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第122話 学院三年目 ~座標点


「ごめんね、テンコ君。私も詳細は知らないの」


 開口一番、レベッカは申し訳なさそうに謝罪してきた。


 残暑が秋に抗う今日この頃、俺は指名依頼がどうなったか聞きに、冒険者ギルドを訪れていた。


「《妨土の壁(アースウォール)》を使える子供の冒険者がいるはずだから依頼したい、それしか仰らなくて」

「妙な話ですね。補修依頼だとしても、子供に限定する理由はありませんし」


 カウンターを挟み、俺とレベッカは首を傾げた。


『万年満作』から指名依頼の連絡を受けてから、五日が過ぎていた。

 エミリの問題で忙しかったためだが、まったく放置していたわけではない。

 連絡をもらった翌日にはギルドへ出向き、レベッカが留守だったので別の受付に「今は忙しい」と伝えている。

 ようやく手が空いたので確認しに来たのだが、キューテス・イプジットは未だに俺を待っていた。


「どうする? 無理に受けなくても構わないけど」

「今更、断れないでしょう。話だけでも聞きに行きますよ。受けるかは内容次第ですが」

「そうしてくれると助かるわ。正直な話、うちも評議員と険悪になるのは困るから」


 肩の荷が下りた様子で、レベッカは羊皮紙に住所を記す。

 それを受け取り、俺はキューテスの自宅へ向かうことにした。



 キューテス・イプジットは、新たに選出された評議員である。

 リスリアの後任は半年ほど前、私塾の講師であるムメル・テルシェインという女性に決まった。

 どちらもこれほど手間取ったのは、民間からの抜擢だからだ。

 三大学院や魔法ギルドの幹部、守備隊の総隊長であれば、評議会が選ばずとも自然と選出されるが、民間はそうもいかない。


 評議会に迎えるだけの実績か能力で、条件を満たしても受けるかは個人の自由である。

 半ば義務的に選出される学院長などとは、立場が違う。

 いきなり民間の評議員が二人も退任してしまい、候補選びはさぞかし難航したと思う。



 そんなキューテスの自宅はセレン南西部の西寄り、外壁に近いところにあった。

 我が家とほぼ正反対で、当然、この辺りも貧民街である。

 何度か通行人に道を尋ね、どうにか目的地に到着した。


 目の前にあるのは、煉瓦造りの粗末な平屋だった。

 敷地こそそれなりだが、隣家との隙間は狭く、庭もなさそうだ。

 ただ寝起きするだけの家――そう呼ぶのが相応しい。

 評議員が棲む家ではない。


 一見すると外壁に大きな損傷はないが、これだけぼろいと、やはり壁の補修依頼だろうか。

 評議員なら街道の復旧も知っている。

 懐具合が寂しく、Dランクの俺を指名したのかもしれない。


 扉をノックすると、しばらくしてやつれた中年の男が顔を出した。

 ()(ろん)げに眺める男へ、俺は一礼する。


「Dランク冒険者のテンコです。指名依頼の件でお伺い――」

「やっとか! 遅いよ、君!」


 キューテスは慌ただしく手を振り、俺を招き入れてきた。

 会釈しながら家へ入り、思わず足を止める。


 これは……どこを歩けば良いんだ?


 ヤルズ・アラスターの後任、キューテス・イプジット。

 その自宅はゴミ屋敷だった。


 いや――ゴミと呼ぶのは語弊があるか。

 大量に積み上がったのは、すべて研究資料や文献だ。

 そういえば、イスミラは民間の研究者と言っていたな。

 確かに研究者だ。どうしようもないくらいの。



 キューテスは羊皮紙の束や文献、何かの道具を器用に避け、辛うじて埋まっていない椅子に腰掛ける。

 そして玄関から動こうとしない俺に向かい、入ってくるよう促してきた。

 仕方ないので資料を踏まないよう、どうにか入室する。


「その辺りに座ってくれ」

「文献の山ですが」

「君が座ったくらいじゃ傷まないよ。それに大して重要な本じゃないから」

「はぁ……。ええと、立ったままで結構です」

「そうか? では早速、始めてくれ」


 キューテスは座ったまま、両手を開いた。

 それが指し示すのは、大量の研究資料。


 まさかとは思うが――片付けろと?


