だが、俺が人間の形を保っているかぎり限界の壁に大きな差はないはずだ。


 走りながらステータスを開き、視線を下げていく。

 メイに救われてから色々と変化したが、変わっていないこともある。

 家族を失い町も捨てたのに、俺の称号はリードヴァルト男爵家の次子のままだった。

 理由の見当は付く。

 貴族の身分が称号化するのは、世界に与える影響が強いからと言われている。たとえ町が陥落しても、俺には後継者の資格があった。

 そして世界の法則は、継ぐか継げるか、当人や貴族の意向も気にしないだろう。ただでさえ、人の心は移ろいやすい。そんなことまで対応していたら、称号は引っ切りなしに変化してしまう。

 だから変化は資格の喪失を意味するが――俺はどうでも良い。

 次子の称号は父の資格と連動している。変化した場合、父も資格を失ったということだ。

 リードヴァルト男爵でないと気付いたとき、父はどう思うだろうか。


「難しいな……」


 まだ取りかかってすらいないが、エサルドが達成できなかった蘇生薬を簡単に調合できるとは思えなかった。

 それに考えることが多すぎる。

 世界がどう動き、俺の行動がどんな影響をもたらすのか。

 その判断ができるだけの知識はなく、余裕もなかった。

 ステータスを閉じ、視線を戻す。

 いずれにしても、まずはエサルドの研究資料の入手だ。その後は足場を固める。

 あれこれ考えるのはそれからだ。


 その後、『跳兎』で崖を駆け上がり、見かけた魔物は相手をせずに引き離していく。

 そして最速での移動を開始してからほどなく、俺は現在位置を確かめようと大木を駆け上がった。

 勢いをそのままに空中へ飛び出し、『跳兎』でさらに跳躍する。

 開けた視界を見渡すと、森は東西に伸び続け、北は低山、南には草原が広がっていた。

 シルヴェックは見当たらないので、とっくに通り過ぎたらしい。

 ということは――。


 北を見つめ、低山の先へ目を凝らす。

 見覚えのある稜線。

 あの山の麓には、リードヴァルトとセレンを繋ぐ街道が走っている。

 落下しながらテスを思い浮かべた。

 帰りに寄ると約束したが、今でも待っているだろうか。


 少し考え、首を振る。

 たった数日の付き合いだ。それにリードヴァルト陥落は時間の問題で伝わるはず。

 覚えていたとしても待ちはしないだろう。

 俺は視線を戻し、全身で風を受けながら飛び移る先を見定める。

 そして『跳兎』を発動しようとした瞬間、獣人の聴覚が嫌な音を捉えた。


 即座に方向転換し、黒い影を回避する。

 横をすり抜けて急旋回するそれに向け、《雷衝の短矢(ショックボルト)》を放った。

 一瞬の明滅と同時、焦げた臭いが鼻を突く。

 枝に着地すると、落下する影を見る間もなく周囲を見渡した。

 四方から接近する不快な音。

 あれは――巨大な蚊?


