第9話 八歳児の日々 ~『破邪の戦斧』
スイングドアをくぐると、独特の臭いが鼻をついた。
酒と紫煙に紛れるのは、獣臭だろうか。
建物全体に染みついた複雑な臭いに気圧されながらも、それをおくびにも出さず俺はゆっくりと室内を見渡した。正面に並ぶカウンターには依頼や納品と書かれたプレートが掛けられている。今回は依頼だろう。
どのカウンターにも人は並んでおらず、手持ち無沙汰の受付が興味本位の視線を俺とロランに向けていた。昼前が最も空いていると聞いたが、その通りのようだ。
俺が正面のカウンターに歩み寄ると、受付の女性が微笑を張り付けた。
一瞬、ちらりとロランを見て視線を戻す。俺の顔は分からなくともロランは知っているようだ。元Cランク冒険者で現リードヴァルト騎士団。知らないはずもないか。結果、俺の正体や何しに来たかも察したはずだ。
ややつま先立ちになりながらカウンターから顔を出し、受付に話しかけた。
「護衛任務の依頼を出しているアルター・レス・リードヴァルトだ。依頼を受けた冒険者がいると聞いて会いに来た」
「ようこそ、冒険者ギルドへ。依頼票はお持ちですか?」
用意していたように受付が応える。
ロランが後ろから丸めた羊皮紙を差し出すと、それを開いてつぶさに検めた。
「確認しました。こちらへどうぞ」
俺とロランは二階に通された。
応接室の前で受付がノックして俺たちの到着を告げる。中から男の声で「おう」と返事があり、その直後、何かを叩く軽い音が聞こえてきた。
入室すると、四人の冒険者が立ち上がって俺たちを出迎えた。
男三人に女が一人。立ち位置は同じだが、大柄な男が一歩前に出ているような印象を受ける。彼がリーダーだろうか。
「君たちが護衛任務を受けた冒険者で間違いないか?」
「ああ――じゃなくて、はい」
隣の女に、キッと睨まれ、大柄な男が頭をさすりながら言い直す。
「言葉遣いは気にしなくて良い。まずは座ってくれ」
「おお、助かる。慣れないとまずいのは分かってんだが、堅苦しいのはどうも苦手でね」
冒険者たちは並んで座り、俺はその対面、ロランは護衛らしく背後に立った。
「俺はCランクパーティー『破邪の戦斧』でリーダーをやってるマーカントだ」
「僕はアルター・レス・リードヴァルト。よろしく頼む」
手を差し出す大柄な男に応えていると、ソファの後ろに戦斧が立てかけられているのが目に入った。無造作に見えるが、いつでも柄を掴める位置に置かれている。俺たちを警戒する理由もないから習慣付いているのだろう。Cランクともなると、こうした行動が自然にできるようだな。熟練者と呼ばれるだけはある。
次いで他の三人も順に名乗っていった。
「ヴァレリーです。主に遊撃で、斥候もこなします」
「ダニルと申します。前衛ですが少々魔法が使えます。飲み水などはお任せ下さい」
「斥候のオゼです」
俺は一人一人と握手を交わしながら、心の中で謝罪しつつ『鑑定』を発動した。
ロランが選んだのだから実力は問題ない。心配なのは素行だ。知られれば嫌悪で済まない行為と分かっているが、危険なスキルや称号持ちはこちらの命に関わる。
まずは斧使いのリーダー、マーカント。
レベルは19。ロランの26には劣るがコンラードの18を越えている。『斧6』を筆頭に、斧の戦闘スキルや『腕力強化3』まで保有する典型的な脳筋タイプだ。しかも、ただの脳筋ではない。変性魔法をランク3まで習得しているのだ。そして覚えている魔法は《筋力上昇》のみ。いざとなったら、とっても凄い脳筋へと進化する。伊達に知力が7じゃない。そんなマーカントの筋力は15で、スキル補正により腕力だけ19となっていた。たぶん魔法を発動すれば20を越える。人外の仲間入りだ。
単純な一対一の戦いだったら、リードヴァルト騎士団でマーカントに勝てるのは何人いるか。『片手剣7』と『盾5』を有し総合力で上回っているロランなら確実、コンラードなら豊富な経験で良い勝負をしそうだ。副長のジョスなど、他の騎士では厳しいな。
他に目を引くスキルは『危機察知3』だ。便利そうにも、そうでなさそうにも見える。ランク3だと実用性はどの程度だろうか。
それと、後ろの戦斧は聖撃の斧という魔法の斧だった。特徴や名称からアンデッド特効と思われる。パーティー名はここから取ったのだろう。
次に紅一点のヴァレリー。
驚くことに彼女は補正付きの称号持ちだった。
その名も『遙かなる双峻』。
なにそれ、物語でも始まるの? 男は皆、山男ってこと?
