上陸&始動
他人が使う「何事も経験」は危険だ。
他人が使うその言葉は相手の意思を操る。
一度踏み込むと二度と引き返せない道もある。
ほら、何事も経験である。
「はっぴばーすでー」
暗い病棟、すっかり日は落ち人間の瞳では1寸先も見えはしないだろう。
「とぅーゆー」
ヒビが入った床を手探りで進む男はきっと酷く脅えていた。
「はっぴばーすでー」
声が近づいてくる。
男は拳銃を腰のホルスターから引き抜いた。
「とぅー」
暗闇の先にある声の主に向けてすぐさま発砲する。
発射と同時に周りを照らし弾丸は壁にあたり火花を散らした。
その一瞬に見えた血塗られた少女。
「ゆー」
声の主の少女は目の前まで来ていた。
「くっクソッタレが!」
男は拳銃を構えることが出来ない。
不安定な姿勢で発砲した為、拳銃は反動で吹き飛んでいる。
「今日は誕生日なのに祝ってくれる人もケーキも無い。」
「わっわかった!祝う!ケーキも買おう!ホールのケーキで特大だ!」
少女は男の目の前まで来るとスカートをたくしあげた。
そこに2つに折りたたまれた荷電粒子砲。
下からすくうようにバレルが合体すると銃口はちょうど男の額にあった。
「でも……消えかかってるロウソクはある。」
放電音を撒き散らしほのかに光る砲身に男の顔が映る。
「お、お前が探しているのはゼノだろ!?なあ!?」
発砲した。
眩い光を放ち解き放たれたそれは、いとも容易く男の顔を消した。
コンクリートの壁さえも貫通し風が吹き抜ける。
首から湯気を立て崩れ落ちる男。
「良かったね……ちゃんと祝えているかなぁ?」
……………………………………………………。
…………………………………………………………。
けたたましく鳴るサイレン。
立ち入り禁止の黄色いテープを手でどけて1人の大柄の男性と1人の小柄の女性が現場に入った。
中には首が蒸発したであろう男性の遺体。
現場の検証を行いそれをレポートに記入し上層部へ送信する。
「これはひどいな。途中で火を消したロウソクのようだ。」
「ドルトフ大佐……その例えはあんまりです。」
ドルトフ大佐と呼ばれた大柄の男性は軍事支給品のコートをまくって吉備津を返した。
「フィーミル中尉、なぜ我々のような軍人が都市間警察任務などやらねばならん。」
それに付き添い現場を後にするフィーミル中尉と呼ばれた小柄の女性。
「ドルトフ大佐はお嫌いですか?」
半壊した建物の廊下を出口に向かって歩き出した。
「私が言ったのはそういう意味ではない。見たな?あの遺体を。」
「ええ……大佐、あの損傷は……。」
「言うな。フィーミル中尉、あんなものを我々が対峙しようとするならば棺桶が幾つ会っても足らん。」
中尉と呼ばれた女性はカバンからタブレットを取り出し中尉権限でデータを閲覧する。
「現場から同様の遺体が12体発見されました。ここの施設はこの都市の反重力研究を総括する施設だったそうです。」
建物を出るとドルトフは事故現場を睨んだ。
岩壁から生えたような建物は3階建ての病棟のような規模でそれをロープやワイヤーでがっしりと固定されている。
「なぜこのような都市の片隅でひっそりと研究する必要がある……反重力……黒い噂が耐えんな。……せめて超機関銃くらい携帯させて欲しいものだ。」
「……それは生身の私達が撃つと反動で体がバラバラに……っ……ドルトフ大佐、今回の事件2年前に起きた事件に一致し同一犯の可能性があるらしいです。データは荒れた画像とコードネームしかありませんが。」
「ふむ……」
ドルトフは興味無そうにフィーミルの操作するタブレットに視線を移した。
「キャンドルスナッファーです。」
画像はノイズで荒れそれが人かどうかすらも分からない。
「上の連中らセンスだけは最高だな。」
…………………………。
…………………………………………。
薄い雲を纏う大きなとても大きな大岩が3つ、その大岩は互いを無数のロープでがんじがらめに縛り上げている。
その3つの大岩の正体は第14浮遊都市である。
くり抜かれ限界まで拡張された大岩には様々な商店や民家そして工場が詰め込まれている。
レニスフィア達は進行方向から1番近い大岩に向けて対重力大型ベンクを走らせていた。
〈ここから先 シグレノムカイ〉
〈速度制限 60〉
