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70話 寝取り


 リオに導かれるまま移動した先は選手控え室前。

 そこには目的の人物、ハヤトがいた。


「おっとお二人さん、どうしたんやこんなところで」


 ハヤトは一度はソウタに渡した毒の剣を手にして、ちょうど控え室から出てきたところのようだった。ソウタが使わないで控え室に置いていたものを回収に来たということだろう。




「それは毒が付与された剣……一般には流通してない代物のようですが」

「ちょっとした伝手でな。ソウタが使わなかったみたいやから、返してもらおうと思ってな。そんなに安いものでもないし」

「伝手か……ソウタにもそう言ってたな」

「そうやけど……って、何や聞いてたんか? 盗み聞きは良くないでー」


 ハヤトは堪忍してな、とふざけた調子で言うが、徐々に俺たちが出す雰囲気について感じ取ったようだ。


「二人とも怖い顔しているけどどうしたんや? 何かあったんか? ヤバい問題なら仲間の俺も手助けするで!」

「何が仲間だ」

「そんなつもり一片も無いでしょう。そして今起きている問題はあなたの行動についてです」

「俺の行動? っていうと……あーそっかバレたみたいやな」


 てへ、と自分の頭に手を置くハヤト。そのふざけた調子を崩すつもりは無いようだ。


「ソウタとチトセ。双方の恋を応援すると言いながら、実際には妨害をしていた。どういうつもりなのか答えてもらおうか?」

「もう怖いなー。そんな怒らんといてって。別に大層な理由があるわけでもないんや。サトルはNTRって知ってるか?」

「エヌティーアール?」

「スラングなんやけどな、寝取り、寝取られを指す言葉でな。いやしかし全く真逆なのに同じ略し方って混乱するよな。寝取りは興味があって今回試してみたけど、寝取られは勘弁……いやでも寝取られにハマるって人も多いみたいやしな。実際体験してみればハマるんかいな? まあ俺の性格からして人に女を取られたら、そのまま執着せずにあげるかもしれないけど」


「その下らない話はいつまで続くんだ?」


「すまん、すまん。えっとそれでどこまで話して……そうそう、二人の仲を邪魔した理由やったな。まず前提なんやけど俺はモテるんや。……いやいや、そんな興味なさそうな顔せんといてって。理由と関係あるんや。モテるおかげで、こっちからアタックしなくてもあっちから言い寄ってくるから俺は女に不自由したことなくてな。でもそれやとこう軽い女とばかり付き合ってきたことになるやろ?」


「……」


「だから異世界に来たタイミングで一念発起したんや。たまには誰かを一途に思うタイプの女と付き合ってみようってな。それでちょうどいいやついないかなーって探して、チトセに目を付けたんや。ああいうスポーティーなタイプとも付き合ったこと無いし、ソウタのことを好きなのは傍目からでも分かってたから寝取り経験も出来て一石三鳥ってな」


「……」


「しかしそのせいで結構苦労したんやで? 寝取りってのは寝取った相手に見せつけるところまでで一幕やから、チトセだけでなくソウタもパーティーに入れないといけなかったし。あいつら本当何で付き合ってないのか不思議になるくらい好き合ってたから妨害工作も大変でな。

 でも山は高いほど登りがいがあるってな。頑張った甲斐あってソウタの思考を誘導できて、この大舞台で力に取り付かれて卑怯な手を使う姿をチトセに見せれば愛想も尽きると思ったんやけど…………いやあ、やっぱりあんたらとこの町で会ったのが誤算だったんやろうね」




「おまえは……そんな自分の都合のために二人の仲を引き裂こうとしたのか」

 のうのうと宣うハヤトに怒りが沸いてくる。


「そうやで。俺のモットーは『自分が楽しければオッケー。面倒事はなるべく御免』でな。恋愛も同じスタンスなんや」


「そうか。俺の恋愛における理想『お互いが心の底から愛しあう』とはまたかけ離れたスタンスだな」


「ふうん、ピュアやな。心の底からって何や? 俺だって『愛してるぜ』『愛してるよー』なんてやりとりくらいしたことあるで? その一ヶ月後にはあっちが浮気して別れたけどな。まあ俺も他の子にちょっかいかけてたからおあいこやけど」


「真剣に相手と向き合うつもりの無いおまえじゃ一生作れない関係だろうよ。俺よりも遠い」


「かもしれんな。まあ別に興味も無いけど」




 俺とハヤトの間には明確な溝がある。

 あの夜を思い出す。絶対に相容れない主義主張の相手というのはどうしてもいるものだ。あのときも分かりあえずあいつは俺を力でどうにかしようとして、それ以上の力によって退けられた。

 だから……今もそのときと同じことをするだけだ。




「俺はおまえのしたことが許せない」


「そうか。でも恋愛には卑怯も何もないって言うやろ? 俺が責められる謂れは無いはずやで」


「おまえの言うことにも一理はあるかもしれないな。ソウタもチトセもこんな胡散臭いやつに頼ったのが悪いとも言える。もっと自分の感情に素直になっていればここまで拗れることはなかった」


「胡散臭いって……否定は出来ないな」


「だが、俺は別におまえを説得するつもりじゃないんだ。おまえとはどれだけ話し合っても分かりあえない自信がある。根本的な考えからズレているんだ。だったら戦争するしかないだろ?」


「……っ、それは」


「人頼りで悪いけどな、リオ任せたぞ」


 隣のリオの肩をポンと叩く。リオは待ちくたびれましたよ、と一歩前に出た。




「ハヤトさん、あなたを無力化、拘束させてもらいます。友達の恋路を邪魔された個人的な恨みを晴らすのとは別に聞きたいことが山ほどありますので。あなたにその剣を与えた背後にいる存在や、その人が現在私たちクラスメイトに起こしている問題などね」




 リオが上げた問題は初耳だった。どうやらこの件の他にも色んな問題がからみついているようだ。




「いやいやいや、魔導士の本気とか相手するの無理やろ!?」


 ハヤトが慌て出す。

 俺たちクラスメイトの力量は、伝説級の竜闘士ユウカを頂点に、最強級はリオともう一人いて、達人級はそれ以外のクラスメイト、魅了スキルしか持たない一般人の俺が最下層というピラミッドになっている。


 つまり魔導士のリオと盗賊のハヤトでは力量差が明らかだ。

 ソウタのように格上に立ち向かえるような信念も、目の前の男が持っているとは思えない。


 故に目の見えている勝負で――――。








「全くおまえはこんなところにいたのか」








「……っ!?」

 声が響いた。


 付近には俺とリオとハヤトの三人しか見えないのに。

 第三者の声が。


「この気配は……!」

 リオが警戒態勢に入る。


「おおっ、良いタイミングや!」

 ハヤトが快哉を上げる。声の主はどうやらやつの味方のようだ。


 聞き覚えのある声だった。

 そうだ、あの夜に聞いて以来の――。




「解除、『潜伏影ハイドシャドウ』」




 影から人の姿が浮かび上がる。


 最強級のリオと同格の存在『影使いシャドウマスター』のスキル。




「カイ……っ!!」


「サトルか……久しぶりだね」




 現れたのは忘れられるはずのない相手。

 あの夜、俺の魅了スキルを狙い襲撃してきたカイだった。



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