「キューテスさん、冒険者ギルドに依頼した内容を覚えておられますか」

「なんだね、いきなり。僕を馬鹿にしてるのか?」


 俺は依頼証を取り出し、キューテスに渡す。


「依頼内容は直接説明する、と書かれています。僕はそれを聞きに来たんですが」

「ああ、そうだったな。面倒なのが寄ってくると困るから、詳細を省いたんだった。すっかり忘れてたよ」


 キューテスは机と(おぼ)しき山積みに手を突っ込むと、魔法のようにカップを引っ張り出した。

 それを傾けつつ、依頼の説明を始める。


 俺の予想は少し外れ、片付けではなく引越の手伝いだった。

 評議員になったことで評議会から新たな屋敷を(あて)がわれ、そこへ荷物を運んでもらいたいという。


 まあ、冒険者が引越の手伝いをするのは珍しくない。

 おかしな点があるとしたら、それはFランクやEランクが受ける依頼であり、Dランク、しかもソロの冒険者をわざわざ指名しないということだ。

 さらに研究資料は室内に詰まっているから、ソロでなくとも重労働である。


「《妨土の壁(アースウォール)》を使える子供を指名したそうですが、補修作業も依頼に含まれているんですか?」

「いや、含まれてないけど」

「では、なぜ指名を?」

「君は優秀と聞いていたんだがね。そんなくだらない質問をするとは――残念だよ」


 キューテスは呆れた様子で首を振る。


 呆れたいのはこっちだ。話がまるで見えん。

 引越や片付けが得意なんて、言われたことも自負したこともないぞ。


「申し訳ありませんが、何のお話か分かりかねます」

「ヘレナは僕の教え子だ。そういえば分かるだろ」

「はぁ……元講師だったんですか」

「何年も前だけどね。講師の職はヘレナに譲ったよ」


 評議会、そしてヘレナの元講師。

 共通するのは《妨土の壁(アースウォール)》か。


 とはいえ、だからなんだという話である。

 質問の答えにはなってない。


 再度、目線で問いかけると、キューテスは見せつけるようにため息を吐く。


「まだ分からないのか、学院も質が落ちたね。その辺の冒険者では、僕の研究資料を理解できないからだよ。優秀な君なら研究資料をめちゃくちゃにせず、きちんと運搬できるだろ? 少々、怪しくなったけどね」


 酷い言われようだが、怪しいのは同感だった。

 積み上がった羊皮紙の束にそれとなく目を通したが、まったく意味不明である。


 どうやら魔法陣の分析らしいが――この世界の魔法陣は象徴でしかない。

 何を研究してるのかさっぱりだ。


「ご指摘のとおり勉強不足のようです。ですが、それ以前の問題です。一人でこれだけの資料を運んだら、どれほど日数が掛かるか見当も付きません。他の冒険者に依頼すべきです」

