80.シズクちゃん、遂に進化です!
「よっし、ようやく仲間にできたわよ!」
「お疲れ様なんだよ、サーシャ。ボクも疲れたよ」
ホーリーフレイムジャガーを仲間にした翌日、サーシャのお願いであるカースドジャガーのコントラクトを行うこととなった。
でも、それははっきり言って苦難の道だったのですよ。
どうやら【手加減】スキルによる瀕死維持は狙えないらしく、一戦目は豪快に倒してしまいました。
二戦目から四戦目も同じく、瀕死にすることができず、倒してしまいます。
五戦目ではなんとか瀕死に持ち込めましたが、コントラクトが成功せず、やむなく倒すことに。
六戦目は……サーシャのブレンがクリティカルヒットを叩きだし、HPを一割ほど削ってしまい、オーバーキルに。
そして七戦目、ようやくいい感じの瀕死状態に追い込むことができたサーシャは、MPポーション片手にひたすらコントラクトをかけ続ける作業をすることとなり、これによって念願の従魔契約が完了した、というわけです。
「……よし、今日からあなたはシュバルツよ。よろしく頼むわね」
「グルァ」
かなり大人しめになった、カースドジャガー。
それでも、全身から黒い炎を立ち上らせている姿は、威圧感がありますよ。
……ちなみに、ブレスから忠告されていたとおり、シュバルツの言葉はわかりませんでした。
いつかは、シズクちゃんともお話ししてみたいですし、機会をみて強化させないとダメですね、【意思疎通】。
ちなみに、カースドジャガー戦におけるボクのパーティ布陣は、ブレスを仲間にしたときと同じ布陣で戦わせてもらいました。
このメンバーなら、どの子もレベル不足による進化待ちなので、ちょうどいい経験値稼ぎだったと思うのです。
さて、各パートナーたちのレベルはどうなっているかなー。
「おお、これは!」
「どうかしたの、リーン? 大きな声を出して」
「ああ、すみません。ボクのパーティメンバーが全員進化できるようになっていたのですよ!」
「それはすごいじゃない! おめでとう」
「ありがとうです。それでは、マイホームに戻って、進化ですね」
「そうね。私も今日は疲れちゃったから、冒険はおやすみだわ」
「では、戻りましょうか」
「ええ、戻りましょう」
ボクたちの意見は一致したので、早速リターンホームで還らずの森を脱出したんだよ。
……うん、ザコ戦はなかったけど、ボス七連戦疲れたんだよ。
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さて、マイホームに舞い戻ってきました。
サーシャも進化の様子を見ていく、ということで一緒にいます。
まずは、そうですね……進化の方向性が決まっているアクアから進化です。
「最初はグリフォンから進化なの? シズクちゃんじゃなく?」
「シズクちゃんは最後なのですよ。楽しみは最後までとっておくのです」
「グリフォンは楽しみじゃないんだ?」
「この子は、もともと進化先を決めて育ててましたからね。サーシャのブレンと一緒です」
「なるほど。それなら進化後は楽しみであっても、進化という行為自体は楽しみじゃないわけね」
サーシャも頷いてわかってくれたようです。
というわけで、アクアをさっくりと進化ですよ。
進化先は、水系グリフォンの第一段階、「ウォーターグリフォン」です!
