人&形
不完全があるが故に人と言うならば、完璧な機械は不完全を持って人たり得るのだろうか?。
.........
1つ寂しそうに浮遊する巨大な鉄塔。
宇宙に届きそうな程にそびえるロケットのようなシルエット。
雲がまとわりつくその光景は絶景と言えるだろう。
鉄塔の中は全780層になっており大まかに4つに区画分けされている。
下から84層までは浮遊制御区画、側面にプロペラが装備され微細な傾きを自動で修正する。
そこから196層までは工場区画、工場から伸びた細い煙突が上の層へと伸びに伸び頂上まで木の根っこが逆さまに生えたように枝分かれを繰り返している。
さらに273層までは商業区画、層の端からは配線やホースがはみ出し地面と天井の隙間を埋めている、とてもでは無いが商業区画からは浮遊都市に上陸することは出来ない。
最後の層は全て居住区画となっている、550層近くもあっても人口は収まりきらなったか層をほんの少しはみ出すように民家が顔を出す。
ここは元第12浮遊都市である。
元と着く通り、この浮遊都市は既に廃棄されている。
浮遊都市は捨てたからと言って簡単に自然に帰る代物ではない。
スカイデブリとして宙に漂い続ける。
1台の機械に乗った少女2人は下から数えて276層の居住区画から元第12浮遊都市に上陸し、現在274層から273層の商業区画に入っていた。
……。
ひび割れたアスファルト、傾く電柱、電線は所々ちぎれ機能を失っている。
立ち並ぶ層を貫通した雑居ビルに覆う灰色の霧。
殆どの建物は窓がなく散乱した室内が見えた。
十字路を右折すると点滅している街灯が見えた。
どうやら、ところどころ電気が生きているのかもしれない。
何かを見つけたレニスフィアはギアを一つ下げ減速した。
路面に人型の物体が転がっている。
銀色の下地が顔を出している以上、生き物のそれではない。
止まることなく避けて進む。
轟轟とエンジン音を響かせ無人の商店街を駆け抜けている。
五月蝿い正体はMRcc34対重力大型ベンク。
前方にはスキーボードのような板があり後ろはジェットエンジンにも似たような形を持つ対重力エンジンが積まれている。
ガードが装備された丸いヘッドライト、前輪の両脇に長方形のフォグランプ。
車体両サイドと後ろに角の丸い四角いコンテナが増設されている。
名前はファローシヤ曰く...セッケン。
車体のカラーリングが黄緑ということもあるが前は縦に後ろは横にひらべったいことから使い古した石鹸のようだとそのまんまだがあだ名がついている。
ハンドルを握りセッケンを操縦するのはレニスフィア・ゼノ・ドール。
腰まで伸ばした茶髪を揺らす少女。
皮のヘルメットを被りゴーグルを装着している。
ゴーグルの奥、くりっとした赤い瞳にチェリーのような小さい唇…甘く香るような頬は少し朱色に…全体的に整いつつも幼げのある少女…。
袖の肩の部分がカットされて両肩が露出しているデザインのスウェットを着飾りチェック柄のスカートを履く。
風に揺れるとスカートに取り付けられたバッチが存在を主張し、太ももに張り付いた1分丈のスパッツが顔を出した。
その後ろに座るのはファローシヤ・ゼノ・ドール。
アッシュグリーンの色をした髪が風で肩をくすぐり若干くすぐったそうだ。
同じく皮のヘルメットを被りゴーグルをしている。
瞳は柔らかく息を吸い込むようなエメラルドの瞳。
垂直に切った前髪も相まって小動物のよう。
レニスフィアと見た目年齢は少し…ほんの少し幼く見える。
黒いワンピース、ロリータファッションで生地は薄くすべすべな手触りの割にスカートや袖はふわふわだ。
編み上げロングブーツ履き、胸元の白いリボンが目立つが他にも所々に十字架の装飾がありよく光に反射する。
2人は確実にライダーの格好ではない。
安全面を考慮するならば波の人間なら肌を露出するような格好では大型ベンクには跨らない。
2人は魔法のような機械の体に頭を包み生きている。
普通の人間より数十倍も頑丈なこの体はヒューマノイドという。