空中に浮遊した空路の標識をゴーグル越しに見るレニスフィアとファローシア、ベンクに組み込まれたアンドロイド、レストアはベンクに装備された全周囲カメラで標識を見た。
「ファロみてみな、すげーよ。こんなに人が多いのは始めてた。」
後ろに乗るファローシアはレニスフィアの肩からひょっこりと顔をのぞかせた。
「すゴい!すごい!まだこンなに人はいたンダね!」
まだ少し離れている都市の奥には沢山の人が行き来しているのが見えた。
「あら、レニィーちゃんとファローシアちゃんはこんなに人が多いところは始めて?」
ベンク内蔵のスピーカーからレストアの声。
「まぁね、もう少し進んだら降りて手押しだな。レストアお姉ちゃんの騒音的にこの都市の人に迷惑になってしまう。」
「私がうるさいみたいに言わないでほしいわね……」
既に何軒かの浮遊するプレハブを通り過ぎていた。
そこからまた少し進むと足場が現れた。
薄い鉄板1枚のあまりに頼りない足場だ。
ここまで来ると数人の都市の住人とすれ違う。
皆、対重力のベンクに跨るレニスフィア達を物珍しそうに見ていた。
「今のリストアお姉ちゃん結構年季入ってるからね、やっぱり人気だねー」
「余り、嬉しくないわね……」
「違ウよ!レニィ、レストアお姉ちゃンじゃなくてセッケンが人気なんだヨっ」
「ファローシアちゃん、セッセンはやめてちょうだいって言ったでしょ?」
「エー!1番最初に私が決めタ名前なのに!」
「今はレストアが入ってるかね。仕方ないよファロ。」
「ぶェー!!」
そんな話をしているとプレハブ郡を抜け大岩の入口へと着いた。
ベンクから降りた2人はゴーグル、ヘルメット、をベンク後部のトランクにしまう。
「ファロ、待ってヘルメットの紐か絡まってる。またか……」
この都市のロープ並に絡まったヘルメット紐に手こずるレニスフィアを見てリストアが笑った。
ベンクのキルスイッチとセルボタンの間にあるセーブスイッチ押し切り替えると浮遊はしたままに轟轟とうるさかったエンジン音はほぼ無音になった。
そのままレニスフィアはベンクを手押しし第14浮遊都市シグレノムカイに上陸した。
大きくくり抜かれた穴はとても広大で穴の中にびっしりと建物が埋め込まれている。
その建物は埋め込まれたものもあればワイヤーやロープで固定され中に浮く建造物も多数存在した。
いわばカオスだ。
どこに何があるか分からない。
「レストアお姉ちゃんこの都市のマップ入れといて。」
見てるだけでおなかいっぱいとレストアに声をかけた。
「10年前のマップならあるわね。」
「まじか……とりあえずはそれで。」
一方ファローシアは目を輝かせ都市を見ていた。
「ファローシアちゃん、しっかりと着いてきてね、はぐれないようにね?」
「は、ハーい。でモ……わ、わぁ……あっ……ねぇ!コれ見てみてっ」
ファローシアは大きな機械の塊のモニュメントを見て興奮していた。
「ふぅん、オーバードールじゃん。」
レニスフィアをベンクを押しながら石碑に近づいた。
「珍しいわね、こんなの飾るなんて動くのかしら。」
「リストアお姉ちゃんも知ってるんだ。流石に動かないと思うよ。」
かすれた文字で書かれたその言葉をレニスフィアは手でなぞる。
〈OD 22568-時雨……大戦を勝ち抜いた英雄〉
「ねェ、このオーバードール?はナに?」
「オーバードールってのは人が乗り込む人型機械兵器、ってところだね。今でも軍では使ってるらしいけど、俺は見た事ないな。」
「フーん」
「聞いといて素っ気ない返事だなぁ……ん?」
目ではとても見にくいが手触りでわかる。
石碑の空いたスペースにナイフか何かで削り付けられら文字。
「どうしたの?レニィちゃん」
レニスフィアの変わった表情にリストアが気にかけた。
「いや、なんでもないよ。やっぱりどこでもこういうのに悪さをする輩はいるもんだなあって。」
オーバードールに興味津々のファローシアを連れ戻しさらに奥えと足を進めた。
繁華街をぬけ住宅地を過ぎる……120本のワイヤーで吊り上げられた橋を渡り都市に流れる大河を見ていた。
「……日が暮れたらこの都市はどう光るか気になるけどそれよりも先に宿を決めないとね。」
都市の光学地図を手の平から表示して町と照らし合わせる。
「ゴーかなホテルがイいなー!」
「ベンクの私も入れるのかしら……」
レニスフィアは鼻で笑って光学地図をオフにした。
