表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/170

42話 御用聞き


 翌朝。

 ユウカこと私たち四人は大富豪の別荘敷地内の庭を歩いていた。


「オンカラ商会の伝手を使うか……なるほど、考えたな」

「すごいのは大富豪のお得意さんになっていた商会の方ですよ」

 リオが四人目に話を振る。


「会長の命令なので許可しますが、悪い印象を与えないように気を付けてください」

 ともに歩くオンカラ商会の商会員の人に注意を受けた。




 商業都市で私たちがスパイ活動を解決したオンカラ商会。商会長はその際恩義を感じていたようで、渡世とせ宝玉ほうぎょく集めに全面的な協力する事を約束してくれた。

 そこでリオはこの観光の町にあるオンカラ商会の支店を朝から訪問。婚約指輪に設えられた渡世とせ宝玉ほうぎょくの持ち主、シャトーさんにパイプが無いか聞いたところ、ちょうど御用聞きに伺う予定があったということで、それに付いていってるわけだった。


「ていうか今さらだが御用聞き、って何だ?」

「簡単に言えば店の方から出向いて、お金持ちなどのお得意様に注文を聞くってことですよ」

「客が店に行くんじゃなくて、店の方から客に行くのか」

「そこまでするほど大金を使ってくれる上客だからですよ。日本でも百貨店などが現在もやっているところがあります。私の家にも来ていましたね」

「とんと縁が無い話だな……って、そういえばリオの家は金持ちだったか」

「ええ、もうお金だけは腐るほどある家ですよ。それに釣られたのか色々腐っている家です」

「えっと……」

「愚痴っぽくなりましたね。大丈夫ですよ、今はお金よりも大事なもの……愛に気づきましたから♪」

「……っ! って、抱きつくな、リオ! ああもう、この感じ久しぶりだな!!?」


 リオがふざけた感じでサトル君に抱きつく。思わず発してしまった暗い言葉を誤魔化すためであることは端から見ていた私にも分かった。


「二人とも離れないと。そろそろお屋敷に付くよ」

「ほら、ユウカも言ってるじゃねえか!」

「もう……仕方ないですね」


 私の注意に二人が離れると。




「お待ちしておりました、オンカラ商会の方ですね。ご足労ありがとうございます」


 ちょうど屋敷から出てきた執事に私たちは迎え入れられた。






 私たち四人は執事に連れられて、執務室へと案内される。

 サトル君、私、リオは元々御用聞きに行くつもりだった商会員に付き従う見習いという設定だ。本来の仕事をその商会員の人がこなしていく。

 すると目的の人がやってきた。


「爺、頼みたいことが……って、この人たちは」

「お嬢様、オンカラ商会の人です」

「あら、もう来てたのね! 色々欲しいものがあったところですの!」


 婚約指輪の持ち主、この別荘の主の一人娘、シャトーさんだ。

 毎回御用聞きに窺う度に、色々と注文してもらうと聞いていたので、この展開は想定済みだった。




「指輪に合う新しいドレスやアクセサリーでしょ。それに調度品一式。あとあの人も好きな花束ね。他には……」

 シャトーさんからマシンガンのように告げられる要望を商会員の人はメモしていく。


「……と、まあそんなところね! 細かい調整は任せたわよ!」

「了解しました、お嬢様」

 執事の人が頷くと、商会員の人と話し合いに入る。要望にあった品物を提示して、執事がそれでいいのか確認するという作業のようだ。




「シャトーお嬢様」

 そのタイミングでリオが話しかける。


「……ん、そういえばあなたたち誰?」

 どうやら私たちは認識されていなかったようだ。


「オンカラ商会に務める見習いです。毎度贔屓にしてもらいありがとうございます」

「へえ……」

 あまり興味なさげな様子だ。


「ところでお嬢様。今日はご機嫌良いみたいですか、何かあったのでしょうか?」

 リオが餌を撒く。もちろん昨日のプロポーズによると知っていて、そんな聞き方をしているのだ。


「あ、やっぱり分かる? ワタクシ、昨日プロポーズされたのよ!」

 ウキウキで左手にはめられた指輪を見せるシャトーさん。渡世とせ宝玉ほうぎょくもそれに付いている。


「まあっ! それはそれは。おめでとうございます」

「ふふん、いいってことよ」


 リオのリアクションに気を良くするシャトーさん。それを見て会話を誘導していく。


「相手はシャトーお嬢様のお眼鏡に叶ったと考えると、素敵な方なんですか?」

「そうよ。最初会ったときも下賤な輩に絡まれていたところを颯爽と助けてくださってね。その後も行く先々でバッタリと会ったりしたわね。最初はどうでも良かったんですけど、困っているところを助けてもらったり、ワタクシのお願いを二つ返事で答えてくれたり……次第に良い関係になって、それで昨日はあんなロマンチックなプロポーズをしてくれた。キースはワタクシの王子様なのよ!」


