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84話 ネビュラ


 日々が過ぎ去り、パレードまであと二日と迫った夕方。

 俺は宿屋の部屋のベッドに寝転んで、あーでもないこうでもないと悩んでいた。


 パレードの基本的な情報についてはユウカとリオの二人が調べてくれたので大体分かっている。計画は初期構想から変わらず、人混みに紛れて魅了スキルを発動することで姫様をとりこにするという算段だ。


 その際の問題点は二つ。俺が姫様に命令する光景を大勢に見られてしまうことと姫以外にも魅了スキルがかかってしまうかもしれないことだ。


 どちらも解決しなければ相当に目立ってしまう。魅了スキルは欲望の対象になる、カイたち駐留派以外からさらに狙われるような面倒な事態は避けたいところだ。




「つってもどうすればいいんだ……」


 前者はどうにか工夫できそうだが、後者に関してはもう力業でいくしかないと半ば考えを放棄している。いや、その工夫すら思いついてないんだけど。


「二人は頑張ってくれてるっていうのに……」


 今日もユウカとリオは中心街に出て情報収集をしている。夕方になったのでもうそろそろ帰ってくるだろうが。

 対して俺はもう六日もこの部屋に引きこもりっぱなしだ。まあ姫様の余計な情報を耳にして魅了スキルがかけられない事態を避けるためには仕方ない。元々インドア派なので苦にはなっていない、ユウカがおばあさんからもらったとかいう本で気分転換も出来るし。




「ただいまー」

「おう、おかえり」


 噂をすれば影が差すとはこのことで、ちょうどそのとき扉が開いてユウカとリオが戻ってきた。


「もうずっと部屋の中にいるけど、サトル君大丈夫?」

「ああ、もう慣れたよ。それでそっちの首尾はどうだったか?」

「特にめぼしい情報は無かったかな。あ、でも帰り際に手紙をもらってきて……」

「手紙?」


 見るとリオの手に四通の手紙が握られている。


「駐留派や復活派の存在を知らせるために前の町で帰還派の仲間たちに送った手紙の返信と、あとはオンカラ商会からの定期報告ですね」




 えっと……整理するか。元々クラスメイトはカイたちが逃げ出した後、俺たちも含めて八つのパーティーに分かれたはずだ。

 そして現在カイたち駐留派に三パーティーが吸収された。

 つまり現在帰還派は五パーティーでいてその内訳は、俺たち三人、武闘大会で共同戦線を張ったソウタとチトセ、の他に三つのパーティーということになる。

 四通の手紙はその三つのパーティーに送った手紙の返信とあと一つはオンカラ商会からいうわけか。




 リオは手紙を開封して中身を読み出す。


「何て書いてるの?」

「そうですね、三パーティーとも駐留派と復活派の存在は理解したと。それとは別に現状を綴ってくれていますね」

「現状っていうと……渡世とせ宝玉ほうぎょくを手に入れたかどうかってこと?」

「ええ。それによると一つは手に入れることが出来たようです」

「おー、これで帰還派が持ってる宝玉の数は4つ目だね」


 ユウカが喜ぶ。リーレ村の教会、商業都市、観光の町で俺たちが手に入れた三つと合わせて、新たな一つってところか。


「次のパーティーは…………手に入れる直前で持ち主の家に強盗が入り、その際に盗まれたそうです」

「えっ!?」

「最後のパーティーは…………こちらも譲ってもらうように交渉が成立したのですがいざ引き渡すってなった直前に、宝玉の持ち主がもう渡しただろ、と言い出して何が起きているのか分からないとのことです」

「……ど、どういうこと?」

「おそらく駐留派と復活派に横取りされたということでしょう」


 リオが懸念を伝える。




「とりあえず後者については俺も分かるな。魔族レイリが固有スキル『変身』で、交渉していたそのクラスメイトの姿に化けて代わりに受け取って逃げたってことだろ」

「『変身』って……そっか。どんな姿にも化けられて、絶対にバレないから……さも本人のように振る舞って持ち主から譲ってもらった……」

「理屈は分かりませんが、あの魔族は宝玉の場所が分かるようですしね。その場所に『変身』で潜入して状況を理解した後に横取りしたと……そういうところでしょう」

「俺の魅了スキルとは性質が違うが、やつの『変身』も宝玉を手に入れるのにかなり役立つスキルだからな。にしても武闘大会からまだ数日しか経ってないのに勤勉なやつらだ」


 これで復活派も分かっているだけで宝玉を二つ手に入れた。前から動いていた可能性も考えられるから合計で何個持っているかは分からない。




「だが前者の強盗は分からないな。宝玉は価値ある宝石だし、偶発的な可能性もあるが…………リオはこれを駐留派の仕業だと考えてるんだよな? どういうことだ?」

「そもそもの話なんですが……私とサトルさんの前に現れたカイさんはどうして渡世とせ宝玉ほうぎょくについて色々知っていたのでしょうか?」




 カイ……俺の魅了スキルを狙う、元学級副委員長のイケメン。やつは武闘大会の決勝前に現れて、駐留派の存在を明かし宣戦布告や、悪魔を召喚することや他にも宝玉を狙う存在がいることを警告したが……。




