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89話 成功


「ねえ、どうして戻ってきたの!? サトル君を一刻も早く取り戻すべきじゃないの!?」

「どうどう。落ち着いてください、ユウカ」

「落ち着いてなんかいられないよ!! 今このときにもサトル君は……」


 パレードにて魅了スキルを使ったサトル君は好意を持った姫様によって連れ去られてしまった。他の人に魅了スキルがかからないように誘導するため離れていたとはいえ、サトル君を守れなかったのは私の落ち度だ。

 すぐにでもサトル君を助けようと思ったのに、合流したリオが思い留まるよう必死に説得したため仕方なく宿屋まで戻ってきたところである。




「大体あの場でサトルさんを助けるといっても、どうするつもりだったんですか?」

「それはもう『竜の翼ドラゴンウィング』で空を飛んで御輿に追いついて、『竜の咆哮ドラゴンシャウト』で周りの近衛兵をぶっ飛ばして、それでも抵抗するなら『竜の潜行ドラゴンダイブ』で襲撃を…………」

「完全にテロじゃないですか」

「先にサトル君に手を出したのはあっちだよ!」

 大事な者に手を出されたなら、戦争するしかない。




「それを言うと先に魅了スキルを使ったのはこっちですが…………とにかくせっかくサトルさんが目立たないようにという思いで立てた作戦を根本からぶっ壊そうとしないでください」

「でもサトル君がああやって連れ去られた時点で目立ってない?」

「いきなりの出来事で観客も置いてきぼりでしたし、近衛兵に口元を封じられてサトルさんの人相は半分も見えてませんでしたから、騒動の規模が大きかった割には目立っていないと思いますよ」

 リオはそんなことを言うが……やっぱりこんなことになった時点で、目立つとか目立たないとかどうでもいい。


「今このときにもサトル君は姫様の部屋で両腕を鎖に繋がれて、姫様の振るう鞭がサトル君の身体を打ち付けて、苦しむサトル君は助けを……私を求めて……」

「鎖とか鞭とかどんな想像ですか、それ」

「もうどうしてリオはそんなに落ち着いてるの!? サトル君のことが心配じゃないの!? いや、そうじゃなくても、サトル君が連れ去られた時点で作戦も失敗してるんだよ!! 渡世とせ宝玉ほうぎょくを手に入れるためにも早く救援を……」

 凄まじい剣幕で私はまくし立てるが。




「はあ……まず認識をすりあわせましょうか。サトルさんは無事です。そして作戦は失敗どころか成功完了して、後は待つだけの段階ですよ」

「え……?」




 次のリオの言葉で勢いを抜かれるのだった。




「ど、どういうこと……?」

「簡単な話です。姫様の好意による反応がヤンデレだったためサトルさんは連れてかれましたが……逆説的に言うと魅了スキルをかけることに成功したということです。つまりサトルさんは手に入れたんですよ、この独裁都市における絶対の法である姫様に命令することが出来る立場を」

「あ……」

「拘束される前はおそらく動揺から命令を出すことが抜けていて、その後は近衛兵によって口を塞がれ物理的に命令を出せませんでしたが、ずっとそのままなはずがありません。姫様の居宅に戻った辺りで、一度でも口が自由になった瞬間サトルさんは姫様に命令をして自由を得ているはずです」

「そっか……」

 サトル君が痛い目に遭って苦しんでいないなら良かった。


「そして姫様に命令を出来るなら渡世とせ宝玉ほうぎょくを手に入れるのもすぐってわけですね。命令の仕方を悩んでいましたが、あちらから近づいてきたおかげでいくらでも命令が出来るようになったのは望外の幸運でした」

「じゃあ後はサトル君が渡世とせ宝玉ほうぎょくを持って戻ってくるのを待つだけで終わりってこと?」

「ええ。終わってみれば拍子抜けでしたね。まあ、たまにはこういう想定外があってもいいものです」

 リオが安堵しているのは、想定外の事態から苦労してきた今までを思い出してだろう。




「それなら安心だけど……でも、リオすごいね。あの瞬間にそこまで考えて、私が暴走するのを止めたりして。あ、もしかして姫様がああいう反応するって最初から想定していたの?」

「いえ、完全にアドリブです。そもそも姫様はツンデレじゃないかって予想でしたし……ヤンデレだとは一瞬も考えてませんでした」

「ヤンデレ……っていうと好きな人を病むほど愛してる、ってことだよね」

「ええ。独裁者で望めば何でも手に入る姫様のデレ方として、もっともかけ離れたもので正直違和感すら覚えるんですが………………命令しても人の心は手に入らなかったってことから転じたのでしょうか……それとも……」

 リオが考え込む。




「それでサトル君はいつ頃帰ってくるかな?」

「本当にサトルさんのことばかり気にしてますね」

「まあね、好きだもん!」

「……はあ。諸々の状況を考えると……早くて今日中、遅くとも明日以内には帰ってくるでしょう」

「一時間とかじゃなくて? だって渡世とせ宝玉ほうぎょくを受け取って代金渡すだけで………………あ、そうだ姫様の説得もお願いしたし……それでも今日中で大丈夫じゃない?」

 パレードが終わってすぐの現在時刻は昼過ぎである。




「それらだけなら今日中には帰ってこれるでしょう。しかし、渡世とせ宝玉ほうぎょくが現在どのような形で保管されているのか分からないので探すのに時間がかかるかもしれないのと、姫様がもし気になる情報を持っているなら聞いてくるでしょうから、明日になる可能性もあるということです」

 リオの懸念する可能性は……正直チンプンカンプンだ。




「どういうこと? 宝玉がどうやって保管されてるか分からないって……。だってオンカラ商会の調査で姫様が持っていることを掴んだんでしょ? 持っているのが分かってるのに、どんな状況か分からないって……? それに姫様が持っている情報って何?」


 何か根本的前提がリオと私の間で共有されていない気がする。




「ああ、そうでしたね。ユウカには言ってませんでしたか。ちょうどいいです。サトルさんが魅了スキルをかけることに成功しましたし説明しましょうか」

「それって……姫様がどんな存在の末裔なのかって話?」

 調査しているとき疑問に思って聞いたのに、教えてもらえなかった記憶が蘇る。


「ええ。それが先ほどの話にも繋がるのですが……まずは質問からです。今回、姫様がどうやって渡世とせ宝玉ほうぎょくを手に入れたか分かるでしょうか?」

「どうやってって……今まで通り女神教の教会を取り壊したときに、女神像から取り外されて、その地域の責任者の手に渡ったんじゃないの?」


 私はいつも通りの答えを返すが。




「残念ながら違います。というのも――この独裁都市に女神教の教会は無かったからです」




 リオの答えは私が全く想定していないものだった。


「え……? でも教会が存在しないなら渡世とせ宝玉ほうぎょくは……あ、もしかして他の町の人から買って姫様が持っているとか?」

「いえ、姫様が持っているのはこの町の女神像のものです」

「??? え、でも今さっき教会が無いって言ったばかりだよね? なのに女神像はあるの?」

 さっぱり理解できないが、リオの次の一言でようやく繋がった。




「はい。この都市には女神教の神殿があり――現在もそれが残っているんです。ユウカも見たことがあるはずですよ」




「女神教の神殿……」


 瞬間、脳裏に閃く物があった。

 そうだ、姫様の居宅。どこか見覚えがあると思ったら……リーレ村の女神教の教会だ。あれとデザインが一致する部分があったんだ。


 だとしたら……。






「この都市は昔、女神教の総本山で『宗教都市』と呼ばれていました。そして姫様は女神様の遠い末裔である大巫女です」







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