 正体はヴィーギンという蚊の魔物だった。

 手の平二つ分ほどの大きさで、返しの付いたダガーのような口を俺に向けている。

 東の湖沼地帯はさすがに遠い。近くに沼か湖があるのか。


 強さはセレンで大発生した甲虫ボルニスと同じくらいだった。

 数は二十匹以上と多いが、敵ではない。

 ただ魔石は期待できないし、素材に価値があるという話も聞いたことがなかった。相手をするのは時間の無駄だ。


 正面から飛来するヴィーギンを迅風のシミターで斬り落とし、《雷衝の短矢(ショックボルト)》で迎撃する。

 そして道を切り開くと、速度を上げて一気に引き離した。

 機動力は高くとも、移動速度はそれほどでもない。徐々に群れを引き離し、羽音がだいぶ(とお)退()いた頃、今度は別の羽音を聞きつけた。

 振り返ってみれば、蜻蛉(トンボ)の魔物ドレッペンだった。


 高高度から急降下し、次々とヴィーギンを捕食していく。

 この世界でも蜻蛉は天敵らしい。ヴィーギンは立ち向かおうともせず、必死に逃げ回っていた。

 ドレッペンの魔石ならほしいが――また今度にしよう。あれに巻き込まれたくない。

 後方で繰り広げられる食物連鎖から視線を外し、俺は旅を再開した。


 それからはヴィーギンやドレッペンに遭遇せず、代わりにお馴染みの魔物や冒険者を何度か見かけた。

 魔物はともかく、人間は面倒である。

 冒険者の気配を察知したら、大きく迂回してやり過ごした。

 そんな旅は翌日まで続き、昼過ぎ、森は唐突に途切れた。


 目の前には草原、その先には別の森林が広がっている。

 北の方角を眺めてみれば、イルサナ村が霞んで見えた。

 復興に向けて動いていると思いたいが、経済規模を考えると、ウォルバー伯はラプゼルの町を優先するだろう。

 今の俺にできることはない。

 俺は振り切るように視線を外し、セレン領へと踏み入った。



  ◇◇◇◇



 夕日に染まる尖塔と外壁。

 滞在した時間は短くとも、外から見上げた回数はリードヴァルトよりも遥かに多い。

 遠くに見える景色に郷愁を感じながら、小麦畑に伸びる街道を進んでいく。

 閉門まで時間がある。

 俺は門衛に止められることもなく、東門からセレンの街に入った。


 (のき)を連ねる露店や曲がりくねった路地。

 見慣れた光景を眺めながら大通りを進むと、しばらくしてロラの実家、ブレオス商会が見えてきた。

 大口の注文でも入ったのか、停められた馬車に従業員が木箱を運び込んでいる。

 その近くには、ロラの父親コルトンが別の商人と談笑していた。


 耳の感触を確かめ、コルトンの横を通り過ぎる。

 一瞬、こちらを窺う視線を感じたが、コルトンは俺に気付かなかった。

 数回会ったくらいでは『獣化』を見抜けないようだが――油断しない方が良いだろう。

 セレンには庭師のノルトと同じくらい、付き合いの深い人物が多かった。彼らなら獣人の少年に俺の片鱗を見出すかもしれない。


 今のところ、獣人とアルターを結びつける情報はないはずだった。

 そしてブラスラッド侯は獣人と関わりがあり、寄子には祖父のトーディス子爵もいる。母のヘンリエッテを取り返しても不自然ではない。

 疑うとしたらそちらだろう。俺が獣人の姿で彷徨っているとは、まず考えない。あまりにも飛躍しすぎている。


 だからこそ、今の姿がアルターと知られるのは避けなければならなかった。

 今後の行動に制約を受けるだけでなく、ヴェロットなら暗殺未遂現場や板の向かった痕跡から、深殿の森に何かあると考えても不思議はない。

 セレンには長居できないな。早く用件を済ませよう。

 俺は商人を送り出すコルトンを背中に感じながら、先へと急いだ。


 十字路を通り過ぎ、しばらく進んだところで南の路地に入る。

 そして記憶を辿りながら右折と左折を繰り返すうち、二階建の一軒家が見えてきた。

 目的の家を通り過ぎ、周囲を適当に歩き回る。

 出会った者、見かけた者を片っ端から『鑑定』したが、怪しい人物は見当たらなかった。

 見張りはいない。

 家まで戻ると、通行人が切れた瞬間を見計らって素早く接近、『跳兎』で開いている二階の窓から侵入した。


 そこは書斎だった。

 ほとんどの壁が書棚で覆い尽くされ、文献や書類、小さな木箱や瓶が隙間なく収められている。入りきらない分は、床の一部や執務机の上を占拠していた。

 あの人らしい部屋だ。

 さて、気付かれる前に見つけたいが――ちょっと無理か。

 これだけの書籍や資料から目的の品を見つけ出すのは難しいし、ここにあるかも分かっていなかった。

 直接、尋ねるしかなさそうだ。


 薄暗い室内で待っていると、ほどなくして階下の気配が動き出し、階段を上がる音が聞こえてきた。

