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82話 ツンデレ


 夜。

 俺は宿屋に帰ってきたリオ、ユウカと合流して、宿屋に併設した食堂で夕食を取りながら情報交換をしていた。


「今日の調査の結果、この都市について色々分かってきましたが……どこまで報告すればいいですか」


 リオの疑問は俺が魅了スキルを姫様にかけるために、これ以上悪く思わないように情報を遮断していることを気にしてだろう。独裁都市は姫の思うがままな支配地だ、ひょんな情報が姫の評価に影響するだろうことは想像できる。




「あー……とりあえず魅了スキルをかけるのに役立ちそうな情報だけくれ」

「基準が難しいですね…………では一つだけ。独裁都市ではちょうど来週、式典の後にパレードというものがあるみたいです。

 一年に一回……えー記念日に執り行われて……祝福するんですが……姫様が御輿に乗って中心街を練り歩くみたいですね」

 リオが言葉を選びながら伝える。なるべく必要な情報だけを伝えようという配慮だろう。苦労をかけている。




「つまり多くの人の前に姫様が姿を現すってわけか」

「そのはずです。木の葉を隠すなら森の中、人を隠すなら人混みの中。魅了スキルの光を隠せなくても多くの人が居る場所でスキルを発動すれば、サトルさんがスキルを発動したとはバレないんじゃないでしょうか?」

「いい考えだな。俺も似たようなことは考えていたが……問題点が二つある」

 俺は指を二本立ててみせる。


「分かっています。一つはそれでとりこにすることは出来ても、結局サトルさんが独裁者である姫様に命令をする光景が無くならないということですね」

「あともう一つは人混みの中で魅了スキルを発動するから、他の人もとりこにしてしまうってことだ。効果範囲の周囲5m内の、効果対象魅力的な異性には無差別にかかってしまうからな。都合良く周囲にいるのが男だけって状況もあるわけないし」

 渡世とせ宝玉ほうぎょくを手に入れるだけならば簡単だが、それを目立たずにという条件が付くと面倒が立ちはだかる。




「それでもパレードの時を狙ったほうが良いと思います」

「どうしてだ?」

「ご存じの通り姫様はワガママなところがあるので行動パターンが掴めません。予定があってもその日の気分でキャンセルしたり、逆に昨夜あの店にいきなり現れたりなど」

「本能のままに生きてるのな」

「しかし、パレードは姫様のワガママでキャンセル出来ない重要な行事なのです。つまり姫様の行動が決まっている滅多にない日です。何かを企てるならこの日がベストでしょう」

「そうか……」

 どうしてワガママが通らないのか……おそらく姫様の素性に関わることなのだろう。魅了スキルに悪影響を与えないためにも今は気にしないようにする。


「よし、一週間後のパレードを暫定的に決行日とする。二つの問題点を解決する方法はこっちで考えとくから、リオたちもパレードについて分かったことがあったらまた教えてくれ」

「分かりました」

 リオが頷く。まだまだ先は長いが、一歩進んだのは良いことだ。




 話の整理が終わったことで、ようやく次の問題に踏み込める。


「それで……ユウカ。今度は何で悩んでるんだ」


 話し中ずっと上の空だった少女の名前を呼ぶ。


「ご、ごめん……」

「話はちゃんと聞いてたんだよな?」

「だ、大丈夫聞いてたよ。来週のパレードが決行日ってことでしょ」

「ならいいが……もう一度聞く、今度は何で悩んでいるんだ?」

「今度はって……私そんなに何回も悩んでる…………よね、うん。商業都市の時も観光の町の時も……」

「俺に言いにくいことなら席を外すぞ。そのときはリオ、すまんが頼む」

「あ、いや、今回はサトル君が聞いても問題ないことで……その、聞いてほしいんだけど」

「……分かった」

 俺は引きかけたイスを元に戻す。




「それで私の悩みなんだけど……その前に質問いいかな。今回姫様に魅了スキルかけて渡世とせ宝玉ほうぎょくを手に入れたら、私たちはそのままこの都市を去るつもりなんだよね?」

「そのつもりだが。他に何かしたいこととか、しないといけないことでもあるのか?」

「今日ね、この都市の色んな人に話を聞いたんだけど……みんな苦しんでた。高い税に治安の悪化……元を辿ると全部姫様のせいで」

「それは既に知ってるからいいけど、あんまり俺に姫様の悪行を教えないでくれよ」

「あ、そうだった、ごめん。……だからさ、姫様に魅了スキルをかけてサトル君が何でも命令できるようになったら、みんなを苦しめてる色々を撤回させて、今後はワガママを言わずちゃんと都市を統治するように命令する……とか考えたけど、そうやって誰かの人格を歪ませるなんてことしていいはずがないよね」

