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87話 パレード

連載開始からちょうど半年経ちました。

87話と自分でもビックリするほど進んでます。

これからも頑張っていくのでよろしくお願いします。


本編どうぞ。


 演説が終わるタイミングを見に行った二人が戻ってきた。

 そのため俺も二人と一緒に部屋を出る。


「んー……久しぶりの外だな」

 大きく伸びをして外の空気を噛みしめる。部屋の中にいても苦ではないつもりだったが、流石に一週間は長すぎた。


「苦労かけましたね」

「いや、元々俺が言い出したことだしな」

「ですがそうやって情報を遮断した甲斐はあったと思いますよ」


 リオの言葉は……つまり姫様がよほどの悪事を働いたということなのだろうか? 言われてみると町行く人々はお祭りムードで盛り上がりながらも、どこかピリ付いてる気がする。

 リオとユウカも演説を見に行く前より気力が充溢しているようだった。つまり演説で何かがあって…………いや、今気にするべきことじゃないな。ここまでやって姫様に魅了スキルをかけられないってなったらそれこそ冗談にもならない。見目麗しい姫様、その評価だけで十分だ。




 現在俺たちは独裁都市中心街の中でも二番目に高い建物、展望台の中にいる。一番高いのは姫の住居らしく、入ることが出来ないからここが選ばれた。

 そして何をやっているのかというと。


「『千里眼』発動………………うーん、やっぱり当然だけど男性ばっかりなんて偏った場所無さそうだね」


 ユウカが竜闘士のスキル『千里眼』を使用してパレードに集まった人を観察する。

 どこにどのような人が集まっているか、普通に歩いて回って確認しては効率が悪い。そのためこうして人々を見下ろせる高い場所から遠くの物もよく見えるユウカのスキルを使って、魅了スキルを使っても他の人をなるべく巻き込まない場所を探しているということだった。


 俺の目から見ても、すでに姫様の御輿が通るルートの沿道には多くの人が詰め寄せて今か今かと待っている。こんなに人が集まるなんて姫様も人望があるのか、それとも…………いや考えるのは止めよう。




「ユウカ、あんまり気を張るなよ。そこまで好条件のところは無いだろうしな。ちょっとでも女性が少ない場所があったらラッキーくらいの気持ちで……」

「ん……え、あ、ちょっと待って!? 嘘、そんなことあるの……!?」


 気に病むことはないと声をかけていると、いきなりユウカが慌て出す。


「どうしたユウカ?」

「あったの、女性が全くいない場所が! パレード終盤、最後の曲がり角地点に!」

「本当か!?」

「うん……私も見たとき信じられなかったけど、本当に男性ばかりで……」


 だとしたら天があつらえたような場所だ。ユウカが信じられなかったのも分かる。




「ちょっと私も見てみます……『鳥瞰視バードアイ』」

 リオも魔法を発動する。初めて聞く魔法だが、『千里眼』と同じような遠くを見ることが出来る魔法だろうか。


「最後の曲がり角というと……この辺りですか。ふむ、ほんとに男性ばかりが集まっていますね」

「でしょ!!」

「どうしてこのような偏りが…………統計的にあり得ません…………ならば何らかの意図が…………そういえばこのポイントは警備が薄かったような…………ん、今の人…………」