『獣化』を解除して元の姿に戻ると同時、扉が開く。

 紅茶の香ばしい香りとランタンの灯りが流れ込み、俺の姿が浮かび上がると、家主の細い目がわずかに開き、手のカップが床に落ちた。


「お久しぶり――でもないですね。ずいぶん昔に感じますが」

「アルター君……?」


 俺が頷くと、ラッケンデールは割れたカップを踏みつけながら駆け寄ってきた。


「無事だったんだね、アルター君!」

「ええ。一応は」


 抱きつかれながら、俺は微笑を浮かべる。

 この感触も久しぶりだった。慣れたくもなかったが、そう思うことすら懐かしい。

 ぺたぺたと俺の身体を点検しながら、ラッケンデールは質問を浴びせてくる。


「いつ戻ったんだい!? 怪我は!?」

「ついさきほど。怪我もありませんよ。正確に言うとありましたが、すでに完治しています」


 俺がそう言っても、ラッケンデールは離れようとしなかった。

 心配してくれるのは心底嬉しいが、それに浸っていられるほどの余裕はない。

 触られるがままに任せ、俺は切り出す。


「ラッケンデール先生に伺いたいことがあります。エサルド・サイジートの研究資料はお持ちでないですか」


 その途端、ラッケンデールの動きが止まった。

 表情を消し、無言で俺から離れる。


「学院長から聞いているよ。アルター君の家族がどうなったかも」


 (ほの)かな灯りに照らされた目は、見たことのない厳しさを(はら)んでいた。


「禁薬が何をもたらしたか、君も見ただろう」

「僕はあんな目に遭わせませんよ。エサルドとは違う」

「彼もそう思ったのではないかね。自分は違うと、優秀な錬金術師だと」


 明確に拒絶するラッケンデールから視線を外し、セレンの街並みへ向ける。


「評議員のキューテス・イプジットは、多くの魔法技術が失われたと教えてくれました。もしそれが事実なら、古代には蘇生魔法が存在していたかもしれません。そして蘇生魔法があるなら、蘇生薬も存在していたはずです。何より、僕とエサルドには決定的な違いがあります」


 視線を戻し、ラッケンデールと正面から向き合う。


「さきほど、先生は答えを口にしましたね。そうです。僕の家族はすでに死んでいるんですよ。息絶えていく大切な人を、無力感に(さいな)まれながら見守っているわけじゃない。僕に焦る理由はありません。不確かなものに飛びついたりもしません。何年掛かろうとも完成させますよ。それでも失敗したら――けじめはつけます」


 ラッケンデールは鋭い眼光のまま、()(はか)るように俺を見据えた。


「蘇生薬なんて()(とぎ)(ばなし)にも登場しない。君は家族の死を弄ぼうとしている。そして失敗したときは、家族の姿をした存在を手に掛けねばならない。その覚悟が本当にあるのかい?」

「もちろんです」


 即答する俺に、ラッケンデールは深く、静かにため息を吐いた。

 そして首を振りながら書棚に歩み寄ると、資料に手を伸ばす。


「評議会に命じられて、研究資料の写しは破棄したよ。でも、分析したときのメモは残してあるんだ。素材を消してあるから、これだけで禁薬を再現するのは不可能だからね。とは言っても、まとめて保管するのは不用心だし――これとこれ、あとは……」


 積み上がった資料を(めく)りながら、ラッケンデールはページを抜き出していく。

 どうやら別の資料の中に分散して保管していたようだ。

 そんな作業をしばらく繰り返し、最後に重ねた羊皮紙を紐で束ねる。


「素材は覚えているね?」

「大丈夫です」

「うん。ところで……」


 ふと何か思いついたようで、ラッケンデールは小首を傾げた。


「僕が持っていなかったら、魔法ギルドの乗り込むつもりだったのかい?」

「そうなりますね。セレンに居座らないのを条件に、資料の写しをもらいますよ」

「自分の立場を脅しに使うのかい。君は相変わらずだ」


 薄暗い室内で、俺とラッケンデールは笑い合った。

 もし魔法ギルドに話を持ち掛けたら、彼らは二つの選択を迫られたと思う。

 貴族の息子を殺害するか、資料を渡して追い出すか、だ。


 絶対ではないが、後者を選ぶ可能性が高いと思った。

 評議会が資料を隠蔽した最たる理由は、エサルドがヴィールア公の宝を盗ませたことにある。だから素材さえ抹消すれば、外に出たとしてもセレンは直接の被害を受けない。

 またラッケンデールが言ったように、蘇生自体は禁忌ではなかった。できないものを忌避する意味がないだろう。

 とはいえ、禁薬エサルドはレヴァナントを生み出すポーションであり、出回れば世界に混乱を巻き起こすのは確実だった。そんな研究をセレンでさせたら、結局は自治が危うくなってしまう。