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名前:アクア
種族:ウォーターグリフォン Lv.26
HP:142/142 MP:120/120
STR: 82 VIT:62 DEX:70
AGI:120 INT:72 MND:96
スキル:
【嘴Ⅱ】 【爪撃Ⅱ】 【強襲Ⅱ】
【水魔法】 【海魔法】
特殊スキル:
【飛行】 【水中飛行】 【騎乗】
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特筆すべきは、【水中飛行】ですかね。
ボクのお目当てのスキルで、例え水中であっても騎乗者を乗せて飛行できるというスキルです。
勿論、騎乗者が溺れることもありませんよ。
お次はスズランにしましょうか。
スズランはフォレストキャットのネームド種、進化先も多そうです。
進化先を確認してみると、フォレストキャットの正統進化っぽい、ディープフォレストキャット、派生進化らしい、スノウキャットやデザートキャットなど、進化先がたくさん用意されています。
……いえ、事前に決めていたのでカットしただけで、アクアにも進化先はいっぱいあったのですがね。
さて、この中から選ぶわけですが……スズランには一撃の威力というか、クリティカル狙いの戦い方をしてほしいんですよね。
プリムは普通に蹴りで戦うタイプ、シルヴァンは暗殺スキルも使って仕留めるタイプです。
そこに、ブレスも加わると、近接アタッカーとして、普通に戦うだけでは埋没してしまいます。
そこでボクが選んだのが、これですよ。
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名前:スズラン
種族:アクロバットキャット Lv.29
HP:112/112 MP:95/95
STR: 65 VIT:43 DEX:112
AGI:132 INT:48 MND: 90
スキル:
【牙撃Ⅱ】 【爪撃Ⅱ】 【強襲Ⅱ】
【暗殺Ⅱ】 【奇襲Ⅱ】
特殊スキル:
【魔法耐性】 【対魔法障壁】
【空中動作】 【空中ジャンプⅠ】
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【強襲】スキルのほかに、【暗殺】スキルと【奇襲】スキルが追加されました。
これで、不意打ち攻撃の威力はかなり高くなります。
それから、特殊スキルの【空中動作】と【空中ジャンプ】についてです。
【空中動作】は空中であっても体勢を立て直したり、姿勢を変えるなどの動きがやりやすくなるスキルらしいです。
【空中ジャンプ】のほうは、もっとわかりやすく、空中で再度ジャンプできるスキルみたいですね。
スキルランクがそのまま、ジャンプできる回数みたいです。
ちなみに、体毛の色が変化していて、白い体毛に虎柄となっています。
これはこれで、なかなかかわいいですね。
次はセレナイトの番ですね。
セレナイトもネームド種なので、進化先は多そうです。
正統進化っぽい、ミッドナイトオウルの他、フォレストセージですとか、フォレストハンターといった、森関係の名前が並んでいます。
どれも、森林エリアで行動する際に補正が受けられるみたいですね。
ただ、セレナイトの進化先については、初見でピンときたのがあるのでそれに進化です。
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名前:セレナイト
種族:ホワイトセージ Lv.28
HP:76/76 MP:193/193
STR: 53 VIT: 32 DEX:76
AGI:105 INT:103 MND:95
スキル:
【嘴】 【爪撃Ⅱ】 【強襲】
【風魔法】 【土魔法】
【火魔法】 【水魔法】
【光魔法】 【闇魔法】
【暗視】
特殊スキル:
【飛行】 【魔法速度増加】
【視覚共有】 【MP回復速度上昇(弱)】
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なんと、基本六属性の魔法をすべて覚えることができる素晴らしい種族ですよ!
成長すると、さらに複合属性魔法も使えるようになるらしい、魔法の専門家です。
その分、物理攻撃は控えめですけどね。
魔法攻撃特化、ということは、MP管理が大変ですが、頑張っていきましょう。
そして、最後。
お待ちかねのシズクちゃんの進化です!
……って、あっれー?
