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第136話 学院三年目 ~新たな誓い


「まずはテッド、お前にはこの剣を贈ろう」

「え、あ――ああ!」


 魔法の鞄(テルパーズ・バッグ)から一振りの剣を取り出すと、テッドは慌てて受け取った。


「名は残影の剣。元は僕が予備として使っていた小剣だが、打ち直してテーバー鉱を纏わせた。使えそうか?」

「なんか、声みたいのが聞こえるけど……」

「大丈夫そうだな。魔道具に認められると、どんな能力があるか教えてくれるんだ。次はジェマ」

「おう!」


 元気よく返事し、ジェマは両手を差し出してくる。

 その上に乗せたのは手甲だった。


(こう)()(がん)(てっ)(こう)だ。クドルガの革や砕いた魔石を素材に使っている」

「頭の中で喋ってる!」

「こっちも大丈夫か。皆、無理だったら遠慮なく言ってくれ。能力は落ちるが、予備があるからな」


 二人は魔道具の語りかけに困惑しながらも、食い入るように見つめている。


 残影の剣は『斬撃強化』や『剣速強化』、『最高速強化』など、あらゆる速度を向上させる魔法の剣だ。

 対して、硬土の岩手甲は『耐久力強化』など防御主体の構成である。

 一日二回、《礫土の盾(アースシールド)》を発動でき、素の状態でも高い硬度を誇ることから、打撃武器としても使用可能だった。

 どちらの魔道具もスキルランクは2から3だが、特化しているのでCランクでも通用するだろう。


「ネイルズは――すまんが、それなりの魔道具だ」


 少し動揺したネイルズだったが、次々と魔道具を渡され、ぽかんと口を開ける。


「軽量の小剣、頭骨のバックラー、飛翔のスリングの三点セットだ。剣は説明不要だな。バックラーはゴウサス牛の頭骨で、『修復』スキル付きだ。よほどでなければ勝手に直るぞ。飛翔のスリングは投石の飛行速度が向上する。ネイルズは状況に合わせる戦い方だからな。こうなってしまった」

「ありがとうございます!」


 ネイルズは笑顔で魔道具を抱えると、ジェマがちょっと羨ましそうに眺めていた。

 全部合わせても硬土の岩手甲の方が高価だからな? 言わないけど。


 そしてエリオットには連撃の剣、ニルスには鍛錬に使っていたシャムシールを打ち直した(えん)(じん)のシャムシール、ヨナスには(ゆう)(えん)の指輪と三年間使っていた錬金器具を譲った。

 連撃の剣は『二連撃』が発動可能となり、習得済みであれば発動を補助してくれる。

 円刃のシャムシールはテッドの残影の剣には及ばないが、『斬撃強化』と『剣速強化』の魔道具だ。

 そして誘炎の指輪は、ラッケンデールから譲ってもらったシューミーの魔石を使用している。一日に一回、保有者依存で《火炎の短矢(ファイヤーボルト)》が発動でき、さらに生活魔法《火口(フリント)》の消費をかなり低下させる。魔力勝負の魔法使いなら重宝するだろう。

 それと錬金器具を譲ったのは、人数が増えたためロラの報酬だけでは(こころ)(もと)ないからだ。ヨナスが『調合』を行えば、ポーションに関しては安泰である。


 テッドたちは握りを確かめたり、互いの魔道具を見せ合った。

 盛り上がる冒険者組から視線を外し、ランベルトへ向ける。


「後回しにしてすまんな」

「俺にも? いや、受け取るわけには……」


 ランベルトは驚いた顔で首を振ってきた。


「分かってる。お前とフェリクスはケーテンの騎士が目標だ。剣はまずい。かといって防具はこちらの都合上、魔道具にしづらくてな」


 俺は二振りの剣を、ランベルトとフェリクスに差し出した。


「どちらも頑強の剣という。『耐久力強化』と『修復』付きで、『耐久力強化』はランク4だ。生半可では破損しないから、普段でも鍛錬でも好きなように使ってくれ」

「しかし……」


 ランベルトはまだ拒否しようとしたが、にこやかに待ち受けるサミーニに気付き、静かにため息をついた。

 二人は受け取ると、顔を見合わせ頷く。

 どうやら問題なく扱えるようだ。


 続いてロラに(せい)(ひつ)のネックレス、リリーに(せい)()の腕輪を渡す。

 こちらも用意されていると思っていなかったようで、あたふたしながら受け取った。


 静謐のネックレスは一日二回、《集中力上昇コンセントレーションアップ》が発動でき、(せい)()の腕輪は『土魔法1』の固定値を持ち、生活魔法《一握の土(ハンディソイル)》の発動を補助する。

