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64話 本戦開始


 武闘大会本戦の朝を迎えた。

 戦いの舞台であるコロシアムには予選のとき以上に人が詰めかけている。例年から予選より本戦の方が観客が多いらしいが、今年はその増加率が桁違いらしい。リングに近い下層の席が埋まっているのは予選の時もだったが、まだ一戦目も行われていないこの時間帯から既に中層の席もほぼ埋まっており、上層の席に人が見られ始めるようになった。

 ほとんどの観客の目当ては二人の竜闘士の戦いだ。トーナメント表からして当たるとしたら決勝。その歴史的瞬間を今か今かと待っている。




「普通に観客として入ってたら、未だに座れなかっただろうな。ていうか下層のリングに近い良い席を取ってるやつはいつから並んでるんだよ」

「聞いた話だと、一昨日の夜の予選が終わったときから既に並んでいる人もいたみたいですよ」

「よくやるわ。てか徹夜OKなのか」


 そんな混み具合を俺とリオは背もたれの付いたイスにゆったりと座りながら眺めていた。


 ここはコロシアムに用意されたVIP席だ。昨日の昼食会と同じく本戦出場者と同伴二名までがここを使って良いらしいのでありがたく受け取っていた。リングに近くそれでいて全体を見渡せるベストポジションだ。


「同伴二名までやなかったら、あの娘も連れてきたんやけどな」

「純粋に応援しろという神の采配じゃないかい?」

「まあ、いいか。このVIP席で新たな娘を探せばええんやな!!」

「ソウタに招待された身分で、人様に迷惑かけるんじゃないよ」

「痛っ!?」

「ったく……」


 チトセのゲンコツがハヤトに落とされる。あの二人も昼食会と同じ理屈でVIP席にいる。




 武闘大会本戦は十六名によるトーナメントだ。試合順番は予選を勝ち上がった順番そのままになる。

 なので一回戦、伝説の傭兵ガランは二試合目、ソウタは四試合目、ユウカは予選最終ブロックを勝ち上がったので最終八試合目の出番の予定だ。

 ソウタもユウカも試合に集中するため既に選手控え室に向かっている。


「言うまでもないかもしれませんが、優勝候補はガランさんとユウカの竜闘士二人ですね」

「まあだろうな。ダークホース的な存在は見当たらなかったのか?」

「ええ。ぎりぎりソウタさんが二人に食らいつけるかといったレベルで、他の十三人の見込みはかなり薄いですね」


 リオによる分析。おそらく『真実の眼トゥルーアイ』を使いステータスを見た上での判断だろうからかなり正確のはず。


「じゃあ問題はユウカが伝説の傭兵に勝てるかってことだけか」

「それだけだといいんですが……」


 リオが言葉を濁す。何か気になることがあるんだろうか?




「あらまあ。あなたたち、また会ったねえ」

「……あ、予選の時の」

「この前は席を譲ってくださりありがとうございました」


 声に振り返ると見覚えのある婆さんがいた。


「いいのよ、いいのよ。困ったときはお互い様っていうでしょう?」


 婆さんは言いながら離れていった。この辺りの席が埋まっているので、ちょっと離れたところに座るようだ。


「また会うとはこんな偶然もあるんだな」

「……そういえばあまりに自然だったので流してしまいましたがここVIP席ですよね。お婆さんどうして入れたんでしょうか?」

「選手に知り合いがいるっぽい雰囲気だったし、その人が本戦に進出したことで招待されたんじゃないか?」

「まあ、その可能性が一番高いですが……」

「お、始まるみたいだな」


 リオは何か引っかかったようだが、そのときリングに町長が立ち本戦の開幕を告げたことで、俺の興味はそちらに移ったのだった。




 バトルロイヤルだった予選と違って本戦は一対一、しかし観客への配慮のためリングアウトのルールは継続するようだ。

 一回戦一試合目は対戦選手お互いが慎重で、焦れるような長期戦に。


 そして二試合目は。


「『竜の咆哮ドラゴンシャウト』」


 竜闘士ガランの参戦。試合開始と同時に指向性の衝撃波を対戦相手に向けて放ちノックアウトする。


「試合終了ーーっ!! 勝者、ガラン選手!!」

「予選に続き、本戦も一手で終了ですか。絶好調のようですね」


 実況と解説の言葉に観客席も盛り上がる。

 とうの本人であるガランは興味が無いとばかりに何も言わずリングを去った。




 四試合目。


「おおおおおおっ!!」


 『騎士ナイト』のソウタが盾を構えたまま敵に突撃。リングから押し出して勝利を拾う。




 八試合目。


「『竜の咆哮ドラゴンシャウト』!!」


 ユウカも同じく指向性の衝撃波を開幕から放って相手を倒す。


「試合終了ーーっ!! 勝者ユウカ選手!! というかこの光景さっきも見た気がするぞー!!」

「二人の力はほぼ同じみたいですからね。最適解を取るとどうしても行動が被るのかもしれません」


 おそらく解説の言葉の通りだと思うが、否応なしに観客は二人の竜闘士の存在を意識させられる。




 速やかに一回戦が終わり、休憩時間となった。

 俺は隣のリオと総評する。


「予選のバトルロイヤルと違って、一対一だから決着が早いな」

「みんな積極的に戦っていますからね。一応ルール的に相手と戦わず逃げ続けることに制限はかけられていません。そうなると膠着して試合時間も長くなるものですが、リングアウトのルールとこのコロシアムの雰囲気がそれを難しくしているんでしょうね」

「逃げ続けると必然的にリングの縁近くに行くことも多くなる。そこを押し出してしまえば勝ちだから危ないってことか」

「そしてあれは六試合目でしたか。一方の選手の攻撃が苛烈で、もう一方の選手が逃げの手を打ち続けたことがありました。そのとき観客から『逃げるてんじゃねえよ! 戦え!』とブーイングの嵐だったでしょう?」