今は亡きゼノの最後の後継者だ。
「レニィーこコは、前いタトころよりモ下に落チないのに人がイナいね。」
後ろからの声にレニスフィアは振り向かず声だけを返した。
「あぁ、ここは無人の街だからな。何があったかは分からないけどみんなで仲良く居なくなった訳では無さそうだ。」
灰色の霧が視界を少しずつ満たしていく。
レニスフィアはセッケンのヘッドライトとフォグランプをONにした。
前照灯の真っ直ぐな光と左右を埋める黄色の光で視界を確保する。
「ファロなんか前に見えないか?」
「ンー...拡大するネ。」
人口臓器である瞳には人間よりも遠くを見透せる視力を持っている。
もちろんレニスフィアも使えるが使っても霧でギリギリ見えるか見えないかくらいなのだ。
「「オープンだ。ダ。」」
そこに見えたのは切れかかったネオン管のOPENの光。
店の前でセッケンを止めるとヘルメットとその他一式をセッケンの上に置き、ファロと一緒に建物の中へと足を運んだ。
...............。
扉を開けるがドアベルの音はせず元はそこにあったであろうと思しきおところにくり抜かれた痕。
照明が所々死んでいるらしく、かろうじて店内を見渡せる程度。
「コこはバーかナ?」
「パブかな?色んなビールがあるみたいだ。」
7つのテーブルに酒樽の置かれたカウンター。
至る所に人工樹や人工鑑賞植物がおかれてる。
天井にある三枚羽のシーリングファンは停止していた。
ホコリが着いていることからしばらくまともに回ってはいないだろう。
「レニィー...このオ店には誰モいないのかな?」
「...しっ、」
視線を感じたレニスフィアはフアローシヤを庇うように前に立った。
スカートの下にある拳銃に手を当てる。
「おや...おおや...お客とはめめずらしいですね?」
カウンターにピクリと動く人影。
発してる言葉から生身の人間では無さそうだが。
カウンターの奥にいたのはメイド服を来た大人びた女性形アンドロイドだった。
艶のある黒髪はカウンターの机に遮られ見えなくなるまでは確実に伸びている。
オーナーの趣味か作業員の決められた制服なのかは分からないがフリルやリボンを見る限り随分と凝った作りになっていると素人目でも分かる。
だが、その服は劣化して所々破けている他、酷いところは両腕の肘から下は生地が引きちぎられたようになくなっている。
「ハローお姉さん。私はレニスフィア。後ろにいるのが妹のファローシヤ。二人しかいないけど大丈夫かな?」
カウンターのお姉さんは優しく微笑み手招きをした。
「あらいららっしゃい?私はこの店でやってるリストアよ。2名様...こちらのカウウンター席に座って貰えないいかしら?」
カウンター席に行こうとするファローシヤを手で押えレニスフィアも笑みを作る。
「ごめんねリストアお姉さん。看板をみて来たんだけど私達にはまだこのお店は早かったみたい。」
困ったように手を頬にあて首を傾げるリストア。
「そんなことはないわ?お腹すいてるるでしょう?た食べ物も作れるのよ?」
...。
「それは無理じゃないかな?リストアお姉さん。」
「あら?なんでかしら?久しぶりりですもの会話だけでもどう?」
...。
……。
少しの沈黙。
肌に変に張り付いた嫌な空気を感じる。
どうやらファローシヤも気付いたらしい。
「どうシて、オ姉さん...足が無いの?」
カウンターの奥陳列されたワインのボトルに反射するリストアの下半身、両足は引き裂かれていた。
フレームが 露出し歪んでいる。
余程の力で引き裂かなくてはこうはならない。
まず、まともに立つことは無理であろう。
無意識にレニスフィアはリストアを睨んでいた。
足も肩幅より少し大きく広げ何時でも動ける体制だ。
「そんなに、警戒ししないでちょうだい?この足は自分でやったものなのよ。」
リストアの言葉にはてなマークを浮かべるファローシヤ。
「...三年前のウイルスパンデミック...。か。」
