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27話 ドラゴン討伐、決行

 翌朝。

 俺たちはドラゴンが生息する洞窟に乗り込んでいた。


 洞窟内部の道は鉱石の採掘に訪れる人のために整備されていたようだが、この一年ドラゴンが出たせいで近寄る人がいなかったため少々荒れている。

 その道を俺は普通の状態で進んでいた。体を軽くする魔法『妖精の羽根フェアリーフェザー』を今日はリオに使ってもらっていない。この異世界に来て初めての強敵を相手する前に魔力を無駄使いするわけにもいかないので当然の判断だ。

 そうでなくとも、昨日ほど早くは進めなかっただろう。進むにつれて魔物と遭遇する頻度が上がり、倒すために止まることが多かったからだ。


「『竜の爪ドラゴンクロー』!」

 ユウカの手から伸びたエネルギー体の爪がコウモリのような魔物を引き裂く。

 いつも使っている衝撃波『竜の咆哮ドラゴンシャウト』は洞窟の狭い通路で使うと危ないのとコウモリやネズミといったすばしっこい魔物が多くなったため、小回りの利くスキルをメインで使っている。




「しかし魔物が多くなってきたな……」

「それだけドラゴンが近いのでしょう」

「え、何か関係があるのか?」

「ドラゴンのように強大な魔物の周辺は魔物が多くなるようです。その魔力が周囲を汚染して魔物の発生を促進させるのが原因だそうです」

「へえ……っていうか魔物って発生するものなんだな」

 このエンカウント率からすれば納得ではあるが。


「今回のドラゴン討伐はその素材が重宝されるのもありますが、討伐することでこの洞窟から魔物が減り、鉱石を採掘する者が訪れやすくなるという点でも意義があるのです」

「多くの人のためになる……よし、頑張らないとね!」

 ユウカらしいやる気の出し方だ。


 俺はというとドラゴンがいるだけで迷惑だという害獣のような扱いに、神秘さとか神々しさが無えなと思っていた。




 しばらく進むと通路を抜けた。

 そこは天井が吹き抜けとなって外と繋がっており、とてつもなく大きい……はずの……空間が広がっている。

 何故疑問系になったのかというと今までの狭い通路とのギャップに加えて、そこにいる生物のサイズが俺のこれまでの常識からすると規格外すぎて、感覚を狂わせているからだった。


 つまりは討伐対象であるドラゴンが目の前にいた。


 商会で見た資料によると20m級とあったが、まだ少々距離があるのと比較するものがないためピンと来ない。誰か隣にタバコの箱を置いてくれ。




「ガァァァァァッ!!」


 と、そのときドラゴンが咆哮をあげた。


「ひっ……!」

 目と目があったような気がした。距離があるはずなのに、ドラゴンは確実にこちらを認識している。

 その存在感、咆哮、視線。全てに俺は畏怖していた。

 誰だよ、神秘さも神々しさも無いって言ったの。十分にヤバいやつじゃねえか!?