「リーン、どうかしたの?」
「うーん、ちょっと。これはユエさんを呼ばなくちゃダメかなぁ」
「ユエさんに用事ってなにがあったのよ」
「シズクちゃんの進化先でちょっとね……」
さて、ユエさんに連絡しましょうかね。
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「リーンちゃん! ライトニングシーズーの派生進化先が出たって本当!?」
「まあまあ、少しは落ち着いて、ユエ。いきなり話しかけてもビックリさせるだけよ」
「それはそうだけど、実装からいままで誰も見つけられなかった条件なのよ、早く知りたいじゃない!」
ユエさんと一緒にユーリさんにも声をかけていたんだけど、正解だったみたいですね。
興奮しているユエさんを、ユーリさんがなだめてくれてます。
「……それで、ライトニングシーズーの派生進化先の情報ってどんな感じなの?」
ようやく落ち着いたユエさんが、ボクが手に入れた情報について聞いてきます。
「ボクが見つけたのは、全部で三種類ですよ。ただ、ほかに謎扱いになってる進化先もないので、これで全部だと思いますが」
「それって全部、進化条件がわかっているのかしら?」
「えっと、進化先を選択状態にすると、進化条件が表示されるんですよね。全部SSに撮ってありますから、確認してみてください」
そう前置きして、ユエさんとユーリさんにSSを見せます。
なお、サーシャはもうこの情報を知っているので、大人しく様子を窺っている状態ですね。
「……あー、これは盲点だったわ」
「そうね。この可能性は考えてこなかったわね」
「というよりも、この条件、満たすためには、一度ドライフラウまで行かなくちゃダメじゃない」
「そして、ドライフラウまでいけるプレイヤーなら、この条件を満たす前に進化させちゃうものね」
「まったく、いい性格してるよ、ここの運営も」
ユエさんとサーシャさんの間で話が進んでます。
……そんなに、難しい進化条件だったのですかね?
「とりあえず、情報提供ありがとう。……この条件じゃ、この先も見つけられなかった可能性があるわ」
「……そうなのですか? ボクは普通にクリアできているのですが」
「そうね、順番に説明していきましょうか」
ボクの疑問には、ユーリさんが答えてくれるみたいですよ。
「最初の問題にして、最大の問題なんだけど、一段階目の進化可能レベルであるレベル25になるまでに、愛情度が150になってなくちゃいけないのよ。それが、キー条件となっていて、ほかの進化条件が表示されなかったみたいね」
「そうなのですか? でも、ボクは愛情度150をクリアしていたんですよね?」
「そうね。ただ、愛情度100を越えるには大好物のアイテムを与えなくちゃいけないのよ。ライトニングシーズーの場合、ワイルドストロベリーね。……ただ、ワイルドストロベリーが手に入るのって、第三エリア、到達適正レベル帯が四十から五十の場所だから、普通は実現できないのよね」
なるほどです。
ボクは、ユエさんのおかげでワイルドストロベリーを入手できましたが、普通はそうはいかないと。
そして、ワイルドストロベリーが手に入るころには進化済みであるという訳ですね。
「……でも、それならユーリさんやユエさんみたいな、先輩さんたちまで条件を満たせない理由はないですよね?」
「リーンちゃん。私たちが新しいパートナーを育てる場合、一日で数十レベルまで引き上げるの。とてもじゃないけど、第一段階の進化で愛情度150はありえないわ」
これまた意外な事実ですね。
……ああ、でも、それくらいしないと、新しいパートナーが戦力として追いつくまで、時間がかかってしまいますか。
「それでね、難しい条件は、それだけじゃないんだよ」
今度はユエさんが説明してくれるみたいです。
「条件の中に『【マジックオーバーアタック】と【雷魔法攻撃力強化】を覚えない』っていうのもあったんだよね。これって、普通のプレイヤーだとどっちも覚えるスキルだから……」
ユエさんが苦笑いながら説明してくれます。
確かにボクは、スキルカスタマイズで、どちらも覚えませんでしたね。
まさか、それがこんなところで意味を持つとは。
「そういうわけで、普通の育成方針からは思いっきり外れた、かなり奇抜な育て方をしないとこの条件にはたどりつけない、ってわけなのよ」
「それって、遠回しにボクのことを変人って言ってません?」
「そんなことないわよ?」
怪しいなあ。
ともかく、これでシズクちゃんの進化準備も完了ですね。
「ユエさん、ユーリさん。そろそろシズクちゃんを進化させても大丈夫なのかな?」
「ええ、大丈夫よ。ほしかった情報はバッチリ手に入ったから。あとは私たちで検証してみるわ」
「それで、リーンはどれに進化させるの? 派生進化は三種類あったみたいだけど」
そうなのですよ!
進化先は正統進化以外で三種類もあるのです!