レニスフィアの手がスカートの裾に触れると、軽い金属音を立てスカートの裏から飛び出すアームに固定された拳銃。
右手に受け取ると躊躇いなくリストアに向けた。
「御明答。私はは3年前かから人が殺したくてたまらない。」
ウイルスパンデミックはただのウイルスでは無い。
アンドロイドの機械的なウイルスだ。
そもそも人やヒューマノイドは頭で記憶し思い出し行動するのに対して完全に人工物であるアンドロイドは少し違う。
月の裏側にある巨大サーバに記憶データを常に個別保存し、サーバからダウンロードをして思い出し行動する。
そして三年前にそのサーバーがハッキングされてしまった。
何重にもなる厳重なセキュリティをかいくぐりそのサーバーの中でウイルスが蔓延したのだ。
今こそそれは修正が入ったがもうダウンロードしてしまったものはどうしようもない。
治すことはできるがおおががりな施設が必要だ。
何かを思い出すことがトリガーとなって起こるウイルスパンデミック。
感染するとアンドロイドの人への危害を加える行為が許可され殺戮衝動に駆られてしまう。
この事件がゼノが世間から非難される1つでもあると本人から聞いていた。
...。
「レニスフィアちゃん。フファローシヤちゃん。私はね殺したくなないの。でもぐちゃぐちゃにしたくて。...殺したたくないから私は自分の足を潰したの。だから大丈夫。」
レニスフィアはファローシヤに目線を向ける。
ファローシヤはレニスフィアを見ていた。
二人頷きもう一度前を向く。
「かれここれずっと二年...一人で生きててきた。か会話がしたいの。」
レニスフィアは銃を下ろした。
そしてゆっくりカウンターへと進む。
「ねェ...リストアお姉さン。それってカウンターに座ル必要ある?」
ファローシヤがレニスフィアの服を握って立ち止まる。
「そそうねぇ...手が...ととどかないわ...。」
その時のリストアの表情は、快楽に溺れた人間の表情だった。
パキン...パキン...と異音がなる。
...その瞬間レニスフィアはファローシヤを抱え横のテーブル席に転がり込んでいた。
木の割れる音。
レニスフィアがいまさっきたっていた床は3つの深い引っかき傷でえぐれている。
「ちっ...マジックフレームかよ。」
テーブルに転がり込んで机が倒れ運良くレニスフィアとファローシヤは机を盾に隠れる体制になる。
「ファロ大丈夫か?」
「ダ大丈夫っ…」
「ああ、は早く...手前の階段を登って。2回から飛び降りて...やっぱり待って...ああなた達をぐちゃぐちゃにしたいっ」
レニスフィアは覚悟を決めた。
拳銃を左手に持ち替えると右腕の人工皮膚がちぎれる。
とても細かく、精密に開いた右腕のギミックは内蔵されたコンバットナイフを射出する。
「ファロっ表口からでろ!三で待機、タイミング任せる。」
薄いテーブルの壁から飛び出したレニスフィアは二発の弾丸を放ちコンバットナイフを投げつけた。
だが銃弾もナイフもとどかない。
...そこには腕の関節が異様に伸びたアンドロイドがいた。
カクカクと小刻みに震える体、部屋全域にまで届くほどの細長い腕、手先は鋭く床を抉った正体はそれだと確信する。
オマケに銃弾もナイフも弾く頑丈さときたもんだ。
「リストアお姉さん。ただのマジックフレームじゃないね?」
正気を失いつつあるアンドロイドに言葉は通用するかは不明だが話しかける。
「まマスターは凄いのっ...私を護衛の...ぐちゃぐちゃの...そ傍に置いてくれるだなんて!!」
マジックフレームは見世物のアンドロイドに使われる鉄製骨格だ。
伸びる手足に機敏な反応。
だが攻撃力、防御力はあるはずもない。
ならば、そうなるようにオーナーが改造したのだろう。
リストアは長い両腕を器用に動かしレニスフィアをなぎ払いにかかる。
レニスフィアのふくらはぎが破けると角張ったバーニアが姿を露わにする。
ジェットを噴射し床を焦がしそのまま真横に飛ぶと壁を蹴った。
と、同時に迫り来る腕が柱ごと切り裂きレニスフィアを襲う、がそれを体を逸らしてかわす。