 どうやらプロポーズをした男性の名前はキースというらしい。

 王子様……確かに昨日のプロポーズの雰囲気は最高だったなあ。私もサトル君に夕日をバックにプロポーズをされてみたい。




「お嬢様、確認終わりました。それで本来は何か用があってこの執務室に来たのでは?」

 そのとき作業が終わったようで、執事の人がやってきた。


「あ、そうそう。お願いしようと思ってきたのよ。ワタクシの隣部屋に客室があるでしょ。あそこをキースの部屋にするから今日頼んだもので飾り付けといて」

「分かりました」

「じゃあそういうことだから」


 シャトーさんは執事にさらっと重いお願いすると、その場を去っていく。

 残った執事さんが私たちに声をかける。


「すいません、お三方。お嬢様に何かワガママを言われませんでしたか」

「いえ、楽しくおしゃべりしていただけですよ」

「そうですか……ならば良かったです」


 リオの返事に、ハンカチを取り出して汗を額の汗を拭く執事さん。


「言いにくいことでしょうが……お嬢様は常日頃からワガママを言うお方なんですか?」

「……ええ。やれ気に入らないと使用人に文句を言うのは毎日。肉を提供する店を選び入ったのに、注文の品が出てきたところで『やっぱり今日は魚の気分』なんて言い出すこともありました。部屋の飾り付けくらいは朝飯前の要望ですな」

「そうですか……ではそんなお嬢様にプロポーズするお方が現れて一安心というところですか?」




「それはその通りでございます。旦那様が娘のためにと選んだ方と見合いを何回かしたのですが、お相手に文句ばかりで今まで成立しませんでしたので。

 聞けばキースさんはお嬢様のワガママにも嫌な顔一つせず聞いてくださる、聖人のような方だと聞いております。

 旦那様に顔見せもまだですし、私もまだ会ったことは無いですが、シャトーお嬢様が気に入った方となれば大丈夫でしょう。

 近いうちに盛大な結婚式が行うときはまたオンカラ商会にお世話になるかもしれません。……いやはや幼い頃から世話をさせてもらった身としては感慨深いですな」




 ではここらへんで、と去っていく執事を見送る私たち。

 本来の目的、御用聞きも終わったということで、情報収集もここまでだろう。


 私はシャトーさん、執事さん、二人が話したことをまとめる。


 婚約指輪の渡世とせ宝玉ほうぎょくの持ち主であるシャトーさんは、大富豪のワガママばかりな一人娘。

 そんな彼女に現れた運命の相手、キースさん。

 シャトーさんの困ったところに颯爽と現れ、またワガママにも嫌な顔せず答える、まるで少女マンガに出てくるヒーローのような人。

 その方からプロポーズを受けて、シャトーさんも幸せの絶頂と。


 つまりこの婚約は皆から祝福されていて……その証である婚約指輪の大切さがよく分かった。

 どうにか譲ってもらう方法を考えるために情報収集に来たのに、逆の結果となってしまった。

 これではどうにもならない。


 二人も同じ考えだろうと見てみると――。




「……サトルさんはどう思いました、話を聞いていて」

「そうだな、次は事業って感じじゃないか?」

「ふふっ、それでは50点です。『夢』の方がこの場合は合っていますよ」

「なるほど……そっちの方がロマンチックだな」




 何やら謎な会話が交わされていた。


「えっと……どういうこと、二人とも?」


 私の質問にはサトル君が答えた。




「分かりやすく言うと、渡世とせ宝玉ほうぎょくをゲットするための道筋が立ってしまったってことだ。本当残念なことにな」




「……え!?」

 昨日とは真逆のことを言われる。つまり今日の情報によって反転したのだろう。

 でも何が原因でそうなったのか私には分からなかったし……それに渡世とせ宝玉ほうぎょくをゲットできるなら良いことのはずなのに、残念と言うサトル君の表情は暗かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