まず一番目の進化先は『エレメンタルシーズー』です。
これは、基本四属性と呼ばれる【火魔法】【水魔法】【風魔法】【土魔法】を覚えるタイプの進化のようです。
ただ、覚えられる魔法は初級までという制約が付いているみたいですが、圧倒的な弾幕で優位に立てそうな進化先です。
次の進化先は『サンフレアシーズー』と言います。
先程は基本四属性でしたが、こちらは【光魔法】と【太陽魔法】を覚えます。
【太陽魔法】はクラウドドラゴンのブレンも使える、味方を強化してくれる魔法ですね。
そのほかにも、成長していくと、もっと強力な魔法を使えるようになるらしいです。
最後の進化先は『ルナウィングシーズー』です。
こちらは、『サンフレアシーズー』の闇属性版と言ったところで、【闇魔法】と【月魔法】を覚えます。
【月魔法】は【太陽魔法】と真逆で、敵に対して能力低下のデバフを付与出来ることができる、らしいです。
こちらの進化でも、成長することで新しい魔法を覚えることができるとか。
そんななか、ボクが選んだのは……。
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「おお、気持ちいいのですよ、シズクちゃん! さあ、大空をもっと飛び回るのです!」
「ワンワン!」
ボクはいま、シズクちゃんを背中に貼り付けて、空を飛んでいます。
進化先三種類、すべてに存在していたのですが、【主従飛行】というスキルがあったのです。
効果は『契約者と一緒に空を飛べる』という、大雑把な説明だったのですが、使用してみて内容がわかりました。
このスキルを使うと、シズクちゃんがボクの背中に貼り付きます。
そして、そのまま、シズクちゃんの能力で空を飛ぶことができるのです。
飛行中は、シズクちゃんからの攻撃が下級魔法のみになってしまいますし、飛んでいるだけでMPを消費してしまいますが、これは便利そうですね。
ちなみに、使用中は背中に大きな翼のエフェクトが表示されるので、見た目もなかなかグッドです。
「おーい、そろそろ下りてきなさい」
「はーい、いま下りるんだよ-」
ユーリさんに呼ばれたので、『瑠璃色の風』の中庭に着地します。
アクアに乗って空を飛ぶのとは、また違った爽快感があってとてもよかったですね。
『瑠璃色の風』の中庭には、一度戻っていっていたユエさんが再び来ていました。
「おまたせ、リーンちゃん。情報料を用意してきたわ」
そう、ユエさんは今回ボクが発見した、進化方法に関する情報料を取りに行ってくれてたのです。
ユエさんは大金を持ち歩かない派らしいので、ギルドにお金を下ろしに行っていた、というわけで。
「それじゃあ、今回の情報料、五百万ね。今回の情報を基に、ほかのパートナーたちも進化できたら、追加でお金を渡すね」
「ボク的には、これだけでもいいんですよ?」
「ダメだよ。これはテイマーやサマナーが長年悩んできた問題なんだから」
ユエさんはなかなかの気迫で語りかけてきます。
これはボクが折れたほうがよさそうですね。
「わかりました。検証、がんばってくださいね」
「ありがとう。それから、情報の拡散の許可ももらえたし、二~三週間で結果が出ると思うから待っててね」
「わかったんだよ。それじゃあ、またね、ユエさん」
「うん、またね」
……さて、ユエさんは帰りましたし、このあとはどうしましょうかねぇ。
新しくなったメンバーで、一狩り行きたいところですが。
「リーンちゃん、そろそろログアウトしなくても大丈夫なの? そろそろ晩ご飯の時間だと思うんだけど」
「……はっ、その通りなんだよ。ユーリさんありがとう!」
「どういたしまして。サーシャもログアウトかしら」
「はい。私も晩ご飯の時間です」
「わかったわ。ふたりとも、また今度、一緒に遊びましょう」
「はい、わかったんだよ」
「お疲れ様でした、ユーリさん」
ユーリさんともお別れしました。
早くログアウトしてご飯を食べに行かなくちゃ!
それでは、ログアウトなんだよ!
意地でこの話で終わらせるつもりになっていたので、非常に長くなってしまいました。
分割してもいいかな?
とは思ったのですが、次章を81話から始めたかったのでこの形に。
次は、掲示板回かな?