レニスフィアは器用に着地すると弾かれたナイフを拾う。
目線で合図を送るとファローシヤは正面入口まで走り出した。
リストアの甘く爛れた表情。
当然、逃がさない奇怪な二本の腕。
レニスフィアはジェットで勢いをつけて逆立ちすると迫る手を蹴りあげる、蹴り上げられた手は天井のプロペラ、シーリングファンを切断し突きささった。
綺麗にバク転を三回すると体をひねりファローシヤに迫るもう一本の腕に向かって横から蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた腕は部屋の柱をへし折り床に叩きつけられる。
ファローシヤは部屋から脱出した。
…大丈夫、ファローシヤには指1本触れさせはしない。
片膝立ちで滑るように着地するとレニスフィアは重い息を吐いた。
「あらああら...レニスフィアちゃんは見た目によらず男勝りなのね?妹ちゃんを逃がしてあげるだなんて、ででもねあなたは逃がさい...逃げれない。」
天井に刺さった手を引き抜き二本の鋭い手でレニスフィアを囲んだ。
「悪いね。こちとら生涯男勝りな性格でね...。」
...............。
無事外に出れたファローシヤは急いでセッケンのもとへ走った。
「...コード3 ブースト コネクト...オ願い。」
そうファローシヤは唱えると文字と数字が輪を作りにファローシヤを中心に浮かび上がる。
微かにひかる右手をMRcc34対重力大型ベンクに向けた。
ガコン...と大きな音を立て独りでに動き出すセッケン。
左右取り付けられたコンテナが開く音だ。
中にはコンパクトに収納された鉄のガラクタが積み込まれていた。
セッケンのエンジンが轟音を立て稼働し折りたたまれた四本のサブアームがガラクタを組み立てていく。
正確で無駄のない組み立てはものの数分で対物ライフルを組み立てた。
よくある対物ライフルよりふたまわり大きいライフルは明らかに大きく人間に扱えるものでは無い。
並のアンドロイドさえ放てば反動で体がバラバラになるような代物である。
「ありがトう!まだまだよろしくネ!」
ファローシヤは対物ライフルを受け取り縦持ちで地面立てると右腕の裾を肘まで捲った。
人工皮膚が引きちぎれ中が開きソケットが露になる。
セッケンから1本のゴムチューブを取り出すと肘にはめ込んだ。
カチリと音が出るまではめ込むと水色の液体がファローシヤの腕、肩へと巡る。
セッケンから伸びたサブアームが三本のコードを背中に接続しセッケンのエンジン音が増大した。
.....................。
レニスフィアは拳銃をもう1丁スカートから取り出すと両手に構え前と後ろに向けた。
「だ弾丸なんかじゃ...私の手は壊せないわ?...せいぜいズレるくらいよ?」
...。
「...かかってこい。早く楽にしてやるよ。」
レニスフィアの言葉に反応するように二つの鋭い手が突っ込んでくる。
前二発、後三発の弾丸を放ち軌道をそらす。
「確かにそれくらいが限界だ..が、今はそれで十分だ。」
右手の拳銃を宙に投げ体を倒し前方から伸びるの手を避ける。
床に右手を付き足のバーニアを吹かす。
右手だけで側転し後ろから迫る手を避けた
後は落ちてくる拳銃を受け取るだけだ。
「あらあら、む昔街に来たサーカスの出し物のようね。な懐かしいわね。」
目標を仕留め損ねた両腕は壁に突き刺さるが直ぐにリストアの元へと戻る。
左手をそっとレニスフィアに向けた。
「ななんで...こうなったのかしら、か悲しい?…後悔ってわ私は言葉しか知らなかったわ意味を初めてり理解出来た気がするわ。」
パキ...パキン...。
狙いを定め音を鳴鳴らすと高速で左手がレニスフィアを向け伸びる。
レニスフィアは避けない。
右手の拳銃を手放し前方を見極め身構える。
意味を言葉としてしか理解していない人間よりも言葉の意味を理解したアンドロイドの方が..普通の人間と言えるのではないか..