巨でも魔でも超でも構わないが、ともかくそれだった。補正は魅力+2、敏捷-1。マイナスって……。他のスキルは『片手剣5』、『短剣3』、『隠密2』、『気配察知1』と概ね自己紹介通りで、能力は筋力こそ平均的なれど安定して高い。残念ながら敏捷14はマイナス補正で13に減少しているが、魅力+2の尊い犠牲だ。一部の団体を除いて文句はあるまい。まあ正直、創造神が酔っ払った勢いで設定した気がする。
そんなヴァレリーは、妙に小綺麗な剣を脇に置いていた。やたら存在感があるので『鑑定』すると、やはり魔法の剣だった。アルア・セーロという名で、水属性に特化しているようだ。
前衛ながら魔法も使えるというダニル。
能力は平均値を少し超える13前後、そして剣と大きめの盾を持っていた。スキルは『片手剣』や『盾』を中心に近接型、魔法スキルは『水魔法3』と『火魔法2』で、水属性の中級攻撃魔法《水禍球》を習得していた。中級か、初めて見るな。知力が15と最も高いので、どちらかといえば魔法使い寄りかもしれない。戦闘時は状況に合わせ、ヴァレリーと役割を交代するだろう。
またどことなく物腰が柔らかく、その仕草や言葉の端々に富裕層の匂いがした。貴族らしくはないので、ギルドの関係者や商家などの裕福な家庭に生まれたのではないだろうか。
そんなダニルも魔法の長剣を携えていたが、こちらは強度と切れ味を増加しただけで、特に特徴的な名前ではなかった。
最後は自己紹介が短い斥候のオゼ。
斥候らしく寡黙なのかと思ったら頬が強張っていた。単に緊張しているだけらしい。他の三人に比べて少々若く、二十歳前後に見える。敏捷が15とかなり高く、『気配察知6』、『危機察知2』、『隠密5』、『追跡4』、『短剣3』、『投擲:短剣2』、『投擲:スリング2』のスキル構成で、斥候と支援に特化していた。特に称号や魔法は無いが『苦痛耐性1』を持っており、その辺りに半生が込められていそうだ。
戦闘職では無いため目立った装備は見当たらないが、職業柄、隠し玉くらいは持っていると思う。
さて、見たところ彼らに問題は見当たらない。変な称号は無いし、スキルや装備も充実している。
「――なあ、そろそろ良いか?」
顔を上げると、皆の視線が俺に集中していた。
どうやら黙っていたので何か考え込んでいると思っていたようだ。間違ってはいない。
「挨拶も済んだし、依頼内容を教えてくれ。アルター様の護衛と聞いているが、詳しい話を知らん」
「では、簡潔に説明しよう。護衛対象は僕。後ろのロランも護衛として同行する。場所はレクノドの森で、期間は一週間。最初の三日間は日帰り、次の三日間は森で野営、最終日に町へ戻る予定だ」
「森へ? 目的はなんだ?」
「鍛錬だ」
マーカントは怪訝な表情を浮かべ、思わず俺も同じ表情を返す。
要点を分かりやすく説明したつもりなんだが。何が疑問なんだろう。
「説明が足りなかったか? あ、報酬だな」
「いや、そいつは依頼票に提示されてる。そうじゃなくてな、鍛錬ってのはアルター様がするってことだよな。悪いが教えてくれ。年はいくつだ?」
「八歳だが?」
見た目通りかよ、とマーカントは呟いた。
