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22話 告白

「やっと着いたか……」


 寝たフリを続ける私を背負ったまま部屋の扉を開けるサトル君。


 階段中に降りるのも難しいということで寝たフリを続けサトル君の背中の温もりを堪能していた私だが、登り切ってから部屋に移動するまでの間も結局起きていると言い出せなかった。

 建前を失ってもなお自分の欲望に従ってしまったことに罪悪感を覚える。


「よし、っと」


 私をベッドに下ろして、一仕事終了したと晴れ晴れしているサトル君。私はサトル君から離れるのが名残惜しかったが、寝たフリを続けているため表情に出さないように努めた、




 これからどうすればいいのか、私は目をつぶったまま全神経を集中して情報を収集する。

 まず気配からしてサトル君が私をベッドに下ろした後移動していないことが掴めた。視線も感じるため私を見下ろしていると思う。

 寝たままの私を見つめるサトル君……リオがいれば嬉々としていじりそうな局面だ。なのにリオが口を開く様子はない。


 ……ん、いや、そもそもリオが部屋にいないような。

 そういえば私の介抱をサトル君がしていることから疑問に思うべきだった。サトル君の性格からして、リオに押しつけそうである。

 なのに私を運んだのはリオが先に帰ってしまったか、リオより先に帰ることにしたからだろう。

 そして部屋にリオの気配がないということは後者であるということで…………え、じゃあ今、私サトル君と部屋に二人きりなの?




「………………」


 顔に出ないよう必死に自分の気持ちを落ち着けた。

 寝たフリをしているのに顔を赤くしては、私を見ているサトル君にバレるからである。


 と、というか、二人きりなのに寝ている私を見つめるってサトル君どういうつもりなの!? も、もしかしてあれなのかな!? 私の身体を品定めしているとか!?

 今にも「すまん、ユウカ。もう我慢できないんだ!」とか言って襲ってくるかもしれない。そ、そんなことになったら……私は寝たフリをしているわけだし、抵抗できないよね! べ、別に襲われたいとか他意があるわけじゃないけど!!


 自分で自分が何を考えてるのか分からなくなってくる。

 そのタイミングでサトル君が口を開いて。






「ったく、幸せそうに寝やがって。俺がここまで運ぶのにどれだけ苦労したのかも知らずに……やっぱり明日文句言ってやる」


 二人きりの状況などまるで意識していない、いつも通りの口調で吐かれた悪態で私は冷静になれた。




「………………」

 それでこそサトル君だ。こんなときでも誠実な彼に私は魅かれたのだから。


「さて、明日から渡世とせ宝玉ほうぎょくを手に入れるために動かないと行けないし、さっさと寝るか」

 サトル君の視線が私から外れたことが感じられた。

 つぶやいた言葉は私たちの使命に関すること。今の口振りはどうも具体的な指針を思いついているようだ。私が酔い潰れている間に状況が進展したのだろう。というかそもそも情報収集のために酒場に行ったことを今の今まで私は忘れていた。


「………………」

 浮かれていた自分が嫌になる。

 クラスメイトみんなの前で『元の世界に戻るために頑張ろう』と言ったのは誰だったか。それなのにこうして自分のことでいっぱいいっぱいになって。

 恥ずかしい。穴があったら入りたい。




 ……でも、仕方ないじゃん。

 一年ほど前、サトル君に助けられたあのときから、ずっと片思いしていた。

 けどサトル君は壁を作って誰も寄せ付けずに人間関係の全てを拒絶していた。

 私はそれを割って入るほどの度胸を持てず、このまま高校を卒業したらサトル君に忘れ去られるんだろうなと悲観していた。


 そんな状況がこの異世界に来てぶち壊された。

 サトル君の魅了スキルが暴発したおかげで、私は近づく口実を得た。

 戦う力を持たないサトル君を守れる力を授かることが出来た。

 そしてパーティーを組んで目的のために一緒に行動している。


 舞い上がるな、と言われても土台無理な話だ。


 今日一日中ふわふわとした感覚が抜けなかった。

 そんな状況がこれからも続くのだ。

 何と幸せなことだろうか。




 でも……それは私だけなんだよね。


 二人きりの状況になっても変わらないサトル君の様子。

 緊張しているのは私だけ。

 いや、アプローチもしていないのに、私のことを意識している方がおかしいんだけど。


 それでも私にドキドキして欲しかった。

 理不尽なことを言っているのは分かっている。


 だから私は自分の気持ちを抑えきれず。

 寝たフリをしている今だからこそ取れる……卑怯な手をつい打ってしまった。







「……サトル君…………好きだよ……」






「っ……!?」

 サトル君が息を呑む気配が感じられる。




 寝言を装った告白。好意を打ち明けながらも、失敗した場合は寝ていたからと言い訳できる卑怯な手。




「……ね、寝言だよな?」

 サトル君が私の顔をのぞき込んで確認する。その声は上擦っていた。


 寝たフリを続けながら、私はとても嬉しかった。


 サトル君が動揺している。サトル君が緊張している。サトル君が私を意識している。


 再び私の気持ちが浮つくのが分かった。


 どうしよう、ここは勝負に出るべきか。目を開けて「寝言じゃないよ」と言って。そうしてお互いの気持ちを確かめて――。






「そうか……でも、その気持ちは分かっているさ」


 えっ……!?

 サトル君、今、何て言ったの!? 私の気持ちは分かっている……っていうことは……!!




 私の気持ちはどこまでも高ぶっていき――――だから、サトル君の言葉がとても平坦に発せられていたことに気づけず。






「だって魅了スキルがかかっているんだからな」


 次の言葉で今度こそ私の気持ちは地の底まで叩き付けられた。






「ったく、寝ているときまで効果があるのか、このスキルは」


 私は現状について全く理解できていなかった。




「まあ暴発させた俺が言えた立場じゃないが」


 吐いた嘘のメリットばかりを見ていて、デメリットを全く見ていなかった。




「俺なんかを好きになってしまってすまんな。しばらく辛抱してくれ」


 サトル君が私に向ける一番の感情は罪悪感で。






「いくら魅了スキルが解除不能でも、元の世界に戻れば効力は切れるだろうしな」






 私は少しもサトル君の心に入り込めていなかった。




「………………」


 何がお互いがお互いを思い合うのが理想、なのか。


 私は自分の気持ちを押しつけるばかりで、サトル君の気持ちをちっとも考えていなかったのに。



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