ふと、レニスフィアは思ったのだった。
ガガガッ...ガガガ。
火花を散らす。
.........。
レニスフィアはリストアの腕を掴んでいた。
脳天ギリギリを迫るリストアの鋭い左手。
リストアの腕とレニスフィアの手は人工皮膚がちぎれフレームが露出している。
静かに双方の真っ赤なナノマシンが床に滴る。
レニスフィアはまっすぐリストアを見る。
「ゼノを受け継ぐこの俺が本人に変わり謝罪する。本当に申し訳なかった。」
突然ドアが爆発する。
空気をふるわせる振動が棚に置かれたボトルを次々と落下させる。
そこには大型対物ライフルを構えたファローシヤがいた。
そこでリストアはドアだけを吹き飛ばした訳ではないと知る。
リストアの右肩から先が無くなっていた。
飛び散る真っ赤なナノマシン。
驚くように目を見開くリストア。
再びファローシヤは引き金を引いたした。
砲身の先四角いマズルブレーキから十字の火柱。
周囲を破裂させるかの如く重い発砲音。
リストアは左腕も吹き飛ばされ反動で椅子から壁に叩きつけられる。
............。
レニスフィアはリストアの左手を床に捨てるとハンドガンを右手に持ち変えカウンターへと足を向けた。
カウンターに乗り上がり下を覗くとリストアが短い息を吐いていた。
「おお、教えてゼノ...私...は死んだら..マ、マスターに会えるかしら?」
......。
「俺は会えなかったよ。..多分ゼノも..でもそれは人であっても人ではなかったからなんだと思う。リストアお姉さんは会えるといいね。」
レニスフィアは引き金を…
「マッて!!」
ファローシヤがレニスフィアを止めた。
「リストアお姉さんヲ...本当に殺してシまうの?」
...
「あぁ...ファローシヤ、彼女は昔も今もずっと苦しんでいる。苦しませている。楽にさせてあげたい。」
「そレは、リストアお姉さンの願い?」
……
違う…俺は…ゼノとしての責任を取ろうとしている。
アンドロイドのウイルスパンデミックが起こったのはゼノの責任だ。
犯人がいたとしても管理していたのはゼノに違いないのだ。
アンドロイドではあるが彼女、リストアはゼノのせいで苦しんでいると言っても過言ではない。
ならば終わらせるというのは理に叶う。
果たしてそうだろうか?
目の前の物語を終わらせるように本を閉じて燃やしてしまうことが責任を取ると言えるのだろうか…。
...。
「...俺が苦しいだけかもしれない。嫌な物を拒絶するように、今ここで引き金を引けば楽になるのは俺か...」
拳銃を下ろしファローシヤを見る。
ファローシヤは小さく微笑んでいた。
レニスフィアはカウンターにしゃがみリストアに声をかける。
「なぁ、リストアお姉さん。あんたはどうされたい。」
カウンターの奥に倒れるリストアは最後の声を絞るように言葉を発した。
「わ...ワタシは...楽しく賑やかに...お酒を皆で...また...」
「...わかったよ。」
レニスフィアはカウンターから降りるとリストアをまたいで膝立ちする姿勢をとる。
「ファローシヤ少しの間頼む。」
「ガッテン承知!」
カウンターの反対側から心強い返事が聞こえた。
「コード1 カブウェブ ドック」
文字と数字が輪を作りにレニスフィアを中心に何重にも浮かび上がる。
レニスフィアは手前に手をクロスさせるように服の裾を掴むと自分の胸の下まで素肌を露わにした。
ミチッ...ミチチ...