『調合』するロラ、そして庭園仕事のリリーには打って付けの魔道具だ。

 特にリリーは、今もメロックに食事をあげてるそうだ。

 いずれ、『精霊交誼』無しの精霊使いが誕生するかもしれない。


 ちらりと見やれば、エルフィミアは腕を組んで待ち構えていた。

 目で詫びて、クインスたちを呼び寄せる。


「お前たちに魔道具はまだ早い。クインスとカイルには耐久力強化のダガー、エミリとジニーには斬撃強化のナイフだ」

「あげてるじゃない」

「ちょっと待ってなさい。順番だから」


 エルフィミアを押さえつつ、クインスたちに話を戻す。


「魔道具と言っても日常で使える程度の代物だ。大事にする必要はないぞ」

「はい!」


 四人は大喜びで受け取ると互いに見せ合い、テッドたちに報告へ向かった。

 そんな姿を微笑ましく見守るデイナへ、俺は手招きする。

 きょとんとした後、デイナはすぐに青ざめた。


「わ、私は……」

「デイナにはずいぶんと面倒を掛けた。そのお礼と思ってくれ」


 必死に拒絶する手をひょいと捉え、ブローチを握らせる。


「活力強化のブローチだ。牧場の仕事をしても以前より疲れにくくなるだろう。盗難を避けるため銅を主体にし、少しだけ銀を混ぜた。装飾も地味だから興味を引かれないと思うが、念のため服の裏側に付けてくれ」


 怖いものを持たされたように、デイナは硬直してしまった。


 セレンの一般家庭ならそこまで魔道具は珍しくないが、その日その日を生きている貧民にはまず手が出ない。とはいえ大した魔道具ではないから、気にせず使ってもらいたい。


 そして最後に残ったエルフィミアの前に立つ。


「お前の魔道具は特殊でな。説明が必要だから後回しにさせてもらった」


 そう言って渡したのは、ペンダントだった。

 ミスリル銀とテーバー鉱含有のプラチナ製だが、テーバー鉱の影響かブロンドのような色合いである。


「へえ、ペンダント?」

「形状はな。ペンダントトップは外れないようになってるから、ネックレスだと思ってくれ」


 エルフィミアは興味深げに手の中へ視線を落とし、ぴたりと動きを止める。

 そして信じられない物を見るような目付きになり、両眼がいつもの光を帯びた。

 脳内の情報と、『基礎鑑定』の結果を照らし合わせているようだ。 


 やはり装身具には興味が惹かれるらしく、ロラとリリーが覗き込んでくる。


「綺麗なペンダントですね!」

「ペンダントトップは球形の枝ですか。エルフィミアさんにぴったりですよ」


 それを聞いてエミリとジニー、再起動したデイナも遠巻きに眺め、感嘆の声を上げていた。


 ちょっと悲しいが、当然の反応だろう。

 他の魔道具はケイティの助言をもらいながらも俺の作品だった。

 しかしエルフィミアのペンダントだけは、ほぼ本職のケイティが手掛けている。俺がやったのは、大まかな土台作りと魔道具化の作業だけだ。

 別にエルフィミアを優遇したわけではない。

 想定した効果を発揮するには、俺の装飾技術では不可能と判断したからだ。そしてもちろん、エルフィミアを釘付けにしているのは美麗な外観ではない。


「嘘でしょ……精霊召喚?」

「小物だけどな。名前は()(かい)の首飾り。火精霊のシューミーを呼び出す魔道具だ。ただし、発動できるのは一日一回で、召喚に魔力を消費してしまう。数も追加の消費魔力に依存するから、仮契約の魔道具に近いな。不便なところもあるが、お前なら消費魔力は気にならないだろ。気楽に呼び出してくれ」