 そして領土を奪われた貴族の息子でも、殺したことが発覚すればやはり疑いの目が向けられる。評議会がセレンを守るためには、資料を渡して追い出すしかないわけだ。


 それはラッケンデールも分かっていると思う。

 心配してくれながらも引き留めなかったし、どこに行こうとしているのかも聞かなかった。

 俺はしばしの間、恩師と短い言葉と無言を交わした。そして別れの挨拶を切り出そうと口を開きかけたとき、接近する気配に気付いて視線を動かした。

 ただの通りすがりかもしれない。

 しかし、この気配は――。


 俺の疑念を嘲笑うように、気配はラッケンデールの家に侵入してきた。

 困惑が増す中、気配は階段を上がり始める。

 そして慌てて暗がりに移動すると同時、扉が開いた。


「ただいま戻り……どうしたんですか!? カップが割れて――」


 部屋に入ってきた女性は、すぐ割れたカップに気付き、片付けようと屈み込んだ。

 それをラッケンデールが制止する。


「手を滑らせてね。良いよ、僕が片付けるから」

「そうですか? では、夕食の支度をしますね」


 女性はラッケンデールに笑いかけ、部屋から出て行った。

 遠ざかる気配に呆然としながらも、暗がりから進み出る。

 今のは舞踏の講師、ロレッタだ。

 なぜラッケンデールの家にいるんだ?


「僕の妻だよ」

「は?」


 唐突な発言に、間の抜けた声が漏れてしまう。


「気付いたら一緒に住んでいたんだ」

「ええと、意味が分かりません」

「僕もだよ」


 首を振る俺に、なぜかラッケンデールも深く頷いていた。


「教え子だったんだけど、卒業と同時に求婚されてね。もちろん断ったし、錬金以外に興味がないって伝えたよ。でもまあ、彼女にも事情があるみたいなんだ。大事な教え子のためだからね。僕で良ければ、いくらでも利用されるさ」


 どんな事情かは知る(よし)もないが、男のところに逃げ込んだのなら、そういうことだろう。

 よほど相手が気に入らなかったらしい。

 ただ事情はともかく、ロレッタは本気な気がした。

 言葉の端々に親愛を感じたし、以前、『魔道具作成』に没頭していたときも、わざわざ部屋まで様子を見に来ている。利用しているだけの関係とは思えない。夫婦の情がなかったとしても、親子に近い感情は抱いていると思う。

 それはそうと――教え子のためなら、か。

 俺は資料を持ち、深く頭を下げた。


「ラッケンデール先生、感謝します」

「うん。無理をしないようにね。死んだら駄目だよ?」


 その言葉に、自然と苦笑が浮かぶ。

 きょとんするラッケンデールに、俺は静かに頷いた。


「分かりました。死なないよう、気をつけます」



  ◇◇◇◇



 大通りに戻った頃には、すでに陽が落ちていた。

 商店の多くは閉店し、代わりに酒場が賑わっている。

 そんな暗い夜道を獣人の姿で進んでいると、灯りの漏れる小さな店を見つけた。

 窓から覗くと、セレンらしくポーションや素材が並んでいる。俺は店に入ってオークの魔石を売却し、万一に備えて低品質のヒーリングポーションを購入した。

 差し引きで金貨一枚を手に入れ、それを小袋に放り込む。


 暗い夜道に戻り、再び歩き出す。

 ほどなくすると、見慣れた建物が見えてきた。

 冒険者ギルドだ。

 前を通りながら中を窺ったが、受付のレベッカやハレイストはいなかった。

 当然、『破翔』も。


 彼らがセレンに戻るはずもなかった。

 あの鞄は魔道具になる前から愛用していた。気付く者も多いだろう。


 そういえば――サミーニから預かっていたマジュマグの像も奪われてしまったな。ナルバノの剣もか。魔道具にするため魔法の鞄(テルパーズ・バッグ)に入れていたんだっけ。

 マジュマグの像は足が付きやすいから破壊すると思う。ナルバノの剣は売られるか。あれは平凡な作りだから、製作者本人でないと見分けが付かない。まあ、Cランクの『破翔』には端金だ。他の品と一緒に、どこかに廃棄されるかもしれない。

 いずれにしても、いつか二人に詫びないとな。

 そんなことを考えながら、俺は思考を切り替える。


 ラッケンデールのおかげで研究資料は入手できた。

 次に必要なのは錬金器具だ。さきほどの店で買っても良かったが、繊細なガラス器を抱えて移動するのは躊躇われる。ファスデンかシルヴェックで購入すべきだろう。

 購入資金は問題ない。以前、遭遇した冒険者と追跡者から金銭を拝借しているし、ここまでの道中で何度も魔物を見かけた。少し狩りをすれば、必要な資金を集められるはずだ。


 そして錬金器具が手に入ったら資料を――いや、ポーションが先か。

 深殿の森は未知数だ。俺やフィルでもいつ怪我をするか分からない。ヒーリングポーションは潤沢に、それ以外のポーションも揃えておきたい。

 しかし、研究を始める前にやることが多いな……。

 