「工房付きの宿屋なんてどこの都市にも限られてるってもんだよ。リストアお姉ちゃんも直さないとね。」
「了解いこコー!!」
テンションの高いファローシアを先頭にレニスフィアはベンクを押しながら元来た道を引き返す。
地図を見たところ目的地は都市を全体で見て大岩3つの真ん中。
レニスフィアがいるのは大岩の1番下だ。
正直そろそろ何かを食べたいがせてめ宿屋を決めてから食べ物を食べたい所。
「このまますすんでも目的の宿屋は今日中には辿り着かない……から、少し裏技を使いますか。」
そう言ってレニスフィアはベンクのトランクからヘルメットとゴーグルを取り出した。
それをファローシアにも渡しベンクに跨った。
「今度はファロ運転な!」
「ガッテン承知!」
ファローシアがハンドルを握りレニスフィアが後部座席へ。
「レニィちゃん、ここも人が多く住んでるけど動かしちゃうの?」
と、心配するレストア。
「いや、レストアお姉ちゃんはセーブモードで浮いてるだけでいいよ。」
後部座席に座るレニスフィアの脹ら脛が裂ける。
裂けた人工皮膚が開き中から角張ったバーニアが姿を表した。
「これなら、轟音立てずに目的地までスキップできるけど着いた頃には俺はガス欠だなぁ……」
「任せテ!寄り道はシないよ!」
レニスフィアはファローシアの肩をがっちり掴んだ。
「いや、させないからな。」
「……。」
「あらあら、流石ねレニィちゃん目的地までよろしくね!」
「これがベンクになってるリストアお姉ちゃんの気持ちか……。」
「効率は悪いけど手で押すよりはマシだ。時間は有限、行くぞっ」
レニスフィアは足のバーニアを点火し浮力のあるベンクは推進力を得る。
緩やかに加速しレニスフィア達は大岩の2段目に進んだ。
……………………………………。
「到着ゥ〜!レニィお疲レ様!」
その言葉を聞く前に足を広げバーニアを吹かしタイミングを見計らってベンクを止めた。
「ヘトヘトだ……お腹すいた……。」
もうベンクのエンジンなんぞ懲り懲りと言うほどに。
「ここが工房付きの宿屋なの?」
そうレストアが言葉を発するとレニスフィアも改めて宿屋をみる。
見た目こそ普通で木造の大きな宿屋ではあるが1部屋ずつに技工士がヒューマノイドやアンドロイドを手入れする工房がある。
工具や器具の貸出もあるがそれはあまり期待はできない。
「ここであってるな……とりあえず入ろう。」
扉をくぐると立派な大広間にシックな木製カウンターテーブル。
天井にはシャンデリアと建物の外見より内装は気合が入っていた。
フロントに立つ老男はきっちりとスーツを着こなし整えた髭はとんがっている。
レニスフィアはリストアをファローシアに預けチェックインへと向かった。
「3人で4日、工房付きの部屋は空いてますか?」
「ようこそいらっしゃいませ。……只今、工房付きの部屋は全室満室となっております。誠に申し訳ございません。」
フロントに立つ老男は深々と頭を下げた。
「……わかりました。では工房の無い部屋は空いてますか?」
「はい。……ございます。」
「では、そこでお願いし……」
「ちょっと待って。」
……?
レニスフィアとホテルマンの会話を遮る一声。
その声に聞き覚えはない。
振り向くとそこには一人の少女が仁王立ちしていた。
シャンデリアの明かりに反射するほど明るい金髪ツインテール。前髪を残しを左右両方赤いヘアピンで止めている。
深く輝く緑の瞳はツリ目気味。
身長や外見年齢はレニスフィアとほぼ同じな彼女はオレンジと白で色分けされたカジュアルドレスを着込んでいる。
「どちら様?」
レニスフィアはカウンターの老男に目を向けるが彼も頭を傾げ疑問を浮かべている。
「あんた!工房付きの宿屋探してるでしょ?」
いきなりあんたと呼ばれ少し表情を曇らせるレニスフィア。
「…そうだけど、どうかしたの?」
「技工士を持ってるのね、私の借りてる部屋を貸してあげるから整備して欲しいんだけど。」
「いや、技工士は私だけど。」
「なら話は早いわ!来なさい!」
そう言って少女はレニスフィアの手を掴んだ。
「ちょ、まて、それってお店のシステム的には……」
フロントに立つ老男は軽く微笑みどうぞとハンドサイン。
「ランプ様からは既に5人部屋の料金を頂いておりますので。構いませんよ?」
グイグイと引っ張られる左手。
