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44話 結婚詐欺


「結婚詐欺!?」

「しっ! 誰が聞いているか分からないんですから、あまり大きな声を出さないでください」


 ユウカこと私はプロポーズした男、キースという人の情報を収集していた。

 この酒場でも空振りだったが、さらに頑張ろうとしたところ、サトル君がずっと黙っていた渡世とせ宝玉ほうぎょくをゲットするための方法をリオから私に話すように頼んだ。

 そして話された内容が……シャトーさんが結婚詐欺にかかっているのではないか、というものだった。


「ご、ごめん……でもどういうこと?」

「都合が良すぎるんですよ。シャトーさんがピンチに陥ったところを助けに入り、その後も行くところに現れて、どんなワガママも許すなんて男性」

「でも少女マンガとかだと良くある話じゃん」

「だからですよ。創作にしか存在しないような男性が、現実にいるはずないでしょう?」

「それは偏見だと思うけど……」

 まあリオが疑う気持ちは分かった。


「だったらそのキースさんは何が目的なのか……シャトーさんは大富豪の娘です。そのお金を狙っているのではないかと私とサトルさんも読んだわけです」

「……でも、証拠はないんだよね?」

「はい。だからユウカに話すのは躊躇っていたのです。キースなる男性の素性がクロかったり、最悪シャトーさんが結婚する前にお金を要求された時点で分かることなので、そのときに話そうとは思っていたのですが」

「なるほど……でも、それでどうして渡世とせ宝玉ほうぎょくが手に入るの?」

「もし結婚詐欺が真実だとしたら、それを暴くことで婚約は破談になるでしょう? そしたら婚約指輪は大事なものじゃなくなります。シャトーさんの性格的にこんなものいらないって投げ捨てるでしょうから、それをキャッチすれば手に入ると……気持ちは分かるので抑えてください」

