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72話 決勝戦開始


「サトルさん、リオさん遅かったですね。決勝がそろそろ始まりますよ」

「ずいぶんと長い用事だったんだね」


 俺とリオがVIP席に戻るとソウタとチトセが出迎えた。




「そういえば二人にはどうするんだ? ハヤトのこととか、駐留派のこととか」

「事はクラスメイト全体の問題です。二人だけでなく全員に伝えるつもりです。他の人には手紙になりますが」

「妥当だな。しかしやつらが………………」

「サトルさん」


 考え込もうとする俺を引き戻すようにリオがピシャリと名前を呼ぶ。


「気になるのは分かります。ですが今は決勝戦です。ユウカの晴れの舞台を応援しましょう。渡世とせ宝玉ほうぎょくを集める重要性が増したことですし」

「……ああ、そうだな。すまん、切り替えが出来ていなかった」


 リオにたしなめられる。

 カイとの話によって俺の胸の内はざわついていた。あの場では威勢良く啖呵を切ったが、色んな感情や思考が渦巻いている。

 だが今はそれに構っている時間ではない。一旦脇に置いておかないと。




 俺とリオはソウタたちの隣の席に座る。確保してくれていたようだ。

 リングを見下ろす。そこには現在誰もいなかった。今までと違って長めに休憩を取っていたし、リングの整備は既に終わっているのだろう。迎える準備は万端のようだ。観客席もそのときを今か今かと待っている。


 そして。


「お待たせしました、ただいまより決勝戦を始めます!!」


「選手の二人は入場してください!」


 実況と解説の言葉に続き、二人の選手が姿を見せたことで歓声が爆発した。




「ガランー!! 勝ってくれよー!」

「新たな伝説の誕生に立ち会えるなんて!!」

「若いやつに負けるんじゃねえぞー!」


 伝説の傭兵、ガラン。

 多くの戦場を渡り歩いてきた猛者は、これまで通り歓声に動じることなくリングに上がる。




「ユウカさん、応援してるわよー!!」

「古き伝説なんて打ち破れー!!」

「女性でもやれるってことを証明してちょうだい!!」


 ユウカも声援を浴びながら反対サイドから悠々とリングに上がる。

 この世界に来るまで普通の女子高生だったとは思えない堂々とした姿だ。




「観客の応援はほぼ二分されてるか」

「この世界で知名度の高いガランさんに集中するかと思いましたが、ユウカが少女であることから女性や若い人の支持を思った以上に集めた結果ですね」

 リオの分析。確かに自分の立場に近いものは応援したくなるものだ。


「力だけじゃなく人気もまた互角ってことかい。いやあ熱いねえ」

「僕の試合のように観客の雰囲気で試合が左右されることは無さそうですね」

 ソウタの言うとおりでリング上に集中して観戦できそうだ。




「気力は十分のようだな」

 リング上、ガランの方からユウカに声をかけた。


「はい。この試合に勝ちたい理由が増えたので」

 ユウカはすごい真面目な顔をして答える。

 が、それが俺に抱きしめられたいからだと分かる俺にはその表情で合っているのかとツッコみたくなる。




「勝ちたい理由か……なるほど、若いな」

「……?」

「私の内には負けられない理由があるが、勝ちたい理由が無いことに気付いてな。眩しいものだ、若者はいつも未来を見ている。年を取ると守りにばかり入ってどうにもいかん」

「そうなんですか、私には分からない感覚です」

「その年で分かられたら、それこそ年寄りの立つ瀬がない」


 ガランさんの含蓄詰まった言葉。

 しかしその本人もまだ30過ぎのおっさんのはずで、なのに年寄り言ってたらそれ以上の年の人に怒られるのではないか? まあそれだけ壮絶な経験を積んでいるとは思うけど。




「さて、決勝戦開始前に改めてルールの確認をしておきましょう。解説お願いします」

 実況の声。


「時間は無制限。敗北条件は戦闘不能になるか、50m四方のリングから少しでも出ることによるリングアウトの二つですね」

「決勝も変わらないということですね。しかし決勝がもしリングアウトで決着が付いた場合、何ともあっけない感じになりそうですが」

「仕方ありません。決勝の竜闘士の二人はどちらも飛翔スキルの持ち主です。リングで行動を制限しないと、どこまでも行ってしまうでしょう」

「あー、そうですね。仕方ありませんか」

「それにこちらの方が駆け引きが白熱すると思いますよ」

 解説の意味深な言葉でルール確認が締められる。




「しかし今さらだが予選の五十人でのバトルロイヤルはともかく、本戦の一対一でも50m四方のリングって広すぎるな」

 どうしてもリング上に選手二人がポツンと立っているという印象が拭えない。


「時間が無制限で、ペナルティもないことから逃げ続けることも可能な広さですよね」

「あはは、実際僕もあれだけの広さのリングだったから、空中からの猛攻を二十分もの間、防げたところがありますし」

「でも二人の竜闘士には狭すぎるリングだろうねえ」

「まあそうか。一手でリング上全域を制圧する技を持っているような人たちには狭いものか」


 リングの広さからちまちました戦いになるかと不安になったがどうやら無用そうだ。




「さて――行くか。我が使命のために」

 ガランが右足を半歩引き、腰を落として戦闘態勢に入る。




「みんなの期待に応えるために……!」

 ユウカも同じ構えを取った。


 


 二人の放つ威圧感や緊張感に観客席も自然と黙る。


 大勢の人が集まるコロシアム。なのに不気味なほどに静かになった。




「両者準備は万端のようです。そして時間になりました」


 実況の声だけが響く。




「実況としてこの場に立ち会えることを幸運に思います。観客の皆さんも一緒に見守りましょう! 今刻まれる、新たな伝説の一ページを!!」


「それでは参ります――試合開始!!」


 解説が試合開始を告げ、ゴングが鳴った瞬間二人の竜闘士は動いた。




「『竜の咆哮ドラゴンシャウト』」


「『竜の咆哮ドラゴンシャウト』!!」




 共に右手を突き出し指向性の衝撃波を相手めがけて最短のコースで走らせる。


 必然的に両者の中間地点でその衝撃波はぶつかり爆ぜた。


 破壊の余波が土埃を巻き上げる。どうやら攻撃は完全に相殺されたようだ。




 開幕から派手な光景が広がり観客席が沸く。


「おおっ……!?」

「やはり力は互角みたいですね……!」

「頑張ってください、ユウカさん」

「ソウ君の借りを返してくれ!」


 俺たちも熱を持って観戦に入る。




 武闘大会決勝戦――渡世とせ宝玉ほうぎょくを手に入れるための最終関門が始まった。



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