「ちょっと待って、ちょっと待てって!ひとりじゃないんだ、ほら」
そう言ってレニスフィアはファローシア達の方を向く。
「あんた達も来ればいいじゃないの。」
……。
ファローシア達とは少し距離がある。
話の内容が分からないファローシアは2人の視線が自分に向いたと知り少し頬を赤らめベンクの後に隠れた。
とりあえず、ファローシアとレストアを呼ぶと経緯を軽く説明し少女が借りた部屋へと向かった。
……………………。
赤いカーペットが敷かれた廊下を歩くと1番奥の角の扉へと案内される。
〈D24〉
と表記がある扉と開けると一般的な5人が宿泊できる大きめな部屋がレニスフィア達を出迎えた。
5人が座れるテーブルにソファーが2つ部屋の奥にはベッドが絡んでいる。
壁にかけられた絵画にオシャレな照明。
白いカーテンがかけられた大窓がひとつ。
ここからラウンジに出れるらしい。
「おぉ悪くない」
「すゴーい!広イ!綺麗!」
「あらあら、この部屋は高そうねぇ〜」
レニスフィアたちの感想を聞くなり少女は少し自慢げにソファーに腰掛けた。
「でしょ?」
少女はレニスフィア達に謎のドヤ顔を披露した。
「……で、まずは自己紹介だな。俺はレニスフィア。で、こっちのはしゃいでるのが妹のファローシア。ベンクだけどアンドロイドが入ってるレストアだ。」
ふーんと聞いてるのか少し疑問を感じる反応をした少女はソファーから立ち謎のドヤ顔で自己紹介を始めた。
「私はランプ!見ての通りヒューマノイドよ!ランプ・ゼノ・ドール!忘れるんじゃないわよ?」
……。
え?
「なになに?どうしたの?私がゼノの作ったドールでびっくりした?これまでに何人かの技工士を部屋に招いたのだけど誰一人中を開けてお手上げ。因みにレニ……なんだっけ?あんたも私を整備出来なきゃ部屋からは出てってもらうから。いいかしら?」
レニスフィアとファローシアは顔を見合わせてランプを見る。
「えっと……俺、レニスフィア・ゼノ・ドールって言うんだけど。」
それを聞いたランプは急に無表情になる。
………………。
「ゼノ……ドール?、」
かすかに聞こえるランプの声。
……。
少しの静寂。
「なあ、どうかしたのか?」
口を開いたレニスフィアに目線だけを向けるランプ。
妙に張り付いた空気。
なにか、様子がおかしい。
……。
その瞬間ランプがレニスフィアに飛びかかった。
「!?」
レニスフィアは咄嗟にランプを掴み投げ飛ばす。
ランプは奥のベッドに横から突っ込み倒れ込む。
ベッド位置が大幅に変わってしまった。
レニスフィアの右腕の人工皮膚がちぎれる。
精密に開いた右腕のギミックは内蔵されたコンバットナイフを射出しそれを握りランプに向けて構えた。
「一体なんだって。ランプは本当にゼノ……」
言い終わる前にランプの脹ら脛の人工皮膚が裂けバーニアが露出し即座に点火。
さっきとは明らかに早いスピードでレニスフィアに突撃する。
話す余地がないレニスフィアは諦めてナイフをランプに向けた。
ランプは足のバーニアを吹かし体を一回転。
かかと落としに近い攻撃をレニスフィアに向ける。
接触。
レニスフィアのナイフとランプの刃物が仕込まれた靴は火花を散らす。
がランプの方がパワーが上かレニスフィアの握るナイフは弾き飛ばされテーブルに突き刺さった。
ここからは近距離戦だ。
綺麗に着地したランプは左拳をレニスフィアに向けて放つ。
それをかわしたレニスフィアはカウンターでアッパーをする…がランプは足のバーニアを使い距離を置かれ回避された。
高機動戦はレニスフィアも得意とするが、タイミングが悪くガス欠。
空腹でいつもの力が出せているのかも怪しい。
視線だけをファローシアに向けるとベンクの影にファローシアがいる。
リストアがファローシアを守っているなら今は大丈夫。
レニスフィアの手がスカートの裾に触れると、軽い金属音を立てスカートの裏からアームに固定され飛び出す拳銃。
右手にそれを受け取るとレニスフィアはランプに向けて発砲。
2発の弾丸を放ち渇いた発砲音と火薬の匂いを撒き散らした。
ランプは足のバーニアを吹かす、高速で足をあげると2発の弾丸を足で弾き返した。
そのままランプはレニスフィアに距離を詰めレニスフィアの襟を掴む。
「なっ!?」
ランプの足のバーニアが大きく2度点火する。
投げ飛ばされる!?
