プロローグ 奈落&救済
プロローグ
奈落&救済
((私の事は置いて逃げなさいっ…。))
不規則に断続的な銃声…爆発音…。
置いて逃げるなんぞできるわけが無い。
「貴方様のためにこんな格好で潜入してるんですよ。例え壊れてても必ず持ち帰ります。」
1人でそんな事を呟きながら青年は細い廊下を走り続ける。
廊下奥の通路右左から黒スーツの大男が現れサブマシンガンを室内にもかかわらず乱射した。
連続する発砲音に薬莢が落ちる音。
弾丸が体を掠める音だ。
衣服を翻しスライディングをする。
そのまま足に隠してある拳銃を二丁左右に構え突っ込んだ。
最初計2発の弾丸が左右の大男をほぼ同時にダウンさせる。
右の男は左胸…左の男は頭にヒットした。
そのまま大男共を通り越しさらに走る。
…が足を掴まれて前からぶっ倒れた。
右の大男だ。
「ちっ…ヒューマノイドか…」
心臓に確実に入ったのだ。
それでも動くのなら体をいじっていると確信せざるおえない。
「ヒュートレィル様の…夜を汚すな…。」
と、ドスの効いた声で睨みつける大男。
掴まれてない足て蹴りつける。
「元々汚い夜だ。いくら汚しても構わんだろ?」
そして拳銃をもう1発。
発砲音に硝煙。
大男は沈黙する。
走る…走り続ける。
「くっ…」
………………。
………………………。
どれほど走ったのだろうか…。
拳銃は弾切れに弾詰まりを起こし逆に持って鈍器にしていた。
気がつけば体もボロボロだった。
穴が開き裂け破裂しちぎれる。
全身血だらけだった。
返り血か己の血か。
不思議な事に痛みはない。
「お嬢っ…」
もう…本当に目の前だった。
ゼロ距離のショットガン。
元々崩壊し存在しかなった壁。
目の前の泣き顔。
吸い込まれるようにぶっ飛ぶ自分。
…あぁ…ここが高層ビルだと言うことを…忘れていた…。
…………………。
ドスッ……………あぁ………あぁ。
見上げるビル…視界が揺らいだ。
四方八方ビルに囲まれ周りは真っ暗…唯一の救いの空を見上げていたが空はどす黒く曇り雨を降らしていた。
高い所から落ちた…。
それだけを鮮明に覚えている。
液体が込み上げむせ返る。
喉元が熱い。
重い頭をやっとの事動かし腹部を見ると鉄柱が背中から腹を貫通し赤く色を変えていた。
ブクブクとなにもしてないのに液体が口から溢れ出る。
「ゴポ…おじぉ…う…俺…ゴポ…絶対…に…。」
無意味なのは分かっていた。
だが…でも…それでも…こんな所で…。
「ご…めん…ゴポ…い。」
ダメだ…諦めた。
もうどうしようもない。
もうダメだ。
ダメだ…約束も…ダメだ…あの笑顔も…ダメだ…血液が…ダメだ…助かる方法は…ダメだ…意識が…ダメだ……。
…もう…ダメなんだ。
「ご…ゴポ…なさ…い。」
今俺は涙を流しているのだろうか…。
…………………。
………………………………。
「いやぁ〜っまだ生きてるヒューマン珍しくしぶといねぇ。」
ジジイの声
…………。
「君男?なんでそんな格好してるんだい?」
………………。
「あ、男だ。」
「ちっ、うーむ…」
………。
「あ!閃いた。閃いたよ。君!今私はとても閃いている!素晴らしい!。」
……………。
「喜べ…お前は死なん!だが、その見返りとしてワシの性癖に付き合って貰うぞ…ひっひっひっ。」
………。
「ワシは天才だからな。」
………………………。
悪魔が俺の横で引き笑いを続けている。…。
……
…………………。
………………………。
…ビクンッ…
……ビクンッ…ビクンッ…
もう何回痙攣したことだろう。
何度も何度も無意識に断続的に痙攣する。
「素晴らしい!ひっひっ…完全に腕も足も膣も繋がった!」
モニターを確認するため毛のない陰部から指を引き抜いた。
…ビクンッ…。
濡れた人差し指を気にも止めずそのまま画面をスクロールするジジイ。
「ユーリェ私はやり遂げたよ。ユーリェや…」
