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81話 情報収集


 翌朝。

 ユウカこと私はリオと二人で独裁都市の現状について聞き込みすることにした。


 サトル君は宿屋で留守番だ。

 魅了スキルを使うためにも、これ以上姫様の悪行を聞いて幻滅するわけにはいかない。聞き込みとなれば自然と姫様の情報を耳にすることも増えるが一々耳を塞いでたら面倒だ。なので一人宿屋に残り、魅了スキルを目立たずに使う方法について考えるとのことだった。

 戦闘力0のサトル君を一人にするのは良くないのだが、今回取った宿屋はセキュリティが万全のため部屋から出なければ大丈夫だろう。




 という理屈は分かっている。それでも。


「どうせならサトル君と一緒が良かったなあ……」

「私と二人は嫌なんですね」

「そ、そんなこと無いってば!!」

「分かってますって。それでは行きましょう」


 私とリオは独裁都市の中心街へと繰り出した。




 姫様に魅了スキルをかけるという目的からして、調査は姫様に関わる情報が中心となる。この都市における絶対の法と呼ばれるだけあって、街中で聞き込みをしても姫様を知らないという人は全くいない。

 しかし、問題はいざ情報を聞き出そうとする段階で生じた。




「ホミ姫様ですって……最高の君主だわ!」

「稀代の美しさだよね」

「姫様の統治するこの都市に住めて最高だわ!」


 詳しく聞こうとすると返ってくる絶賛の言葉の数々。

 だが、それが真実でないことは一様に表情がひきつっていることから明らかだった。

 そして勘弁してくれと言わんばかりにそそくさと逃げられる。




「どういうことなの……?」

「考えられるのは……何らかの言論統制でしょうか? オンカラ商会からの情報にはなかったので、最近になって何かあったのかもしれません」


 リオも知らないことのようだ。

 空振りばかりの聞き込みに精神的な疲労を覚えた私たちは、一旦ベンチに座って一休みする。




「はぁ……どうしよう。これじゃ何も聞けないよ」

「過剰な言論統制、悪化する治安、法外な税……住民の不満も相当溜まっているでしょう。どうやらかなり末期の状態ですね。この支配をどこまで続けられるでしょうか、姫様は」


 リオが正面にある建物を見上げて呟く。

 つられて私も見ると、それはこの独裁都市の中心街でも一際大きな建物だった。


 聞き込みする中で話に上がったことがある。どうやらこの建物に姫様が住んでいるとのこと。

 姫様の住居にふさわしいと絶賛していた言葉が本心だったのかはともかく、実際見てみるとその威容に飲み込まれそうだった。

 建物を支える石造りの巨大な柱が等間隔に並び、彫刻や意匠も凝らされていて、異世界の文化がよく分からない私でも見ているだけで感心するぐらいだからすごいのだろう。




 姫様の住居としてだけでなく、政治的に重要な部署や近衛兵団の本部などが収まっていて、この都市の中枢ともいうべき建物だ。玄関の脇には近衛兵が立って警備しているので中には入れなさそうだ。


 なので周囲から見るしかできないのだが、ふと。

「何か見覚えがあるような……」 

 特徴的な意匠について、私は見覚えある気がして…………しかし、どこで見たのかは思い出せなかった。






 休憩を終えて聞き込みを再開する。だがやはり成果は芳しくない。途方に暮れながらさまよっていると。 


「あら、あなたたちは昨夜の……」


 道中で話しかけられる。相手は店の前を清掃している店員で……あ、この店昨夜姫様が来たことで私たちが追い出された店だ。


「こんにちは」

「昨日は申し訳ありませんでした」

「いえ、気にしていませんよ」


 深々と頭を下げる店員に私は頭を上げるように言う。


「そう言ってもらえると助かります。それとこれは個人的な質問なんですが……あなたユウカさんですよね」

「え? どうして私の名前を……」

「やっぱりですか!! 武闘大会見ました、ファンなんです!! 伝説の傭兵との決勝戦はそれはもう手に汗握る熱戦で!!」


 ものすごい熱量で迫ってくる店員。

 話を聞くと予選から見ていたくらいの武闘大会マニアらしい。休みが足りなくて本戦を見届けた後は徹夜で戻ってきて仕事に入ったとか。そのときに私の戦う姿を見てファンになったということらしい。