こうなったらギリギリを絞り出す一か八かの賭け。
レニスフィアの脹ら脛が裂けた。
角張ったバーニアを展開する。
「遅いわ。」
そう言い放ったのはランプでレニスフィアは既に空中にいた。
レニスフィアはランプを掴み返す。
「!?」
ランプは驚きの表情を表にした。
レニスフィアは逆さ向きの状態で天井に向けてのバーニアの点火に成功。
完全に投げ飛ばさせる前にランプを地面に叩きつけた。
「がっはっ……」
ランプは背を下に倒れ込みレニスフィアはランプを押し倒すように倒れ拳銃を胸に当てる。
「抵抗するな。」
レニスフィアは最後の警告をする。
…がレニスフィアの顎に硬い感触。
下を向くとランプのフリルの着いたスカートが捲られ折りたたみ式の荷電粒子砲がまっすぐレニスフィアの頭を狙っていた。
「あんたはゼノのなんなの?」
「ゼノの技術を受け継いだ技工士と言ったところだ。ランプきみは?」
ランプは表情を濁らせる。
まゆは釣り上がりツリ目気味の瞳は震えながらもレニスフィアを見た。
「ゼノは私から…全てを奪ったクソ……野郎ね。」
…………。
バタン……と扉が開く音。
出入口からではない。
緊迫状態のレニスフィアとランプ、そして部屋の奥で隠れるファローシアやリストアも空いた扉を見た。
それはこの部屋の横にある工房部屋のドアだった。
「何をしているのですか?……ランプ。」
そこには車椅子に乗った黒髪ロングの少女が姿を表した。
「凄い音がしました。それに皆さんは?」
おっとりとした黒い瞳に長いまつ毛。
赤と白を基調とした巫女装束に似た服を着ているが細かなところに金物の装飾が施されている。
そんな少女は明らかに混乱していた。
「えっと……どなたか、説明しては…頂けませんか?」
……………
…………………。
戦闘は中断。
巫女装束の少女はランプにとって影響力のある発言ができる人物らしくレニスフィアとファローシアは5人がけできるテーブルに座りランプはソファーに腰掛けその真横に車椅子の少女、レストアは出入口の横に置かれた。
がレニスフィアもランプもバチバチの臨戦態勢である。
「私は……この都市の先導者の娘……ツバキ・タチバナと申します。あなた達は?」
落ち着くという言葉の意味を取り戻すようにゆっくりと丁寧に巫女装束を着た少女は口を開いた。
「ちょっとそれ!あんた…言っていいの?」
少し食い気味にランプが口を開く。
浮遊都市の先導者とは都市の人間を導く者、つまりは村長や市長、都市を1つの国とするなら大統領と、言ったところか。
「…人に名前を尋ねるのに自分の名前を言わないのは失礼でしょう?」
長いまつ毛で瞳を覆い優しい笑みを作るツバキ。
「俺はレニスフィア・ゼノ・ドールだ。……技工士をしてる、ただの旅人だ。」
レニスフィアの紹介が終了したのを見てファローシアも口を開く。
「私はファローシア・ゼノ・ドールだヨ!よろシくね!」
「ああ、あんたもなんだ。」
と、ソファーに座るランプが目線だけを向けた。
「…ひッ…ランプのオ姉ちゃんゴめんない。」
「あまり、うちの妹を怖がらせないで貰えない?こちとらいきなり攻撃されてそれだけでも少し不快を感じているんだが。」
それを聞いたランプが怒りを露わにして立ち上がる。
「ゼノの名前が着く奴がっ……まともな奴なわけがないじゃない!これ以上そばにいられると私が不快を感じるわ!」
レニスフィアはテーブルに刺さったままのナイフを引き抜く。
「確かにそうだ。納得がいった。ランプ・ゼノ・ドール。確かにまともな奴じゃない。」
「あ?……なんですって?」
「ーおやめなさいっ……。」
ツバキの一喝。
ランプは舌打ちをして再び腰を下ろした。
それを見たレニスフィアもナイフをしまう。
「で、ランプ・ゼノ・ドール。君が俺の名前を聞いた瞬間襲ってきたのは何故だ。理由を言え。」
「あなたがゼノの息がかかったヒューマノイドだからよ。」
眉間に皺を寄せたレニスフィアを見てツバキが口を開いた。
「ランプはゼノに命を狙われているのです。」
「はぁ?なんで言うの?」
「1つ教えましょう。…先に手を出した方が悪となり罰せられる事が多いです。理由は簡単……相手とのコミュニケーションを絶ったからですよ。」
そう言われるとランプの表情は暗くなる。
「……あなただって、伝えたい事を伝える前に拒絶される…その辛さや悔しさが分かるでしょう。」
………。
「わかったわよ。」
押し出すようにランプの口から吐き出される言葉。
