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55話 男子会


 相変わらず騒がしい酒場。ハヤトは未だトイレから帰ってこない。


「ええと……どこから話せばいいんだろう。僕たちは前の町で渡世とせ宝玉ほうぎょくの持ち主に『金を払うなら宝石を売ってもいい』って言われたので、魔物を退治したりしてお金を稼いでいたんです」


 カイとエミのことを聞かせて欲しいという俺の求めに応じて、ソウタが語り出した。

 にしても金と宝玉の交換か。一番に考えられるパターンだ。


「僕とチトセさん……ハヤトさんは手伝ったり手伝わなかったりでしたけど……数日頑張った結果、目標の金額に加えてそれなりの余裕を持ったところまで稼ぐことが出来たんです」

「全財産を宝玉に使ったら、生活費が無くなるしな」

「はい。それで喜んでいたところに、偶然カイさんとエミさんに会ったんです」

「…………」


 さあ、本題だ。俺は集中する。




「僕らは二人に出会えて驚いたんですけど、二人も僕らに出会って驚いていたみたいです」


 ということはやつらにとっても意図的では無かったのか。


「『今まで何をやっていたんや?』ってハヤトさんが聞くと『ちょっとな……それよりそっちはどうなったんだ?』とカイさんが聞いてきたので、僕たちが8パーティーに分かれて渡世とせ宝玉ほうぎょくを追っていることとか教えたんです」


 そうか、リーレ村に着く前に二人は去ったから知らなかったのか。


「それで僕たちが一つ目の渡世とせ宝玉ほうぎょくを入手する直前だって言うと『こっちは一個手に入れたところだ』って、カイさんは渡世とせ宝玉ほうぎょくを取り出して見せたんです。僕たちより早く一個目を手に入れていて、流石だと思いました」


 …………。


「カイさんは『みんな一緒に元の世界に戻るために頑張ろう』と言って……頼もしいですよね。その日の夜は今日みたいに五人で酒場に行って、エミさんとチトセさん、カイさんとソウタさんはそれぞれ意気投合して夜遅くまで飲んでいたみたいです。翌朝にはその町の渡世とせ宝玉ほうぎょくは僕たちに任せると言って、二人はまた別の町に向かったみたいですけど」


「……なるほどな」

「え、えっと……参考になったでしょうか?」

「ああ、助かったぞ」

「良かったです」


 相槌が少なかった俺が機嫌を悪くしたのかと思っていたようだ。その言葉にソウタはホッとしている。




 話を整理する。


 ソウタたちはどうやらカイたちのことを好人物だと思っているようだった。

 俺からすれば要注意人物なのだが、魅了スキルを求めて襲撃したことを知っているのは俺とユウカとリオの三人だけだ。みんなが混乱しないように情報を伏せているため、そこはおかしくない。


 勘違いに拍車をかけているのが渡世とせ宝玉ほうぎょくを手に入れているという点だ。

 俺たちの使命、元の世界に戻ることを叶えるためのアイテム。それに協力している相手を悪く思えるはずがない。


 だが、それがおかしい。


 俺たちを裏切るようなマネして……どうして今さら渡世とせ宝玉ほうぎょくを集めて協力するような素振りを見せているんだ?

 もしかして罪滅ぼしに渡世とせ宝玉ほうぎょくを集めて俺たちクラスメイトの元に戻ろうと…………するようなやつでないことは俺が一番分かっている。

 やつの魅了スキルへの執着は本物だった。


 だとしたら嘘が紛れ込んでいるはず。

 渡世とせ宝玉ほうぎょくは簡単に手には入るものではないことはよく分かっている。こいつらに見せたのだから、手に入れたというのは嘘ではない。


 苦労して渡世とせ宝玉ほうぎょくを集めているのは本当……ならばその理由が嘘なのか?

 元の世界に戻るためではなく…………何らか別の理由で宝玉を集めて…………もしかして俺たちの邪魔を…………いやでもそれだけのためにわざわざここまでするか…………?




「おうおう、何の話してるんや?」

「あ、ハヤトさん。遅かったですね」

「トイレが混んでてな。やっぱ人が多すぎるで、ここ」


 そのときハヤトが帰ってくる。

 ……ちょうどいい、どうせこれ以上考えても堂々巡りだな。俺は思索を打ち切る。




「それで何の話をしてたか……ずばり、あれやろ! 女の話や!」

「え、いや……」

「分かるで、分かるで! 気になるもんな! 魅了スキルでクラスメイトの中でも格別な美少女二人をかっさらっていったサトルがその後どうしているのか!?」

「その、違くて……」

 好き勝手話すハヤトにソウタは押される。いや、もうちょっと抵抗してくれ。


「ぶっちゃけどうなんや、サトル! ユウカとリオとは!?」

 ハヤトがこちらを向く。


「……どう、とは?」

「察し悪いな、二人とはどこまで行ったんかってことや! Aか、Bか、それともCか!? いや、魅了スキルで何の命令でも聞くんや、それくらい通り越して異世界でさらなる女を手に入れてるとかか!?」


