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43話 信頼


 その夜、俺たちは酒場にやってきていた。

 昼間は海で遊んでいた観光客が、夜はこの場所に移り飲めや騒げやとしている場所である。


 現在の俺たちの目的はシャトーさんにプロポーズした男性、キースなる者の情報だった。人が集まるこの場所で聞き込みを行う。


 しかし。


「依然として掴めないね……」


 ユウカが落ち込む。


「まあ期待はしてなかったけどな」

「予想通りですね」

 だが、俺とリオにとっては想定の範囲内であった。


 そうだ、おそらくキースという男の素性は……。




「でも、ゲットできればお手柄なんだよね?」

「そうだが……望みは薄いぞ」

「0じゃないだけマシだよ! よし、私もう一回聞き込みに行ってくるね!」

 めげずに頑張ろうとするユウカ。


「…………」

 昼間別荘でシャトーさんと執事さんに話を聞いて、浮かび上がった可能性、渡世とせ宝玉ほうぎょくをゲットできるかもしれないその可能性について、ユウカには未だ詳しく話していなかった。

 話せない理由をまだ憶測でしかないからと言い訳したが……本当は懲りずにこんなことを思いつく自分が嫌になったからだ。


 しかし、ユウカはそんな俺のあやふやな言葉を信じて情報収集を頑張っている。

 逆の立場だったら、思わせぶりにしていないでさっさと話せと詰め寄っているだろう。

 なのに何も聞かないのは……ユウカが俺のことを信じているからだ。




「ちょっと待て、ユウカ」

「ん、何?」

「リオ、任せて悪いが全部話しておいてくれないか?」

 リオも俺と同じことを思いついているようだ。話し手は務まるだろう。


「私に丸投げですか? 酷いですね」

「すまん……ちょっとそれとは別のことを考えたくてな、一人にさせてくれ。この酒場からは出ないつもりだから」

「はあ……分かりました。大体いざとなれば魅了スキルの命令でサトルさんの言うことには逆らえませんし」

「恩に着る。それともう一つ悪いが、聴覚を強化する魔法ってのがあったらかけてもらえないか?」

「ありますけど…………サトルさん自身でオンオフハイロウの調整は出来ないので、あまり大きな音を聞かないように注意してくださいね。というわけで……発動、『犬の耳ドッグイヤー』」

「助かる」


 リオは詳しいことを聞かずに魔法を使ってくれる。手元から発された光を浴びた後、俺は二人の側を離れた。




 この酒場の広いフロアには席が無く、客たちが自由に立ち飲みしている。中央は一段盛り上がったステージのようになっていて、そこで客や酒場専属のダンサーが踊ったりして注目を集めている。

 落ち着きたい人は壁際のカウンターバーで飲むことが出来る。美人のバーテンダーがカクテルを客に振る舞う姿が見えた。

 と、そのように客が自由に行き交う店のため、俺が部屋の隅に膝を抱えて座り込んでいても目立つことは無かった。




「………………」

 考えるのは昨日、デートのフリ終わり際にあった俺の失言から始まった一幕だ。




『誰かを信じられるようにならないとな』


『大丈夫、サトル君ならすぐに変われるって』




 変わりたいと思った自分を自分で否定した俺に、ユウカは変われると俺を肯定した。

 ユウカが俺のことを信じているからの言葉だろう。


 ユウカの気持ちに何を返していいのか分からなくなって、直後渡世とせ宝玉ほうぎょくが見つかったことによりうやむやになっていたが、ずっと考えていた。


 ユウカは俺のことを信じている。

 だったら、俺はユウカのことをどう思ってるのか?