 言葉の意味が分かったのか、エルフィミアは驚いた様子で俺を見る。


「だけど、それならあんただって……」

「ああ、それはあれだ。僕には不要でな、うん」


 強烈な視線を浴び、さっと目を逸らす。

 その先でリリーも顔を強張らせ、遠くを見つめていた。


 精霊魔法は希少なので、硬く口止めしていた。

 また、エルフィミアが精霊魔法を習得したがっているのも知らなかったのだろう。


 そんなエルフィミアに習得方法を伝えなかったのは、土属性の資質が低いからだ。

 長年、庭園仕事に携わってきた学院長でも、メロックは寄りつかなかった。

 俺は小太り譲りのチート、リリーは植物に対する愛着から土壌への感覚が鋭い。

 エルフィミアでは無理だ。

 そして火の精霊サルカーも、似たような理由である。

 自然の状態で発見したのは一体だけだったし、サルカーは相当に気難しかった。チートの俺でもかなり手こずっている。


 それでも火界の首飾りを使ううち、精霊との関わり方、距離感が掴めるはずだ。

『精霊交誼』の資質さえ伴えば、いずれ出会う精霊との契約もスムーズに運ぶだろう。


 まだ半眼に向けてくるエルフィミアを(なだ)め、俺は肝心の説明を切り出す。


「火界の首飾りには隠された力がある。むしろ、そっちが本命だ」


 俺がペンダントトップを指差すと、エルフィミアは半眼を手の中へ向けた。

 絡み合った枝は球形の籠状になっている。

 気付いたようで、エルフィミアはペンダントをランタンの灯りに透かした。


「何か……入ってる?」

「オンクラム(こっ)(こう)の粒だ。人間は加工方法を知らない魔法金属でな。何を考えてるのか、こちらのギルド職員が報酬として寄こしてきた」

「アルター様なら加工できると確信しておりました」

「できなかったから。馬鹿にしてるだろ」


 一睨みしたが、サミーニは朗らかに笑って聞き流した。

 本当にこいつは――。


「ともかく、加工できなくとも稀少な魔法金属だ。利用方法はないかとあれこれ思案した。そして試行錯誤の結果――ペンダントトップを引き千切ると、オンクラム黒鉱が暴走します」

「……は?」

「暴発して、全部粉々になります」

「酷くなってるわよ!?」

「色々考えたらそうなった。まわりの状況に左右されるし、何が起きるかよく分からん」

「なんでそんな危なっかしいもの入れるの!?」

「面白そ――いや、なんでもない」


 睨み付けられ、慌てて口を閉じる。

 エルフィミアはチェーンを(こわ)(ごわ)と摘まみ、首飾りを突っ返してきた。


 折角、作ったのに。

 エルフィミアなら、暴走しても死んだりしないぞ。

 一般市民だと危ないけど。


「ちょっとくらい危険でも、お前なら使いこなせるって」

「危険を盛り込んだのはあんたでしょ! 千切れたらどうするの!」

「補強してあるから大丈夫だ。脆いのは魔道具としての中身だからな。相当な力を込めないと千切れんぞ」


 やんわり押し返すと、エルフィミアは嫌そうに顔をしかめた。


 火界の首飾りは本当に苦労した。

 ラッケンデールと相談し、ケイティにデザインを考えてもらい、それを何度も吟味してようやく形が決まっている。

 シューミーを召喚しようとすると、魔道具本来の魔力がオンクラム黒鉱に吸収されてしまう。そのために追加の魔力が必要だった。

 そして通常は垂れ流しになる発露を、枝を模した形状で抑え込んだ。これで充分溜め込んでから発露できる。

 だから暴発するといっても、実際には何度か発動して魔力を溜める必要があった。


 そう説明したが、エルフィミアの表情はまったく変わらなかった。


「溜めきれなくなったら、暴発するんじゃないの?」

「問題ない。オンクラム黒鉱は吸収できる魔力に限りがある。そうなったら発動の魔力消費が軽減するし、発露は完全に抑えられてないから、放置していれば減少していくはずだ。それに万が一があったとしても、お前なら状態が分かるだろ」