「…………」

 おそらく俺の表情はものすごい仏頂面になっていただろう。

 男と女がいたら全てを恋愛に繋げる恋愛脳。ああ、久しぶりにあったなこういう人種とは。

 人の関係を勝手に邪推して、あまつさえ魅了スキルを悪用して人の尊厳を踏みにじっていると……唾棄したくなるような想像だ。

 今すぐこの場を去りたくなる衝動に駆られる。


「…………はあ」

 深呼吸を一つする。


 少し落ち着こう。

 火の無いところに煙は立たない。何もしていないならともかく、俺が魅了スキルを暴発させて二人と一緒に行動しているのは事実だ。その理由が俺の護衛をしてもらって渡世とせ宝玉ほうぎょくを早く集めるためなんてことも知らない。

 だからこのチャラ男が考えるのも仕方ないことだ。元々そういう人物だろうとは思っていたしな、それに今やつは酔っぱらっている。戯れ言だ、聞き流そう。




「え、えっと……ごめんなさい」

「……おまえが謝る必要はないさ。俺も落ち着いた」

 俺の怒りを察知したのかソウタが謝る。ハヤトが言ったことだというのに……損な性格しているな。




「何や、違ったのか? まあそうか、ソウタはユウカとリオに興味ないもんな」

 幸いにもハヤトはそれ以上その話を引っ張ることはなかった。


「……って、今のどういう意味だ?」

「簡単な話や。ソウタの好きな人は……チトセなんやで!」

「ど、どうしてそれを言うんですか!!?」

 暴露されたソウタが顔を真っ赤にする。完全にとばっちりだな。


 女子陣のテーブルをちらりと見る。ユウカとリオ相手に盛り上がっている様子のチトセ。

 こいつらと同じパーティーでバーサーカーヒーラー。姉御肌的なところがあり、強さに憧れている。


「うぅ……どうせ似合ってないって思いましたよね。分かっているんです。チトセさんが好きなのは強い人。なのに僕みたいな弱い人じゃふさわしくないって」


 何も言っていないのに、勝手に自己否定を始める。

 正直おかしくはないと思った。恋愛相手には自分にない物を求めるという話を聞いたことがある。美女と野獣という感じに。弱い人間が強い人間に焦がれるのもその範疇だろう。




「元の世界にいたときから好きやったみたいだけどこの性格や、言い出せなかったみたいでな。本当は一緒のパーティーになりたかったのに、勇気を出せなかったから俺が橋渡ししてやったんやで。だからこうして三人でパーティー組んでるんや」

「その節は本当に助かりました」

 なるほど、よく考えると接点の薄そうな三人組だが、そういう経緯があったのか。


「この異世界に来て、ソウタも『騎士ナイト』なんて立派なジョブをもらったからな。強くなったもんやで」

「最近では自己鍛錬もしているんです。もっと力を付けないと……!」

「まあでもチトセも『癒し手ヒーラー』で強くなっているからな。道は遠いで」

「分かっています」

 受付に並んでいるときに聞いた『強くならないと』という言葉にはこういう裏があったってことか。




「…………」

 ソウタの好きな人が暴露されて……俺は何もコメントしなかった。

 恋愛アンチとしては『そんな報われるか分からない思いに振り回されて無駄だろ』と思うのだが、それを口にするつもりはない。

 自分の考えを押しつけることほどウザいことはないと知っているからだ。

 恋愛脳の決めつけに辟易したっていうのに、やり返すのは間違っている。


「…………」

 いや、それも正確ではないな。

 究極的にはどうでもいいからなのだろう。

 こいつの恋が成就しようがしまいが、俺には関係ないと思っている。




 だから俺は話題を変えようとして……。

「おっ、そこの別嬪さん注文ええか!」

 ハヤトが店員にさらなる注文をする。


 こうして話しながらも酒やつまみを口にする手は止まっていない。カイたちの話を聞いたときに一時的に醒めた俺の酔いは既に戻っているだけでなくかなり進んでいる。

 思考が焦点を結ばない。フワフワする感覚。くそっ、ハヤトに釣られてかなりのペースで飲んだな……そろそろセーブしないと…………。


 …………。

 …………。

 …………。


「……以上注文よろしくやで!」

「分かりました、それでは……」

「ちょっと待ってくれ」

 ハヤトの注文を聞いて去っていこうとする店員。それを俺は呼び止める。


「俺からも追加いいか? これを同じものもう一杯とつまみに……」

「おっ、何や。調子出てきたやないか、サトル!」

「そうだそうだ、まだまだ夜も長いからな!」

「ノリがいいな! じゃあ俺も追加や!!」




「あ、あの二人とも……大丈夫ですか? ちょっと抑えないと……」

 唯一素面であるソウタの発言は二人に届いていなかった。


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