 パーティーを組んだ経緯を思い出す。

 カイの襲撃により命の危機に陥った俺は、戦闘力0である弱点を補うためにユウカと組んだ。

 暴発により魅了スキルをかけてしまったことや、竜闘士というクラスメイトの中でも最強の力というものに引かれた部分が大きかったが……それ以外にも要因はあった。


 あのときユウカには魅了スキルによる『俺のことを追うな』という命令がかかっていた。それにより俺を助けに来ることが出来なかったはずなのに助けに来た。

 つまり魅了スキルの外でユウカが俺を守ろうと思ったのだ。

 それがクラス委員長による義務感なのか、もしかしたら他の理由によるものなのかは分からない。

 それでもこの一例により、ユウカは俺に少なくとも危害を加えることはないと『信用』している。


 だが、俺はユウカを『信頼』することが出来ないでいる。


 ここまで一緒に旅をして、商業都市ではあそこまで人を信じる姿を見て、こんな俺でも変われると言ってくれた彼女を……信頼出来ないどころか、疑っているのだ。




 どうして俺なんかが変われると言うのか? 何か裏があるのではないのか? 本当は馬鹿にしているのではないか?

 そんな思いが昨日からずっと止まらない。


 馬鹿らしいことは分かっている。今までのユウカの様子を見るにそんなことはないと思う自分もいる。

 だが、ユウカの輝かしいばかりの信じる心に照らされるようにして、俺の影のように暗い猜疑心が浮かび上がるのだ。




「ははっ……やっぱり俺は変われねえよ……」

 信じてくれた人間にさえこんな仕打ちをするやつなんだ。

 これでは昨日のプロポーズにより婚約した二人のような、信じ合う関係は作れないだろう。


 だがそんな関係、簡単に作れるものではないと思うのだ。


 昨日、俺の恋愛観における理想だとした結婚。

 だが、日本での離婚率は30%ほどあった。夫婦が三組いれば一組は離婚する。

 やむを得ない事情によるものもあるだろう。しかし、大部分が信じ合うと決めたはずの二人のどちらかが裏切ったことによるはずだ。


 つまり裏切りなんてありふれているわけだ。

 だったら信じるより最初から疑っていた方が効率がいいではないか。


 そんな俺の考えを証明するように――――話し声が聞こえ始める。




 酒場の隅に座り込んでいる俺だが、それには一つ狙いがあった。

 というのもこの酒場の建物の構造を最初から怪しいと睨んでいたのだ。

 外から見た大きさと、内部の広さが一致していない。


 つまり隠し部屋なるものが存在すると踏んでいた。

 用途は広さからしておそらくVIPルームだろう。

 一般客が入るこのホールとは出入り口を別にするその部屋は……どのような存在が利用するのだろうか?


 建物の老朽化により壁に入ったひび割れ。

 そこから壁の向こうの話し声を、リオの魔法によって強化された聴覚が捉える。

 駄目で元々だったのだが……どうやら大当たりを引いたようだった。






「それにしてもキース兄貴があのワガママ娘、シャトーお嬢さんと結婚っすか」

「ああ、俺がピンチを救うナイトを演出するために絡むチンピラ役ご苦労だったな」

「もう慣れた役割っす。しかしプロポーズにあんな高い指輪を送って、無駄な出費じゃないっすか?」

「おまえは女心が分かってないな。相手は大富豪の娘だ。あれほどのものを送らないとこっちが本気だと思ってくれないだろうよ。それにどうせ使った分は回収するしな」

「じゃあ計画も次で最終段階っすか」

「ああ。『すまない……夢が叶うチャンスが回ってきたんだ。そのためには金が必要で……いや、君に迷惑をかけるつもりはない。ただしばらく身を粉にして働く必要があるから、結婚は少し待ってくれ』とか言えば、あっちから金を出すだろうよ! それで存分にふんだくってからトンズラだ!」

「毎回毎回、ワルっすね」

「荷担するおまえらも一緒だろうよ。つうわけで今日は計画成功の前祝いだ。おまえらじゃんじゃん頼んでいいぜ!」


「「「おおおーーっ!!」」」


 壁の向こうから歓喜の声が数人分響く。






「………………」

 この世はこんなもんだ。

 だから人なんて信じられないんだ。



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