「ごめんなさい。……」
……。
少しの静寂。
「……いイよ。」
口を開いたのはファローシアだった。
レニスフィアはファローシアを向くとファローシアはレニスフィアに笑顔を向けた。
「やれ……ファロがそういうならこっちもOKだ。」
「で…レニスフィア、あなたはゼノのなんなの?」
「……何って言われると、製作者としか言い様がない。俺は1回死んだ。そしてゼノに拾われた。」
皆、静かにレニスフィアの話を聞いた。
「前世、の俺とは全く違う容姿に驚いた。ゼノは俺に好きにしろと言ったんだ。なにかをしろと命令する訳でもなく。選択肢をくれた。それで俺は技工士を選びゼノと一緒にファローシアを作り2人で旅に出たんだ。ほんとに、それだけだ。」
「ふーん、あのゼノがねぇ……。」
ランプはこちらを見ない。
壁にかけられた絵画を見ながらランプは淡々と言葉を放った。
「私は、ゼノに騙されたんだ。家族を、友人を、出会いを、生活さえも奪われて、命かながら逃げ出した。ただ、それだけよ。」
ランプはソファーから再び腰を上げまっすぐレニスフィアを向く。
「あなた、鳥籠の形の孤児院は知ってる?」
「鳥籠……。知らないな。」
「そう……」
ランプはレニスフィア達に頭を下げた。
「私の勘違いよ。ごめんなさい。」
……。
「さっきも言った話だ。誤解が解けたならそれでいい。」
レニスフィアは瞳を閉じて肩の力を抜いた。
「話し合いは終わったかしら?」
「きゃっ……」
突然喋りだしたのはベンクのレストアで驚いたのはツバキだ。
「ベンクが喋るのですか?」
レニスフィアは優しく笑って説明する。
「レストアってアンドロイドがベンクに入っているんだ。話し合いを邪魔しないように静かにしてくれていたんだ。」
「そうなのですね。」
と、安心する表情を見せるツバキ。
すっと真剣な顔に戻るとそのまま続けて口を開いた。
「レニスフィアさん、実は私も命を狙われているのです。」
……。
ランプが腕を組み諦めたように口を開いた。
「私が研究所から逃げてこの都市に辿り付いたのが2年前。この時に偶然ツバキに会ったのよ。」
ツバキは頷きランプに変わって会話を続けた。
「私はこの都市の先導者に父に命を狙われているのです。父は母を殺し私さえも手にかけようとしたところ使用人に助けられこうして生きています。2年前にランプと出会いこうして隠れて生活しているのです。」
荒れた部屋を見てふと疑問に思ったレニスフィアは質問した。
「因みにこの宿泊費とかはどこから?」
ツバキは手のひらを見せると電子クレジットが表示される。
「母の隠し口座です。」
「因みに私はツバキに雇われてるボディーガードみたいなもんよ?」
と、ランプはレニスフィアに向けて謎のドヤ顔を披露した。
実の父に命を狙われてるお姫様と命を狙われながらも守らなきゃ行けないお嬢様か……
変な揉め事に巻き込まれたと確信したレニスフィアが少し呆れたようにため息を付いた。
……。
「……大変だな君たち。」
。
………………………………………………。
……………………………………………………………………。
すっかり日は落ち今はナイフの跡がある5人がけのテーブルで皆で夕食を貰っていた。
いきなり襲ってきたお詫びとしての夕食らしくツバキとランプの合作料理だ。
野菜や肉が豊富に入ったシチューに食べ訳すカットされたパン。
サラダの盛り合わせに、ローストされた人工肉がテーブルを彩った。
レストアは人工臓器がないので残念ながらエレメンタルジェムで代用。
ちなみに栄養はあるものの無味無臭である。
レニスフィアは空腹をこらえきれずパンをシチューにディップし口にほおりこんだ。
数回咀嚼して飲み込む。
「工房付きの部屋でよかった徹底した防音構造がなかったら今頃大変だったぞ?」
ツバキがため息を着く。
「壁に銃痕、家具も壊れてしまっているので弁償が高く着きそうですね。」
「……だから、ごめんなさいって……。」
ランプは少し拗ねたように謝罪した。
「……で、命を狙われてるランプさんは俺に整備してほしんだよな?」
サラダを食べるランプが頷く。
「その件だが、先にレストアお姉ちゃんの体を作ってからにさせて欲しいんだ。」
口に入れた食べ物を飲み込んだランプが激昂してフォークを振り回す。
「なんでよ!ちょっと話違くない!?」
「良いのでは無いですか?」
シチューをスプーンで口に運ぶツバキが肯定的な意見を表した。
