息子が殺された。その原因を明らかにする為に裁判は開かれるらしい。そんな事はどうでもいいから、さっさと死刑にしてくれ。
この作品はフィクションです。実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。
俺には、一人息子がいる。
新婚当時は、二人目、三人目と、妻とはしゃいだのもだが、今ではそれが喧嘩の原因になる。
「今の内の台所事情じゃ、二人目なんて無理ね」
とまあ、俺の稼ぎが悪いと言ってくるわけだ。
世間が悪い。
なんて言えるほど、無知でもなくなったこの頃では、背中を向けて呟くのが、精一杯の抵抗だ。
情けないね。
そのな俺の息子は、俺に似て普通の顔。
嫁に似ている気もするが、「私に似たら、もっと可愛くなっているわよ。味があるけどね」との嫁の弁。
小学校に上がり、不登校になる事も無く、毎日なんやかんやと通学している息子。特別ガキ大将でも、特別優秀でもない息子だが、目に入れても痛くないと思える。
親馬鹿と罵ってくれて構わない。俺もそう思う。
そんな息子が、
「――さんのお宅でよろしいでしょうか。警察です」
殺された。
今も、テレビをつければ息子が殺された事を、繰り返し垂れ流している。
息子は家に帰る途中で、さらわれ、犯され、殺されたらしい。
しかも、犯人は男だとよ。
信じられるかい?
「息子さんは、男に暴行され……辱められ、殺されました」
初め、この警察官は何を言っているんだ。と頭を疑った。
息子は男だぞ。その男が男に……。
馬鹿なと一蹴したが、現実はキチガイじみていたよ。
「なぜ、こうなったのか。それを明らかにすることが大事です」
「ふざけるな!」
テレビのコメンテーターが、訳知り顔でそうほざく。
原因の追究?
再犯の防止?
真実を明らかに?
貴様等は、ただ息子の辱めを知りたいだけじゃないか!
「お父さん、今の心境を」
昨日、いやその前だったか。最近は日付の感覚がよく分からない。
テレビの取材と言って、へらへら笑うその関係者を後ろに、深刻な顔のレポーターが「インタビューです」と来た。
「お前を殺したい」
何度、そう言ってやろうかと思ったよ。
テレビ局はいくつもあるし、同じ局でも番組が違うのは分かる。そのくらいの理性は残っているつもりだ。
だがな、同じ質問をぶつけ続けられ、そのたびに俺は答える。
一度や二度なら我慢も出来る。
三度も過ぎれば、もはやこれは拷問だろう。
だから思ったよ。報道の何たらを振りかざして、土足で俺の心に入ってくるこいつ等を殺したいと。それで、サラリーを貰うこいつらを。
「被告は当時、心身ともに衰弱しおり、正常な判断が出来ない状態でありました。現在は当人も深く反省の意を示しています。それらを踏まえ、懲役十年を――」
そして、今は裁判所にいる。
正直、野郎の顔どころか、その存在も感じたくない。
しかし、俺まで折れてしまっては、息子が居た事が無くなってしまいそうで。
こちらは当然、死刑を求刑した。
心身衰弱を理由に減刑を言ってくるだろうと言う、検察の説明通りの発言がアチラからはあった。
「原告側から、何かありますか」
判決の前に、裁判官から声が掛かった。
何を意図しての事か理解出来ているつもりだったが、口を開いたとき、全てが白く染まった。
「殺してくれ。そいつを殺してくれ。償いなんていらない。今すぐここで、殺してくれ。そいつが十年で出てくると言うのなら、十年後に俺が殺してやる。無期懲役と言うのなら。死んだそいつを、化けてでも殺してやる」
俺は、殺人予告とかそんな事をアチラの弁護士様に言われながら、法廷から連れ出された。
そのまま別室で、結果を聞いた。
何とまあ、日本と言う国は、平和だ、優しいと聞くが、その実弱肉強食の国だったようだ。
死んだ者が負け。
例えそいつが人畜生でも、殺された一人より、殺した一人の方が、命は重いという。
数字で言えば、二人殺すと釣り合うようだ。
なるほど、既に無くなって重さが測れなければ、重さが無かったのと同じという事なのだな。
なら、俺が俺の命の重さを持って、アレに命の重さが無い事を証明するまでだ。