 はっとして、火界の首飾りを見やった。

 そう、彼女なら『魔眼:魔力視』で肉眼で確認できる。

 俺を含め、誰よりもうまく扱えるはずだ。


「そういうことなら、もらっておくけどさ……」


 とりあえず安全と理解したようで、エルフィミアは火界の首飾りを受け取った。


 実のところ、元々は別の魔石を用意し、魔法を発動する魔道具を作る予定だった。

 精霊召喚の魔道具にできたのは、ラッケンデールが魔石を提供してくれたからだ。

 それ以外にもラッケンデールの知識とケイティの装飾技術、魔法金属、そして俺の精霊魔法。

 これらが揃ったからこそ、稀少な精霊召喚の魔道具を生み出すことができた。


 ちなみにヨナスに渡した誘炎の指輪は、火界の首飾りの余った素材で(こしら)えている。

 ちょっと可哀想だから黙っておこう。


 さて、これで全員分を渡し終えたが――。

 やはり、勢いに流されなかったか。


 俺以外でテッドの様子に気付いたのは、ジェマだけだった。

 無言のテッドを不思議そうに眺め、ジェマは硬土の岩手甲に視線を落とす。

 そして皆が魔道具で盛り上がる中、テッドはおもむろに残影の剣をテーブルに置いた。


「さっき感謝すると言っていたが、感謝しなければならないのは俺たちだ。だから、こんな高価な物はもらえない」


 いきなりの発言に皆は驚いたが、ジェマだけが追随する。

 そしてネイルズも自分の魔道具を見つめ、テーブルに並べた。


 エリオットは迷っているようで、ニルスとヨナスの視線を受けても動かなかった。

 彼は貴族が見栄と(てい)(さい)を重んじるのを知っている。

 俺が当てはまるかはともかくとして、平民でも贈り物を返すのは非礼だし、貴族なら尚更だ。

 結局、明確に拒否したのはテッドたち三人だけだったが、リリーとデイナ、クインスたちも困惑した様子で顔を見合わせていた。

 時間の問題で、こちらも拒否してきそうだ。


 彼らの気持ちは分からんでもない。

 実際、俺もここまでするつもりはなかった。


 予備武器を魔道具化したとき、残影の剣が生まれた。

 ふとテッドに向いていると思い、譲ろうと考えたのが始まりだ。

 テッドだけでは不公平なので、他の者にも何か用意したい。

 気付けば、この有様である。


 大盤振る舞いなのは承知している。

 それでも誰かのために作るのは楽しく、やり甲斐があった。

 今までどおり売却用の魔道具だったら、火界の首飾りは当然、硬土の岩手甲や連撃の剣も生まれてこなかったと思う。


 そんな心情を知ってか知らずか、テッドが口を開く。


「安物の魔道具でも金貨数枚から数十枚だろ。残影の剣はいくらになる?」


 俺とサミーニが無言でいると、テッドはエリオットに答えを求めた。

 エリオットは困っていたが、諦めたように首を振る。


「最低でも金貨百枚です。オークションに掛ければ、さらにつり上がるでしょう。ジェマさんの硬土の岩手甲、僕の連撃の剣もです」

「百……!?」


 さすがに予想していなかったのか、テッドとジェマは絶句した。

 他の者も似たり寄ったりの反応で、平然としているのはエルフィミア、ランベルトとフェリクスくらいだ。ロラが驚くのは駄目だと思うが。


 しかし、想像以上に拒絶反応が強いな。

 確かにエリオットの見立ては合っているが、買ったらの話である。

 魔法金属は街道復旧の報酬だし、魔石や素材はほぼ現地調達だ。純粋な出費はほとんどない。そもそも、職人と消費者では価値に対する認識がまるで違う。


 それを口にしようとしたとき、エルフィミアが横から切り出す。


「別に良いんじゃない?」


 火界の首飾りを首から下げ、やや慎重にペンダントトップを摘まむ。


「拒否したところで、なんだかんだ言われて押しつけられるでしょ。『魔道具作成』の鍛錬になったとか、費用は手間賃だけとかね。おとなしくもらっておきなさい」


 身も蓋もない言い草だが――まあ、大体合ってる。

 それに宣言したとおり、俺にはどれも不要だ。彼らが受け取らないなら、売却か死蔵するしかない。そして現状、俺にとって金は一番ではない。


「言いたいことはエルフィミアが言ったから、別の理由を付け加えようか。『セレード』の由来は、セレンとリードヴァルトを繋ぐという意味らしいな」


 少し決まりが悪そうに、テッドは首肯する。


「では、『セレード』がリードヴァルトへやってきたとしようか。お前たちは腕を上げた。リードヴァルトでも草原や森の浅いところであれば、食うに困らないと思う。だが、僕の期待する戦力からはほど遠い。Cランク、せめてDランク上位の実力がなければ、他の冒険者と一緒だ。その程度なら、放っておいても集まってくる。だから、将来に投資するんだ。優れた冒険者の滞在は領主にとって利益。僕の魔道具がお前たちの成長に役立てば、より早く、リードヴァルトは利益を得られるんだよ」