「それなら心配無用だ。魔法の鞄(テルパーズ・バッグ)があるからね」


 またもや本の隙間に手を突っ込み、古びた鞄を引っ張り出した。

 自慢げに突き出すそれに、頭が痛くなってくる。


 なんだろうな、このもどかしさ。

 魔法の鞄(テルパーズ・バッグ)があるなら、きちんと運搬もへったくれもない。適当に突っ込んで取り出すときに選別すれば良い。誰がやっても同じだ。


「なら、冒険者の手伝いは不要ですね」


 俺が口にすると、キューテスは驚愕する。


「僕に片付けろと!?」

「そうなりますか」

「できるわけないだろ! 僕は片付けが苦手なんだぞ!?」


 拳を握りしめ、キューテスは言い放った。

 なぜ偉そうに言えるのか。よく評議員に選ばれたな、この人。


 一向に進展しない状況にうんざりしつつ、俺は話を戻す。


「片付けが苦手なのは理解しました。でも、僕を指名する理由になっていません。もしかして、要点を避けてますか?」


 俺の言葉に、キューテスはぴくりと反応する。

 そして小声でぼそりと囁いた。


「……盗まれるからだ」

「は?」

「僕は失われた魔法技術を復活させようと試みてる! 研究成果が盗まれたらどうするんだ!?」


 鼻息荒く、キューテスは激白した。

 俺の心には、まるで響かないが。


 ともかく、この一言でやっと大筋が理解できた。

 広い屋敷を評議会から宛がわれたが、片付けは苦手だし、研究を盗まれるのを怖れて人も雇えない。

 そこで見つけたのが俺だ。

 学院生だから身分は保証され、ヘレナの教え子である。

 元講師のキューテスにしてみれば、孫弟子の感覚なのかもしれない。

 まあ、師弟の間こそ研究の盗難を危惧すべきだと思うが。


「念のため聞いておきます。失われた魔法技術とは、それほど重要な研究なんでしょうか」

「君は『魔術の神髄』を知っているか」

「アルファスのスキルですね」

「そう、あれこそが魔法技術が失われた証拠だよ。アルファスはあらゆる魔法を瞬時に改変、再構築することができた。それは魔法だけに止まらず、魔道具やゴーレムの製造にまで――」

「ちょっと待って下さい」


 捲し立てるキューテスを制止する。

 俺の知ってる話とだいぶ違うぞ。


「『魔術の神髄』は、魔力消費の低下や発動速度の向上と聞いていますが」

「それこそが改変、再構築の結果だよ。古くさい連中は否定するけどね。言っておくが、ヘレナも僕と同意見だよ。彼女も『魔術の神髄』を解明しようと(やっ)()になってる。僕が先に解明するけどね」


