35話 観光の町
3章『観光の町』編スタート!!
オンカラ商会本館を後にした俺たちは、ある場所に移動して座り待ちながら話を始めた。
「しかし、この商業都市に正味三日弱しかいなかったんだな」
商業都市に辿り着いたその日の夜に酒場でオンカラ会長やヘレスさんと会い、渡世の宝玉の行方を知り。
その翌日朝の内にドラゴン討伐に向かって。
次の日にドラゴンをテイムして都市まで戻り交渉して、会長と再び会いスパイ問題を解決して渡世の宝玉を譲ってもらった。
「早かったなあ。他のみんなはどんな状況だろう?」
「おそらく私たちが一番乗りだとは思いますけどね」
現在異世界に召喚された俺たちクラスメイト28人の内、俺を襲撃した副委員長のイケメンのカイと連れだって逃げたギャルのエミの2人を除いた26人は、8つのパーティーに分かれている。
それぞれが別の女神教の教会跡地に向かって、渡世の宝玉の行方を追っている。ユウカの言う通り他のパーティーの進捗は気になるが、リオの予想通り俺たちが一番目だろう。
「って、そういえば他のパーティーの様子ってどうやって把握するんだ?」
元の世界ならメッセージアプリでクラスメイト全員のグループでも作って『宝玉ゲットなう』とか書き込めば『早すぎ、やばたにえん』とか『マジ卍!』とか返ってくるのだろう。……いやボッチでメッセージアプリすら入れてない俺は実際どういうノリなのかは知らないけど。
だがそれも元の世界の話であり、この世界ではスマホが使えないのだ。
「聞くところによると離れた場所でも電話のようにやりとりが出来る念話球なるものがあるらしいですが、調達できませんでしたからね。なので連絡手段は手紙です」
「手紙」
これまた原始的な手段が出てきた。
「私たちが商業都市で渡世の宝玉を手に入れて次の町に向かうことは今朝手紙に書いて送っておきました。宛先はリーレ村の村長タイグスさんです」
「みんな何かあったらタイグスさんに連絡するように決めたんだよね」
「あーなるほど。リーレ村で情報をまとめているわけだな。他のパーティーについての情報も経由して教えてもらえるってことか」
タイグスさんを中継とした三角連絡である。そんな協力もしてもらっているとは。旅の資金を援助してもらったことといい頭が上がらない。
ヒヒーン!!
と、そのとき馬の鳴き声が聞こえてきた。
「お、ようやく来たか」
俺たちは停留所のベンチから立ち上がり、やってきた馬車に乗り込む。切符はすでに購入済みだ。
リーレ村は田舎だったため商人の流通用の馬車は時々来るらしいが、一般客を乗せる馬車は通っていなかった。
しかしこの商業都市から次の目的地には定期的に出ているらしい。それだけ往来する人が多いそうだ。
待っていた客が全員乗り込むと馬車は出発した。
「これで夜まで乗っていれば到着だから楽だな」
村から商業都市への移動、ドラゴンの洞窟への移動、と思えばこの三日間は足を使い駆けずりまわっていた。舗装されたアスファルトを走る自動車に比べれば、整備されているとはいえ土の道を行く馬車の揺れは酷いものだったが、それでもとてもありがたい。
つまりそれだけ遠い場所に行くということだ。まあ近くの町は他のクラスメイトのパーティーが向かっているので仕方ないことだが。
「これから行く次の女神教の教会跡地は観光が盛んな町です」
馬車の中でリオの解説が始まった。
「観光といっても色々あるよな。目玉は何なんだ?」
「透明度の高く遠浅の海に年中温暖な気候で絶好の海水浴スポットとなっています」
「海ね。夏休みになったらいつも田舎のおじいちゃん家の近くの海に遊びに行ってたなあ。サトル君はどうだった?」
「そう言われると生まれてこの方行ったことがないな」
アクティブな活動とは無縁な人生を送っている。
「遠路はるばる来る人もいますから、ビーチの側には観光客向けのホテルや酒場町があります」
「夜は海に出れないから、飲めや騒げやってことか」
「また別荘地としても有名だそうですね。少し内陸の方に行くと別荘が建ち並び、その富裕層向けの高級店が集まるエリアもあるようです」
「温暖な気候で海が近いとなると絶好のロケーションだな」
商業都市とはガラリと変わった場所になりそうだ。
「そして目的の渡世の宝玉ですが……どこにあるかは検討も付きません」
「オンカラ商会の調査も昨日の今日じゃ当てに出来なさそうだしな」
スパイ騒動を解決した結果商会長の好意により俺たちの使命を手伝ってくれるという話なのだが、今回は自分たちの手で探す必要がありそうだ。
「商業都市のときはたまたま宝玉の行方を知っている人と早々に出会えたけど……今回もそんな偶然が起きるとは思えないよね」
「目星としては今回同様に行政側が教会の取り壊しを決行したはずですから、役場の資料から当時どのように工事が行われたのか調べるのがスタートになると思いますね」
「でも商業都市では取り壊しが30年前に行われたって話だったよね。観光の町でもそう変わらないだろうし……そんな昔の資料残っているかな」
「残っていると願うしかありませんね。自分たちの手で一から知っている人を探すとなると途方も付かないでしょうし」
ユウカとリオは心配しているが……俺は正直何とかなると思っていた。
商業都市の時だって構えていたが、結局あっさり手に入れることが出来たんだ。今回もどうにかなるだろう。
そうして渡世の宝玉をがんがん手に入れて元の世界に戻ってやる!
馬車での道中は特にトラブルもなく、その日の夜には観光の町にたどり着いた。
俺たちは宿に泊まり、翌日から渡世の宝玉の捜索に取りかかる。
そして一週間が経った。
「………………」
渡世の宝玉の行方は依然として知れない。
現実は非情である。