37話 相談
「ちょっと、リオ!! 私とサトル君が……デ、デートってどういうこと!?」
サトル君には一足先に部屋に戻ってもらい、私は宿屋の廊下、人の迷惑にならない場所に親友を呼びだして問いつめる。
「どういうことと言われましても、説明した通り渡世の宝玉を探すのに必要なことで……」
「そういう建前はいいの! あからさまな提案をして、何か意図があるんでしょ!!」
「それでしたらもちろん二人をくっつけるためですよ」
「うっ……」
きっぱりと本音をぶつけられるとこっちがひるんでしまう。
「今まで失念していましたが、客観的に見ると私ってお邪魔虫ですもんね。私さえいなければユウカはサトルさんと二人きり……良い響きです」
「何言ってるの。リオはお邪魔虫じゃないよ。私の大切な仲間だって」
「ユウカ……」
「だから明日もやっぱり三人で――」
「と、それはさておき明日は二人で出かけてもらいますからね」
「ちょっとくらい流されてくれてもいいじゃん!」
誤魔化しは効かないようだ。
「大体どうして渋っているんですか。別にサトルさんとデートするのが嫌ってことでは無いんでしょう?」
「それは……そうだけど」
むしろ何回と妄想したくらいだ。
「だったら何が心配なんですか?」
「その……いざ本当にデートするってなると……緊張して」
「…………」
「や、やっぱり段階飛ばしすぎだって! こう、もうちょっと手頃なところから始めて……!」
「駄目です」
「そんなっ!?」
にべも無く断られる。
「商業都市で三日、観光の町で七日なので、三人で一緒に旅を始めてもう十日ほど経ちましたか。私分かったんですよ。ユウカが死ぬほど奥手だってことに」
「うっ……」
「元の世界で好意をひた隠しにしていた時点で気づくべきだったんですけどね。日中は共に行動して、夜は一緒の部屋で寝泊まりしているというのに、全く関係が進展しないとは思ってもみませんでした」
「それは……この一週間は渡世の宝玉の捜索に忙しかったからで」
「そうやって出来ない言い訳ばかりを積み重ねてたら、元の世界に戻るときまでこのままですよ。そして魅了スキルにかかっているフリという関係性を失って他人同士に戻ってもいいんですか?」
リオの指摘は手厳しい。
「それは……嫌だよ」
「ですから強引に距離を縮める場を用意したというわけです。……もし本当に余計なお世話でしたら撤回しますが」
「……ううん。ありがとう、リオ」
「礼はいいです。結果で返してくれることを期待してますね」
親友がここまで私のためを思って恋の応援をしてくれているのだ。私が臆してどうする。
「でも、実際明日はどんな感じに動けばいいのかな? こっちはデートのつもりでも、サトル君は渡世の宝玉を探す目的に終始するかもしれないし」
「デートが成立するためにはお互いの意識が大切ですからね」
「うん」
私がこうして意気込んでいても、恋愛アンチのサトル君がいつもの調子ならデートの甘い雰囲気にはならないだろう。
「なのでデートのフリをするようにサトルさんに言っておいたんですよ」
「え? どういうこと?」
「渡世の宝玉を物色して引ったくりに見られるのを防ぐため、サトルさんにデートのフリをするようにと言ったじゃないですか」
「あーそういえば言ってたような……デートって単語のインパクトが強くて、ちょっと記憶が曖昧で」
「世話が焼けますね……。サトルさんの返答も『デートのフリ……か。まあ必要ならやるけど』と言ってましたので大丈夫ですよ」
「それなら心配いらないね」
ハードルを一つクリアする。
「明日はいつもより積極的に行ってくださいね?」
「はい!」
「はあ……返事だけはいいですね。魅了スキルにかかったフリにデートのフリまで加えたんですから、恥ずかしがりの女でも上手くやれると信じてます」
信じるという割には懐疑的な眼差しだ。今までの行いからして私も否定できないけど。
「まあさっき言われたように結果で示すので……リオも明日は別荘地での聞き込み頑張ってね」
「………………え、そ、そうですね」
私の何気ない言葉に、リオは狼狽えながら答える。
「何よその間……。……あ、もしかして明日私たちのデートの後を尾けようとしてるんじゃないでしょうね!?」
「そ、そんな考えていませんよ。……ちょっとしか」
「考えてるんじゃない!!」
「いいじゃないですか! こうしてセッティングしたんですから、初々しい二人の様子を生暖かい眼差しで眺める役得くらいあっても!!」
「駄目だって! その……恥ずかしいじゃない!! それに捜索サボるってどういうこと!」
「正直別荘地に無いと思うのでいいんじゃないですか?」
「あった場合どうするのよ!!」
言い争いはしばらく続き、最終的に私がデートで何があったのか詳細に報告することを条件に別荘地を捜索すると話が付いた。
リオ相手だから嘘を吐いても見破られるので誤魔化しは効かないだろう。それでも直接見られるよりはマシだった。
翌日の朝。
別荘地に向かうリオと先に出るサトル君を見送り、十分ほど経ってから出かける。
サトル君と一緒に行動するのに遅れて出たのはあのやりとりをするためだった。
待ち合わせ場所に指定した公園の噴水前。
立ち尽くしていたサトル君に私は駆け寄って声をかける。
「ごめん、遅くなって。待ったよね?」
「いや、今来たところだ」
サトル君は呆れた表情を我慢して、何でもないように装い返事する。
サトル君が先に来ていることは当然分かっているし、一緒の宿屋に泊まっていたのだから待ち合わせなどする必要もない。
それでも私は『デートのフリをするにはディテールに拘らないと!』と押し切ってこの茶番に付き合ってもらった。
そう茶番だ。分かっているのに。
「……♪」
何ともデートらしいやりとりに胸の内は幸福感に溢れていた。
「じゃあ行くぞ」
「うん!」
サトル君と二人並んで歩き出す。
デートの開始だ。