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61話 昼食会


 武闘大会の予選と本戦の間には休養日がある。

 つまり予選翌日の今日は何もない一日となるはずだった。


 しかし武闘大会の主催者である町長たっての希望により、本戦出場者は全員昼食会へと誘われていた。




「デカい屋敷だな……」


 町長の住居である屋敷を見上げる。話によるとこの町でコロシアムの次にデカい建物のようだ。


「いやあ持つべきものは友達やな! 昼食会どんなもんが出るか、そしてどんな別嬪さんがいるか楽しみやで!!」

「よく友達面出来るねえ。昨日の予選も応援じゃなくて、デート気分で見てたそうじゃないか」

「あ、あはは……」

 久しぶりに見るチャラ男、ハヤトがソウタの肩に手を回していてチトセに呆れられている。


 本戦出場者が招かれたこの昼食会だが、それぞれ同伴者二名まで認めるとの達しだった。そのためソウタがハヤトとチトセを同伴、ユウカが俺とリオを同伴するという形で六人揃っている。




「ほら、ユウカ。敷地に入って関係者以外いなくなりましたから離れてください」

「本当? はあ、まさかここまで注目されるとは思ってなかったよ」


 リオの背中に隠れるようにここまでやってきたユウカが、町長宅の敷地に入ったことで離れる。


 武闘大会の最終第十六ブロックで伝説の傭兵と同じく一手で勝ち目立ったユウカ。そのため一躍時の人となっていた。

 昨日もコロシアムから宿屋に帰るまでの間、ずっと声をかけられていた。スターのような扱いに丁寧に応対した結果、流石に疲れたようだ。


 まあ町の人たちの反応も仕方ないことなのだろう。一人でも伝説級の存在である竜闘士が二人現れたのだ。武闘大会本戦でその二人が戦うことになるだろう、という期待感で一色に染まっている。その中心人物なのだから注目されるのも当然だ。

 もう一方の当事者である伝説の傭兵は予選が終わった後会場から忽然と姿を消し行方知らずとなった結果、その分の注目もユウカに集まったという事情もある。




「大変だな、ユウカも」

「助けてよー、サトル君」

「いや、俺がどうにか出来る範囲を越えてるだろ」

「うぅ、冷たい」

 突き放すつもりは無いのだが、実際俺が出来ることは無いし……でもこう元気がないと調子が狂うな……あ、そうだ。


「……まあそのなんだ、代わりになるか分からないが、俺が何か一つ願い事を聞くぞ」

「願い事?」

「ああ。そもそも今回渡世とせ宝玉ほうぎょくを手に入れる何の役にも立ってないしな、頑張ってるユウカに何か報いるのが筋ってもんだろ」

「それって……何でもいいの?」

「言っておくけど俺が出来ることに限るからな!」

 少々不穏な空気を感じた俺は全力で予防線を張る。格好悪いが大言壮語しても出来ないことは出来ない。


「それなら大丈夫! サトル君なら絶対に出来ることだから!!」

「そ、そうなのか?」

「えへへ、えへへ。何してもらおっかな、どれがいいかなー!」

 相好を崩す……崩しすぎなユウカの様子を見る限り、調子を取り戻したようだ。




「また大胆な約束をしましたね、サトルさん」

「そうか? どうせあれだ、夕食のおかず一個譲れとか、一発芸しろと命令して笑い物にするとかじゃないのか?」

「何でそのような発想になるんですか……? そんなことで喜んでるユウカがアホみたいじゃないですか」

「でもだったら俺が何をすればユウカが喜ぶってんだよ?」

「そうですね……予想は付きますけど、私の口から述べるのは遠慮させてもらいます」

 リオは人差し指を口の前で立てて話すつもりは無いようだ。


 本当に何をさせられるのか……ちょっと早計だったかもしれないな。






「よくぞ参った!!」

「こちらこそお招きいただきありがとうございます」


 ガハハッ、と豪快に笑う町長と丁重に礼をするユウカ。


 屋敷の使用人に連れられるままにしてやってきたのはとても広いパーティーホールだった。昼食会はビュッフェ形式のようで、先に来ていた本戦出場者とその関係者が思い思いに食べたり交流したりしている。

 ホールに着いて早速ハヤトは「別嬪さん見つけたで!」とか言ってそちらの方に去っていった。なので残った五人で礼儀として最初に招待主である町長のところを訪れた次第である。




「しかし稀代の竜闘士がこのような少女だとは……ああいや、疑っているのではない。昨日の予選は儂も見ておるからな」

「そうでしたか」

「そのような身でどのようにしてその力を手に入れたんじゃ?」

「私はユウカの友人のリオです。そのことで少し話をしてもいいでしょうか、町長」

 リオが自己紹介をしてから話に割り込む。


 そしてリオは俺たちが異世界召喚者であること、女神の遣いであること、竜闘士はその際に分けられた力であることなどを手短に話した。


「そのような背景があるとは……女神教か知ってはいるぞ。儂は違ったが、昔はほとんどの人が信者であったからな」

「衰退する前の女神教を知っているのですか?」

「これでも伊達に長生きはしておらんからな。儂が若いころは教会の権力は絶大であった。しかし、あるときを境に女神教に関わる者の不祥事が相次ぎ、そのせいで信心が離れていった。不祥事を認める者もおったが、多くは『身に覚えがない』『私はその日その場にいなかった』ととぼけるものばかりじゃったな。多くの証人がおったというのにそれはマズかった」