 そして火がついたように、キューテスは持論を語り出した。

 俺は耳を傾けながら、改めて研究資料を手に取る。


 魔法の改変と再構築――世界の法則を無視した能力だな。

 俺にそんな能力はないが、小太りに頼んでいれば可能だったと思う。

 アルファスの活躍を知り、転生者ではないかと疑ってはいた。

 だが、どうだろう。確信が持てない。


 キューテスは、魔法はもっと自由だったと熱弁している。

 それが事実なら、失われた魔法技術を操る超稀少スキルとも考えられる。

『魔術の神髄』のアルファス、『多重詠唱』のラプナス、賢人テルパーに傀儡師ククラ。

 アルファス一派以外でも、『解析』のアデリーナやSSランクの戦神スレイアス、獣神ゼベルなど、馬鹿げた逸話の持ち主はいくらでもいる。

 この世界のトップクラスは、俺と同等かそれ以上に才能がある者も少なくない。


 彼らが皆、転生者である可能性は極めて低いと思う。

 転生者であれば、必ず歴史に痕跡が残るはずだ。

 そもそも、俺のようなレアケースを当て嵌めるより、天然の天才と考えた方が自然である。


 ただ『魔術の神髄』の正体はともかく、キューテスの持論は正解だ。

 俺が転生したとき、小太りは転移の魔法を薦めている。

 この世界には転移――空間魔法が存在する。

 おそらく失ったのは魔法そのものではない。キューテスの持論どおり、操る技術だ。



 盗まれると恐れていた割に、キューテスの熱弁は続いていた。

 教え子に知識を伝授するのは普通の行為。

 ()()(きょく)(せつ)したが、この人は研究者でありながら、今も講師なのだろう。


 熱弁を聞きつつ、手元の資料へ視線を向ける。


 まあ、伝授されても困るけどな。

 魔法陣やら何やらを眺めても、『言語習熟』は一切、働かない。

 これが読めるなら、魔法書やスクロールだって読解できたはずだ。

 俺に『魔術の神髄』は解明をできないし、する気もない。

 だから、やるべきことをやるまでだ。


「キューテスさん」

「であるから――ん、質問かね?」

「ええ、本題の。依頼を受けます。報酬についてお聞かせ下さい。そちらも依頼証に記載がありませんので」

「金なら無いよ?」

「失礼しました」

「待った待った!」


 踵を返すと、キューテスは腰にしがみついてきた。


 無償で働かせるつもりだったのか。

 散々、勿体ぶっていたが、結局はこれが理由じゃないだろうな。

 俺の考察、どうしてくれる。


 冷たく見下ろす俺を、キューテスは引きつった笑顔で見上げてくる。


「金はないけど、代わりに良いものをあげよう! 魔法書だ!」

「どんな外れ魔法ですか?」

「し、失敬だな、君は!」


 言葉とは裏腹に、キューテスは大きく()(ろた)えた。


 信じられないのも当然だ。

 入手しやすい初級でも金貨十枚、引っ越し代には高すぎる。

 それにエルフィミア先生のおかげで、体系から外された魔法が数多く存在すると知った。

 大方、その中の外れだろう。


「この魔法は僕が開発したんだ! 自信作だよ!」


 うわぁ、益々やばそう。


「発動すると自爆するんですか?」

「何に使うんだ、そんな魔法! 魔法の名前は《座標点(リファレンスポイント)》、指定箇所に目印を付ける魔法だ!」

「お言葉をそっくり返します。何に使うんですか、そんな――」


 そこまで言い、俺は言葉を切った。

 目印――?


「魔法の詳細を教えて下さい」

「興味あるかい!? ヘレナが言ったとおりだ、君は見込みがあるよ!」

「それはいいから詳細を」

「あ、そうだね! 説明しよう!」


 素気なく促すも、キューテスは目を輝かせて説明を始める。


「《座標点(リファレンスポイント)》は初級の無属性魔法だ。視界にさえ入れば、どんなところでも指定できる。それに対象が動いても目印は外れないんだ。空飛ぶ鳥を指定すると、どこまで飛んでいっても目印は消えないし、どこに居るか手に取るように分かるんだよ」

「それは凄い。便利な魔法じゃないですか」


 絶賛するとキューテスは心底嬉しそうにしたが、すぐ笑顔を曇らせてしまう。


「でもね……目印を付けている間、ずっと魔力を消費するんだ。距離が離れるほど消費は増えて、しまいには一瞬で枯渇するほど上昇してしまうんだよ」

「なるほど、追跡には向きませんね。発動中に他の魔法は?」

「集中していないと途切れてしまうよ。他の魔法は使えないね」


 キューテスは悲しげに首を振ったが、それは『多重詠唱』でどうとでもなりそうだ。

 俺は質問を続ける。


「目印は誰でも見えるんですか?」

「残念ながら、術者だけなんだ。建設作業や測量用にどうかと思ったんだけど、他の人に見えないと意味ないだろ。あ、《魔法探知(マジックサーチ)》とか『魔力視』なら見えるけどね。知ってる? 魔眼の『魔力視』」