 何気なくラッケンデールとの会話を反芻し、ふと思う。

 迷宮に籠もると決めた後、自分の行動に疑問を感じた。

 小太りに家族の魂を保護してもらったが、いっそのこと、蘇生してもらえば良いのではないかと。

 (もり)(てん)()の身体を複製し、俺を蘇生させた。家族だって簡単なはずだ。

 

 だが、今回は小太りに責任はない。

 地球の神に約束したようだが、あれから十三年の歳月が流れている。今の状況を責めるのは筋違いだろう。そんな小太りに魂の保護を頼んでも、声は届いてないかもしれないし、頼みを聞くほどの義理も小太りにはなかった。

 それに、蘇生は俺が望んだことだ。自身の手でやらなければならない。


 沈みかけた気持ちを振り払うように首を振る。

 そのとき、大きな音が()()を打ち、反射的に顔を上げた。

 閉門の時間か。それにここは――北門?


 習慣なのか、いつの間にか十字路を曲がっていたらしい。

 呆然と眺める俺の横を、閉門前に滑り込んだ冒険者や商人が安堵の表情で通り過ぎていく。

 それに誘われて顔を動かすと、石灰おばさんが店を閉めるのが見えた。

 俺の視線に気付き、石灰おばさんは手を止める。


「買い物かい?」


 無言で首を振ると、肩をすくめて店内に戻っていった。

 その背を見送り、暗い路地へ視線を動かす。

 ラッケンデール以外に会うつもりはなかったが――。


 しばらくその場に佇み、俺はふらりと路地に入った。

 通い慣れた道を踏みしめ、狭く、暗い路地を進んでいく。

 近付くにつれ、複数の気配が強くなり、掛け声と子供の笑い声が大きくなった。

 そして庭先が路地の向こうに見えてくると、俺は『隠密』を発動し、『跳兎』で近くの建物の屋上へ飛び移った。


 裏の集合住宅の屋根から見下ろせば、暗い庭に立つニルスの姿が飛び込んできた。

 俺が譲ったシャムシールを腰に下げ、真剣な顔付きで構えている。

 エリオットとニルスは、両親に冒険者になると伝えるため帰郷したはずだ。戻ってきたということは、無事に許可をもらえたのだろうか。


 俺が見守る中、ニルスは柄に手を置き、気合と共に鞘を(はじ)いた。

 抜き放たれたシャムシールの剣身が(ひるがえ)り、星灯りに煌めく。

 しかし弾く力が強すぎたのか、鞘は勢い余って輪を描き、ニルスの後頭部を直撃してしまった。

 見学していた子供たちから、一斉に笑い声が巻き起こる。


 庭の片隅にいるのはクインスとカイル、ジニーの三人だったが、それ以外にも見たことのない子供が四人いた。


「くそ、もう一回!」


 ニルスはシャムシールを鞘に納め、再び集中した。

 他にやるべき練習があるだろうに――。

 苦笑いを浮かべつつ、意識を元の自宅へ向ける。


 居間にはクランのメンバーが全員揃っていた。

 テッド、ジェマ、ネイルズ、エリオット、タルヴィットまでいる。

 彼らはテーブルを囲んでいたが、夕食ではなさそうだ。そちらはデイナとリリー、エミリの三人がキッチンで準備している。

 テッドたちが何を話しているのか気になったが、子供たちの笑い声や料理の音に掻き消され、獣人の聴覚でも聞き取れなかった。

 ただ何となく、俺やリードヴァルトについて話している気がした。

 タルヴィットの祖父は、評議員のキネール・サブロワである。ラッケンデールが学院長から聞いているなら、タルヴィットが知っていても不思議はない。

 それに冒険者ギルドも情報を掴んでいるはずだ。レベッカなら軽率な行動を取らないよう、テッドたちに忠告すると思う。


 また鈍い音が響き、子供たちの笑い声が庭に満ちる。

 ニルスは悔しがりながらも、なぜか一緒に笑っていた。

 その目がちらりと居間に向くのを見て、ニルスの目的を察した。

 話を邪魔されないよう、子供たちの相手を買って出たらしい。

 そういう一面もあったんだな、あいつ。

 感心しながら眺めていると、不意に裏口が開き、デイナが顔を出した。


「夕食ができましたよ」


 それを聞いた途端、子供たちは跳ねるように立ち上がり、家の中へ駆け込んでいった。

