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63話 相談


 町長の屋敷、昼食会の行われているパーティーホールから離れた人通りの少ない廊下にて。

 ユウカこと私はクラスメイトだったハヤト君と話している。

 曰く、サトル君が私の戦う姿に恐怖したらしい。


「…………」

 恐怖。恋からはもっとも遠い感情。

 サトル君に恋する私にとって、それは脈なしを意味する。地面が抜け、どこまでも落ちていくような感覚になっただろう。


 もし本当ならの話だけど。




「それは嘘だね」

「いやいや、信じられへんかもしれないけどな……」

「だってサトル君が私をパーティーメンバーに入れてるのはその戦闘力を買ってるからだもん。ドラゴン戦でも一回戦う姿を見せてるのに今さらそう思うはずがない」

「本人には言い出しにくかっただけかもしれへんやろ?」

「いや、サトル君はそんな陰口を叩くような人じゃない。悪いところがあったら、空気を読まず本人に言うような人だよ」

「そうは言ってもな、実際にサトルが……」



「何が目的か知らないけど……これ以上サトル君を侮辱するなら、私にも考えがあるよ」



 食い下がるハヤト君に、私は握り拳を掲げて見せた。この世界ではジョブ『盗賊』のハヤト君より、『竜闘士』の私の方が力は上だ。


「………………」

「………………」


 しばらく緊張感が場に満ちて……ハヤト君はおどけるように両手を挙げて言った。




「ははっ、冗談や、冗談! もう、そんな怒らんといてって!」

「………………」

「実のところ、サトルはユウカの戦う姿が美しいって言ってたで!」

「ほんとっ!?」


 サトル君が美しいって……も、もう嬉しいけど、どうせなら直接言ってくれればいいのに……!






「ふう……怖い、怖い。だいぶ信頼しとるみたいやな。これは無理そうや」






 しばらくして、私も落ち着いたところでハヤト君が切り出す。


「いやいやちょっと変なこと言ってすまんかったな。お詫びといっちゃなんやけど、今なんか悩みごとがあるやろ? 相談に乗るで」

「え、何で分かったの?」

「純粋やなー。ユウカにはネタバラしするけど、俺はある程度親しくなった女には全員これ言っとるで。大体悩みがない人なんておらんからな。すぐに思いつかなくても色々提示して聞き出す。そして相談に乗ることで株が上がるってことや。悩みが解決できそうに無くても、女は大体話好きやし、共感してもらいたいから相談聞くだけで好感度上がるしな」

「へぇ……そういうものなんだ」

 私にはピンと来ないけど、恋愛のテクニックの一つってことなのだろう。


「それで困ってることってなんや?」

「あーえっと……」


 改めて聞かれて私は返答を迷う。


 目前に迫る武闘大会本戦のことでは無い。それについては本気を出して戦うしかないからだ。悩んだってしょうがない。

 私が悩んでいるのはサトル君との関係についてだった。

 魅了スキルにより複雑に絡まった関係。目下の課題は騙し続ける関係にいつか必ず訪れる破綻を回避する方法の模索。


 でも……それをハヤト君に相談するのはどうなのだろうか?

 恋愛に慣れてそうだし、リオやチトセと違って男目線からの意見も参考になりそうだけど、単純に相談するのが恥ずかしい。

 だったら……。


「ここだけの話にしてくれる?」

「もちろんや! 俺は口だけは固いで!」

「とてもそうは見えないけど……ええと、そのね。私の友達が好きな人について悩んでるみたいなんだけど……」

 私は他人の体をとって相談する方法を取る。これで少しは恥ずかしさも軽減されて――。


「ふむふむ、ユウカが好きなサトルについて?」


 あっさりバレた。


「………………えっ? いや、違くて。私の友達の……」

「その話し出しは古今東西自分のことって決まってるで。大体友達ってこの町にいるリオもチトセも好きな人について悩むような性格やないしな」

「いやー、でも……その……」

「ユウカが魅了スキルによってサトルのことを好きになっとるのは分かってるからな。ほら、遠慮せず相談してみい」

「……そう、魅了スキルのせい……魅了スキルのせいでサトル君を好きになったんだけど……」


 降ってきた言い訳を活用して心理的負担を減らし、現状を説明する。

 するとハヤト君は腕を組んでうなった。


「なるほどなー……しっかしサトルも無粋なやつやで」

「無粋……ってどういうこと?」

「要するにサトルの現状はキャバクラにいるってことなんやろ? 自分に女の子が好意的に接してくれるのは金を払った客だからっていうのと、魅了スキルにかかっているからって点が違うけど」

