52話 クラスメイト
コロシアムで偶然出会ったクラスメイトたち。三人とも俺とはほとんど話したことが無かったため自己紹介をしてくれた。
「俺はハヤトや。よろしくするのは女性だけと決めてるから堪忍な」
何ともノリが軽そうな男がハヤト。異世界に来て授かった職は『盗賊』。挨拶から分かるように相当な女好きのようだ。
あーそういえば何となく思い出してきたぞ……そのノリの軽さと整った外見でクラスのトップカーストの一員であったはずだ。ただ女癖が悪く、誰と付き合った別れた何股しているなどという噂話が度々流れていた覚えがある。
「アタイはチトセだよ。しっかしサトルだったか。あんたは軟弱だねえ。もう少し鍛えたらどうだい?」
脳味噌まで筋肉で出来ていそうな発言をするチトセ。体育会系女子集団の姉御的な立場だった……気がする。さだかではない。
職を尋ねると、その場でシャドーボクシングを始める。先ほど見たトークイベントの女性より様になっている。職は拳闘家辺りなのだろうと思い、表示されたステータス画面を見ると。
「『癒し手』だと!?」
「ああ、そうさ。拳闘家あたりなら面倒無かったんだけどねえ」
「チトセは自分にエンチャントかけて素手で殴るんや。少しくらい攻撃食らっても回復魔法を使いながら殴るんやで」
ハヤトが補足する。つまりはバーサーカーヒーラーという分類か。
「ぼ、僕はソウタです。よろしくお願いします」
俺相手にも緊張している様子なのがソウタ。
職は『騎士』と表示されている。防御に優れた剣士系の職だそうだ。
こいつは本当に記憶にないな。おそらく教室ではいつも隅にいて目立たないようにしていた人物であろう。そのため俺も印象に残っていないと。
異世界に召喚された俺たちクラスメイトは現在八つのパーティーに分かれて、それぞれ渡世の宝玉を集めている。彼らはその内の一つで三人組のパーティーということだろう。
「しかし、どうしてあんたらもこの町に……なるべくバラバラの場所で渡世の宝玉を探すようにしているんじゃなかったのか?」
「ええ、ですから観光の町を出る際に私たちがこの町にくる旨は手紙を出しておいたんですが……それが伝わる前に偶然彼らもこの町に来てしまったということでしょうね。
オンカラ商会の調査による報告、この大会の優勝賞品が渡世の宝玉であることも同じ手紙で書いておいたので知らなかったようです」
リオが答える。
そういや俺たちクラスメイトの連絡手段が手紙だとは聞いたことがある。そのため伝達にタイムラグが生じたようだ。
「アタイたちもここに来る前の町でようやく渡世の宝玉を一個手に入れたところでね。それで次の町に向かおうってときに、武闘大会って文字を見たもんだからどうも血が騒ぐのが抑えられなくて。だからこの町で渡世の宝玉を探そうと決めたってわけさ。まさか大会の賞品になっているとは思ってもみなかったね」
チトセがリオの言葉を肯定する。
「って、そっちも渡世の宝玉を手に入れたのか?」
「ほらこれや。手に入れるのにほんま苦労してな」
ハヤトが出してみせたのは確かに渡世の宝玉だ。
「何を言うかい。あんたは連日連夜キャバクラ通いで遊びまくっていただろうが。ほとんどアタイとソウタの功績だよ」
「てへっ、バレたみたいやな」
「そ、そんなこと無いですよ……」
チトセの裏事情の暴露には分かるところがあった。あれだ、例えば文化祭の準備とかでもチトセは全体を指揮して進めるリーダーで、ハヤトは遊びほうけているのに大事なところだけはしたり面をして、ソウタは黙々と進めその功績を誇示することもしないタイプだろう。
俺? 言われたことだけやって真っ先に帰ってたな。
「私たちも渡世の宝玉三つ目を手に入れたんだよ!」
ユウカが持っていた渡世の宝玉三つを取り出す。俺たちが今まで獲得した渡世の宝玉は代表してユウカが持つことになっている。
「三つ? っていうと最初のリーレ村で手に入れた宝玉もユウカたちが持って行ったから……それでも俺たちと同じ期間で二つ手に入れたんか!?」
「やるじゃないか」
「す、すごいですね」
三人が口々に称えるが、最初の商業都市が上手く行きすぎただけで観光の町でかなり時間を食っていることを考えると同じくらいのスピードであろう。
と、これで状況確認が終わる。
話題は自然と今後の行動方針について移っていた。
「この町における渡世の宝玉についてだが、この際共同戦線と行くかい?」
チトセが提案する。
「どうせ武闘大会本戦の四日後までには終わるはずですし。参加者が多ければ多いほど優勝できる確率も上がるわけですからそうしましょうか」
リオが提案を呑んで2パーティー合同でこの町の渡世の宝玉を手に入れることに決まる。
「まあといっても私たちはお荷物かもしれないねえ」
しかし、チトセは決まったばかりのことに水を差す。
「どういうことだ?」
「ユウカだよ。竜闘士に勝てる人間なんてそうそういやしない。私たちが出なくても、ユウカ一人が大会に参加すれば優勝も安泰、安泰」
「そ、そんなことは無いよ」
チトセはユウカの力をとても評価しているようだ。ユウカは謙遜しているのか否定する。
「異世界召喚者って魅了スキルだけの俺以外はかなりの戦闘力を持っているよな。やっぱりその中でもユウカは規格外なのか?」
「そうですね、女神によって力を授かった結果、私たちクラスメイトはこの世界における達人レベルの力を持っています。その中でも突出しているのが僭越ながら私の『魔導士』とカイさんの『影使い』です」
カイ……っていうと、俺を襲ったイケメンの学級副委員長か。あいつも強い方なんだな。
「ですがユウカの『竜闘士』はそのさらに上を行きます。本当に規格外な存在なんです」
「……そんなに強かったのか?」
「そ、そこまではないと思うけど……」
きっぱりと否定しない辺り、ユウカもそれくらいだと思っているようだ。
「でも参加を取りやめるつもりはないね。アタイの力がどこまで通用するか試してみたい。なんなら決勝でユウカと戦うようなことになれば、アタイたちが絶対に渡世の宝玉が手にはいることが確定する。他の参加者を蹴散らしてユウカの援護射撃するつもりで挑むよ」
「ぼ、僕も参加します。もっと経験を積んで……強くなりたいので」
チトセとソウタは武闘大会に参加するようだ。
「んじゃ俺はパスで。どうせユウカが勝つんなら俺が出る幕ないしな」
ハヤトはヒラヒラと手を振る。だろうなと思うくらいには、この男の性格が分かってきた。
「すいませんが私も参加は見送ろうと思います」
続くリオの言葉には耳を疑った。
「え、出ないのか? 武闘大会って名前だけど、魔法だって使えるんだろ?」
「ええ。ですがユウカの力を信じていますし、大会の間サトルさんを一人にするのもマズいですから」
「あー……」
戦闘力0の俺の護衛というわけか。言われてみればケンカ早い人間がこの町には多いようだ。絡まれる可能性を考えるとリオが側にいてくれるのは心強い。
「うん、サトル君のことは任せるよ。私は大会に参加して……優勝してくるから!」
そしてユウカは当然参加と。
というわけで俺たちの中から三人が武闘大会に参加することに決まった。