 すっかり皆の母親代わりになったようで、デイナは微笑でそれを見送る。

 騒々しくなる居間に俺も立ち上がった。

 皆、元気そうだ。次はいつになるか分からないが、また様子を見に来よう。


 そんなことを思いながら(きびす)を返したとき、エミリの声に耳に届く。

 内容は聞き取れなかったが、エミリの問いかけに子供たちが返事をしていた。

 そしてすぐ、居間に集まっていた子供たちが四方に散り始めた。

 ため息を吐きつつ、指先を伸ばす。


「お前を探してるぞ」


 突っつかれた小屋根様は、俺の隣でくるりと回転した。

 まったく、いつの間に抜け出したんだか。

 回り続ける小屋根様に呆れていると、エミリが小屋根様を呼びながら二階へ向かい、子供たちも呼びながら駆け上がっていく。

 家にいないと気付かれるのも時間の問題だった。


「あいつらを頼む。屋根様にもよろしく伝えてくれ」


 漂う板を指先で(つま)み、空中へ押し返した。

 小屋根様は躊躇するように漂っていたが、呼ぶ声に引き寄せられ、二階の窓から器用に戻っていく。


「あ、小屋根様!」


 居合わせた子供が叫び、気配が小屋根様に群がった。

 そして何やら話し声がしたと思うと、また裏口が開く。

 出てきたのはテッドだった。

 残影の剣に手を掛け、周囲に鋭い視線を送っている。

 ジェマもメイスを片手に庭へ出てくると、怪訝そうにテッドの隣に立った。


「どうしたんだ?」

「小屋根様は外から戻ってきたらしい」

「ふうん」


 ジェマは気のない返事をしながらも静かにメイスを持ち直し、その背後にすっとネイルズが並んだ。

 奇妙な緊張が張り詰める中、外に出ようとする子供たちをデイナとリリーが必死に押さえる。

 そして突然、窓が開いてエリオットが顔を出した。


「小屋根様に怪我はありません」

「じゃあ、ただの散歩かよ?」


 ジェマはメイスを下ろし、呆れ気味に首を回す。


「飯にしようぜ、テッド」

「ああ……」


 同意しながらも、テッドはその場を動かなかった。

 さきほどの警戒は消え失せ、今度は何かを期待するように目で周囲を見渡す。

 その視線は集合住宅の上に差し掛かり――俺を素通りした。


「誰もいないか。小屋根様、もう勝手に出るなよ?」


 言いながらテッドが裏口を閉じると、すぐ賑やかな笑い声が聞こえてきた。

 その様子を見下ろし、ふと思う。

 彼らに、無事を知らせるべきだろうか?


 一瞬浮かんだその思いは、悩む余地なく否定された。

 姿を見せれば、テッドたちは安心すると思う。そして俺の生存が気付かれる。

 セレンは俺と縁が深い。ヴェロット自身は不在でも、他の監視者が残っているはずだ。

 ラッケンデールや魔法ギルドは仕方がない。

 すべてに優先されるのは、エサルドの研究資料だ。入手するためには俺の生存を伝え、協力してもらうか説得する必要があった。


 しかし、彼らは違う。

 心の平穏のためだけに、生存を伝えるわけにはいかなかった。

 それにテッドたちでも危ういのに、小さな子供が隠しきれるとは思えない。伏せたとしても、子供というのは敏感だ。テッドたちの雰囲気が変われば、何かを察しても不思議はない。

 当然、監視者も気付くだろう。

 そして俺の生存に辿り着いたとき、バロマットはどう動くか。

 考えるまでもない。

 ヴェロットならテッドたちを人質に取る。そうなるよう、ユネクを仕向けたように。


 すべてを失った気になっていたが、間違いだった。

 これまでの人生は失われていない。セレンやリードヴァルトには、今も繋がっている者たちがいる。

 だからこそ、不用意な行動は控えなければならない。

 俺を気に掛けてくれる人ほど、バロマットには都合の良い駒となる。


「いずれ……いずれ、状況は変わるはずだ。そのときまで伏せるしかない」


 一人呟き、俺は視線を逸らす。

 帰ろう。迷宮に。




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