「姫様がやっていること以上の悪行だろ、それは」

「うん……でも困っている人を放っておけなくて……何か方法がないかと思って」


 声のトーンが落ちる。

 自分のことでなく、他人のことでここまで悩めるのは才能だと思う。俺だったら可哀想だけどしょうがないなで流すところだ。

 だからユウカが悩んでいようと流して……。




「……まあ命令はしないけど、姫様と話す機会はあるはずだから考えを改めるように説得してみるよ」

「本当!?」

「言っとくけど上手く行かなくても勘弁してくれよ」

「大丈夫、サトル君ならきっと上手く行くよ!」

「いや、だから……」


 何の根拠もない断言なのに俺は言い返せず、憑き物が落ちた様子のユウカはおかわりしてくると席を離れる。




「サトルさん」


 俺とリオの二人きりになったところで名前を呼ばれた。


「……何だリオ。またイチャつくなって話か?」

「イチャついてる自覚があったんですか?」

「うっせ」

「今は悩み相談といった場面でしたから、大いにイチャついて結構です。時と場合さえ選べば賛成だとは言いましたよね」

「ああ、そうだったな」

「それにしても最近はサトルさんからユウカに歩み寄ることが多くて……ここまで見守ってきた私としては感無量です」

「どんな立場なんだよ」


 リオはまるで我が子の成長を祝う母のようだ。




「あれ、そういえばサトルさんに面と向かって言ったことはありませんでしたっけ? 私はユウカの思いを応援する立場ですよ」

「言動の節々からそんなところだろうとは感じ取ってたけど……いいのか? 大事な親友が俺なんかと………………ってリオにも魅了スキルがかかっているから、俺のことを好意的に思ってるんだよな。ユウカほど主張が激しくないから忘れそうになるけど、最初とか俺に子作りを迫ってきてたし」

「そんな時期もありましたね……以前はサトルさんのことを振り回す悪女だったのに、今では手間のかかる二人のお母さんの気分ですよ」

「本当に母のつもりなのか」


 手間のかかる二人とは……俺とユウカのことか。まあ要所ごとに助けられているとはこの前も自覚したし。




「……というわけで今は俺がいいやつに見えてるかもしれないが、元の世界に戻ったら俺みたいなゴミクズ自己保身男になんで入れ込んでいたんだろうと思うかもしれないぞ」

「それは……自身の中で好意は整理してなるべくフラットでいるように務めてますが……心を操るなんてどんな影響をもたらしているか計りしれませんからね。正直否定はしきれません」

「だろ?」

「それでも私は正しい判断をしていると信じます。感情に流されるのは愚か者、常に理性的な判断をするように求められ、応えてきた自負がありますから」

「…………」

「すいませんね、急にこんなこと言い出して。ですからサトルさんも自分に自信を持ってください」

 リオの発言の裏には重い背景がかいま見えるというか……家が金持ちでも良いことばかりでないと思い知らされる。




「まあ私のことはいいんです。それよりユウカですよ。最近のサトルさんはユウカを抱きしめたり、自然と手を握ったりと結構ガードが緩いですよね」

「げっ……そこに話を戻すのかよ」

「ええ。私が柄にもないところを見せたんですから、サトルさんにも恥ずかしい思いをしてもらわないと収支が合いません」

「それこそ感情のままに動いていないか?」

「理性です。理性的に仕返ししているだけです」


 何か随分と都合のいいことを言い出した。……いやその柔軟性は支配から脱却した証か。




「そんなことよりあれだ、魅了スキルをかけた際の反応を思い出したことで気になったんだが、姫様はどんな反応するんだろうな」

「逃げましたね」

「いや、気になるだろ」

「……まあ、そうですね」


 眼光鋭く言い放ったリオだが、それ以上の追及は止めてくれるようだ。助かる。




「魅了スキルをかけると俺に好意を持つようになる。つまり姫様も俺に好意を持つ予定だが、好意を持った相手に対する反応はそれぞれ違うものだろ」

「私は男女交際は生涯を共にする伴侶とのみするべきだという価値観ですから、子作りを迫ってしまったわけですし」

「そしてリオ以外に魅了スキルにかかっているのは…………二人か、少ないな。

 ユウカは中途半端に魅了スキルがかかっている結果特に何もなくて、オンカラ商会長の秘書ヘレスさんは少し取り乱したがすぐに平静を取り戻していたな。まああの人は長年スパイしていたわけだし、感情のコントロールが完璧だったからだろうけど」

「さて問題の姫様は…………ワガママな性格ですが好きな人には意外と素直になれないタイプじゃないでしょうか。魅了スキルがかかったら『別に余はおまえのことなんか好きじゃないからな!』とか言い出すと予想します」

「ツンデレか……ふむ、ありそうだな」

 テンプレともいうべきキャラだ。




「え、サトル君ツンデレが好きなの?」

 そのときユウカがちょうど戻ってきたのだが、会話の流れを掴めず言葉尻だけでそう判断したようだ。


「いや、違うからな」

「だったら……」

 否定するが聞こえていない。少し考えた後、俺の方を見て。




「……べ、別に私はサトル君のことなんか好きじゃないんだからね!」




「そうか、助かる」


 俺は冷たく言い放つ。俺の心労はユウカに好意を寄せられていることによるものが多いし。




「ごめん、嘘でしたぁぁぁっ! 本当はサトル君のこと好きです!!」


「だぁっもう、離れろ! 魅了スキルかかってるんだから、それくらい分かってるっての!!」




 すぐに態度を翻して俺の腕に縋りつくユウカを振り解こうとする。








「私は何を見せられているんでしょうか……? ノロケ……それとも漫才……?」


 判断が付かないリオだった。


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