 話を聞くにつれ不満が溜まる私を、リオがどうにか諫めようとする。


「それって二人の仲を引き裂いて渡世とせ宝玉ほうぎょくを手に入れようってことでしょ? そういうの感心しないな」

「ですがもし結婚詐欺が本当だとしたら、二人の仲はそもそも偽りであったということでしょう? 騙されているシャトーさんを助けるということになりませんか?」

「……リオの言いたいことは分かったよ。でも私は二人の仲が本物だと信じているから」

 あの夕日を背景にしたプロポーズが嘘だったなんて……思いたくない。


「その気持ちは否定しません。ただ証拠が出てきたときは折れてもらえると助かります」

「……分かった」

 リオは最大限私の思いを尊重してくれた。




「サトル君が私にこの考えを話したがらなかった理由が分かったよ。商業都市の時と同じなんだね、信じ合っている二人を疑いの目を向けるって」

 オンカラ会長とヘレスさん、信じ合っている二人に疑いの眼差しを向けたのはサトル君だけだった。

 私はそれを人を信じるつもりが無いと非難したから言い出しにくかったのだろう。

 でも……あれ、そういえば。


「気づきましたか……」

「うん。商業都市の時はサトル君だけが疑っていた。でも今回はリオも結婚詐欺の可能性について疑っているんだよね? どうして?」

 リオだって信じ合っている二人を疑いたくないと、私と同じ立場だったはずなのに。


「二つ理由があります。一つは今回私はプロポーズの現場をその目で見ておらず、二人が信頼し合っている場面を見ていないため実感に乏しいこと」

「百聞は一見に如かずって言うもんね。もう一つは?」

「教育によるものです。金に引き寄せられた人物か否かの見極めは、最重要課題でしたから」

「……そっか」

 リオとシャトーさんはどちらも大富豪の娘で境遇が似ているのだろう。


「あの人は私のIfです。親から教育ではなく愛情を注がれて育ち、ユウカという私自身を見てくれる人間と出会わなかった私です」

「えっと……どういう反応をすればいいの?」

「照れてください。のろけてるのに困惑されるとこっちが恥ずかしくなります」

「ごめん……私のこと大事に思ってくれてありがとうね」

「さ、さらに恥ずかしくなったじゃないですかぁ!」

 リオが顔を真っ赤にしている。珍しい一幕だ。

 珍しく攻勢に入れそうだったので、このままいじり倒そうと私は考えるが。




「そういうユウカは昨日のデートのフリどうだったんですか!」

「あぅ……」

 カウンターが思いっきり急所に入る。


「少しは進展があったんですよね?」

「そ、それは……」

「終わったら話す約束でしたよね? あーあ私は一人寂しく別荘地で無駄骨な聞き込みをしたっていうのに……」

「わ、分かったから! 話すから!」

 泣きマネまで始めたリオに私は昨日のデートのフリについて詳細に話す。




「――――――ということで渡世とせ宝玉ほうぎょくが見つかって甘い雰囲気は終了したんだけどね。でもサトル君と手を繋いで楽しんだり、十分に進展したでしょ!」

 最初こそ話すことを恥ずかしがっていたが、途中から調子が乗ってきて意気揚々と話した私を。


「最低限、といったところでしょうか」

「ぐっ……」

 リオはバッサリと切り落とした。


「手を繋いだくらいで、誇らしげにならないでください。小学生レベルですか」

「えっ、今どきの小学生ってそんなに進んでるの!?」

「さあ、知りませんけど。ですが一緒に旅をして酒を飲むほどなんですから、せめてハグだったりキスくらい行くものだと思ってました」

「ハグ……っ!? キス……っ!? そ、そんなの早すぎるって!!」

「日本では今や高校生女子の40%がキスを経験しているって調査結果を聞いたことがあります。ましてや15で成人と扱われる異世界ですし、むしろ遅すぎるくらいです」

 もっと先にあると思ったものを身近に言われて私は混乱する。


「で、でも……相手はサトル君だし……」

「……まあ、そうですね。男からのリードが望めないと考えると頑張った方ですか」

「で、でしょ!」

「それに興味深い話も聞けたようですしね」

「うん。サトル君も本当は人を信じられるようになりたいんだよ」

 ポロっとこぼれた言葉、だからこそ本音だと思われるその言葉。


「考えてみればサトルさんもこの異世界で人を信じないことで痛い目にあっていますしね。トラウマを克服したいと考えてしかるべきでした」

「これって一つの進歩だよね! サトル君が人間不信を克服すれば、それを元にする恋愛アンチも解消される。サトル君自身が直したいと思っているならすぐだよね!」

 そうなれば……フリとはいえ、昨日のデートあんなに楽しめたのだ。私とサトル君、相性は悪くないはず。付き合うことも可能になるはずだと――。


「早考は控えておいてください」

 しかし、明るい展望にリオが水を差す。


「え……どうして?」

「本人が直したいと思っている、なのに直っていない。そのことがサトルさんのトラウマの根の深さを表しているからです」

「それは……」

「まあ全く直す気がないよりはマシであることは確かなのですが……今回の出来事が影響しないといいですね……」

「今回の出来事?」

 首をひねる私に、リオが例え話を繰り出す。


「例えばユウカが新たな豊胸マッサージの話を聞いて頑張ろうとしますが、先にそれを体験した人がいて『このマッサージ全然効果が無かった!』なんて訴えてたらやる気が無くなるでしょう?」

「例えが酷くない?」

 私にいじられたことをまだ根に持っているのだろうか。




「人を信じようとするサトルさんが、プロポーズするシャトーさんとキースさんから『自分もこのように信じ合いたいな』と思っていたとして、その絆が偽りだったと判明したら……やっぱり人を信じるなんて馬鹿がすることだと……そう思ってしまうことが心配なんです」

「それは……」

 リオが暗い可能性を指摘したそのとき。






「すまんな、二人とも」

 一人この場を離れていたサトル君が帰ってきた。


「あ、サトル君」

「ユウカはリオから話を聞いたか?」

「えっと……二人の婚約が結婚詐欺かもしれないって話?」

「ああ、それだ。そして……どうやらそれは真実のようだ」

「…………」


 サトル君の思い詰めた顔を見て、どうやら恐れが現実になったことを感じ取った。



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