 問いに応えながら、俺は《座標点(リファレンスポイント)》について考える。


 この魔法は使えるかもしれん。

 少なくとも、試す価値はある。

 役立たずだったとしても、ただ働きで引越を手伝うだけだ。

 大した手間ではない。


「決めました。《座標点(リファレンスポイント)》の魔法書で依頼を受けましょう」

「え――本当に? 自分で言うのもなんだけど、失敗作だよ?」


 さっき自信作って言ったよな。まあ、良いけどさ。


「その魔法書でお願いします。是非とも」


 俺の言葉に、キューテスは押し黙った。

 そして震えだしたと思った直後、満面の笑顔で飛びかかってくる。

 く、ゴミだらけで逃げ場が。


「僕の魔法をそんなに評価してくれるとは! なんて素晴らしい日なんだ! 君のような教え子を持てて、僕は幸せだ!」


 中年のおっさんは俺に抱きつき、感涙していた。


 この人……ラッケンデールも教え子じゃないだろうな。



  ◇◇◇◇



 引越は夕刻前に終わった。

 片っ端から魔法の鞄(テルパーズ・バッグ)に放り込み、新しい屋敷でキューテスの指示に従って取り出していくだけなので簡単である。

 キューテスがすぐ脱線するのは困ったが、それもすぐに慣れた。


 適当に話を合わせ、相づちと一緒に次の指示を聞き出していく。

 無駄に時間は掛かったが、キューテスは好き勝手に話せて楽しかったようだ。


 その所為か、引越が済んでもなかなか帰そうとせず、泊まれとか言い出しかねなかったので、どうにか依頼完了のサインをもらって帰宅する。



 そして翌日、俺は新たに手に入れた魔法、《座標点(リファレンスポイント)》を試すべく森へ赴いた。


 自宅で最低限は試したので、基本は把握済みだ。

 消費魔力は、手持ちの初級魔法の中で一番少ない。

 また十秒ほどで同量の魔力が失われ、屋根の上から遠くの尖塔を指定すると、わずかに消費が増え、減少速度も速くなった。

 それでも大した負担ではないので、キューテスの言っていた「距離が離れるほど」は、相当な距離のようだ。


 近くに冒険者がいないのを確認し、倒木に荷物を降ろす。


「まずは小手調べだな」


座標点(リファレンスポイント)》で近くの小石を指定すると、光点が小石に付着した。

 さらに集中して『多重詠唱』、目標に《魔力の短矢(マジックボルト)》を放つと、魔法の矢は寸分違わず光点を貫き、石を跳ね飛ばす。


 次に二本の枝をそれぞれ指定する。


「右に一、左は二」


魔力の短矢(マジックボルト)》を『多重詠唱』すると、狙いどおりの本数が命中した。


 最後に別の小石を指定して《魔力の短矢(マジックボルト)》を十五本発動、すべての矢は光点を直撃し、小石は跡形もなく砕け散る。


「期待以上だな、これは」


 笑みをこぼしていると、視界に影が掠めた。

 見上げれば、森の遥か上空を鳥が横切っていくところだった。


 すかさず《座標点(リファレンスポイント)》で鳥を指定する。

 鳥は森の木々に隠れてしまったが、どこにいるか手に取るように分かった。

 そして放置していると徐々に消費が増加していく。


 魔法を解除しながら、俺は《座標点(リファレンスポイント)》の便利さに感動を覚えていた。


 あらゆる魔法は、対象を指定するだけで集中力を要求される。

『多重詠唱』も同様で、増やすほど精度は大きく減少した。

 だが、《座標点(リファレンスポイント)》を併用すれば、集中に要する労力、時間を大幅に短縮できる。

 ピンポイントで狙うだけでなく、状況に合わせて魔法を振り分けることすら容易だ。

 昔より短矢(ボルト)系の精度は上がっているが、こんな真似は不可能である。


 これに『鑑定』を組み合わせれば、戦闘効率が大幅に向上するはずだ。


「よし、次は実戦といこう」


 その後、俺は『気配察知』で魔物を探しながら森を練り歩いた。


 出会う魔物は片っ端から《座標点(リファレンスポイント)》で指定、攻撃魔法を放って仕留めていく。

 どれほど分散しようと、数がいようと関係ない。

 視界に入った途端に指定し、同時に『鑑定』で体力を確認、必要な分だけ攻撃魔法を放つだけだ。

座標点(リファレンスポイント)》の消費魔力は微量で、すぐに解除するから負担にもならない。


 俺は黙々と、恐ろしく効率的な狩りを続けた。

 そして気が付けば、持ち帰るのが困難なほど魔物の死骸が積み上がっていた。


「調子に乗りすぎた……」


 大慌てで解体し、毛皮や肉、魔石、使えそうな武器を大袋に放り込む。

 それを担ぎ、ふらつきながら街へと帰還、どうにか閉門前に滑り込んだ。


 ふらつく俺を心配する門衛に笑顔で応じつつ、重い荷を背負い、家路へ向かう。

 薄暗い路地を進みながら、脳裏に狩りの師、ネリオが(よぎ)る。


 こんな無節操な狩り、ネリオが知ったら嘆くだろうな……。


 攻撃魔法と《座標点(リファレンスポイント)》、『鑑定』の組み合わせは、圧倒的な効率の良さだった。

 だからこそ、もっと自重しないと駄目だ。

 今までの感覚で狩りをしたら、処理しきれない。


 それはそうと――この先、弓の出番がさらに(とお)退()きそうだな。


 弓は魔法に応用できるから無駄ではない。

 そう心で訴えかけたが、ネリオの悲しそうな表情は変わらなかった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] スゴイ、必中魔法の完成じゃないですか!?
[一言] 自作魔法の魔法書ということは上級の魔道具作成の、なんだっけ、刻印?が使えるとか使える人に依頼したってことでは? そっちの情報も重要な気が…。
感想一覧
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