「昨夜ももしかしたらとは思ったんです!! 仕事中だったから聞くことは出来なかったんですけど!! あ、握手いいですか!!」

「それくらいいですけど……そうだ交換条件と言っては何ですけど、ちょっと話を聞いても良いですか?」

「何でも聞いてください!! ユウカさんの頼みならオールオッケーです!!」

 思わぬ展開になったが、こちらに心酔しているなら話は聞きやすい。




「じゃあ……ええとこちらが私の友達のリオって言うんですけど、彼女が質問するので」

「昨夜みたいに姫様がふらっと店にやってきて貸し切るということはよくあることなんでしょうか?」


 一歩前に出たリオが口を開く。


「あまりありませんね。そもそも姫様が居宅から出ることが珍しいですし」

「そうなんですか」

「ですから昨日は……考えられるのは来週のパレードの確認のため外出したのかと」


 パレード……気になる単語が出てきたが、リオは別の質問をする。




「昨夜の姫様の訪問は商売的にありがたい出来事なんですか?」

「とんでもない、そんなことありません。姫様は『この都市に住む以上、余の臣下じゃ。ならば余のために喜んで何でもするのが道理であろう』という言い分で、昨日も無償で食事を提供させられました」

「それは……他の客を追い出して、さらに無償となると踏んだり蹴ったりですね」

「あ、といってもオルトさんが裏で姫様に内緒で補填してくれるという話だったので、どうにかなりそうです。オルトさんいつもあの姫様の下で身を粉にして働いていて……本当頑張っていると思います」


 オルトさんというと……あのペコペコしていた男性だ。この都市のNo.2の地位のようだが、その実体は姫様の尻拭い担当ということだろうか?




「あなたはあまり姫様に良い感情を持ってないみたいですね」

「私は姫様のことを今の地位に就いたときからしか知らないですが、ワガママ放題やられているのを見せられてはよく思えませんよ。法外な税を取るようになったのもしょうもない理由なんですよ、知ってますか?」

「聞かせてください」

「姫様の居宅、あの馬鹿でかい建物を『余の住居としてふさわしいように、全部黄金で覆うんじゃ!』ということで、そのための資金を確保するために税を上げたんですよ。あり得ないと思いません?」

「……オンカラ商会からの情報を見たときは目を疑いましたが……本当にそうなんですか」


 リオが嘆息吐いている。知っていたようだが、信じたくなかったようだ。

 私はその話を初めて聞くが……そんなことのために税を上げた結果、路頭に迷う人が増え、治安は悪化していると考えると……怒りより先に呆れてしまう。


 この場にサトル君がいなくて良かった、今の話を聞いてたらたぶん一発で姫様を魅力的に思わなくなっただろうし。……いや、私的にはそっちの方がいいんだけど、宝玉を手に入れるのが面倒になるのは避けないと行けない事態だ。




「ずいぶんとぶっちゃけていますが、大丈夫なんですか? 色んな人に話を聞いても、露骨に姫様を賛美する話しか聞けなかったので」

「あー、それは三ヶ月ほど前のことでしょうか。姫様の陰口を叩いていたってことで捕まった人がいて、そのせいで誰も姫様の悪口を言わなくなったんです。どこで誰が聞いているか分かりませんからね。皆さんが二人に本音を話さなかったのも、もしかしたら取り締まりをしている人じゃないかと恐れたからでしょう」

「なるほど」

「私がこうやってぶっちゃけられるのも、あの武闘大会に出ていたユウカさんとその友達が姫様側の人間であるはずがないと分かっているからです」


 私の知名度が存外役立っていたようだ。




「二年前に今の姫様となってから税が上がったことにより、メニューを値上げせざるを得なくなりました。物価が上がり治安も悪くなったことも合わせて観光客も減り、馬車の定期便も廃止されました。それだけでなく都市内からの客足も減って、本当に商売上がったりです。

 店だけでなくこのままじゃこの都市そのものの未来も暗くて……故郷なんですけど離れる選択肢も考えた方がいいのかなと思う日々です」

 憂鬱な表情になった店員さんに何と声をかけたらいいか分からず。




「あ、すいません。愚痴っちゃって」

「お構いなく。質問は以上です、情報提供感謝します」

「えっと……本当に助かりました。しばらくこの都市にいる予定なので、また来るかもしれません」

「ユウカさんなら大歓迎ですよ!! そのときは存分にもてなさせてもらいます!! 私が力になれることがあったら何でも言ってください!!」


 気を取り直した店員さんに見送られて、私たちはその場を離れた。


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