「よし、じゃあ急がないと!! 早めに陣取るためにも!!」

「あ、ちょっと引っ張らないでください! もう、魔法が解除されたじゃないですか」

「ご、ごめん」


 ユウカに服を引っ張られたリオが抗議する。どうやら繊細な魔法だったようだ。




「何か気になることがあったのか?」

「……いえ、大丈夫です。こんな好条件の場所が他にあると思いません。ユウカの言うとおり急いだ方がいいですね」

「そうか……」


 リオが引っかかったことは気になるが、魅了スキルに他の人を巻き込まないことは何よりも優先するべきだ。だったら行くしかないだろう。




 そういうわけで俺たちは展望台を出て観測したポイントへと急ぐ。

 遠く聞こえる声からして、どうやらもう御輿は出発しているようだ。


「御輿は姫様の居宅から出発して、この中心街の主要な通りを一周して、また姫様の居宅に戻る……そんなコースだったよな」

「はい、そうです。そして男性ばかりが集まっていた場所は、最後の曲がり角です。ここを通れば、姫様の居宅へ一直線といった場所ですね」


 コースの終盤ということなら、御輿が通るまでまだ時間はあるはず。その予想通り、ポイントに着いたときまだ御輿は通っていなかった。




「ではここからは予定通りですね。私とユウカは他の女性が魅了スキルの効果範囲に入ることを防ぎます」

「今は男性ばかりでも、御輿が通るタイミングで近くから見ようとして女性が来るかもしれないもんね」

「ああ、頼む。俺はこの列に割り込む。なるべく前に行くことで、姫様を確実に5m以内に捉えられるようにする」

「魅了スキルを発動すれば、おそらく光がどこから発生したかで、少々の混乱が起きるでしょう。その隙にサトルさんは観客の列から離脱してください」

「そして私たちも合流して宿屋に帰ると。今日は姫様をとりこにするだけで、命令するのはまた後日だもんね」

「ああ、そういうことだ」


 それぞれがやるべきこと、注意事項を確認していく。


「では……張り切って行きましょうか」

「私たちも頑張るけど、最後はサトル君次第だから……応援してるからね!」

「ああ、ここまでやって失敗するつもりはねえよ」


 最後に発破をかけあって、俺たち三人は役割に従って散開した。




 さて、確認したように俺はこの観客の列に割り込んでなるべく前の方に行かないといけない。

 だが……。


「改めて見ても、すごい密度だな……」


 通勤ラッシュの満員電車並に人が集まっている。見ていてげんなりしてくるが……いや、逆に言えばこれだけ人がいれば俺が魅了スキルを使ったとは判断できないだろう。良かったと思うべきだ。


「すいません、通してください……すいません、通してください……」


 謝りながらもかなり強引に前に進む。露骨に舌打ちされたり体勢を崩されたことに腹が立ったのか、足を踏まれたりもした。

 つうか柄の悪い男ばっかりだな…………いや、男ばかりのポイントを選んだのは俺なんだけど。


 たった数メートルを進むのにかなりの時間と労力を使った。だがそのかいもあって、最前列一つ前の場所までやってこれた。

 最前列はその姿が全部姫様側から見られることになる。位置的にもほぼ変わらないし、ここがベストだろう。

 あとは姫様が乗った御輿が来るのを待つだけ。一息吐けそうだと思ったのだが。




「おおっ、姫様が来たぞー!」




 観客の誰かが叫ぶ。そちらを見ると近衛兵が担ぐ御輿に乗った姫様の姿があった。前に出るのに時間がかかり、もう姫様が通る時間になっていたようだ。


 姫様コールをしながら沸き立つ観客たち。姫様はというと御輿の上から手を振って応えたり、満足そうに集った観客を眺めていたりする。

 姫様を見るのは独裁都市にやってきた初日に続いて二回目だ。やはり見た目は芸術品のように美しい人である。

 その中身については……今考えることじゃない。




 御輿はほぼ道路の真ん中を通っている。よしこれなら効果範囲の5mに捉えられそうだ。


 俺はステータス画面を開いて準備をする。

 この異世界において、スキルの使用法については二種類ある。

 一つはスキル名を唱えること、もう一つはステータス画面を開きスキルの使用をタッチすることだ。


 便利なのは前者であろう。わざわざステータス画面を開き使いたいスキルを探すより、唱える方が素早く使用できるからだ。

 俺もほとんど前者で使用していたが……今回は後者で使用する。スキル名を唱えることで周囲の注目を集めたくないからだ。


 閉じるの位置が分かりにくかったり『はい』と『いいえ』の位置が逆の、クソ使いにくいUIユーザーインターフェースのステータス画面を開く。思えばこのせいで魅了スキルを暴発させたんだったな、懐かしい話だ。




 そして魅了スキルの待機画面を開き『はい』の前に指を置く。


 これに成功すれば渡世とせ宝玉ほうぎょくの獲得に大きく前進する。逆に失敗すればこの一週間がパーでさらに面倒なことになる。


 絶対にミスれない。




 タイミングを窺う。理想は俺の正面に姫様が来るとき。一番姫様との距離が近くなる瞬間だ。


 ゆっくりと進む御輿にじれったい気持ちになる。


 まだかまだかとそのときを待ち続けて、大事な作戦の成否がかかる緊張からか主観的には永遠が経ったように思えて、しかし当然のことながらそのときは来て。




「今だ」




 姫様が正面に来たと認識するや否や、俺は魅了スキルを発動する。




 瞬間、ピンク色の光の柱が周囲5mを埋め尽くした。



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