「言われてみると……宝玉で悪魔を召喚できることや復活派の存在とか……俺たち異世界召喚者は知らない情報だ。なのにやつが語れたのは………………この異世界でそれを知るものから聞いたからってことか?」

「ええ、私はそのように推測しています。ではその異世界人がどのような存在なのか……考えると一つヒントがあります。ハヤトさんがソウタさんに使わせようとしていた毒の剣です」

「あの一発でも当てれば相手の動きを封じれるとかいう。……あ、そういえばあのとき一般には流通していないはず、ってリオが言ってたな」

「そうです。そもそもそんな危険な剣が簡単に出回るとか恐ろしいですし。ならばどこで手に入るか、という話ですが」

「裏の市場……犯罪者が使うような市場ってことか?」

「ええ。その二つを私は結びつけて駐留派には何らかの非合法的な集団がバックに付いていると予想していました」


 それなら何か裏の世界に出回る情報として宝玉で悪魔が召喚できるとか、復活派の存在などを知っていてもおかしくないし、考えられる線だ。




「そこにこの手紙です。宝玉を盗んだ強盗グループの一人が捕まったことも書かれているんですが、どうやらその人はネビュラの一員みたいなんですね」

「ネビュラ……ん、何か聞き覚えがあるような」

「観光の町です。結婚詐欺師キースが犯罪者グループの一員で、私たちはそのアジトを潰した一件がありましたよね」

「そんなことあったな」

「そのアジトはネビュラの支部だったんです」

「支部ってことは……あれで一部だったってことか!? かなりの人数がいたはずだったが」

「ええ。この大陸全土に渡って裏の世界を掌握している、巨大犯罪者グループ・ネビュラ。偶然じゃなければ駐留派のバックに付いているのはこの組織でしょう」


 スケールのデカい話になってきた。




「つまりカイ君はそのネビュラを味方に付けたってわけ?」

 ユウカが質問する。


「彼の『影使いシャドウマスター』の力を以てすれば訳ないでしょう。どのような立場かは分かりませんが、ネビュラのかなり中枢に近いところにいるんじゃないでしょうか?」

「うーん……でも何か突拍子のない話のような。本当にそんなの味方に付けてるのかな?」

「私たち帰還派だって、オンカラ商会の支援を受けているじゃないですか。それと似たような話ですよ」

「あ、そっか」


 確かに俺たちも移動や情報の面でオンカラ商会の支援を受けている。駐留派は裏の世界の支援を受けているというわけか。




「ネビュラが宝玉を手に入れる手助けや強盗に入って実際に盗んだりしてるってわけか……しかし、あのキースとかいう詐欺師が渡世とせ宝玉ほうぎょくを使った婚約指輪をシャトーお嬢様に渡したのは…………あの時点では宝玉の確保を言われていなかったのか、やつが知らなかっただけなのか……まあそんなところか?」

「おそらくですね。あとここまで重ねてきた推測を裏付けるかは分かりませんが、最後の手紙、オンカラ商会からの情報によると、どうやらこの独裁都市にネビュラの構成員が出入りしているようです」

「っ……それは」

渡世とせ宝玉ほうぎょくがある場所に姿を現すネビュラ……決定的な証拠はありませんが、駐留派もこの都市の渡世とせ宝玉ほうぎょくを狙っているとみて備えていた方がいいですね」

「……はっ、いいだろう。面白え」


 武闘大会では後から分かったことだが帰還派と復活派のどちらが宝玉を手に入れるかという競争になっていた。

 今回独裁都市では帰還派と駐留派が衝突することになりそうだ。駐留派のボス、カイが直接出張ってくるかは分からないが、誰が来ようと構わない。




「俺の魅了スキルを出し抜けるっていうならやってみろってんだ」

「でも、サトル君……問題点の解決がまだなんじゃないの?」

「いや一つは今思いついた。意外なところにアイデアは転がっているというか……この方法なら上手く行くはずだ」




 俺の視線の先には四通の手紙があった。


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