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47話 魅了スキルが失敗した理由


 魅了スキルが失敗した。


 俺の言葉に驚くユウカとリオだったが……一番驚いているのは俺自身だった。


 魅了スキルの力は絶対の物だと思っていたが……本当はそうでは無かったのか?




「どういうことなの……?」

「正直俺も訳が分からなくて……いや、スキル使った本人が何言ってんだって話だけど……」

 ユウカと俺、どちらも困惑している。




「こういうときは初心に戻ってみませんか? 何が原因だったか一から検討しましょう」

「俺もそうしようと思っていたところだ。付き合ってもらえるとありがたい」

「私も参加するよ!」

 ということで三人で魅了スキルが失敗した原因を話し合うことにする。



「とりあえず魅了スキルの詳細を呼び出してもらえませんか? 何か見落としている事項があるかもしれません」

「ああ、そうだな」

 リオに言われて俺は久しぶりにステータス画面を開き、魅了スキルの詳細を表示した。




 スキル『魅了』


 効果範囲:術者から周囲5m

 効果対象:術者が魅力的だと思う異性のみ


・発動すると範囲内の対象をとりこにする。

とりこになった対象は術者に対して好意を持つ。

とりこになった対象は術者のどんな命令にも身体が従う。

・元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない。

・一度かけたスキルの解除は不可能。




 見ながら一つ一つ確認していく。


「まず魅了スキルの発動自体はしたはずだ。謎の感覚でそれは自覚している」

「ピンクの発光は私たちも見ました」


「効果範囲の5m以内にバーテンダーはいたよな」

「うん。サトル君の周囲5mでカウンターバー全体捉えていたはずだし」


「効果対象の魅力的な異性にも当てはまる容姿だ」

「あのような女性もタイプだったんですね」

「ええい、茶化すな。発動すると範囲内の対象をとりこにするわけだが……どうもとりこになった様子はなかった」


「サトル君に対する好意的な素振りを見せなかったの?」

「かける前と後で同じ対応だったな」


「命令はしたんですか?」

「冗談めかした感じの命令をしてみたんだが、従う様子はなかった」


「じゃあ次の記述は……っ!?」

 何故かユウカが息を呑む。次の行に何か気になることが書いてあったか?




「えっと『元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない』……こんな記述あったのか。今まで見落としてたな。これに当てはまっていたなら理解できるんだが、でもただの客である俺に特別な好意を持つはずないし違うだろ。

 つうか俺が魅了スキル無しに好かれるなんてことないし、今後も無意味な記述だな」




「……いえ、そんなこと無いですよ。現に身近なところに特別な好意をもがっ!?」

「本当リオは面白いこと言うね!!!」

 リオが何か言い掛けて、ユウカに口を塞がれる。ちょうど酒場の客が叫び声上げて聞き取れなかったんだが、何て言ったんだ?

 聞き直せる雰囲気ではないので諦めるが、リオが本気で苦しげにタップしているのは見過ごせない事態だ。


「おい、ユウカ。じゃれつくのはそのへんにしておけ」

「……ぷはっ、はぁっ、はぁっ。竜闘士の本気で締め上げないでください! ちょっとした冗談じゃないですか! 危うく窒息するところでしたよ!」

「冗談になってないってば!!」


 それからしばらくリオとユウカが言い争う。

 本当リオは何を言おうとしたのだろうか?




「二人とも落ち着いたか?」

「はい……」

「ごめんね、サトル君……」

 他の客も注目するほどの騒ぎになったところで、二人はようやく落ち着きを取り戻した。


「詳しいことは聞かない。解決したってことで、話を再開するぞ」

「ありがとう……でも、魅了スキルの詳細に書いてあるのはあと『一度かけたスキルの解除は不可能』だけで、これも関係ないよね」

「そうだな。スキルの内容について見落としていることは無さそうだが……まだ考えられる可能性としては、ユウカへの魅了スキルが中途半端になっている原因『状態異常耐性』のスキルとかもあるな」

 すっかり忘れそうになるが、ユウカは完全に魅了スキルにかかっているわけではない。俺への好意的な様子からして効果は出ているのだが、付いてくるなという命令を破った実績がある。




「中途半端……? あ、そんな設定ありましたね。もちろん嘘でもがっ!?」

「リオ? 何か言った?」

 またリオがユウカに取り押さえられている。

 しかし、この酒場本当騒がしいな。また聞き取れなかった。


「えっと……立て込んでるなら話し合い中断しても良いぞ?」

「ご、ごめん、サトル君。もう大丈夫だから。ね、リオ」

「ええ……流石に懲りましたよ」

 ぐったりした様子のリオ。命の危機になってでも言いたかったことなのだろうか。


「それで『状態異常耐性』だが、竜闘士のユウカでも魅了スキルを完全に防ぐことは出来なかったんだ。あのバーテンダーがそれ以上の使い手だとは思えないし、この可能性も無いだろう」

