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67話 騎士VS竜闘士


 騎士ナイトと竜闘士の戦い。


「うおおおおおおっ!!」

 初撃を防いだソウタは盾を構えたまま突進する。


「『竜の爪ドラゴンクロー』」

 対してガランは右手にエネルギー体の爪を展開。接近戦に応じるつもりのようだ。




 五本の爪を揃え剣のようにして振るう。ソウタは剣で迎撃。

 共に弾かれてソウタは速度が削がれたものの、そのまま盾ごとガランに突っ込む。

 質量と勢いにより普通の相手なら吹っ飛ばせるほどの攻撃――だが相手は普通ではない。


 ガランはスキルも使わずに左手だけでその攻撃を受け止めていた。


 返しとして今度は爪を広げてから閉じようとする。五方向から迫る攻撃が来る前にソウタは一旦引いた。




「ソウタ選手、果敢に突撃するもガラン選手にあしらわれる!」

「軽々しく攻撃を受け止めていましたね」


 実況と解説の声に、俺は思わず隣のリオとチトセに話を聞く。


「ソウタに何か勝機はないのか? 今の攻撃全く効いてなかったぞ」

「そうですね……唯一あるとしたら騎士ナイトが持つ一番の攻撃スキル『騎士の円舞ナイツラウンド』を当てることでしょうか」

「回転した勢いのまま剣と盾を叩き込む二連撃。当たりさえすれば、かなりのダメージを与えられるだろうけど」

「それだけの隙をつくれるかどうか、ってことか」

「ええ。ですがガランさんは使命とやらのために、確実に優勝することを目指している様子です」

「ソウタの勝機を摘み取る手を打ってくるだろうね」

「それって……」

「今の立ち会いで接近戦を続けては紛れが起きる可能性を感じ取ったはずです」

「だったら取る手は一つさ」


 二人の言葉通りにリング上で動きがあった。




「『竜の翼ドラゴンウィング』」


 ガランがその背中にエネルギー体の翼を生やし飛び上がったのだ。




「あれは……」

 そうだ、ユウカが商業都市に向かうときやドラゴン相手に使ったのを見たことがある。竜闘士の飛翔スキル。つまりやつの狙いは――。




「『竜の咆哮ドラゴンシャウト』」


 空中から指向性の衝撃波を放つ。

 開幕にも使われたその攻撃をソウタは盾で受け止める。さっきと同じ光景。


「『竜の息吹ドラゴンブレス』」


 ガランは攻撃を止められたことを気にせず次の攻撃を放つ。球体状のエネルギーが数個発生、ソウタに向かって飛んでいく。

 ソウタはバラバラな方向から飛んでくる攻撃に防御しきれないと逃げるが、エネルギー体はその動きを追尾する。なのでギリギリまで引きつけて避けたり、受け止めたりして攻撃をやり過ごす。


