51話 新たな町
4章『武闘大会』編開幕! よろしくお願いします。
「おおーでっけえな」
感嘆がつい口をつく。
それは目の前にある建造物に対しての評価だった。
あっちからこっちまでと首を振ってようやく全体が見えるほどの大きさ。石造りで飾りなどは余りなく、無骨な印象の建物。
この町の名所、コロシアムだった。
「ここで武闘大会は行われるんだよね?」
「ええ、ですからまずは選手登録に向かいませんと。人が多いですからはぐれないようにしてくださいね」
「子供じゃあるまいし」
俺はユウカとリオに付いていく。
武闘大会まではまだ四日あるというのに、コロシアム周辺は人が多く、屋台なども出ていてお祭り状態だ。
「一年に一回、町を挙げてのイベントだからか、盛り上がりがすごいですね」
「この町に来るまでの馬車もすごい人数だったしな」
「オンカラ商会はよくチケット取れたよね……」
そんな雑談をしながら俺はリオから聞いたこの町の情報について思い返していた。
この町は昔かなり治安が悪かったらしい。
血の気の多い住人が多く道ばたでケンカや、多人数での争いなどが絶えなかったため、代々の町長たちは苦労していたようだ。
しかし、現在の町長は一味違う人物だった。腕っ節に自信があったその町長は就任の挨拶で。
「この町では度々、誰が最強であるかとケンカや争いになる。だがその議論も近々無くなくなるだろう。何故なら最強は私だからだ。近日中にそれを証明する舞台を用意する」
全方位にケンカを売った。
こうして最強を決める舞台である第一回武闘大会が開催され、町長の挑発的な言動に乗った多くの実力者が参加したのだが、優勝したのは宣言通り町長であった。
以後アウトローな界隈も町長の言葉には従うようになり、治安も徐々に良くなった。大会は定期的に開催され、回を追うごとに規模も大きくなっていく。
そして今では大会を見るために、多くの観光客が訪れるようなイベントとなったそうだ。
「………………」
力を制するのは力と言わんばかりで何とも血の気が多い話だ。文化系な俺には馴染みの無い話である。最強とか勝手に決めといてほしい。
とはいえ武闘大会の優勝商品が渡世の宝玉とあっては避けて通れない話だ。
「この町についての話は聞いたけど、問題の武闘大会について詳しく知っておきたいんだが」
「そうそう、私も聞きたくて」
ユウカも同じようだ。
「まだ話していませんでしたね……あ、ちょうどいいです。そこのイベントの話を聞いていきましょう」
「イベント……?」
人混みの中でも周囲を目敏く観察していたリオがコロシアムの屋外特設会場の一つを指さす。
壇上では司会の男性とパーソナリティーの女性が話している。いわゆるトークイベントということだろうか。マイクの代わりにスタッフが拡声魔法を使って客に声を届けている。
「ところで武闘大会を見るのは初めてだとか?」
司会の男性が女性に話を振る。
「あ、そうなんでーす。話を聞いたことはあるんですけどー」
「会場にも同じような人いるんじゃないですか? ということで今から私が説明しましょう!」
「わー! ありがとうございまーす!」
ぶりっこな女性の反応が鼻に付くが、武闘大会のことについて知るにはちょうどいい機会だ。我慢して聞く。
「まず武闘大会についてですが、参加資格はありません。誰でも自由に参加することが可能です。やろうとおもえば私やあなたも参加出来ます」
「えーじゃあ私も出ようかなー。腕に自身があるんですよね。シュッ、シュッ」
腰の入っていないシャドーボクシングをする女性。見るからに弱そう。
「ですがそうやって誰でも参加できたら参加人数が膨れ上がりますよね? なので予選があるんです」
「予選ー?」
「ええ。武闘大会の本戦は四日後ですが、予選は二日後になります。ここで人数を十六人になるまで絞るんです」
「選ばれし十六人ってことなんだー」
「予選方法は十六のブロックに分かれてのバトルロイヤルです。一人残るまで戦います。去年は一ブロックに付き五十人はいましたね」
「っていうことは全部で参加人数がえーと…………四百人もいるんだ。すごーい!」
「はい、八百人ですね。この予選もコロシアムで行われ観戦することが出来ます。多くの参加者がが入り乱れて戦う予選の方が好きという観客もいるようですね」
冷静に数を訂正する司会者。やりにくそうにしているな。
「そして一日空けて本戦では勝ち上がった十六人による個人戦のトーナメントとなります。なお本戦予選ともにスキルや魔法の使用はOKです。唯一のルールとして、対戦相手を殺した場合は失格ですので加減は必要ですが、それを差し引いてもド派手な戦いが見られるでしょう」
「えーでも怪我とかはあるんじゃないのー?」
「その点は心配なく。大会スタッフとして回復魔法の使い手が多く詰めています。そのためこれまでの大会で大きな怪我や傷害の残った選手はいません」
魔法やスキルありの戦いか。見てる分には楽しそうだな。
「そして気になる賞金ですが、これは本戦出場者全員にあり、また勝ち上がるごとに額が増えていきます。優勝者はなんとこんなにももらえるのです!」
「えーっ!? すごーい!!」
司会が出した金額に女性がリアクションするが、会場もどよめいているのを見る感じそこまでオーバーではないようだ。それだけ優勝賞金の額は桁違いだった。
……って、あれ? 優勝商品の渡世の宝玉はどこに行ったんだ?