「つまりこの依頼は、アルター様の実戦練習を手助けしつつ、きつい相手が現れたら追い払うってことか」
「そうなるな。野営の素人だから、そちらの指南も頼みたい」
マーカントは仲間を見やると、何やら視線でやりとりした。
なんとも妙な空気だ。無言で見守っていると、マーカントはいかにも面倒そうに頭をぼりぼり掻いた。
「ええとな――俺は丁寧な言葉ってのが苦手だ。だからはっきり言わせてもらう。護衛任務と聞いたから俺たちは受けた。八歳児のお遊びに付き合うつもりはねえぞ」
間髪入れず、ヴァレリーが「ばかッ」と小声で叱責した。
だが発言自体は否定しない。内容に異論はないようだ。ダニルとオゼも黙っているので、『破邪の戦斧』の一致した意見らしい。叱責したのは断るにせよ言い方がある、ということか。
実際、マーカント以外は緊張した様子で俺とロランの顔色を窺いだした。貴族を愚弄にしたのだから緊張もするだろう。不敬罪ってやつだな。当然だが俺は気にしていない。ただ単に困っただけだ。まるで数日前の再現、ここでも八歳が足枷になるのか。
俺は『破邪の戦斧』を眺めながら思案した。
別段、彼らにこだわる理由は無い。護衛を雇うという父の条件をクリアできれば良いのだ。もちろん実力者を雇えば学ぶことも多いが、それとて必須ではない。目的は実戦経験を詰むこと、後はおまけだ。彼らが断るなら別の冒険者を雇えば良い。
俺の中で結論が固まると同時、背後のロランが口を開いた。
「手っ取り早いのは、坊ちゃんの実力を知ってもらうことですかね」
「実力? 僕は構わないが……」
彼らは、八歳児が実戦に挑むのを無謀と考えている。それなら力を示せば良い。確かにそうだが、雇う側が試されるというのもおかしな話だ。ましてや領主の息子。俺はともかく、父が軽んじられたことにならないだろうか。
ロランの表情からは特に感情が読み取れなかった。
元冒険者のロランなら、この展開を予想していただろうし、『破邪の戦斧』の性格も調べているはずだ。であれば、この難癖を受け入れてでも雇う価値がある、もしくは彼らを外すとかなり質が落ちるということだ。少なくとも父の評判に影響は無いんだろうな。でなければ、こんな提案はしない。
彼らを切るのは損か。
考えてもみれば、選び直したらまた数日待たされる。下手したら母の不機嫌がぶり返しかねない。着せ替え人形はしばらく遠慮願う。あれは鍛錬よりもきつかった。正直、納得しかねるが、ここは乗っておくとするか。
「分かった。では『破邪の戦斧』、少し付き合ってもらうぞ」
「ちょっと待ってくれ! 何するって? 戦うって……え、誰と?」
マーカントは話の流れが見えなかったようだ。脳筋に長い会話は難しいのだろう。知力7だし。
「どこか良い場所はないかな。ギルドの訓練場はどうだろうか」
「地下に広い訓練場がありますね。そこにしましょう」
「だから待てって! ガキと戦えるわけねえだろ!」
ようやく理解が追いついたのか、マーカントが激しく反駁した。騒がしい男だな。
俺は目の前の大男を、じろりと睨み付ける。
「お前たちが依頼を受けると聞いた。だから僕はここまで足を運んだのだ。断るにせよ、それくらい付き合っても罰は当たるまい」
押し黙る『破邪の戦斧』を捨て置き、俺はロランを手続に走らせた。