「ふむ……」

 リオが興味深そうにしている。俺にも興味深い話だった。


 リーレ村の村長、タイグスさんは女神教の衰退の原因を災いから救ってくれた女神に対する感謝の念が風化したからだと言っていた。もちろんそれもあるのだろうが、実際は不祥事の連続の方が大きかったのだろう。

 昔の教会はかなりの権力を持っていたという。そして権力に腐敗は付き物だ。勘違いして好き勝手した結果身を滅ぼしたということか。

 村長もこのことは知っていたのだろうが、神父として言い出しづらかったのだろう。




「私たちが女神様に集めるように言われたのが、今回大会優勝者に副賞として渡される宝石、渡世とせ宝玉ほうぎょくなんです」

「どうして倉にあったのか気になっておったが、そういえばかなり前に教会の取り壊しをした覚えはある。そのときだったか」

「そういう事情があって……その宝玉を譲ってもらうということは出来ないでしょうか? もちろん相応の代金は払います」

「……残念じゃが既に副賞として贈ることは大々的に宣伝してしまっておる。儂の一存でやっぱり無しだとか、代わりの物をというわけにはいかん。手にするには堂々と優勝する他ない」

 主催者である町長でも動かせない状態か。この場で交渉によって手に入ったら楽だったのだが仕方ない。当初の想定通りユウカに優勝してもらおう。




「しかし、女神教と竜闘士か……あ、そうじゃ。一つ覚えている話がある。先にも言ったとおり、儂は女神教を特に信仰していなかった。しかし町には女神教にまつわる話が溢れておってな、その中に興味を持ったものがあった。いついかなるときも女神の側を離れなかった守護者と呼ばれる男性の存在じゃ」

「守護者……ですか」

「女神は災いを愛の力で収めたと言われておるが、それだけで全てが全て上手くいったわけではないし、時には身に危険が降りかかることもあった。その場合に武力を振るったのが守護者だったようじゃ。ジョブは竜闘士で、例に漏れず絶大な力を持っていたらしい。もしかしたら主はその力を継いでいるのではないかと思ってな」

「考えられる話ですけど……私が守護者と言われても……」


 ユウカはどう反応して良いか分からない模様だが、俺にはピンと来るものがあった。

 というのも以前に考えたことがあったからだ。魅了スキルは元々女神が持っていたものではないかと。


 女神と竜闘士を持っていた守護者と呼ばれる男性。

 魅了スキルを持つ俺と竜闘士を持つ少女ユウカ。


 性別は逆転してるが、その関係が現代に再現されているのだと……。


「……いや、無いな」

 そうだとすると俺が女神の役割、愛の力で災いを防ぐということになる。俺が愛とかそんなの柄じゃねえしな。まあ偶然の一致だろ、うん。

 首を振ってその妄想を忘れるのであった。






 女神教に関する話は終わったが、町長との談笑は続いていた。


「そちらのソウタであったか。予選の立ち回り見事であった。なるべく敵の目を引かないようにしながらも、ここぞという戦闘に絡み、堅実に敵を減らしておったな」

「あ、ありがとうございます」

「主のことも覚えておるぞ、伝説の傭兵に勇敢に立ち向かった姿は。儂も参戦していたらそうしていたじゃろうな」

「話が分かりそうだねえ」

「そちらの少女は……武闘大会には出ていないが、かなりのやり手そうじゃな」

「よく見抜きましたね」


 血の気が多い人だとは思っていたが話のほとんどが戦いに関することだった。中でも一番関心があるのはユウカ、最強だと言われる竜闘士のジョブに興味があるのだろう。ユウカがドラゴンと戦ったときの話をすると、それは子供のようにかぶりついて話を聞いていた。




「失礼する。招待により参上した旨を伝えたい」

 そんな中、その場を訪れた者がいた。




「……なっ!?」

 俺はその者を見て驚く。


 今は武闘大会本戦出場者が招かれた昼食会だ。だからその人がいるのは当然とも言えるのだが……しかし、このような催しに参加するとも思えず虚を突かれた。


 つまりは……そう、伝説の傭兵がそこにいたのである。


「おおっ!! 来てくれたか!!」

「招待状に『来なければ本戦出場資格を取り消す』と脅されましたので」

「それはすまない、そうでもしないと来ないと思った儂の一存で決めたんじゃ。責めるなら儂だけにしてくれ」

「……いえ。大会出場者として、主催者の意向に従うのは当然です。つまらないことを言ってしまいました。それに早速参加したかいもありそうなので」


 伝説の傭兵は視線を町長からその前にいた者に移す。結果、声に反応し振り返ったその者と視線がぶつかることになった。




「初めまして、ユウカといいます」

「私はガランという。君のことは知っている、私の優勝を阻む可能性が最も高いものとしてな」




 武闘大会本戦前日、竜闘士二人が相対した。



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