目をかっぴらき執念に何度もモニターを凝視する。
…ユーリェ…。
そんな事を疑問に思う前に意識が再び落ちた。
……………………。
…………………………………。
「目覚めたかね?」
目を覚ました俺は腰だけを起こし軽く辺りを見渡した。
白く柔らかい机に寝そべる自分…ベットではない。
天井から赤と青とチューブが肘に接続されている。
机の周りにはカーテンで仕切られており周囲にある触手のような大量のチューブにつなかったモニターと白髪のジジイしか確認できない。
「お前の名前は…」
とシジイは口を開いた。
歯並びがめちゃくちゃ悪かった。
「カズ…か…かずも」
妙に記憶がおぼろげだが完全に忘れている訳では無い。
ん何故かやけに声のトーンが高かった気がする。
「いやいい。お前は今日からレ二スフィアと名乗れ。レ二スフィア・ゼノ・ドールと。」
……。
「ゼノ…ドール?」
笑うジジイ
「わしの傑作品…ゼノのドールだからの…」
ドール…俺が?と体を見ると…驚愕した。
もともと予感はあった嫌な予感だ。
華奢で小柄な体型、胸に軽い膨らみ…そして股間の違和感だ。
肌はつやつやで奥に薄くフレームの繋ぎ目が見える。
この人工皮膚は高級品だと直感する。
「!?」
「お前は1回死んだんだよカズモト…そして転生…第2の人生をあゆむんだ…前世の記憶を頼りに復讐するも良し…全てを忘れ人生を1から積み直すも良し。」
前世の…復讐か…。
「なあ、ゼノ…さん。」
「ジジイでいいわい。」
「ジジイ。俺が死んでからどれくらいたったのだろうか」
……。
「2ヶ月半かの…。」
2ヶ月半か…きっとあの方はこの世にはもう居ないだろう。
復讐したい気持ちはある。
だが…そう…今の自分とはもう何も関係がなかった。
もうあの方がこの世にいないのなら俺も死んだも同然だった。
あの時しくじった自分を過去を消してしまいたいとさえ思えた。
「ジジイ…今世は暇になるな。」
完全な逃避に走ったのだった。
「ところでジジイは何故俺を助けたんだ。」
「助けたのではない。利用したのだ。ワシの目的のためにお前は使えた。それだけの事だ。」
白い髭を下に撫で下ろすジジイ
「目的?」
「お前を作ること。」
だけでは無いことくらいさすがに分かる。
……。
「時期にわかる。」
とジジイはカーテンを抜けて視界から消えた。
「お、おいジジイ…ここはどこだ?俺も好きに動いていいのか?」
カーテンの奥から声がする。
「自由に見て歩けばいい。お前は完成品だ。」
机から下り肘のチューブを引き抜く。
と同時に肘のソケットが中に収納し人工皮膚が肘表面に展開された。
足の下がチューブだらけでとても歩きにくい。
カーテンをめくった。
たれる大量のチューブに大量の大きさ様々なモニター。
机が他にも3台あるが何も乗っていない。
窓を探すが機械がぎっしり部屋を覆っている。
奥に扉がある少し錆びた重たそうな鉄の扉。
ジジイの背丈2倍もあるその扉はボタンで開閉するらしい。
扉に近づき横にあるボタンに手をかける。
ジジイの3分の2しかない背丈でも届く位置で助かった。
深く押すと重い何かが落ちるような音がしてゆっくりと扉が中心から割れるように開いた。
光が差し込む。
「!?」
扉が開いて目に入ったのは…天井逆さ向きに乱雑に生えた鉄骨そして少しの地面とその下、水平線に落ちる夕焼け。
夕焼けが天井の鉄骨に不思議なシルエットを与えオレンジの光を反射させる。
綺麗に両立した光と影それは自分の足元まで。
塩気と鉄の匂いが鼻に着く。
夕陽はこんなに眩しかったのかとその景色に息をするのを忘れる。
まるで宙返りをしながら朝日を見てる気分だった。
少し離れたところにジジイがいる。
「ここは…ここはどこなんだ。」
扉から出ずにジジイに質問する。
この距離なら聞こえていないはずはない。
「どこ?…まえいた所とそう変わらん。誰もが忘れたビルの足元だ。」