◇◇◇◇
冒険者ギルドにはいくつか訓練場がある。
建物裏手に一つ、地下に二つ。裏手は初心者向けの講習や連携の確認に使われることが多く、対して地下は攻撃魔法の練習や手の内を明かしたくない者らが利用しているそうだ。
許可を得て、俺たちは地下の一室に入った。
そこは想像していたよりもずっと広く、手に提げたランタンでは点在する太い柱が見えるだけで、奥の壁がどこにあるのか見えないほどだった。『破邪の戦斧』が手分けして壁のランプを灯していくと、ようやく全体が見渡せる。軽く走れるほどの幅と奥行きで、天井は三メートルほどもあった。
左手には土嚢が積まれ、入り口に面した壁には申し訳程度の武具が掛けられていた。おそらく土嚢は魔法の練習用、武具は模擬戦用だろう。俺は適当な木剣を取り、マーカントは両手用の木剣を手にした。斧を選ばないのか。得意武器を使うまでもないと考えているのだろうが、こちらとしては実力を示せれば良いので何でも構わない。
「お願いですから、怪我させないで下さいよ」
ダニルが小声で囁いている。雑音が無いから丸聞こえだ。
それにマーカントは適当に応え、慣れない剣を振り回しながら中央に向かう。
俺が木剣の感触を確かめていると、ロランが横に立った。
「ルールはどうしますか」
「実戦経験を目標にしているんだ、特にいらないだろう。勝ち負けも重要ではない。『破邪の戦斧』が納得するか、僕が諦めたら終わり。どうだ?」
「いいんじゃね。さっさと終わらせようぜ」
マーカントが催促するように剣を振った。
「それには同感だ。ロラン、合図をしてくれ」
俺もマーカントも体を温めようともしなかった。特に冒険者は何時なんどき襲われるか分からない。準備ができていません、は通用しない世界だ。
俺たちを残して皆は壁際に向かい、ロランが一歩前へ踏み出た。
「はじめ!」
ロランが手を振り下ろすと同時、俺は全力で飛び込む。
『高速移動』を使わない。あれは簡単に披露して良い代物ではないし、ここでは父に見せたステータスで挑むと決めている。それでも敏捷は12、平均的な大人の10を上回る。対するマーカントの敏捷は13とほぼ同じ。さらに俺には、彼らの軽んじる八歳という武器がある。小さな物ほど速く感じるはず。
予想通りマーカントはわずかに混乱、その横を通り抜け様、滑るように木剣を走らせる。
激しく木を打ち鳴らす音が室内に反響した。
「こいつは驚いた」
距離を取る俺に対し、マーカントは木剣を構え直す。
虚を衝いたが、いとも簡単に防がれてしまったな。
敏捷はほぼ同じでも経験がまるで違うか。
俺は剣を下段に構え、さらに身を屈めた。イメージは四足獣。
マーカントは眉を潜める。いくら経験豊富でも、下からの攻撃はいつでもやりづらかろう。
鋭い呼気とともに斬り込む。
マーカントは木剣を下げ、大きく左脚を踏み込んで俺を迎え撃つ。
掬い上げるように繰り出された木剣を躱し――俺は吹き飛んだ。
全身を襲う浮遊感と戸惑い。
一体、何が起きた?
空中で体勢を入れ替え、柱に着地。即座に蹴って追撃の上段を避ける。
床を転がりながら体に意識を向けた。どこも怪我をしていない。
さっきの浮遊感、風魔法でも受けたのか?
