73話 竜闘士VS竜闘士
竜闘士同士の戦い。
開幕『竜の咆哮』がぶつかったせいでリング上には土埃が巻き起こっており、選手たちは互いの姿が見えなくなっている。
「『竜の息吹』」
伝説の傭兵ガランは追尾するエネルギー体を発生させて、見えずとも構わない攻撃を繰り出す。土煙の中にエネルギー体が消えていって。
反対に土埃の中から翼を生やしたユウカが飛び出してきた。
「……!」
ユウカは互いの姿が見えなくなった瞬間『竜の翼』を発動して空を飛び土埃の中を突っ切っていた。
急激な接近に追尾が追いつけず攻撃が潰される。
「『竜の爪』!!」
積極的な行動がガランの不意を突く。その隙を逃さず、ユウカはエネルギー体の爪を生やして攻撃態勢に入った。
「『竜の鱗』」
仕方なく防御スキルを使うガラン。竜闘士は攻撃だけでなく防御スキルも一級品だ。普通ならばガードしきれただろう。
「甘いよっ!!」
しかし相手も同格の竜闘士なのだ。飛翔してきたスピードも乗った攻撃に防御を打ち砕かれダメージを受ける。
ファーストヒットはユウカが取った。
「おおっ、これは……!」
「浅いですが一発……しかし、追撃が来ます!」
快哉を上げる俺だが、すぐにリオの言葉に気付く。ダメージをものともとせず、攻撃態勢に入るガランの姿を。
「くっ……『竜の震脚』!」
今回の戦いはリング上で行われる。リングアウトのルールがある以上、猛スピードで突っ込んだユウカはどこかでブレーキなり方向転換なりをしないといけない。
その減速した瞬間をガランは狙う。上空からの衝撃波で押し潰さんとしたのだ。
「なっ……!?」
方向転換しようとしていたユウカはぎょっとする。ちょうど逃げようとした上空から攻撃が来たからだ。
強引に斜め上へと進路を変えることで衝撃波から逃れるが。
「『竜の息吹』」
さらなる追撃が迫る。先ほどは突進により潰された攻撃だが、今回はしっかりユウカを捉えて追尾している。
逃げきれないと判断したユウカは発動したままだった『竜の爪』で応戦。飛びながら五本の爪を自在に操り、近寄ってくるエネルギー弾を消すその姿はまるで優雅なダンスだ。
しかし数が多すぎて五本の爪では足りない。
「いたっ……!」
打ち漏らした一発が被弾した。
「手数で押すタイプの技の一発が当たっただけですから、そこまでのダメージではないはずです。竜闘士は身体能力同様、スキルを使わなくても基本的な防御力が高いですし」
「そうなのか。にしてもユウカがまともにダメージ食らう姿は初めてだな……」
異世界に来てからのことを思い返す。
商業都市でのドラゴン戦も観光の町での犯罪者グループの制圧時も、そして武闘大会の予選・本戦共にユウカが敵の攻撃をまともに食らった事はなかった。いつだって敵を圧倒して寄せ付けなかったからだ。
だが今回の決勝は当然だが勝手が違う。同格の相手との初めての戦い。
攻撃を食らったことにユウカは特に驚いたところ無く、ようやく止んだ攻撃に一旦距離を取る。
「『竜の翼』」
ガランはその間に自身も翼を生やして飛ぶ。空中戦に応じるようだ。
「『竜の息吹』」
「『竜のはためき』!!」
三度ブレスを発動するガランに対し、ユウカは波状のエネルギーで応戦。ブレスの数が多く、全部は消しきれないがそれで良かったようだ。
ユウカの目的はガランまでの進路を確保することだったからだ。
「らあぁぁぁっ!!」
猛スピードで飛ぶユウカ。ある程度相殺したとはいえ、残ったエネルギー弾が追尾してユウカの前進を阻む。ユウカは回避を最小限にどうしても避けきれないものはスキルも宿っていない素手で弾いた。当然ダメージもあったが気にすることなく接近する。