「レストアさんは体を手に入れないとせっかくの5人席が埋まらないですからね。」
ファローシアは1人静かにエレメンタルジェムを補給するレストアを見て寂しそうな表情をしている。
「んん……まぁ、正直、俺はランプとツバキさんを信用しきれていない所もあるんだ。ランプを整備したらいきなり追い出されたりとかね。俺がこの工房付きの宿屋を狙っていたのはレストアお姉ちゃんを直したいからなんだ。」
「それが済んだら私を絶対に整備してくれるのよね?」
いきなり襲いかかった手前信用度が低いのも仕方ないと理解してくれたランプ。
「ああ、ゼノに誓って。」
「それはやめてちょうだい。誓ぐらい自分の心に誓ってくれない?」
「わかったよ。」
ゼノはランプにとっては使ってはいけない言葉であった。
レニスフィアは話の方向を変えた。
「それじゃ、明日は買い出しだな。俺とファローシアでリストアお姉ちゃんのパーツを探しに行こう。」
「あ、私も行くわ!」
と、手を上げるランプ。
「いやランプも狙われてるんだろ?」
「それくらい倒せるわ!」
「ちょっと何言ってるの?」
やり取りを見たツバキが笑う。
「ランプはこの都市に来てからは襲われたことはないはずです。」
「私、基本ツバキを守るために家の中にいたんだから、せっかく戦闘がこなせるヒューマノイドがいるなら少しお出かけしたいの!」
買いたいものも沢山あるんだからと既に出かける気満々のランプ。
「……いイよ、私はセッケンの整備がアるから。……行っテらっしゃイ……」
ファローシァは夕食を半分食べて既に眠たそうにしていた。
「やれやれ、言っとくけどメインはパーツを買うことだからな。後ファロ、寝るならしっかりご馳走様してからだぞ。」
…………………………………………………………。
夕食を食べ終え
使い終わった食器を洗浄機にかけるランプに、ツバキは明日外出する前には一言下さいと言い残し隣の部屋に移った。
レニスフィアも後片付けを手伝いファローシアはご馳走様出来ずに爆睡。
リストアも早々にスリープモードに入っていた。
ファローシアをベットへ寝かせその他の後片付けを終え一息付いたランプとレニスフィアはそれぞれ別のソファーに腰掛けランプの出してくれたお茶を啜っていた。
「あんたって不思議ね、ロビーで顔を見た時初めてのはずなのに少し懐かしく感じたわ……なんか少し落ち着いたというか。」
ランプがテレビのリモコンを片手に話しかけてきた。
そのまま壁に張り付いたモニターを稼働させ、自動でこの都市で放送されているニュースが流れ出す。
「何?もしかして口説かれてる?」
「ぶっ飛ばすわよ。」
分かってはいたが違うらしい。
「じゃあどうしたのさ。」
テレビのニュースは最近あった研究所の事件についてだった。
「声?瞳?違う全体の雰囲気?ねぇ、あんた、ゼノに作られたのだったら何かを元にして作られたとかない?」
少し悩んだが心当たりがない。
いや、
「ユーリェ?なんかそんな事言ってたような?」
「誰それ?」
「いや、知らないよ?」
舌打ちをしたランプはモニターに映るニュースに眉をひそめた。
「見てこれ?どう思う?」
そう言われるわでもなくレニスフィアはずっとニュースを見ていた。
「半重力研究所が誰かに破壊されたってのだろ死人も出ているって。まぁ発信されてる情報には限りがあるし、良いも悪いも言えないかな。」
「怪しいと思わない?」
「怪しい?」
ランプの方を向くとランプは真剣な表情でモニターを見ている。
「半重力研究所は都市が税金を使って運営、研究してる都市管理機関よ。」
「そもそも半重力研究所なんてどこも警備は厳重なはずだ。」
「そう、だからね……この研究所を破壊した奴らって都市の権利者のお偉いさんなんじゃないかって。」
「まぁ、有り得る話であるな。」
「ツバキがね失踪してから少し噂になってたのよ。ツバキは半重力研究所に匿われているって、もちろん失踪自体、公にはされていないしなんでこんな噂が経ったのかも分からない。」
「なんだ?都市が金をつぎ込む研究所を襲ったのはこの都市の先導者ってか。」
「有り得る話よ、ついに動き出したのかも。」
モニターに目を向けていたが視線を感じレニスフィアはランプと目を合わせてしまう。
ランプの表示は至って真剣だ。
「ランプ……明日まさか……」
「まさか!行くわけないじゃないっ!なんでそんなわざわざ首を突っ込むのよ?」
いきなり笑ったランプに少し驚いたレニスフィア。
「……。」
「ちょっと、気になっただけよ。」