「言われてみれば似てる……のかな?」

「それで『どうせおまえらは俺のこと内心では金ヅルだと思ってるんだろ!』とか『店の外じゃ他人な癖に!』って喚くタイプやな。俺に言わせればそりゃそうやろ、って話や。分かった上で楽しむ場所やっていうのに」

「……でも、サトル君は無理矢理キャバクラに連れてこられたわけだし」

「無理矢理……あーそっか、間違って魅了スキルを発動してしまったって話やったしな。なるほど、上司に連れられてきた部下ってことか。なら情状酌量はあるけど……誰も得しない話やなー」


 はぁ、とハヤト君がため息を吐く。


「サトル君がそういう客だとして……キャバ嬢の方が好きになったとしたらどうすればいいのかな?」


「え? ……ああ、そういう話になるんか。難しいことやな。

 とりあえずそういうタイプには客と嬢の関係である内はどうにもならんとちゃうか? それ以外の関係を、それも素に近いところで作るしかないやろ。

 俺が知ってる話やと付き合いで来ていたサトルみたいなタイプの大企業の社長を、同じ趣味だったってところから話を盛り上げて個人的に会う関係になって落とした嬢がいるって聞いたことがあるで」


「同じ趣味……」

「まあでもこれは一種の例で偶然やな。こういう手合いは総じて疑り深いしな。付け焼き刃だと自分に近づくためじゃないかと思われて逃げられるで」

「……そっか。うん、分かったよ」


 まだ整理をしないといけないけど……何か掴めた気がする。

 



「ありがとね、ハヤト君」

「なら良かったで。正直これ以上はどうアドバイスして良いか分からんかったしな。俺とは違うタイプ過ぎて、思考が読めへんのや」

 ハヤト君が安堵しているが……ふと気になったことがあった。


「じゃあもしハヤト君が魅了スキルを授かってたらどうしたの?」

「俺? 俺がもらったらそりゃもうウハウハで使いまくりや! あらゆる女性を手に入れてハーレムを作るで!」

「欲望まみれだね……」

 予想していたとはいえ、あまりの清々しさに呆れる。




「男の夢と言って欲しいで。つうか本当にサトルは分からんわ。何を遠慮して………………ああ、そうか。いつか元の世界に戻れば魅了スキルも無くなってしまうって考えてるのか。はあ……そんなん簡単な話なのにな」

 

「……?」


 ハヤト君の意図してるところを把握できず。




「ユウカ、会場にデザートが運ばれ始めたみたいですよ」

「え、デザート!?」


 そのときリオが私を呼びに来た。


「ええ。ユウカの好きそうなケーキもたくさん並んでました」

「それは早く行かないと! 明日の決戦前に糖分補給は大事だからね!」

「どちらかというと頭を使う場合の話じゃないですか、それ」

「ありがと、リオ。伝えてくれて!」


 リオが何か言ってたけど、私の興味はケーキに染まっていて、すぐその廊下を離れてパーティーホールに向かうのだった。






 ユウカの去った廊下にて。


「しかしユウカにちょっかいをかけるとは怖いもの知らずなんですね」

「あちゃーそんなところから見られてたんかいな」

「ええ。あれで精神的に脆いところがありますからね。大事な大会前に私がユウカを一人にすると思いましたか」

「でも、その間サトルの方が一人になってたんやないか? そっちの方がマズいはずやろ」

「サトルさんの側にはチトセにソウタさん、他の参加者もいるので大丈夫だと判断しました」

「そっか……まあ言われてみればそうやな」




「ついでに聞いておきましょう。あなたはどちら側なのですか?」

「何の話や?」

「ユウカやサトルさんにはまだ伝えていませんが……クラスメイト八つのパーティーの内、現在三つのパーティーと連絡が付きません」




「何やって!? 大変やないか!?」

「とぼけるつもりですか?」

「……そういっても俺はずっとチトセとソウタと旅しとるんやで? 二人が何も言わないってことは、俺も何もしてないってことや」

「ええ、そうでしょうね。ですが彼から、前の町で偶然会ったカイさんから話は聞いているんじゃないですか?」

「……ノーコメントで」

「そうですか」




「…………」

「…………」

 リオとハヤトの視線がぶつかり合う。




「さて、そろそろ俺も行くで。デザートに興味があるしな」


 先に逸らしたのはハヤトで、ひらひらと手を振りながらその場を離れた。




 リオはその場で独りごちる。


「武闘大会……最強を決めるという純粋な舞台の裏に、ドロドロとしたものが蠢いてますね。関知できていない動きもある気がしてしょうがないですし、場外といえど油断出来ません。気を引き締めて行きましょうか」



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