ユウカの特攻に対してガランは逃亡を選択。相手にはスピードが乗っており応戦するのは分が悪い。ブレスのダメージが入っているため、逃げ切れれば今の攻防はガランが利を得たということになるだろう。
もちろん、同格の竜闘士から逃げ切れればだが。
「『竜の闘気』!!」
予選を一手で制した広域制圧技をユウカは飛翔しながら放つ。
全方位に広がる衝撃波が派手な技だが実は攻撃力が低い。一点に衝撃波を集中させる『竜の咆哮』に比べて拡散させているから当然ではある。
それでも予選の相手なら十分だったということだが今の相手は同格の存在。防御スキルを発動させなくても、わずかなダメージと体勢を崩すくらいの影響しかない。
だが逃げようとするガランに対して、逃げ場のない攻撃がマッチしていた。
どうしようもなく巻き込まれ、押しやられた先は――リングの隅。
それ以上後ろに引けない場所に追いやって。
「『竜の息吹』!!」
ユウカは追尾エネルギー弾をばらまく。
手数により相手をリングアウトに押し込むユウカの策略。
「舐めるな! 『竜の爪』!!」
しかしガランは吠えると体勢を立て直して五本の爪を形成。
爪を操り一つ残らずエネルギー弾を叩き落とした。
そしてリング隅を脱出するガラン。
お互い警戒しながらリングを円状に飛ぶ。
「おおおおおっ……!!」
攻防が一旦落ち着いたことで観客のどよめきが発された。
今までハイスピードな攻防に息を飲んで見入っていたため、声を出すことも忘れていたのだろう。、
俺たちも堰が切れたように戦いの感想を述べあう。
「力は開幕の衝撃波の相殺で互角だと分かっていましたが技術もほぼ同等のようですね」
「ユウカがエネルギー弾を一つ打ち漏らしたのは体勢が崩れていたからで、ガランは万全の体勢で迎撃していたからな」
「力と技術は互角……なら、ここまでの戦いで出ている違いはその性格だろうねえ」
「そうですね。僕の戦いでも空中から攻撃を続けたようにガランさんの戦い方は堅実の一言です」
「対してユウカは積極的といったところですね」
「少々のダメージは気にせず接近して攻撃を振るう」
「竜闘士は遠距離攻撃も十分に強力だが、やはり同格の存在の防御を打ち破るには近距離攻撃を叩き込みたいところだねえ。ユウカの戦い方はアタイ好みだよ」
「チトセには悪いですが、僕はガランさんの戦い方が共感できますね。ユウカさんは結構チャンスを作って有利に見えますが、ダメージの量ではガランさんの方が有利なはずです」
「まあ必要経費でしょう。一度クリーンヒットが入ればひっくり返る差です」
「逆にこのまま有利に運び続けれられる可能性もあると」
「しかしガランさんはあまりにも消極的だと思うけどねえ。堅実なのは分かるけど……遠距離攻撃一方でどうにも違和感が」
「それは僕も思っていましたが……何かあるんでしょうか?」
「…………」
俺は考える。
分析の結果、力も技術も性格も戦いを決定的に導くほどの差はないと言えるだろう。
だったら何がこの戦いの趨勢を傾けるのか。
ガランさんにある違和感か。力、技術、性格以外の二人の資質か。それとも二人以外の外的な要因によるものか。
「……何にしろ、長い戦いになりそうだ」
現状戦いは拮抗している。
差が出るまでは時間がかかるだろう。
「『竜の息吹』」
「『竜の息吹』!!」
二人がおもむろに放ったエネルギー弾の数々が中間地点で爆発、その爆風を隠れ蓑にユウカが接近する。
第二ラウンドの開始。
「頑張れ、ユウカ!!」
俺は本人に届けと応援の声を張り上げた。