「ほらね」


 ほらねじゃない。

 幸い、エルフィミアの軽口は聞こえなかったようで、テッドたちは真剣な表情でテーブルの魔道具を見つめていた。


「もちろん、僕自身もリードヴァルトの安定と繁栄に尽力する。見せるつもりはなかったが――」


 俺は魔法の鞄(テルパーズ・バッグ)から、細身の小剣を取り出した。

 プラチナで装飾された白い鞘を抜き払うと、サミーニでさえ息を呑む。


「剣の名はロシュマス。惜しげもなく魔道具を渡したのは、こいつがあるからだ」


 皆の視線はロシュマスに釘付けだった。

 唯一、エルフィミアだけは意味有り気な微笑を浮かべているが。



名称  :ロシュマス

特徴  :諸種を束ねる統御の剣。

     優れた統率者のみが真の力を引き出せる。

特性  :保有者やそれに心服する者の闘争心を奮い起こし、

     恐怖心を低減させる。

     保有者を視認できる距離であれば、すべての対象者に効果がある。

スキル :獅子奮迅、堅甲利兵

     斬撃強化2、耐久力強化3、危機察知2

     魔力の盾(1日3回)



 これがロシュマスの能力だ。

 エルフィミアに特性とスキルは見えてないが、特徴から能力を推察できる。

 ざっくり言ってしまえば、俺向きの剣じゃない。


『獅子奮迅』は特性どおりで、変性魔法の《精神力上昇(メンタルタフネス)》に似ているが範囲はかなり変則的だ。

 そして『堅甲利兵』は『獅子奮迅』を前提としたスキルであり、影響下にある者の能力をわずかに上昇させる。上昇率は影響を受ける総数と連動し、最大効果を発揮するには三桁以上が必要だった。


 ミスリル銀の扱いに慣れてきた頃、本気で作ってみたのがロシュマスである。

 驚くほど優秀な魔道具に仕上がったが、困ったことに支配者の剣だった。

 俺には使いこなせないので、父に献上するつもりである。


 とはいえ、皆に渡した魔道具――特に魔法の剣が不要なのも事実だ。

 帰路は適当な剣で代用するが、戻り次第、甲犀の剣とスティレットの魔道具化に着手する。同じ個体の魔石とマーカントたちから貰った地竜の鱗を使えば、残影の剣よりずっと強力な魔道具になるだろう。


 ロシュマスを収納し、皆を見渡す。


「優れた魔道具を売却したら、買い戻すのはまず不可能だ。販売価格と価値は等価ではない。赤の他人の手に渡るくらいなら、お前たちに使ってもらいたい」


 俺がそう言うと、テッドはテーブルに並ぶ魔道具を見据えた。

 そして力強く頷き、残影の剣を掴み取る。


「分かった。この剣に誓い、俺は強くなる。お前の役に立てるほどに」

「じゃ、あたしも!」


 ジェマが硬土の岩手甲に飛びつくと、ネイルズも手に取った。

 それを見てエリオットとニルスも誓いの言葉を述べ、ヨナスは「まあ、ほどほどに」と誘炎の指輪を軽く掲げる。


 まだ困っていたのは冒険者ではないロラ、リリー、デイナだった。

 俺が「皆を支えてやってくれ」と笑いかけると、ロラとリリーは笑顔で、デイナは困惑しながらも頷いた。


「私は誓わないからね」

「当たり前だ。宮廷魔術師に誓われても困る」


 偉そうに言い放つエルフィミアに、俺は苦笑を返す。

 そもそもこいつは、一度だけ命を捨てると宣言し、死んでも良いから呼べと無茶振りまでしている。今更だ。


 それより、こっちの二人だな。

 皆の行動を受け、ランベルトとフェリクスは悩んでいる様子だった。

 エリオットは明言を避けたが、頑強の剣はシンプルながら『耐久力強化4』と頭一つ抜けていた。それに『修復』スキルもついているので、手入れが最小限で済む。

 とにかく使い勝手が良いから、店頭に並べれば即座に買い手が付くだろう。


「最初に言ったが、感謝の気持ちにすぎん。重く考えないでくれ」


 俺が切り出すと、二人は渋い顔を向けてきた。


「それにケーテンはお隣だろ。ランベルトが活躍すればするほど、リードヴァルトも恩恵を預かれる。ちょっとした打算もあるんだよ」

「いや――それならば、俺も誓おう。ケーテンの繁栄にこの剣を役立てる」

「及ばずながら、私も誓います」


 そう言って、二人は頑強の剣を掲げた。


 全員、どうにか納得してくれたか。

 前世なら車や高級家電をあげるのと大差ない。やはり反発があったな。


 ただ俺がいないところで、強力な魔物と遭遇しないとも限らない。

 変に遠慮して彼らに何かあったら、自責で『精神耐性』ごと押し潰されてしまう。

 まあ、この分だと、次はさらに大変そうだが。




長くなったので分割します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読み返し中 ロシュマス、このときのアルターには向いていなかったけど、裏切られ後のアルターならば結構向いてそうだし、必要なスキルがそろってそう
[一言] 2話投稿されてます。
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