「今のは威嚇でしょうか?」

「こっちに気づいているみたいだね」

 そんなビビっている俺とは対照的に、リオとユウカは臨戦モードに入っている。


「不意打ちから始めたかったのですが仕方ありませんね」

「距離を詰められる前にこっちからいこうか。リオはサポートお願い。サトル君はリオの側を離れないでね、そっちに近づけさせることは絶対にさせないつもりだけど」

「わ、分かった」

 俺は意地でもリオの側を離れないことに決める。

 こういうときに足手まといが勝手に行動してピンチに陥ったりするようなお約束はごめんだったし、そもそも俺は自分から動けないくらいに萎縮していた。




「じゃあ、行くよ!!」

 ユウカがドラゴン目掛けて駆け出す。

 ドラゴン討伐の開始のようだ。




 ユウカの本気ダッシュは見る見る内にドラゴンとの距離を詰めていく。それが20mほどになったときにドラゴンが前足をあげた。おそらくユウカを踏み潰すつもりだろうか。

「だが、早くないか……?」

 ユウカから接近しているとはいえ、まだ十分な距離がある。これでは踏み付けも空を切るのではないかと見えたそのときだった。

 ユウカのいる一帯が影となったのは。


「っ……!?」


 ドラゴンのサイズを甘く見ていた。その巨躯は当然一歩の幅が大きく、足も巨大な柱のようだ。それが正確にユウカへと迫る。

 避けようにも範囲が広すぎる。早速絶体絶命だ、と俺は血の気が引くが。




「『竜の咆哮ドラゴンシャウト』!!」


 ユウカは冷静でその足に衝撃波をぶつけた。パワーも十分で相殺した結果、ドラゴンはたたらを踏む。


「『竜の翼ドラゴンウィング』!! 『竜の爪ドラゴンクロー』!!」


 その隙にユウカはエネルギー体の翼と爪を生やし、飛び上がってドラゴンの顔面を斬りつける。




「グガァァァァァッ……!!」

 本日二度目となる竜の声。しかし、一回目のように俺が畏怖することはなかった。

 何故ならドラゴンが痛がって発声したことが分かったからだ。


「効いている……」

 飛んで近付いたユウカがまるで小鳥のように見えることから、ドラゴンの大きさを相対的に俺は掴んだ。

 圧倒的なサイズ比だが、正面から相手の攻撃を打ち落とし一撃を入れたのはユウカの方だ。


 さらにユウカの攻撃の手は止まらない。


「『竜の震脚ドラゴンスタンプ』!!」


 天空から落とす衝撃波を竜の背中に打ち込むとその体が揺れる。またも良い攻撃が入った。




 とはいえドラゴンもやられっぱなしでいるつもりはないようだ。

 首を回し顔の正面にユウカを捉える。そして少しのタメがあって。


「ゴォォォォッ!!」


 口から火を噴いた。


「っ……!」

 商会の資料で対火装備を推奨していた。それはこれを恐れて書かれていたのだろう。

 ファイアーブレス。

 高速・広範囲に撒かれた火にユウカは逃げられず。


「『竜の鱗ドラゴンスケイル』!!」


 俺が初めて見るスキルを発動すると、ユウカの周囲がエネルギー体の球状で覆われる。防御スキルか。

 それによって火をやりすごすが、どうやらその間動けないようだ。

 ドラゴンが追撃のために尻尾を鋭く振って、上空のユウカを撃ち落とさんとするが。


「『吹雪の一撃ブリザードアタック』!!」

 野球ボールほどのある氷塊が雨のように降って、ドラゴンの体を打ち付ける。その痛みでたまらず攻撃を中断。

 ユウカもその隙に動けるようになり危機を脱する。




「ふぅ……。今のはリオの魔法だよな?」

 息を呑んで見守っていた俺は、ようやく一息吐いて隣のリオに問う。


「はい。サポートが私の役目ですので」

「ユウカを上手く救ったな」

「まあ、必要なかったかもしれませんですが。ユウカならあの尻尾攻撃も防御しきれたでしょうし」

「そうなのか?」

 ブレスで削れたところに攻撃されたらヤバいと思ったがそうでもなかったようだ。




「サトルさんもそろそろ落ち着きましたか?」

「え?」

「ドラゴンに威嚇されてからずっと恐怖していたでしょう? ですがこの通り……私たちにかかれば敵ではありません」

「……みたいだな」

 もう少し苦戦するものかと思ったが、ここまでの攻防で終始ドラゴンを圧倒している。




「もう少し苦戦する……と思っていたんじゃないですか?」

「心を読んだかのようにピッタリ当てるな」

「サトルさんが分かりやすいんですよ。それに苦戦なんてするはず無いじゃないですか。私たちだって死ぬのは怖いですから。絶対にドラゴンに勝てる、勝率100%だと確信しているからこそ、こうしてドラゴン討伐に挑んでいるんです」

「……そうだな。失敗したら死だと考えると、例え80%だとしても絶対挑戦したくねえ」

 ゲームならとりあえずで挑むだろうがここは現実だ。道中で再確認したつもりだったが、まだ分かっていなかったようだ。




「ということで後は大船に乗ったつもりで見ていてください。『雷の槍サンダーランス』!!」


 リオが魔法を発動すると、雷の槍がドラゴンの足を刺して動きを一時的に止める。


「ナイス、リオ!! 『竜の拳ドラゴンナックル』!!」


 ユウカはドラゴンの懐に潜り込むと、竜の力を込めた拳で思いっきり殴りつける。


「グガァァァァッ……!!」


 ドラゴンはたまらず声をあげる。痛みに喚いている。




「大船か……そうさせてもらうぜ」

 ドラゴンからは先ほどまでの威圧感が全く感じられなかった。






 それからドラゴンと戦闘を続けること数分。

 特に想定外は起きず、順調に追いつめていく。

 リオ曰く、想定外とは実力が伯仲している場合に起きること。私たちとドラゴン相手では差がありすぎます、ということらしい。


 ダメージを負ったドラゴンの動きは見る見る精細を欠いていき、決着はもう間近と思われた。

 が、そこでリオが戸惑いを露わにする。


「おかしいですね……」

「何か気になることがあるのか!?」


 やはり最後まで順調には行かないのかと、俺は警戒するが。




「いえ、ドラゴンが想定以上に粘っているというだけです。詰みまでの手順が延びるだけで、大勢に影響は無いのですが……この粘りは何から来ているのでしょうか?」

「あー気迫が凄いとは思っていたが……死にたくないってだけじゃないのか?」

「んー……それだけでしょうか?」


 俺の答えでは納得できないようで、リオが疑問をつぶやいたそのとき。




 広場に新たなドラゴンが現れた。




「っ……!?」

 現在ドラゴンと戦っている広場には、俺たちが通ってきた通路以外にも横穴があるようだった。その一つからドラゴンが出てきたのだ。


 といっても絶望するような状況ではない。


 何故ならそのドラゴンは現在戦っているものと比べて、とても小さかったからだ。距離があるから正確には分からないが、体長2~3mほどだろうか。


 サイズの差からして俺は自然と思いつくものがあった。




「あれは……ドラゴンの子供なのか?」



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