「さらに優勝者には副賞として町長の気まぐれも贈られます」
「町長?」
「はい。この武闘大会の創設者であり第一回大会で優勝者。寄る年波には勝てず、数年前から大会に出場はしていませんが、町長としては現役で毎年武闘大会の開催にとても尽力してもらっています」
「すごい人なんだー」
「その町長が毎年その時の気分で優勝者に賞金とは別に贈る賞品ですね。去年は百年物のワインが贈られたとか」
「あー私お酒は駄目なんですよねー。すぐ酔っちゃって」
「そして今年はこの不可思議な紋様の入った青い宝石が贈られるようです」
「わーっ! すっごいキレイ!」
「町長の話によると『今年の賞品を探しに家の倉に入ったら、どこでもらったのか忘れたがこれを見つけて、ビビッと来たんじゃ』ということだそうです」
示されたのはまんま渡世の宝玉だ。なるほどな、俺たちからすればのどから手が出るほど欲しいものだが世間的には副賞扱いでおかしくない。
司会が語ったあらましも想定の範囲内だ。この町における女神教の教会の取り壊しをした際に、これまでと同様に町の責任者の手に渡っていたということだろう。それで長年放っておかれていたが、今回偶然にも賞品として出されたと。
状況は大体分かった。
二日後の予選に勝って、四日後の本戦で優勝する。何とも分かりやすく簡潔な渡世の宝玉の入手方法だ。
観光の町であれだけ苦労したのが嘘のようである。
そしてリオの言葉を認めるようで癪だが、魅了スキルしか持たない俺は役立たずだ。もし大会出場者が俺以外全員女性であれば優勝できるかもしれないが、そんな馬鹿みたいなこと無いだろう。
だが、それは逆に俺がするべきことが無いとも言える。
予選と本戦、チートな戦闘力を持つ仲間たちが勝ち上がっていくのを観戦しているだけでいい。ドラゴンにも勝てるユウカがそこらの個人に負けることはあり得ないとすると手に入れ損ねることは無いだろう。
何と楽なのだろうか。思えば最近働きすぎだったしな、天が俺に休めと言っているのかもしれない。
あとは何も面倒なことが起きないでくれるといいのだが…………。
「おおっ、あれは渡世の宝玉やないか!?」
「優勝者の副賞……なるほどねぇ」
「ということは僕たちも参加して優勝しないと……ですよね?」
「……ん?」
どよめく会場の中、俺の耳は近くの三人組の会話を捉える。
驚いているのはチャラそうな少年。好戦的な笑みを浮かべる少女にオドオドしている少年といった三人組だ。
気になるのはチャラそうな少年の発言、その中の『渡世の宝玉』という単語だった。
司会は青い宝石と言ったのに、それを渡世の宝玉だと言い換えている。分かる人はそういないはずなのに。残り二人の様子はどうやら渡世の宝玉を狙っているようだ。
俺はそちらの方を見てみると。
「ん……あーユウカたちやないか!」
「リオも……奇遇だねえ」
「こ、こんにちは」
三人組もほぼ同時にこちらの方に気付いたようで、ユウカとリオの名前が呼ばれる。
「わー久しぶり! すっごい偶然だね!」
「ハヤトさんにチトセさんにソウタさんですか。どうやら連絡が行き違ったようですね」
ユウカとリオも三人組のことを知っているようだ。
「そいつらは誰だ?」
「えっと……本気で言ってるの、サトル君?」
俺の質問はユウカにガチのトーンで心配される。
「まあ、サトルさんは教室ではぼっちでしたから覚えていなくても仕方ない…………のですかね? 三人はクラスメイトですよ」
リオが必要なことを言ってくれた。
「クラスメイト……あーそういえば居たような……」
つまり俺たちと同じように異世界に召喚されて、渡世の宝玉を集めるという使命を共にする仲間なのだろう。
知らないと言った俺が心配されるのも分かるところだった。