 その間もガランは空を飛んだままだ。




「ガラン選手の猛攻をソウタ選手は何とか捌く! しかしこれは――」

騎士ナイトは遠距離攻撃技を持ちませんからね。空中にいるガラン選手に手を出すことが出来ません。安全圏から攻撃を続けて確実に勝利を狙うつもりでしょう」


 解説の言うとおり。

 伝説の傭兵は格下の騎士ナイト相手に微塵も隙を見せるつもりは無いようだ。


「くそっ……正々堂々と戦え、卑怯だ、って罵ればいいのか?」

「そんなこと言ったところで何の意味もないでしょう」

「持てる手札を存分に使った最適解で勝ちを狙う……ある意味では一番正々堂々とした戦い方だよ」

「ああもう、分かってるよ。だが、どうするんだこれじゃあソウタの勝ち目が無いぞ」

「そうですね……かなりのピンチですが……」


 俺とリオはソウタを心配するが。


「分かってないねえ。アンタらも、そして伝説の傭兵も。ソウタの強さを見誤っている」


 チトセは一点の曇りもなく、ソウタの勝利を信じているようだった。






 それから二十分ほど経った。

 相変わらずガランは空中から攻撃を続ける。


「『竜のはためきドラゴンウェーブ』」


 エネルギーが波状となってリングを襲う。逃げ場のない攻撃にソウタは盾を構えて防御する。


 二十分の間、空中にいるガランに手を出す手段を持たないソウタは防御に徹した。

 最初に盾で突撃して以来、ずっと攻撃できないでいる。

 このままではどう考えてもソウタの負けしかない状況。


 しかし、未だに負けていないのもまた事実だった。




「いつまで粘るつもりなんだ……」

 握った手の汗が乾いてくる。それだけ緊張状態が続いていた。

 防御ばかりのソウタだが、全ての攻撃を防げたわけではない。避けきれず、防ぎきれずで何回か被弾はしていた。しかし致命的なところは避けて、今もリングに立っている。


「すごい胆力ですね」

 リオも感嘆している。


「そうだな。でも状況が変わらないんじゃ意味が無いだろ」

「いいや、変わったよ」

「え……どこが……」

 リングを見るが一方的なリンチに変わった様子はない。


「変わったのはリングの上じゃない、観客の方だよ」

 チトセの指摘に俺は観客席の雰囲気を窺う。すると確かに変化は起きていた。




「おいおい、いつになったら勝つんだよ!」

「そんな雑魚さっさと倒せよ!」

「てかさっきからビビりすぎじゃねえのか!」


 観客から響く怒号。それは勝ちきれないガランに向けたものだ。




「そうですか、観客はみんなガランさんの勝利を信じているものだと思っていましたが……微妙に違ったんですね。信じていたのは圧勝だったということですか」

「ああ、だから見るところを変えると苦戦しているようなこの状況は望んでいないんだよ」

「実際このまま時間をかければ伝説の傭兵の勝ちは決定的だが、そんなの好みじゃないってか。本当勝手なやつらだな」

「ですがそのおかげでガランさんの味方だった観客の心が離れ始めています。それでソウタさんの応援をしてくれるわけではないですけど……」

「まあ、十分さ。敵の敵は味方ってね」

「そうか、早い決着を望むこの雰囲気が――」


 状況を理解したところで、リング上のガランが攻撃の手を止めた。




「ここまで粘るとはな」

 空中から無慈悲に攻撃を続けていたガランが、ソウタに言葉を投げかける。


「いつまでだって粘りますよ……勝つためなら」

 満身創痍なはずなのに、ソウタの言葉には力が漲っていた。本当にいつまでも倒れないんじゃないかと錯覚するほどだ。


「君を侮っていたようだな。本当に将来が楽しみな若者が多い大会だ」

 ガランは自嘲するように呟き、そして宣言した。




「勝負の最中に勝った後のことを考えるのは侮辱かもしれない。だが、私は絶対に優勝しないといけなくてね。これ以上戦っていては決勝に響く。

 だから――次の一手で決着を付ける」

「望むところです」




 安全な勝利から、早期の決着に狙いを切り替えるガラン。自らの判断によるものだが……そこに観客による影響が無いとは思わなかった。

 だからこれは粘り続けたソウタ自身が手繰り寄せた――唯一の勝機だ。




「『竜の潜行ドラゴンダイブ』!!」




 ガランは空中のその場から垂直に急降下する。あわや地面に激突するという直前、水平飛行に切り替えてそのままソウタめがけて飛翔する。超スピードによる突進技、今までの遠距離攻撃とは桁違いの攻撃力で守りを打ち破ろうという考えだろう。




「『神の盾ゴッドガード』!!」




 対してソウタも切り札を切る。

 騎士ナイト最強の防御スキルでその突進を受け止める構えだ。それに成功さえすればガランはソウタの至近距離で隙を晒すことになる。『騎士の円舞ナイツラウンド』を叩き込むチャンスが訪れるのだ。




 竜闘士が突き出した右手が、騎士ナイトの盾と衝突する。

 ボゴォッ!! と盛大な衝突音がコロシアムに響いた。




「っ……拮抗している……!!」

 衝突した瞬間、どちらかが弾き飛ばされるということにはならなかった。

 拳と盾が接地したまま、優勢なのはガランのようだ。徐々にではあるがソウタが押されて後退している。


「おおおおおおおおっ!!」

「ああああああああっ!!」


 盾を打ち破らんと、拳を受けとめんと両者共に気力を振り絞る。いつも冷静に戦闘していたガランが珍しく気勢を上げている。


「いけええっ……!」

「頑張ってください!!」


 俺とリオも声を振り絞り。


「信じているよ……!!」


 チトセも両の手のひらを合わせて祈る。




 攻撃を受け止めるソウタの後退が止まらない。

 しかし、ガランの突進の勢いも徐々に落ちていく。


 力の拮抗、一瞬のような永遠が終わり――。


 盾は破れなかった。




「くっ……」

 突進を受け止められて地に足を付けるガランに。


「『騎士の円ナイツラウ――」


 ソウタは残っている力を全て使いスキルを発動。回転して盾と剣を叩き付けようとする。


 しかし伝説の傭兵もさる者、防御スキルの発動は間に合わないものの両腕をクロスさせ出来る限りの防御態勢を取ったところで――。






「試合終了ーーっ!! 勝者、ガラン選手!!」






 実況の宣告が下された。




「ソウタ選手『竜の潜行ドラゴンダイブ』を受けきった防御は流石でしたが……攻撃の勢いに押されて片足がリングの外に出てしまいましたね。リングアウトにより敗北です」


 冷静な解説の声がコロシアムに響きわたった。


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