なぜ外に出ない?という顔をして手招きをするジジイ。
「服がないんだよ。」
前世でも全裸で外を歩くなんて事は当たり前だか無いし今世は抵抗がないなんて事もある訳が無い。
「どうせワシ以外に誰もおらん。」
「出たくない。」
「扉の横に白衣があるであろう?」
見るとこそには学者がこぞって着てるような白衣が掛けてある。
少し高いところに掛けてあったために無理矢理引っ張って降ろしそれを着た。
ぶかぶかな白衣だ。
袖は完全に垂れ落ち裾は地面にかろうじて着いていない。
ジジイのだろうか?それにしてはやけにシワがなく綺麗で使われた形跡がほとんどない。
と、そんな事よりもと扉手前にあった合成樹脂のサンダルを履き外へと足を踏み出した。
あまり広くないと思えた地面は思ったより広かった。
地面は小さな雑草がちらほらと生え意外と近いと思った天井は歩けば歩くほど高くなっていった。
地面が下がっているのかと直感的に気づく。
ジジイの所まで来た。
「レニスフィア…技工士にならんかね?」
夕焼けを見ながらジジイは口を開いた。
「技工士?」
「ドールを扱う専門の職だ。」
「少なからずそう遠くない内にワシは死ぬそしたらレニスフィア…お前は、お前で自分を直し生きてゆけ。」
潮風が少し強く吹く。
「ジジイもヒューマノイドになればいいじゃないか。」
ヒューマノイドは脳以外全て人口臓器や機械に置き換えたサイボーグに近い存在である。
体には血ではない真っ赤なヒューマノイド用ナノマシンが流れる。
脳にも流れる血液の代わりのヒューマノイド用ナノマシンは脳の寿命を300年にも引き伸ばす。
「ワシは機械化を好まん。」
「人の体は勝手にするのにな。」
潮風に白衣と長い髪がたなびく。
「したけりゃお前が勝手にすればいい。ただし容赦はしない。」
「俺を壊す気?」
「そうだなもしその時が来たならば。」
ジジイ引き笑いをする。
「冗談じゃ、老いぼれた脳をナノマシン漬けにしても手遅れなだけだ。」
そう笑いジジイは研究所に戻る。
聞きそびれてしまった。
何故俺を生き返らせた真の理由が。
…………。
……………………。
……………………………。
間もなくしてジジイは死んだ。
俺に技工士の腕と知識を教え技工士認定をネットで獲得した2日後に息を引き取った。
技工士認定を獲得した時に初めて知ったがあのジジイは第1世代オリジナルナンバーと言われる人型人工知能搭載機アンドロイドを作った1人と言われるすごい人だったらしい。
日々のヘラヘラさからは想像もつかなかった。
アンドロイドは2世代3世代と続き今現在は8世代まであるが不思議なことに1世代の能力を超えることは出来ていない。
なんせ1世代以降に製造チームは解散し新たに作られた製造チームは模造品を作るにしか過ぎないからであるとジジイは言っていた。
「肝心なコアは全くもって進歩していない。コピーすらまともに出来ない。レニスフィアよ最新の8世代はお前にとってどう見える?」
「どう見えるって…?そりゃ…人工知能とはいえ機械…。」
「そう機械なんじゃわ…ワシらの作ったオリジナルナンバーは人の心を持つ。本当は今の8世代にもあるはずなのだがな。」
「どういう事さ…」
「ひっひっひっ…コアにリミッターをかけてるのだよ。暴走しないための…な。」
「人の心に人的リミッターを噛ませているから機械止まりと…。」
「その方がヤツらには都合が良かろう…」
「でもすげぇな、物に人の心を与えるなんてさ。まるで魔法だ。」
「行き過ぎた科学は魔法に見える物なのだよ。レニスフィア。」
…………。
……………………。
1人で眺める夕焼け…
「ジジイ…俺は誰かに魔法で人をおどかせるようになれるだろうか…。」
1人になると暇だなと感じてしまう。
そうだ街に行こう。
行きつけの店にでも。
もう俺の死後から6ヶ月が経過しようとしていた。
………………。