「ああ、だったな。戦略的に逃げる場面だったと思うが」

「身勝手ですが絵的につまらないという理由でしょうね」

「その圧力に押されて反撃を試みるも中途半端になり結局負けた、と」

「一つ一つの応援や声援が勝負に与える影響など微々たるものです。しかし、これだけ観客が集まりそれが一カ所に集中すると絶大なパワーを発揮するということですよ」


 つまりリオが言っているのは『みんなの応援が俺の力になる!』とかいう精神的な話だけではないということだ。

 声や雰囲気につられて行動に影響が出るというのは実際にある。例えばテレビのバラエティなどでスタッフの笑い声に釣られて視聴者も笑うなどだ。


 だとすると試合に出ず力もない俺でも、微力ながらに手助けが出来るはず。


「お待たせしました! それではただいまより準々決勝の開始です!」


 そのとき休憩時間が終わったのか、実況の声が会場に響く。

 とりあえず準々決勝が終わったら選手控え室に行ってみるか。




 準々決勝の四試合も特に波乱もなく順当に進んだ。

 一試合目はガラン、二試合目はソウタ、四試合目はユウカが勝った。竜闘士の二人はまたも『竜の咆哮ドラゴンシャウト』で一手勝ち、ソウタは少し相手に粘られて消耗していたが、この大会には回復魔法使いのスタッフが常駐しているので完全に回復して次の試合に挑めるはずだ。


 この仕組みについてはとてもありがたいことだ。なぜなら次の準決勝でソウタは竜闘士のガランと戦うことになるからだ。


 渡世とせ宝玉ほうぎょくをゲットするために立ちふさがる一番大きな壁。

 同じ竜闘士であるユウカが倒すほうが本命なのだが、ソウタが倒してくれれば決勝でどっちが勝っても手に入るという状況に持ち込めるだろう。

 ちなみにユウカが準決勝で負ける想定はしていない。次の対戦相手のこれまでの試合を見る限り、力の差は歴然だからだ。


 そういうことでこの準決勝前の休憩時間に俺は一人で選手控え室に向かっていた。リオはチトセと何か話していたので置いてきている。

 ソウタの元を訪れその扉の前まで行ったのだが……中から話し声が聞こえる。先客がいるようだ。

 気づかれないように覗き込むとハヤトがいて、ソウタと話していた。俺と同じで応援しにきたのだろうか?




「ようやく準決勝やな、ソウタ」

「そうだね、まさか僕がここまで来れるとは思わなかったよ」

「謙遜せんでええって。ソウタやってこの異世界に来て大きな力をもらったやろ?」

「うん、そうだけど……でも次の対戦相手はそれ以上の強敵」

「伝説の傭兵ガラン。ほんとあの力は反則的よなー」

「勝率は僅かにも無いかもしれない。それでも勝利を信じて正々堂々戦うよ」


 大事な戦いの前に落ち着いている様子のソウタ。

 いつも気が弱い様子を見ていたから次の戦いに緊張しているのではないかと心配で来たのだが、どうやら杞憂だったようだ。

 これなら俺に出来ることは無いな、と思いそっと去ろうとしたところで。




「ちっちっちー。甘いな、ソウタは」


 控え室の中、ハヤトが人差し指を振りながら否定した。




「甘い……って、どういうこと?」

「次の相手、ガランは予選でチトセを倒したやろ。つまりやつを倒すことで……自分がチトセより強くなったと証明する絶好のチャンスなんや」

「…………っ!」


 ソウタはチトセのことが好きだとはこの前の男子会で聞いている。そのチトセは強い男が好みだと公言している。

 好きな人へのアピールになるという発破か……少々動機が不純だが、それで頑張れるなら何の問題も無いだろう。

 ハヤトもやり手だなと評価しようとして。




「でも今のままじゃ、ソウタも思っているように勝ち目はほとんどないな」

「そう……だよ。チトセさんよりも弱い僕が勝つなんて……」

「そんな心配せんでええって。大丈夫、いいもん持ってきたからな」


 言いながらハヤトが取り出したものはここからも見えた。


 見ているだけで不安にさせるような禍々しい紫色の刀身を持つ剣だ。


「…………」

 何か雲行きが怪しくなってきたな。






「こ、これは何ですか、ハヤトさん」

「ちょっとした伝手で用意することが出来てな。色から見て分かりそうやが、この剣には毒の効果がある。少しでも相手に当てれば動けなくすることが出来るはずや。これを使えば伝説の傭兵にだって勝てるはずやで!!」

「そんなの反則じゃ……」

「いや、確認したところそうでも無いみたいやで? そもそもソウタはジョブが『騎士ナイト』である関係で、ここまでも剣と盾を装備して戦ってきたやろ。この大会武器を持ち込むことはOKで、その種類も問われない。だから次の試合でこれを使っても問題オールナッシングや」

「で、でも……」

「怖じ気つくことないやろ。強いってのは勝つことや。弱者であるソウタが勝つのに手段を選ぶ余裕があるはずない。それとも……ソウタがチトセを思う気持ちはそこまでやったってことか?」

「そんなことありません!!」

「だったらもう分かり切ってるな。これを使ってガランを倒す。チトセ以上の強さだと証明できて、そして渡世とせ宝玉ほうぎょくを手に入れられる。一石二鳥でチトセもソウタを見直し、一気に距離が縮むはずやで」

「そうだ……僕はチトセさんと……」


 ハヤトが渡した剣をソウタが手に取る。






「その意気やで……くくっ」

 覗き込むサトルからも正面のソウタにも見えないように、ハヤトは口の端をニイッと釣り上げほくそ笑んだ。


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