「ええ、そうですね」

「うん、そうに決まってるよ!」

 二人ともやけに素直に賛成する。




「失敗した原因分からないね。もう全部の可能性当たったよね?」

「私もお手上げです」

 話が振り出しに戻り、首をひねるユウカとリオ。


「………………」

 俺は考えながらふらっと歩いて二人の側を離れる。

 何も分からないのは俺も一緒で…………いや。


 実はあと一つだけ考えられる可能性が俺の中にあった。


 だったらそれを話せばいいだけなのだが……その内容が正直馬鹿げているものなのだ。

 消去法から導き出した可能性だけを論ずるならあり得るというもので、二人に話しても信じられないと一蹴されるだろう。




「上の空で歩いてますけど、どうしたんですか?」

「え……?」

 リオがユウカから離れて、俺の元までやってくる。


「サトルさん自身が一番気になってそうな魅了スキル失敗の原因を考えているのにその様子ということは……もしかしてまだ何か考えがあるといったところでしょうか?」

「それは……」

 ドンピシャで思考を当てられる。


「もう、何ですか。もったいぶって私たちを焦らそうと……しているわけではなさそうですね」

「……ちょっとな」

「つまりは何らかの言いたくない事情があると」

「……」

「はぁ……。本当そっくりですね。似たもの夫婦なんですか?」

「え? どういう意味だ?」

「先日のデートのフリについて。何があったのかユウカから全部聞きました」

 リオは質問には答えず、とんでもないことを暴露した。




「なっ! ユウカのやつ、話したのかよ!」

「ふふっ、最初から約束していたので。どうやらとても楽しそうに過ごしたみたいですね」

「くっ……」

 ニヤニヤとした笑みを隠さないリオ。一番知られたくない人に知られたようだ。


「締めくくりに行った夕日の見える浜辺の丘では、ふと漏らした言葉を聞かれてしまって……それを受けてユウカがサトルさんも人を信じられるようになれるって言ったんですよね」

「そこまで詳細に語ったのか」

「それでサトルさんのことですから……どうして俺が変われるって思うのか、何か裏があるんじゃないか、本当は騙しているんじゃないかと……そんなこと思ったんじゃないですか?」

「……ああ、その通りだ」

 ここまで当てられると開き直って肯定するしかなくなる。




「まあ気持ちは分かります。ユウカを見ていると、どうしてそこまで人を信じられるのかと、疑いたくなりますし。一足跳びに信じられるようになれると言われても、今まで疑って生きてきたサトルさんが受け入れられないのは当然です」

「……なあ、どうしてユウカは俺に対してあんなことを言ったんだ? リオなら分かるんじゃないか?」

「ええ、何となくですが分かります。しかし、教えてあげません」

「なっ……」

「ユウカ本人に聞けばいいじゃないですか。『正直おまえの言葉を疑っていて……理由を教えて欲しいんだけど』って。大丈夫です、それくらいで怒るような人ではありませんよ。親友の私が保証します」

「……」

「言葉をため込まないでください。間違っていることは間違っていると、信じられないことは信じられないと、思っていることはちゃんと言いましょう………………って、これ今日二回目ですね」

 そこでリオは言いたいことは終わったとばかりに、ユウカの元に戻っていく。




「…………」

 分からないことがあれば聞けばいい。とても単純な理屈だ。

 なのにそれを出来なかったのは何故なのか?


 いつもの俺なら遠慮無く聞いたはずだ。商業都市の時なんか、今思い返しても商会長相手によくあそこまで遠慮無く交渉できたものだと感心する。


 そうやって気を使わないのは、相手のことをどうでもいいと思っているからだ。

 全てを疑うとは、信じられるのは自分自身だけであり、他の人間は全てどうでもいいと思っているからだ。




 そんな俺がユウカには遠慮した。疑っていると明かして、相手が気を悪くすることを避けた。




 その理由は……。


「……何、気の迷いだ。あのときはちょうどデートのフリをしていたしな」


 俺は思考を打ち切る。




 そうだ、今重要なのは魅了スキルが失敗した原因だ。

 遠慮する必要はない、別に二人に信じられなくても構わないだろ。

 俺が俺自身を信じられればいい。


「あ、サトル君戻ってきた」

「調子はどうですか?」

 俺は二人の元に戻ると前置き無しにその可能性について語る。






「なあ、バーテンダーは効果対象の『魅力的な異性』じゃなかった。だから魅了スキルは失敗した……って考えられないか?」






「いきなりだね。でも、魅力的な異性じゃないって……?」

「えっと……どういうことですか?」

 俺が出した可能性に二人が疑問を返す。


「そのままの意味だ」

「そのままって……もしかしてサトル君ああいう人タイプじゃないの?」

「どんな特殊性癖なんですか……ロリコン、熟女好き、B専……」

「え、それって…………」

 二人にすごい疑いの眼差しを向けられる。何とも不名誉なことだ。




「いやいや、おかしいだろ! そもそも二人に魅了スキルをかけることが出来たんだぞ。それだと自分が特殊な容姿だと言っているようなものじゃねえか」

「あ、そうだった……」

「だったらどういう意味ですか? 『魅力的な異性』ではないとは……」

 もったいぶった言い方をした俺が良くなかったようだ。俺の考えの根本を示す。




「『魅力的な異性』って言葉は二つの要素で出来ているだろ。『魅力的』と『異性』だ」




「それは分かっているけど……」

「……っ! まさか……!」


 ユウカと違ってリオはピンと来たようだ。

 そのまま俺は……正直馬鹿げた可能性を話す。




「あのバーテンダーは俺にとって『魅力的』であっても『異性』ではないんじゃないか?」




 つまりは……女装した男性という可能性だ。





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