「ねぇ、レニスフィア……私がもし研究所に行くって言ったら付いてきてくれた?」
そんな事を言い始めたランプにレニスフィアはやれやれとため息をついた。
「一人で行かせるわけないだろ?巻き込まれるのはごめんだが、話しを聞いた以上、流石に止める立場にあるぞ。」
「そっか……レニスフィアあんたってさ損をする性格だよ?」
「……うるせーよ。」
ランプはソファーから立ち上がる。
「レニスフィアあんたにもっと早くに会えてたらなって思ったよ。そしたら……いや、いーや。お風呂入ろっとっ」
何か言いかけたが思いとどまるランプを横目で見たが視線はすぐにモニターへ戻り茶を啜った。
「レニスフィアあんたも一緒に入る?」
お茶を吹き出した。
「!!?」
「なにやってんの?服がびしょびしょじゃない!?」
咳き込むレニスフィア。
「いやいや、お先どうぞっ、て……ええっ」
ランプに腕を掴まれるとものすごい力で引きずられる。
パワー系のフレームなのだろうかとランプの腕の関節に気を取られていたら浴室前の更衣室に放り込まれた。
そのままランプはフリルの着いたカジュアルドレスを慣れた手つきでパージさせてゆく。
「なぁ、考え直さないか?ファローシアとしかお風呂にはいりたくないんだが?」
「何?あんたシスコンなの?裸の付き合いってもんがあるでしょ?」
そう言ってレニスフィアのお茶で濡れたスウェットを無理やり引き剥がしチェック柄のスカートも強制的に排除された。
「レニスフィアってスタイルいいのねー」
「……褒めてないんだよなぁ」
「褒めてるじゃない?」
その時には既にランプも生まれた時の姿では無くロールアウトされたばかりの姿になる。
つまりは裸である。
スタイルはいいと言いつつも胸はレニスフィアよりも大きく腰のフレームも形を出している。
人工皮膚から透けるフレームのつなぎ目もなかなかに綺麗だ。
じゃなくて。
「あのさ、俺、男なんだが。」
さすがに言うしかないがさすがに遅すぎた。
ランプは?を浮かべてる。
「何言ってるの?。」
「俺元々男でゼノにこの体にされたんだ。」
「え?ちょっとまって!!」
脱いだカジュアルドレスを手に取り体を隠すランプその表情は羞恥に満ちている。
「じ、じゃあ、あんたは体を元に戻る為に旅をしているの?」
「いや、そういう訳でもないんだよね。そもそも男と女の脳と体の接続って全然違うし。それをゼノの技術でくっつけてるせいで外れない。頭の後ろ脊髄丸ごとブラックボックス。」
「ってことはそれは。」
そう言ってランプはレニスフィアの陰部を凝視する。
覚悟を決めたレニスフィアはスパッツを指で摘み陰部まで下ろし少し恥ずかしそうに口を開いた。
「……ユーリェって人の本物だ。」
ランプに頭をはたかれた。
……………。
「で……結局一緒に入るのかよ。」
浴室は意外と広くシャワーは1つだが浴槽は大人が3人入っても余裕なくらいの広さがある。
「ここまで来たらね。それにあんたこの体で何年か過ごしてるんでしょじゃあ女の子の身体にも慣れっこじゃない。」
レニスフィアは一足早くシャワーで流し浴槽に浸かる。
ランプはシャワーで頭を洗っていた。
「いや、技工士だからね。慣れっこ以前に慣れなきゃ弄れないけど。流石にシチュエーション入るとドキドキするな。」
「今度はビンタするけど。」
「すみません。静かにします。」
ランプはシャワーを終えると浴槽に入ってくる。
水位が限界を達して音を立て浴槽から零れた。
「明日の予定は?」
そう言われてランプを向くと金髪の美少女が裸で隣にいる状況である。
が、何故か早々に慣れつつある自分が少し怖いと思うレニスフィア。
「まぁ、コイル堂とか電脳中古店とか探すかな、安くて丈夫な掘り出しもんとかあったら最高なんだけどねぇ。」
身体は機械でもやはりお風呂は最高だ。
外部の温度を感知できる幸せを全身で味わうレニスフィア。
「ねぇねぇ、私を見てさ、ドキドキとかしないの?」
「あ?して欲しいのか?」
冗談きついと表情を向けるがランプは何故かニヤニヤしている。
「わかった!」
「何がさ?」
「私言ったでしょ少し懐かしく感じた理由!」
「うん。」
「昔飼ってた去勢されたオス猫!」
「はっ倒すぞ。」
レニスフィアは鼻で笑って心で泣いた。
その後もしょうもないやり取りを繰り返し入浴を終えた。
レニスフィアはランプと何度もやり取りをしている内にランプの言う懐かしい気持ちは本当に感じているのだと感じたのだった。