背中の人工皮膚が裂ける音。
八本の細いサブアームが背中から展開する。
「レストアお姉さん。かなり荒い施術になるよ。」
レニスフィアの赤い瞳が光ると同時にサブアームが展開完了した。
まるで蜘蛛の足のように伸びきった計八本のサブアームは鋭く、その先はリストアに向いている。
4本のサブアームの橋からピアノ線のようなワイヤーがリストアを固定し、残りの2本と両腕で修理を始めた。
「あ゛あぁ…あ゛あ゛…あ゛..」
体制がきついのか呻くリストア。
サブアームの先が展開する。
先端が4つに別れたサブアームが勢いよくリストアの腹部に突き刺さった。
顔を歪ませ苦痛を露わにするリストア。
「10年はナノマシンの交換をしてないな。中がでろでろだ。」
腹部に刺さったサブアームをさらに展開して腹部の機能を掌握する。
そのままもう一本のサブアームも展開しリストアの後頭部へ回り込む。
そして容赦なく頭にサブアームを突き刺した。
痙攣するリストアの体に垂れる真っ赤なナノマシン。
「あ゛っ…い、痛い…いい痛い…怖い消えたたく…ない。あぁ…」
レニスフィアは微笑んだ。
リストアに覆いかぶさり覗き込むように…。
「大丈夫だ、ゼノの知識を見せてあげるよ..ほら、楽にして…楽に…」
レニスフィアの瞳がほのかに赤く灯る。
プチッ…
今リストアのコアを全身から強制的に遮断した。
リストアの体は白目をむき崩れ落ちる。
が地面に頭はつかない4本のサブアームがリストアを支えてる。
長く息を吐くレニスフィア。
…吐き気と頭痛がする。
そうだ施術はファロ以来か…。
この両手が使えればもっと楽に施術ができるはずなのに…手が震えて言うことを聞かない。
負けるな..サブアームはしっかり操作できている。
ここから先はさらに繊細だ。
俺は..。
「レニスフィア・ゼノ・ドールだ。..」
……………………………………。
………………..……………………………。
…見上げると青空。
「あら、ここは…天国…かしら…確かそうね…誰が言ってたわ…いや、言ってなかったかしら…でも私は天国を知っている。きっとこんなところね。」
聞こえる対重力エンジンの力強い音そして振動。
「起きたかい?調子はどう、リストアお姉ちゃん?」
「おハよう!よく寝タ?」
周りを見渡すが声の主は見当たらない。
「レニスフィアちゃん、ファローシヤちゃん、どこにいるの?」
…。
「悪いね、リストアお姉ちゃん」
私の頭上から声が聞こえる?
「代わりの身体、探したけど見つからなかったから、俺たちの大型ベンクに組み込んじゃったっ」
「今度カらなんて呼べば良いノかな?セッケン?リストアお姉チゃん?セッケンオ姉ちゃん?」
……。
「え…えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
上から声が聞こえるのはそういう事!?
「私の上にレニスフィアちゃんとファローシヤちゃんの声が聞こえるのはそういう事なのね?」
「そういう事さ、俺たちのベンクは少し特殊でね?メインエンジンにアンドロイド用ナノマシンを使ってるんだよね、これをアンドロイドのパワーユニットに代用してリストアお姉ちゃんのコア..自我を保ってるって訳さ、」
「そんな事言われてもよく分からないわ…。」
どこまでも続く地平線下それをぼんやり眺めていると疑問が浮かんだ。
「ねえ、レニスフィアちゃん…」
「レニィーで構わないさ。」
「レニィーちゃん…私、貴方達を殺したいとは思わないわ…私はウイルスに感染していたはず。」
「あぁ、バッチリ感染してるぞ?ただ、そのウイルスを発動させないだけにしている、いわゆる応急処置だ。リストアお姉ちゃんは前のオーナーを思い出せない。そういう上書きをさせてもらった。このウイルスはね大切な人を思い出すのことによって症状は発症するウイルスなんだ。」
「……。」
確かに、思い出そうとするとモヤがかかるように…いや、思い出せない。
とても…とても大切だったはずなのに。
「ごめんね。リストアお姉ちゃん。こうするしか今は方法がないんだ。」
「リストアお姉ちゃン!これかラね!人がたっクサんいる浮遊都市に行くんだっテそこで身体を探そうネ!」
…。
「正直、このままでも悪い気はしないわ…だって、こんなにも空を飛ぶってすごいことですもの…教えてあげたかったわ。」
「いや、直すさ。身体を見つけてウイルスを消す。そしたらリストアお姉ちゃんの大切な人大切な話いっぱい聞かせてよ。」
「わタしも!聞キたい!」
思わず笑ってしまった。
いつぶりだろう。
「それはどうかしら…きっと悲しいことも思い出してしまうかもしれないわ…でもそうね。もし、2人が聞いてくれるなら聞いて欲しいわ…。」
……………………。
雲一つない青空。
遠い海面に映る1台の機械に乗った少女2人の影。
レニスフィアはリストアには話すことはないだろう。
リストアのような存在が元第12浮遊都市にまだ残ってる可能性があるということを。
リストアはレニスフィアには話すことはないだろう。
元第12浮遊都市の同類を破壊して回り最後の1人として生き残った最後のアンドロイドだと言うことを。