大きく後ろに飛び退いて仕切り直す。
不敵な笑みを浮かべるマーカントと目が合い、おもむろに鑑定結果を思い出した。
そうか、いまのはスキルだ。おそらく『豪風斬』。斧専用スキルと思っていたが、剣でも放てるのか。それにしても初手が攻撃スキルとはな。ダニルの意見を聞き入れる気はまったくないようだ。
思わず、俺はほくそ笑んだ。
魔法は加減が難しい。だから鍛錬では控えている。相手が遠慮しないなら、こちらもやりたいようにやらせてもらおうか。
前屈から再び突撃、それと同時に《火炎の短矢》を放つ。暗い地下室にいきなり火柱が迸り、濃い影が伸びる。
「魔法!?」
驚愕しつつもマーカントは《火炎の短矢》を斬り捨て、その直後、「おわッ!?」と短い悲鳴を上げ、慌てて斬り上げる。
弾かれたのは俺の木剣。しかしそこに俺はいない。
肘が痺れるほどの反動と、頭上から聞こえる潰れたような声。
俺はマーカントの懐から素早く離脱、天井で跳ね返った木剣を受け止め飛びすさった。
全体重を乗せた肘打ち。
右腕を伸ばして状態を探る。鈍い痛みはあるが関節に異常は無さそうだ。
しかし反動が想像以上だな。ハードレザーアーマーに加え、マーカント自身の耐久が高い所為だ。まるで大木に叩き付けたような感触だった。威力は充分でも、こちらが先に壊れそうだな。
マーカントは、くの字に折れたまま俺を睨み付けた。
「何だよ、今の動き……おまけに魔法だと? 絶対、八歳じゃねえ! あれだ、お前ハーフリングだろ!?」
「領主の息子だから。勝手に種族を変えるんじゃない」
腹をさすりつつ、マーカントに獰猛な笑みが浮かんでいく。
斧を振り回すような戦士、多かれ少なかれ戦闘狂だろうさ。
こちらの手札は残りわずか。格上相手にどこまでやれるかね。
負けず劣らずの笑みを俺も浮かべていた。
それから数十分、俺とマーカントはひたすら打ち合った。
小柄さと薄暗い地下室を最大限に生かし、奇策を織り交ぜながら挑んでみたものの、徐々に地力の差が露わになっていく。俺の攻撃手段が把握されてしまうと、経験豊富なマーカントを崩せなくなっていった。さらに木剣が命中しても、俺の筋力では防具と耐久に跳ね返されてしまう。早々に打撃武器で倒すのは不可能と判明、通用するのは魔法と肘打ちのような全力の一撃だけとなった。
互いに決定的な攻撃を受けないが、かすっただけで体力が減少する俺と当たってもミミズ腫れすらできないマーカントでは結果は見えている。それでもなんとか崩そうと悪戦苦闘したものの、魔力の残存が怪しくなった頃、ロランが俺の剣を鞘で止めた。
「そろそろ良いんじゃないですかね」
荒い呼吸を吐きながら剣を下ろす。
楽しそうなマーカントとは対照的に、俺は無表情のまま一礼、木剣を戻しに壁際の棚へ向かった。無言なのは礼を重んじたわけではない。自分の弱点を痛感していたからだ。
鍛錬では木剣を刃物と想定する。だから木剣を打撃武器として扱うのは初めてだった。そして打撃武器で戦うには、あまりにも俺は貧弱で軽すぎた。もし魔法が使えなかったら戦いにもならなかっただろう。ドラゴンが恐怖の対象なのは、巨体から繰り出される攻撃一つ一つが致命的だからだ。身体が小さいというのはそれだけでハンデ。この模擬戦で自分の弱点を突きつけられてしまった。マーカントたちが年齢で拒絶したのも致し方ない。
棚の前で一呼吸し、振り返った。
とはいえ、俺の武器はスティレット。打撃武器じゃない。それに多様な攻撃魔法を使えることも証明した。それを加味して判断してくれると良いのだが。
『破邪の戦斧』は何か話し合っていた。そして顔を見合わせ、一斉に頷く。
マーカントを先頭に、『破邪の戦斧』が俺の前に並ぶ。
「アルター様、さっきはすまなかった。これほどの実力とは思いもしなかったんだ」
「構わない。それより納得してもらえたか」
「ああ、充分すぎる。色々失礼な態度を取っちまったが、護衛任務の依頼、俺たちに任せてもらえるか?」
「もとよりそのつもりだ」
俺は手を差し出した。
「一週間、よろしく頼む」
「任せてくれ」
マーカントと、そして『破邪の戦斧』と再び握手を交わした。
これでようやく遠征の準備が整った。しかし護衛を雇うだけで、なんでこんな苦労をしなければならないのか。未だに納得できないが、ともかく条件クリアだ。